第二話 健全なる精神は
「見てよ南君。この果物?こんな見た目なのに甘くておいしい」
「いや、純。そんな刺々しく禍々しい異形をよく口に運べるな……」
「食料の確保は大事だからね。腹が減っては戦はできぬっていうでしょ?」
「ま、まぁそうだが……。腹を壊しては元も子もないぞ」
「大丈夫だよ。きっとチート能力的なやつで何とかなるよ」
「そんな確証もないのによく冒険できるな……。っておいあれ。後ろにあれ、何だ?!」
「え?!白い動物?かな……」
「魔物ってやつじゃないのか?!定番だろう!」
「定番なら未知の力が発現したり、襲われても美少女が助けてくれたりするから大丈夫だよ」
「また根拠の無いっ……!おい、こっちに来たぞ?!」
「う、ウサギにしては大きいね」
「どうする?!」
「逃げよう」
「うおおおお。早いぞ?!」
「うさぎはあんなに大きな牙無いし、角も生えてないよね」
「まさにファンタジー!魔物じゃないか!?」
「南君!チート能力で倒してよ!ノートにいっつも必殺技の名前書いてたじゃん!」
「何故それを知っている?!俺の秘密を!!」
「うわああ。近づいてきた!!」
「振り返るな!走れええええ!」
「はぁはぁ……南君!川が流れてるよ!!!」
「うおおおお!飛び込めぇえええ!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「…………行ったみたいだね」
「ああ。うちのミミちゃんは水が苦手だからな。きっとそうじゃないかと思ったんだ」
「ミミちゃんて。ストレートなネーミングだね。ていうかウサギ飼ってたんだね」
「ああ。モフモフで最高にキュートだぜ」
「じゃあいつか見せてね」
「帰れたらな」
「帰れないのかな」
「まぁ……さっきのウサギみたいな奴を見てここが異世界だと確信した」
「…………」
「さっきのウサギみたいな奴を見てここが異世界だと確信した」
「聞いてるよ。南君の下に来てるTシャツが透けて動揺しているところだよ」
「え……あ。……何ぃ!!このセンスがわからんのか!」
「制服着崩してオシャレする勇気が無いからって、見えないところで勝負しないでよ」
「かぁー!!わかってないな。純!これは人に見せる為じゃない。自分に対するその……あれだ!メッセージだ!いつも心に!……だ!」
「その『家に帰るまでがマラソンです』っていうのが?」
「声に出して読むな!恥ずかしい」
「恥ずかしいんじゃん。てか今日午後、体育だよね。着替えの時バレるよね」
「…………」
「あ…………」
「言うな」
「誰かに突っ込んでほしかったんだね」
「言うなって言っただろう」
「ごめんね僕しかいなくて」
「いや、いい。きっとスルーされただろう」
「……」
「黙るなよ!」
「いや、南君がネットショップ見ながら、これおもしろいよな……とか、してたんだと思うと……泣けてきた」
「ふぅ……先を急ごう」
「南君って意外に強靭だよね」
「強靭なる精神は強靭なる身体に宿るからな」
「ちょっと違うけど。このままだと風邪引いちゃいそうだね」
「ああ。火でもあればいいんだが」
「あのノートに書いてあった『無限爆炎地獄』でなんとかしてよ」
「……それは言わない約束だろう?」
「チート能力があるかもしれないでしょ!」
「なんで逆ギレなんだ。ていうかマジでいつ俺の秘密ノートを見た」
「あ、森が開けてきた」
「おい。純。ノートいつ見た」
「南君!行こう!」
「おい。待て」
「わあああ!すごーい!」
「おい。お、おおおお」
「すごい景色だね!」
「……ああ。ロールプレイングゲームみたいだな」
「見てよ。南君。大きなお城があるよ。王都ってやつかな!」
「城壁に囲まれているな。城郭都市というやつだろう」
「はやく行ってみようよ!」
「ああ。森を抜けて良かった」
「でしょう?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なんで牢屋に入れられてるんだ」
「こっちの世界の人とは違う格好だったからかな。ビショビショだし」
「しかし、言葉が通じるとは思わなかったな」
「チート能力かな?!」
「純はチート能力に憧れ過ぎだ」
「えー。憧れるでしょ!南君も憧れてるから『暗黒氷結世界』とか思いつくんでしょ?」
「……俺が悪かったからもうやめてくれ」
「もしかしたら本当に使えるかもしれないよ?やってみてよ」
「……両手両足拘束されてるんだ。無理だろう」
「鎖に鉄球って。まさか自分がこんなもので拘束されるとは思わなかったよ」
「思うやつはいないだろ……っうわ!!!」
「……びっくりしたね。うるさいからって鉄格子を蹴るなんて。口で言えばわかるのに」
「野蛮な看守だ……っな!!すいません!黙ります!」
「……」
「……」
「……くふふっ。……看守だ……っな!」
「おい」
「くふふふ」
「おい。……しかし、なんでお前はこの状況で余裕なんだ」
「……あれ、南君。誰か来る」
「お。耳が尖ってるぞ」
「エルフかな?!」
「生エルフ!!……美人だな」
「生って……。あれ。出てもいいみたい」
「あ、どうも。あ、近い。近いです。すいません。ありがとうございます」
「焦り過ぎでしょう。鎖と鉄球も取れて軽くなったね」
「いや、お前。……そのドキドキするだろうが。いろいろ当たったし」
「あー。僕、お姉ちゃんいるから慣れてるのかも」
「そういうレベルか?ボインがボインでキュッ、ドーンだぞ?」
「全然意味が分からないよ。それにお姉さんに聞こえてるよ」
「……すいません」
「とりあえず着替えたいね。ちょっと乾いたけど気持ち悪いよ」
「ああ。俺達どこに連れてかれるんだ……」
「どこだろうねー!」
「……お前の方がよっぽど強靭だよ」