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13. [Side] 医師 アルベルト・カートレット 1

 私はアルベルト・カートレット 35歳

フィグラルツ王国王城医療部で医師長をしている。


父が前王の侍医をしていた関係もあり、現王のルディベール陛下とは乳兄弟として育った。

私はルディベールと名で呼ぶことを許され、子供時代も共に過ごした。

ルディベールは幼い頃から帝王教育も剣術も、なに事も全力で取り組むまじめな王子だった。


私達が13歳の頃、同じような年回りの子供がたくさん城へとやってきて、めずらしく大人達から一緒に遊んでいいと言われた。

そして、クリストファ・モンドリエと、その幼馴染だというフレディ・クライザックと仲良くなった。

今まで周りにいた、どこかよそよそしい子供達とは違うタイプだった。


クリストファは溌剌としてとても面倒見がよく、私達がしてこなかった普通の子供の遊びをたくさん教えてくれ、大勢で遊ぶ楽しさも知った。

フレディは隙あらば王城図書室に潜り込もうとする読書家で、私達が知らない分野の話をしてくれてとても勉強になった。


たまに将来の話をすることがあったが、ルディベールは王、クリストファとフレディは領主と、三人とも将来は決められている。

いくら皆と同じく父の仕事を継ぐのだと口では言っていても、嫌になれば他にも選択肢がある私は、三人よりは真剣さに欠けていた。


クリストファにはキャロラインという妹がいた。

兄よりもさらに元気で、ふわふわのブロンドヘアーに、翠色の大きな瞳がいつもキラキラとしたかわいい女の子だった。

人懐っこいが、存外きちんと相手に合わせられるところがあり、初めて会う人でもすぐにかわいがられていた。


フレディにはベアトリスという妹がいた。

兄に似て読書家だが、兄よりも落ち着いた大人びた女の子だった。

この兄妹はいつもキャロラインの面倒をみていたように思う。


私達が16歳になり、ルディベールが王太子になった翌日、ルディベールがとてもうれしそうに王の執務室から勉強部屋へともどってきた。

今、婚約者候補のリストを見せられたが、その中にキャロラインの名があった!と。

ルディベールがキャロラインのことを好きなのはかなり前から気がついていたので、私も一緒に喜んだ。


もちろん、すぐにルディベールはキャロラインだけを希望した。

しかし大臣など一部から、身分が釣り合いません、それにまだこれから候補者とする段階ですと反対にあった。


どうやら国内の候補者の数が少ないために、数合わせのつもりでリストに載せたらしい。

隣国に良い侯爵令嬢がいたのですでに打診してありますと王に報告した大臣に、いつもは冷静なルディベールがめずらしく憤慨していた。


ルディベールは父上を説得すると意気込んでいたが、意外にもあっさりと王はキャロラインを婚約者とする許可を出された。

どうやら王妃殿下の後押しがあったらしいが、キャロラインと面識でもあったのだろうか。


それでも担当の大臣がしぶしぶといった感じでモンドリエ領に向かったのを見たルディベールは、側近や護衛を巻き込んで、強行に自らプロポーズをしに乗り込んでいった。


らしからぬ男らしい一面だったが、その裏では断られたらどうしようと言いながら部屋をうろうろしていたのを私は知っている。

そのうちなにかの交渉材料にしようと、皆には言わないでおいた。


ルディベールの頑張りで無事に婚約したふたりはとても幸せそうだった。

私は将来このふたりを支えるためにも、ちゃんとした医者になろうと決めた。



しかし、それから数か月後の初夏のある夜、父に城からの招集がかかった。

ルディベールと湖へ行ったはずのキャロラインが行方不明とのことだった。


どこかで怪我か病気で立ち往生しているのかもしれないと、数人の医師も捜索に駆り出されたために、父は城で待機することになった。


その後、五日も経ってからキャロラインは見つかった。

正確には、崖下に馬車の残骸があると確認されただけだったが。


湖にある別邸で寝込んでいたというルディベールは驚くほど憔悴していて、父をはじめとした医師たちが懸命に対処していた。

私にできることはなにもなかった。


それから5年、ルディベールは王となり、私も王城務めの医師になった。


若い王ながら素晴らしい采配を振り、賢王と呼ばれるようになって、すっかり落ち着いたように思われてはいたが、夜中によくうなされているとの報告が医療部には上がっていた。

生まれた時から一緒に育ってきた私には、ルディベールが心から笑っていることがもうないことは分かっていた。


だから王弟殿下が婚姻について懸命に説得していると聞いても、正直、ルディベールがキャロライン以外の人と結婚するとは思っていなかった。


イザベラ王妃の懐妊には医療部が総力をあげて尽くし、無事にリアベール王子が誕生したときには国中がお祝いムードに包まれた。


王としてはこれで完璧だろう。

しかし、私はなにか自分が裏切られたような気がして、あまり喜ぶことができなかった。


そして今現在、たまにルディベール陛下の侍医に付いて王の診察に同行することがあるが、顔を合わせても陛下は必要なこと以外はなにもおっしゃらないし、私も余計なことは言わない。


クリストファとベアトリスの結婚は祝ったが、今は時候の挨拶状に近況を少々綴る程度の付き合い。

たまにクリストファを城で見かけることがあっても、わざわざ声を掛けることはしない。


フレディは今どうしているのかまったくわからない。



私達はキャロラインと共に友情もなくした。





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