みんな美味しいものが食べたい
リサに頼んで、メグのところで内職している母に、帰ってきたことを伝えてもらうトリア。リサは快く引き受けてくれ、トリアは、自宅の居間にパーシーを案内し、自分は台所にお茶を淹れに行く。
お湯が湧いたところで、リサから事情を聞いた母が、官舎の裏庭にある台所の勝手口の方から戻ってきた。
「トリア?お客様って聞いたのだけど」
「えっと、のっぴきならない事情で、アーノルド閣下の近習、パーシー様がいらっしゃってます」
「まあ」
「トリア?アリシアさん?」
勝手口から、マシューとリサが声を潜めて、入ってくる。
「「マシューさん?」」
「いや、リサから話を聞いて。一応二人できたぞ。主人が留守の女二人だけの家に、男の客、貴族は外聞が悪いからな。建前だ。俺たちゃここに居るから」
「ありがとうございます、マシューさん」
アリシアが、マシューに礼を述べる。
「いいってことよ。それよりトリア、お前さんまだ昼を食ってないだろ?なにかこしらえとくぜ」
「ありがとうございます。リサさんもまだです。さっきは、付き合ってくれてありがとうございました」
「いいよ。えらい目に、お互いあったね」
「あはは。まだ延長戦がありますけど」
「がんばれ」
「パーシー様も、お昼はまだなんですが、なにか召し上がるか確認したほうがいいんですか?」
「うーん、仕事の途中なら、お断りされると思うが、一応聞いてきてみな。俺が作ってやるよ」
「はーい」
「お茶の用意ができましたよ。トリアが作ったお茶請けもつけましょうか」
「ええ。母様」
二人で、パーシーのところにお茶を持っていく。パーシーはアリシアに、突然の訪問をわび、主が気に入ったので、迷惑でなければお茶請けを分けてほしいことを伝える。
アリシアは、恐縮しながらも、使者を手ぶらで帰すわけには参りませんからと、うちのお茶請けでよろしければと用意する旨を伝える。
「あの、パーシー様。第五の料理人のマシューさんが、これから私のお昼を用意してくれるんですが、ご一緒にいかがですか?」
アーノルドが毎朝通う相手が気になるだろうと、水を向けてみるトリア。
「お手間でなければぜひ。主が好む味をそばに仕える者として、知っておかねばなりませんからね。イーデンの奥方殿、お嬢さんとお話があるのですが、少々、お嬢さんをお借りしても?」
良い機会と、こちらも遠慮なく乗るパーシー。アリシアが、察して、トリアにお客様の相手を頼み、その場を辞して、マシューに昼の用意を頼む。
「はあ、どうしましょう?」
トリアの顔を見てため息をつくパーシー。自由気ままなように見えて、真面目に軍務につくアーノルドの唯一のこだわりが、食事とお菓子なのだ。
その程度のワガママは聞いてやりたいと思うぐらいには、主思いのパーシー。
「日参しなくて済む方法はあります。今日、ロッククッキーは多めにこしらえたので、アーノルド閣下がどれぐらい一度にお茶請けを食されるのかわかりませんが、何日かは保つはずです。飽きなければ」
「うーん。飽きることはないと思いますよ。毎日でもいいと、我が君は思ってるようですからね。食べる量ですか……。なんとかコントロールしてみましょう。失くなりかけたら、アンドリュー殿を通してご連絡差し上げても?」
「はい。父で良ければどうぞ」
外宮に確実にいるのがわかっているのがアンドリューなので、仰々しく使者を立てるよりはいいだろうという判断である。
「目立つようにはいたしませんから」
貴族でもあり、長年、近習としてやってきているパーシーは、王宮に勤める者同士のやっかみというものをよく知っているのだ。
「はい。お願いします。あの、お茶請けですが、他のものになっても大丈夫でしょうか?さしあたって、材料に限りがあるものではないので、同じものでもいいのですが……」
「仕事でもないのに、同じもの作り続けるほうが飽きそうですものねぇ。主は、好き嫌いや苦手なものは特にありませんので、何でも大丈夫だと思います。戦場に出ればまずい食事になることもあるので、文句は言いません。渋い顔をされますけど」
トリアの言いたいことを察して、パーシーが、気楽に作れという。
「戦に出ればそうでしょうが、それならばそれで、せめて休んでいるときぐらい、美味しいものを食べていただかなくては」
トメだった頃、戦に赴く男たちのために、なけなしの米を炊いて見送ったこともあるトリア。
「このところ、大きな戦もありませんし、むしろ戦場を忘れないためにも、たまに野戦行軍させて、まずいものを食べてますから、気にしないで下さい」
「い、いえ。流石にまずいものを、お出しするつもりはありませんので」
いい笑顔のパーシーに、もしや、その時に、まずい飯で日頃の仕返しをしているんじゃなかろうなと、勘ぐるトリアであった。
そこにマシューが、食事を持って現れる。
「おまたせしました。パーシー様のお口に合うかどうかわかりませんが、第五の騎士の食事は如何に早くかっ喰らえるかが命なんで、手づかみになりますが、ご容赦下さい」
大きな木の皿に、焼きたてのピッツア・マルゲリータ。最近、マシューがピッツアづくりにハマっているのだ。リサが喜ぶからというのもあるが。
パーシーにはオルゾ(大麦コーヒー)を濃く淹れたものを、トリアには牛乳を出す。トリアはまじまじと、マシューを見つめる。ニカッとマシューが笑う。
(ああ、これ。毎朝アーノルド閣下にプリンをねだられて、相当、溜まってたんですね。近習ならきっちり仕事しろという憂さ晴らしだわ)
「大丈夫ですよ。手づかみは、野戦演習や行軍演習で慣れておりますから、ご安心下さい。ところでこれは?平パンとチーズでしょうか?」
「美味しいですよ、パーシー様。平パンの上に、チーズとポモドーロのソース、バジルというハーブを載せてオーブンで焼き上げたものです。このように一切れを、具がこぼれぬようにつかみ、チーズが熱いので上顎にひっつかないように注意して食べるんです」
トリアは一切れ取り上げて食べるところを、パーシーに見せる。
「ん!マシューおじさん、流石です」
「美味いだろう。まだ焼いてるから、おかわりしたけりゃ言えよ」
そう言ってマシューは台所に引っ込む。
「はい。パーシー様、どうぞ」
「では遠慮なく」
パーシーも見様見真似でピザにかじりつく。
「!」
そのまま無言で、一切れを平らげる。
「お口に合ったようで良かったです」
満足そうなパーシーの顔を見て、トリアはニコリという。
「このように、あっさり内心が出てしまうほど、美味しいものを作られるマシュー殿の料理の腕は、素晴らしいですね。我が君が、毎朝通うのは仕方ないのでしょう」
「閣下の第五通いを認めてしまいますの?」
「まさか!マシュー殿を我が君のお屋敷にといいたいところですが、それはいらぬ恨みを買うでしょう。屋敷の料理人は、柔軟な考え方の者なので、マシュー殿にお願いして預かっていただきましょう」
「その辺りの決まり事が、どうなっているのか、私ではよくわかりませんが?」
「穏便に取り計らいますよ。お任せ下さい。もう一切れいただいても?」
「ええ、存分に」
頭の痛い問題が失くなり、ご機嫌でピッツアを食べるパーシー。
「ああ、素晴らしい。パンにチーズというシンプルな組み合わせに、このソースが華やぎを与え、バジルが良いアクセントになっています」
「まだ焼いてくださってるそうなので、遠慮なくどうぞ」
「その前に、この茶色い飲み物は?」
「オルゾという大麦を煎って煮出したもので、お茶の代わりです。美味しいですよ、香ばしくて」
食糧危機で、茶葉が底をついたとき、トリアは大麦を煎って、麦茶とコーヒーの中間のようなオルゾにしたのだ。
「どれ……ほう、香ばしく、苦味と麦のほんのかすかな甘味がしますね」
「あの、つかぬことをお伺いいたしますが」
「お答えできることでしたら」
「アーノルド閣下の美味しい物好きは、パーシー様が育て上げたのではありませんか?パーシー様、かなり鋭い味覚をお持ちですよね?」
じっと見つめるトリアに、フッと笑うパーシー。
「ええ。子どもの頃から、毒見の石を持たされるまでは、毒味と称して味見をし、美味しいものだけを我が君に食べていただいてきましたからね」
「パーシー様が叶えて差し上げる、アーノルド様のわがままですか?」
「ええ。それ以外は、あの方を守るためにございますから厳しくせざるを得ません。唯一、甘やかせる部分は、そこだけなのですよ。我が君には、内緒ですよ」
「はい」
「しかし、第五でこのようなものが出るとなると、各食堂の格差がやはり気になりますね」
「そ、そこまで差が出てしまっておりますか?予算内で手に入れられるもので、なるべく美味しいものをとマシューさん達が頑張っているんですが」
自重をモットーに、マシューと一緒に、今あるものでやりくりしてきたつもりのトリア。差がでていると言われ、冷や汗が流れる。
「予算に関しては、案の際に私も我が君をお手伝いいたしますので、ある程度把握させていただいております。第五は、潤沢ではない予算をうまく融通して使ってます。かなり勘定方が優秀ですね。貴女のお父上の薫陶によるようです」
無駄遣いはしていないと言われ、ホッとするトリア。
「軍本部は、我が君が美味しいとおっしゃっるのなら、改善しているはずです。第一と近衛に関しては、料理人の腕の方なのか意識の方なのか?経費の使いみちに問題はありませんでしたからね。まあ、頑張っていただきましょう」
パーシーが、喋りながらも上品に早食いする様子を目の当たりにして、こういうスキルが、近習には求められるのかしらと首を傾げるトリア。もちろん話の内容はちゃんと聞いている。
「問題は、外宮の料理人たちです。ウィンスレット様と我が君の担当の者が努力を怠っているのか、それとも……。アーノルド様の士気に関わりますから、なるべく早期解決を願いたいですね」
「父に、しっかり伝えておきましょう!ところで、料理人に担当があるのですか?」
「ええ。各部門の長ともなれば、それなりの家格の方ばかりです。個々に、調理担当者が決まっています。まあ、毒殺防止の一環ですね」
「なるほど。そうなりますと、すべての調理人の調理レベルも調べる必要がありますね。食糧危機のせいで皆が等しく倹しい料理を頂いてらっしゃるのであれば、それは別の問題ですからね。ただ、食糧危機からだいぶ回復してきていると市井の方は感じるので、予算の使いみちに問題があるのなら、本当に早急に調べないといけませんね」
母やマシューを手伝って、家族官舎の食料品の共同購入を行っているので、市場にいったことはないトリアだが、だいぶ回復傾向にあることは知っているのだった。
「ええ。支出に問題がないとなると、最早、調理人の腕か意識が問題でしょうからね。ですが、外宮は陛下の管轄下ですので、陛下にケチをつけるわけにも参りませんし。困ったものです。むしろ、横領問題のほうが手っ取り早く解決できそうだと思ってしまいます。首の挿げ替えですみますからね。膿も出せて、一挙解決です」
「ハハハハハ」
あっさり怖いことを言うパーシーに、たとえ面倒でも、使いみちに問題がないことを祈るトリアだった。
「はぁ。満足です。大変ごちそうになりました」
「それは良かった。マシューさんに、直接お伝え下さい。そのほうが、話が早く進むかと」
「ええ、ぜひ。あの、オルゾでしたか?この飲み物はどこで?」
「官舎の皆で作るのです。うちの分でよろしければお分けしましょう。淹れ方も必要ですよね?」
「ええ。お願いしても?」
「うちの小さな台所でよろしければ、そちらで」
見たほうが早いだろうし、パーシーは割と平民に忌避感がないようなので問題なかろうと、トリアが台所に誘う。形式や体面を重んじる相手には、こんな雑な対応はしないだけの分別が、前世の経験の分だけトリアにはある。
「ぜひぜひ」
木皿とカップを持って、パーシーとともに台所に行くトリア。台所にいたアリシアとマシューたちはぎょっとしたようこちらを見る。
「マシューさん、ごちそうさまでした。あの、パーシー様がオルゾを気に入られて、淹れ方をぜひ知りたいと」
「あ、ああ」
「マシュー殿、大変美味しいお料理、ありがとうございます。主が毎朝雲隠れする理由がよくわかりました。ご迷惑をおかけしていたようで、誠に申し訳ありません」
「い、いや、いいんだ!閣下はカスタードプディングが大好きで、いつもいい顔で食べてくださっているから」
「でも流石に毎朝は、問題です。ぜひ解決のためマシュー殿にもご助力願いたいのです。後ほど、お話に上がりますのでよろしくお願いいたします」
「ああ。わかった。それで、オルゾの淹れ方だな。俺で良ければ、教えるぞ」
「お願いします」
いそいそとパーシーがマシューの側に行く。マシューが、何通りかのオルゾの淹れ方を丁寧に教える。パーシーは味見しながら、オルゾの量とお湯や水、牛乳の割合とその簡単な淹れ方を覚える。
「母様、お茶請けの方は?」
「メグさんが、丁度いい缶があるとくださったの。何も入っていないのと、干しぶどう入りに分けてますよ」
「メグおばさん、もしかして?」
二つの大きなブレッド缶にみっしり入っているクッキーを見て、アリシアの方を見るトリア。
「そうなの。閣下のためなら家の分は後でいいからとおしゃって」
「これならだいぶ持ちそうですね」
湿度の低いこの国では、ブレッド缶に入れておけば、パンもかなり日持ちするのだ。トリアは、クッキーも十分冷ましたので、問題ないだろうと判断する。
「ああ、トリア。うちのオーブンを好きに使っていいからね」
リサが、気遣って言ってくれる。
「ありがとうございます」
「うふふ。私もまたよろしく」
「ええ、もちろん」
「マシュー殿。丁寧にありがとう。主も喜びそうです。さて、お茶の時間までに戻らねば、主がここに探しに来そうですので、御暇いたしますね」
探しにこないでと顔にありありと浮かべたマシューを見て、パーシーが吹き出す。
「笑い事じゃないんだぞ、閣下は本気で探しに来るんだから」
「ええ、ええ、そういうお方です」
「パーシー様、この缶二つなのですが」
「これは!十分です。主に量を知られないように気をつけますね。色々、皆様にはご配慮いただきありがとうございます」
「「「「とんでもない!」」」」
閣下のおかげで、危機を脱して今があることは、皆十分承知していることだ。その閣下を労える機会があるのならと、手伝ったに過ぎない。
パーシーはブレッド缶二つを腕に抱え、オルゾの粉が入った袋は肩下げ袋を借りて持って帰っていった。
「……閣下に似て気さくな方だな」
「主従は似るんでしょうか?」
マシューの言葉にトリアが首を傾げる。
「話をするってなんだろうな」
「なんでも、閣下のお屋敷の料理人さんに料理の手ほどきをしてほしいそうですよ」
「は?閣下の料理人といやぁ、腕の良さで知られた人だぞ?俺が何を教えるんだ?」
「さあ、その料理人の方の知らないことを教えて差し上げればよいのでは?パーシー様はピッツアが甚く気に入られてましたよ」
「おーい、勘弁してくれよぉ」
「マシュー小父さん、いい機会ではないですか。その有名な料理人さんからマシュー小父さんも技を盗めばいいのです。毎朝、閣下にプティングをねだられずにすみますし。一石二鳥ですよ!」
「そうか!カスタードプディングの作り方を教えりゃいいんだよな!で、俺も腕があがると!それは万々歳だ!」
喜ぶマシューだったが、この後、寮の夕食を作りに行って、軍部の各料理人にカスタードプディングを教えることになり、それに先駆けて各騎士団長が料理人と一緒に試食に来るとと聞いて愕然とすることになる。
まだまだマシューの受難は続くのであった。
・ ・ ・ ・ ・
大荷物で、外宮の軍務卿執務室横にある、近習の待機部屋に戻ったパーシーを待ち受けていたのは、サミュエルだった。アーノルドは、まだ内宮から戻ってきていなかった。
「お帰りなさい。ちょっとよろしいですか?」
「……只今戻りました。兄上、お茶請けを分けてほしいんですね?」
サミュエルの笑顔に要求を察して、肩をすくめるパーシー。留守居役の近習に、持っていたブレッド缶を渡し、自身は肩掛けカバンを外して、中からオルゾの粉のはいった袋を取り出し、空の茶葉の缶にしまい直す。
「ええ、護衛のテッド殿から貴方が、トリア嬢のご自宅に伺ったとお聞きして、ぜひ。こちらのクッキーは素朴な味わいで、主が気に入ったようなのです。いつもより早く食べきっておられて、空になった皿に唖然とご自身でされておりましたから」
主の様子を思い出して微笑む、サミュエル。
「珍しい。ウィンスレット様は、あまり甘味は好まれませんのにね。このように、山程頂いてまいりましたから、おすそ分けはやぶさかではございませんが、私もあちらに日参するわけには参りませんので、程よい量でお願いいたしますよ」
缶二つの蓋を開けて、サミュエルに見せるパーシー。留守居役も興味津々でそれを見ている。
「これはこれは!」
しっかり用意していた缶に、クッキーを詰めていくサミュエル。
「もう少し形が整っていれば、甘味好きのお客様にもお出しできそうですのに。そこが残念です」
「何やら、隣家におすそ分けする分だったらしいので、形よりも量を優先したのでしょう」
「おや、それは申し訳ないことを」
「ええ。主は対価をお支払いでしたが、なにか別に、こちらからも材料をお届けしようと思います。ああ、そうだ、兄上」
「なんでしょう?」
「面白い飲み物を教わったので、兄上にも淹れて差し上げましょう。風味もよく体に良さそうな飲み物なのです」
「ほう、興味深い」
「パーシー様?」
興味津々な留守居役に、パーシーは苦笑する。
「貴方達には、いつでもアーノルド様にお出しできるようにまとめて教えますから。よろしいですね?」
「はい!」
パーシーはサミュエルの味覚に合わせて、濃いオルゾを淹れ、プレーンのロッククッキーをつける。
「紅茶よりももっと濃い茶色ですね。香ばしい香りが良いですね。……ふむ、ミスラのカッフェよりも、くせが少なく飲みやすい。クッキーにもあいます。我が君も好みそうだ」
「庶民の知恵だそうですよ。茶葉が手に入らなくなった時に、なんとか代わりのものをということで、大麦を煎って作ったそうです」
「ほう。素晴らしい」
「第五の料理人は研究熱心ですね。毎朝、我が君が通われる理由がよくわかりました。この際ですから、彼のもとへ、お屋敷の料理人を派遣しようと思うのです」
「それは良い考えですね。我が君のお屋敷の料理人も、派遣したいですが……」
「そちらのお屋敷の料理人は、気位が少々ね……」
「それ故に腕も磨くのですが。仕方ありません、アーノルド様の料理人にお願いしましょう」
「ええ。それが良いでしょうね」
「さて、私はこれで失礼します。このお礼は別の際にでも」
「お願いします」
「では」
アーノルドが戻った気配を感じて、サミュエルがその場を辞する。パーシーは、主のために新しく手に入れた飲み物を、主の好みに合わせて淹れはじめた。
このあと、ロッククッキーのおかわりで揉める主従の姿が、軍務大臣の執務室で見られたという。