挿話 あるメイドの嘆き
ここまでお読みくださりありがとうございます。
あまりにもルディのうじうじが長いので、気分転換です。
気分転換のくせに長いです(;'∀')
時間軸はSIDEルディ2の真ん中あたりです。
まったくわが国の王妃なのに、アデリッサ様は困ったお方だわ。
いつもは夕方の仕事なのに、今日は朝から例の仕事を頼まれるから、どういうことかと思ったら子供のお茶会に潜入するなんて。
え?私? 私は王妃様の専属メイドよ。名前なんてどうでもいいじゃない、どうせ大勢いるメイドのうちのひとりなんだから。
ただ、ちょっと化粧がうまいからと王妃様に便利に使われ・・・取り立てて頂いているだけよ。
普段のアデリッサ様はそれはもう美しくて、これぞ淑女のお手本!って感じなんだけど、裏では怖いお方なのよ。
だって、貴族邸の夜会に変装して潜入するのよ。
あれはたぶん、極秘に何かを調査しているんだわ。
その、貴族の血なまぐさい裏事情とかなんとかを。
で、その変装を手伝っているのが私ってわけ。
だから普段の仕事は夕方からなのよ。
しっかし、今回は大変だったわ。
アデリッサ様がメイドに扮したいとかおっしゃるから。
無理に決まってるじゃない!いくらカツラをつけようと、別人のような化粧をしようと、そのあふれ出る気品は隠せませんって!
まだ普段は貴族の変装だから、地味地味にしまくってようやくギリギリなんとかなっているのに。
それにメイドが仕事しないわけにはいかないじゃない。
王妃様にやらせる仕事なんてないわよ!思わずメイド長に助けを求めちゃったわ。
メイド長の説得で、ようやくいつものように地味な貴族でいいとおっしゃっていただけたけど、これはこれで大変よ。
夜会の会場とお天道様の下じゃ明るさがぜんぜん違うし。
本当に今回は苦労して疲れまくったのに、化粧直しのためにアデリッサ様の後ろに立っているのよ。はぁ、座りたい。
で、どこに潜入するのかと思えば、ルディベール第一王子殿下のお茶会じゃない。
なんで自分の子供のお茶会に変装する必要があるのよ、これはなんの調査よ?
しかし、今日はやたらと子供の人数が多いわね。
それに貴族の子供っぽいけど、普段城でよく見かけるお高くとまっ・・・お行儀のいいおぼっちゃま、お嬢様とはちょっと違うわね。
・・・あら、めずらしい。普段は物静かなルディベール殿下が笑っていらっしゃるわ。
そりゃ普段でも笑うけど、あんなに笑っているのは初めて見るわ。
あのくらいの男の子4人だと、きっとお馬鹿な話をしてるんでしょうね。
あら?なんか女の子がひとりこっちへ来たわ。パッチリおめめのかわいい子ねぇ。
「こんにちは。私はキャロライン。おばさまはここには初めて来たの?」
ちょっ!その方は王妃様よ!おばさま・・・ぶふっ、おばさまって呼んじゃだめよ。
「こんにちは。キャロラインちゃん。そうなの、ここへは初めて来たのよ」
・・・アデリッサ様、ここはあなたのおうちでは?
「それじゃあ、案内してあげるわ。あちらに素敵なところがあるの」
おお、キャロラインお嬢様、王妃様とお手々繋いでどちらへ?・・・ああ、花壇ですか。
「このお花は王妃様のお花なのよ。王妃様に負けないくらい綺麗なんですって。
とっても綺麗よね」
「キャロラインちゃんは王妃様に会ったことがあるの?どのくらい綺麗だった?」
・・・アデリッサ様、子供に何を言わせたいのですか?
「いいえ、ないの。でも父様が母様より綺麗だって言ってたから、きっととてもお綺麗よ。おばさまは王妃様にお会いしたことある?」
「いいえ、ないわね」
・・・アデリッサ様、鏡をお出ししましょうか?
「あ、いけない、父様が言ってたことは内緒ね。母様がきっと怒るわ。でも、おばさまもお綺麗よ、その・・・もう少しお化粧はなくていいと思うけれど」
おっと、お嬢様するどい!厚化粧過ぎましたね、精進いたします!
「ふふふ、ありがとう。ほめてくれたお礼にこの花を上げましょうか?」
「いいえ、実は前回、庭師のおじさんに一本頂いたの。もうこれは剪定するやつだからって。あ、これも内緒にしてね。 ―――ね?」
あ、はい、私も内緒にすればいいんですね。きっとどんどん共犯者が増えますね。
「まあ、それはよかったわね。お部屋に飾ったの?」
「ええ、押し花にしようと思ったけど、綺麗だから一日だけ飾ったの。それでお花をもらった日にベティはいなかったから、押し花ができたら来週のベティの誕生日にあげようと思ったの。けれど、うまくできなくて・・・」
「それなら今日また持って帰ったらいいじゃない。他のもっと押し花にしやすいお花でもいいし」
「もう私は一本もらったからいいの。それに王妃様のお花だからプレゼントしたかったのよ」
「じゃあ、ベティちゃんへのプレゼントはなにか買うの?お小遣いはあるの?」
「私のお小遣いは町のバザーで使うから、プレゼントは買えないわ」
「じゃあ、バザーで買った物をプレゼントすれば?」
「バザーで買った物は教会に寄付するのよ」
「あら、それではキャロラインちゃんの手元にはなにも残らないじゃない」
「私のお小遣いは領民からもらったものだから、領民のために使うのよ」
「まぁ・・・」
まぁ・・・
「あ、おばさま、あの、その、もう少しお話していたいのだけれど、あそこにいる子もここは初めてだと思うから、案内してきてもいいかしら?」
「いいけれど、キャロラインちゃんはここに詳しいのね」
「そうなの。前に、あそこにいるおじさまたちがいろいろと教えてくれたから」
え?あそこにいるのって、大臣とかお偉いさんですよね?
え?キャロラインお嬢様に手を振ってる?あの強面の大臣が?
「へー、そうなの・・・。ありがとう、今日は楽しかったわ。またお話しましょうね」
「ええ、さようなら。 お姉さんもさようなら」
え、私にも挨拶を?・・・ああ、行っちゃった。
「ふふふ、おもしろい子だったわね」
キャロラインお嬢様、怖い人に目を付けられましたよ、逃げてー!
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で、今日はなんでこんなことに?
今、私の目の前にはわが国の王様がいらっしゃる。
なぜ王に化粧を?なぜ王に化粧を?なぜ王に化粧を!? はい、大事なことだから三回聞きましたっ。
このあふれ出る威厳を消せとおっしゃるので?無茶を言わないでくださいませ~
そしてまたルディベール殿下のお茶会に潜入ですか?ご夫婦揃って?
王よ、なぜ止めて下さらないのですか?!
そして自分史上最高に疲れたのにまた後ろに立たなきゃならんとは。うううっ
アデリッサ様、これは、あれですか?前にキャロラインお嬢様に、自分はおばさまと呼ばれたのに私がお姉さんと呼ばれたことへの報復ですか?
気が付いていましたよ、あの時ちらりとこちらをご覧になったことは。
あれから若見え化粧の研究していますから、勘弁してください。
ああ、ほら、そのキャロラインお嬢様が来ましたよ。
「おばさま、こんにちは」
あ、こら、笑っちゃだめですって、王よ。
「・・・こんにちは、キャロラインちゃん。お元気そうでなによりね。
そうそう、結局ベティちゃんへのプレゼントはどうしたの?」
「兄様が一緒にお花をあげればいいよって言ってくれたから、花束に私のとっておきのリボンを結んだの」
「そう、ベティちゃんは喜んでくれた?」
「ええ、あそこにいるのがベティで、あのリボンがそうよ。
でもあれだけじゃやっぱりいつもお世話になっているベティへのお祝いに足りないから、今、ハンカチに刺繍をしているところなの」
「ふふふ、いつもお世話されているのね。キャロラインちゃんは刺繍が得意なの?」
「得意、ではないけれど、いつもおまじないを刺繍してるの」
「まじない?なんの?」
「お守りとか願掛け。昨年亡くなったおばあさまが図案を書き残してくれたの。
あとは、フレディが研究してくれたのとか。ああ、フレディはベティのお兄様なのよ。あそこで殿下とお話している右側の人。左側は私の兄様よ」
「ああ、ルディベール、殿下と仲良くしてくれている子たちね。キャロラインちゃんは殿下と仲良くしてくれないの?」
「うーんと、フレディが、私は殿下に近寄っちゃダメって言うの」
ほう。
「なぜ?」
「わからないわ。ベティに聞いても『困った兄様ね』としか言わないし」
ほうほう、なるほど。
「そうなの・・・キャロラインちゃんは殿下のことは好き?」
え?アデリッサ様、それはちょっとストレート過ぎやしませんか。
「ええ、好きよ。やさしく手を握ってくる人だなって思って見ると、だいたい殿下なの。それに笑顔がすてきだし」
あー、殿下、それはフレディ少年に警戒されますねぇ。
「へー、ルディベールの方から手を握ってくるのね。
ふふふ、キャロラインちゃん、フレディ君が見ていないときでいいから殿下と仲良くしてあげてね」
「ええ、頑張ってみるわ。おばさまは殿下のお母様みたいね」
おっと、ばれましたか?
「まあ、そんなようなものよ。さて、キャロラインちゃん、このおじさんは今日初めてここに来たの。案内をお願いできるかしら?」
ファ!?アデリッサ様、さっき陛下に笑われた仕返しですか?
「わかったわ。 ―――こんにちは、私はキャロライン。おじさま、彫刻はお好き?」
「ぷぷぷっ」
アデリッサさまー、それは王妃殿下の笑い方ではありませんよー。
おお、キャロラインお嬢様、陛下ともお手々を繋ぎましたね。勇者ですね。
で、噴水に連れて行かれるのですか。彫刻の説明もできるんですね。
ああ、逆に陛下が彫刻にまつわる神話を語り出しましたよ、キャロラインお嬢様にキラキラした目で見つめられながら。
え?キャロラインお嬢様、おもしろいからみんなを呼んでくるって、そりゃまずいですよ。
「あーおもしろい。見て、あの陛下の戸惑った顔を!」
アデリッサ様、まさか、これが見たくて今日は王を連れてきたのですか?
まったくわが国の王妃なのに、アデリッサ様は困ったお方だわ。




