02. 経緯
もうそろそろ、この春に開通した新しい道への分岐点のはずね。
旧道はこの先、崖が続く狭い道になるけれど、新道は道幅も広く、明るくて治安もいいらしい。
行程は昨日、御者のハンスが地図を広げて説明してくれた。
ハンスは、私が生まれる前から我が家で御者として働いているとてもまじめな人で、いつも馬車も馬もピッカピカ。
今回も初めて通る道だからと、わざわざお城の御者の人に会って詳しく聞いてきてくれたそう。
今日は、湖まで休憩も含めて5時間の予定。
湖までの道は、王族が通られるのでとてもよく整備されていて、もう山道をだいぶ上がってきているのに馬車の揺れも少ない。
山をひとつ越えれば小さい村があるそうで、そこで3回目の休憩をすることになっている。
ぼんやりと窓の向こうに見える山の濃い緑を眺めていると、だんだん景色の流れ具合から、馬車の速度が落ちていく事に気がついた。
前から他の馬車が来て、すれ違うのかしら? あら?御者台から3回ノックする音がするわ。
あ、また3回ノックしている。
なんの合図? なにかあった? まさか盗賊?
今日は護衛に騎士がついていたのだけれど、2回目の休憩場所で護衛騎士の馬が不調になってしまい、代わりの馬を手配することになった。
けれど、新しい馬が来るのを待っていると、予定の時間には着けない。
なので、とりあえず馬車を先行させようと、アンが提案した。
護衛騎士は渋っていたけれど、この道は安全だと聞く、単騎で飛ばせばすぐに追いつける、なにより、お嬢様を王太子殿下との約束に遅らせるわけにはいかない!と、アンがめずらしく声を張り上げて護衛騎士を懸命に説得していた。
それで今は馬車だけで走っていた。まだ護衛騎士は追いついていない。
「アン、起きて!なにかあったみたい」
そうアンに小声で言いながら、窓に身を寄せてカーテンの隙間から前方を覗いた。
すると突然、アンが馬車の扉を開き、私に小さく「ごめんなさいね」と言って、いつものように可憐に笑った。
そして、ゆっくりとだけどまだ動いている馬車から身を乗り出して―――え?飛び降りたの?
私は驚いて、開いている扉から顔を出して、後ろを振り返った
後ろには、アンの服と同じ色の固まりが、道に転がっていた
反射的に、馬車を止めて!とハンスに叫ぼうと前を見る
すると、御者台から男が道にとび降り、馬と並走しはじめた
一度振り向いてアンを確認するように後方を見やると、その男は思い切り鞭を振り上げる
叩かれた馬が嘶いた
馬車の速度が急に上がったせいで体が背もたれまで飛ばされ、打ち付けた反動で床に転がってしまった
体勢を立て直す間もなく、今度はなぜか窓に叩きつけられた
体の下になった窓から、一瞬、川のきらめきが
そして、ほんの少しの浮遊感
そのあとは・・・




