第一話 南君と純
「なあ。ここってどこだ?」
「それは僕も知りたいよ」
「緑生い茂る森。背後には見渡す限りの平原。緑ばっかりだ。俺は教室で未来を勝ち取る為の研鑽を積んでいた筈だが」
「いや、明らかに消しゴム判子の制作に興じていただけのように見えたけど……」
「まぁそんな事はどうでもいい。これは夢じゃないよな」
「うん。ほっぺを抓ると痛いよ」
「夢に痛覚が無いとでも?」
「え?あるの?夢かどうかを確かめる為の基本行動じゃないの?」
「お主……!どこでそれを学んだ……!」
「漫画かな?」
「知識の泉がどこに沸いているのか、分からないものだな」
「こちらこそよく分からないけど、なんで僕と南君だけしか居ないんだろうね」
「まさか……ドッキリ……?!」
「すごく大掛かりだね。急に学校が消えて、見た事の無い景色が現れるなんて」
「他の奴らはどこへ消えたんだ」
「僕らが消えたんじゃないかな?」
「いずれ脅威となる俺達の力を恐れたか……」
「クラスでもお互い話し相手、他にいないじゃない?誰も僕らに興味無いと思うよ?」
「……辛辣」
「ここで座ってても仕方ないから少し歩いてみようよ。誰かいるかもしれないよ?」
「純……。お前そんな行動力ある奴だったか?」
「南君が震えてるから。僕が動かないと」
「ふ、震えてなどいない!ちょっと状況が呑み込めないだけだ」
「そう?でも僕憧れてたんだ。異世界転移っていうのに」
「ここは異世界なのか?!」
「知らないけど、そうだったらいいなって」
「ほう……。興味深い……!」
「まぁいいから震えてないで立ってよ」
「ふ、震えてなどいない!」
「はいはい。そうだね。でも……一人だと怖いかもしれないけど、南君も居るから」
「……ふ。俺に任せておけば問題無い」
「今の問題は南君が立ち上がってくれない事なんだけどね」
「……ほぉーら!立ったー!立ちましたー!どうだ!!」
「立ち上がったくらいで褒めて貰える時期は15年前に終わったよ?」
「何をボーっと突っ立ている。行くぞ?」
「勝手だなぁ。あの森を越えてみよう。何かあるかもしれない」
「ふははは。かかってこい異世界」
「まだ決まったわけじゃないよ?」
「それはそうと上履きなんだよな。ここ、外なのに」
「教室に居たまんまだね」
「装備は制服上下と上履き、ワイシャツ、下着等だけか……」
「衣類の詳細ありがとう。ポケットに何か入ってないかな……。僕はスマホも鞄の中だし、ティッシュくらいしかないや」
「……!」
「どうしたの?!何か持ってる?!」
「ふふふ……!どうだっ!!!」
「わあ。素敵な消しゴム判子。『南様』って。判子に敬称って斬新だね」
「それはそうと、この道も無い森を抜けるのか?」
「それはそうとって自分がドヤ顔で判子出したんじゃない。そうだよ。地平線まで続く平原を歩くより、森を抜けた先を目指した方が良くない?」
「森が永遠続く可能性は?!」
「あるかもしれないね。でもこのまま暗くなってお腹が空いて寒くて苦しむより、森なら食べられる物があるかもしれないよ」
「純……。お前、逞しいな」
「そろそろお腹が空く頃じゃない?もうすぐ昼休みって時間だったから」
「ふふふ。俺は二時間目に摂取済みだ!」
「早弁を自慢されても……。外は明るいのに、森に入ると少し暗いね」
「ちょ、ちょっと待て心の準備が……!」
「ほら、震えてないで早く行くよー。南君」
「俺にそんな口を聞けるのはお前だけだ。純」
「誰も話しかけてくれないだけでしょ」
「……辛辣」
新連載です。
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