第六話 襲撃される町
「名前が決まったのならば、早々にこの場を離れましょう。いくらここがシルヴィアの中だとしてもアフレジアとの国境が少し近すぎます」
私の名前の件についての話が終わると、ガイアールが提案する。ガイアール曰く、この場所はそのアフレジアという国との国境に近いらしい。
アフレジアの人達をここまで警戒しているということは、余程何か大きなことをやらかしたのだろう。
「そうだな。それにちょうどいい頃合だ。見回りはこの辺りにして王都に戻ろうか」
「あの、私はどうすればいいですか?」
「アイリスはとりあえず俺達と一緒に来てくれ。身の潔白を証明しないとガイアールが安心できないからな」
「わかりました」
返事をする際にガイアールからまた視線を感じたが、あえてガイアールの方へは向かないようにした。ここはあえて無視するのが一番だ。それに、疑いが晴れていない私から見られるのはガイアール自身も不快に思うはずだ。
そしてアルド達はこの平原を歩き始めた。そして私は三人の後をつけるように追いかけてる。するとすぐ様ガイアールが私の後ろへと回り込んで同じように歩き始めた。
「……あの、どうかしましたか?」
「いえ、もし後ろからグサリといかれたりどこかに行かれると困りますので」
「あ、そうですか」
私が元々そんなことをするつもりはなくてもガイアールはその可能性を考慮して私の後ろについたらしい。まあ、私自身もしアルド達を見失ってしまえば全く知らないこの場所で迷子になってしまう。そう考えれば、私からしても後ろにガイアールがついてくれるのはとても心強く安心できる。
平原の先にある森を抜けると、そこには道が整備された平原があった。ここの平原は前の平原と違って草の長さが短いのでとても歩きやすい。
「そう言えば、ずっと肩からかけているそのバックには何が入っているんだ?」
「あ、それは私も気になった!」
シルヴィアの王都に向かう途中、アルドはアウステラ王から貰ったこのバックについての話題を持ち出した。そしてその話題が始まると、またガイアールが私に視線を送ってくる。
まあそうだよね。この中に何が入ってるかを調べないと余計に何が目的なんだと疑わせちゃうよね。
私は見せて見せてと言い寄られる前にバックのボタンを外し、中にある四冊の本をアルド達に見せる。
「これは……本か?」
「いえ、これは魔導書ですね。ということは、きっとアイリスさんは魔法を使って戦っていたのでしょう」
「……まあ確かに、その体型で剣が振れるとは思えないしね」
全く持ってその通りです。
それはそれとして、とりあえずこれで今の私が特に危険な物を持ち合わせていないということを証明できた。ほんの少しだけ疑いは晴れだろう。完全にはまだ晴れていないけど。
それからしばらく歩いていると少し遠い場所に町が見えた。
「よし、見えてきたな。あれが王都へと中間地点って感じだ。俺達はあの辺りの見回りをする際にはこの町を中継している」
「つまり、あと半分ということですね」
王都まであと半分。かなり歩いたが、これでもまだ半分あるらしい。
正直なことを言うと私の体力はそろそろ限界に近い。ただでさえずっと檻の中にいてまともに運動していなかったのだから。
そして町に向かって足を進めて行く。しかし、足を進めていくごとに町の異変に気がつく。
「あれは、煙!?」
「まさか、アフレジアの者達が……!」
町から出る煙を見た途端にアルド達は町に向かって走り始めた。一瞬困惑した私だが、とりあえず唯一の行く宛てである彼らを追っていった。
町に着くと即座にアルド達は現状の確認をする。しかし、そんな確認なんて必要ないくらいに町の状況は理解出来た。
「酷い……」
燃える民家を見てアリサはそう言葉を漏らした。確かにこれは酷い。燃えている民家は一つだけではなく他にもいくつかある。
「オラァ、さっさと開けないとてめぇの大事な家を燃やしちゃうぞぉ!」
町の様子を見ているとそんな声が聞こえた。声の方向には片手に火のついた松明、もう片方の手にナイフを持った盗賊のような人がいた。
「アイツ……!」
それを見たアルドは即座にその盗賊に接近し、思いっきりタックルをした。
「ぐへっ!」
タックルを受けた盗賊は一メートルほど吹き飛ぶ。完全に今の状況からは敵が来ないだろうと油断していたのだろう。
「なんだなんだ!?」
その騒ぎを聞きつけた別の盗賊が虫のように集まってくる。その数は大体三十人くらい。最初から単独なわけないと思っていたが、まさかここまで多いとは思わなかった。
「俺達は王都エメレントの者だ。今すぐに武器を捨て降伏しろ。これは警告だ」
「なーにが降伏だ。するわけねぇだろ!」
盗賊が一人、アルドにナイフを振りかざしながら向かって行く。それに続いて他の盗賊達もアルドに向かって行く。
「交渉決裂だな。ならばお前達をここで拘束させてもらう!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
独りでに突っ込んでいったアルドは盗賊を前に少し変わった形の剣を抜き、数十人もの盗賊との戦闘が始まった。そして残りの数十人の盗賊の標的はアルド以外の私達三人。
「ふむ、ざっと数十人と。アイリスさん、魔法による援護は可能ですか?」
「……三十秒くらい待ってくれれば大丈夫です」
「その三十秒の間に何をするつもりで?」
「この魔導書の攻撃に関する部分だけ軽く覚えます」
「わかりました。ヒーラーのアリサさんはアイリスさんと一緒にいてください。貴方が戦闘不能になればアルド様に顔向け出来ませんので」
「わかった」
そう言うとガイアールは持っていた槍を構え、こちらに突っ込んでくる数十人もの盗賊と戦闘を開始した。
一人でそんなにも大量に相手できるのかと不安になったが、かなり戦闘慣れしているのか二人ともやられる気配がない。アルドは相手の攻撃を見切り、剣の腹で盗賊を殴り気絶させていき、ガイアールはその強靭な鎧で攻撃を防ぎ一体一体確実に槍で殴り意識を刈り取っていく。
しかし、二人の体力がいつまで持つかはわからない。だから私はなるべく早くに魔導書の内容を覚えよう。
バックを開き中に入っている四冊の魔導書を取り出す。それぞれの魔道書にどんな内容が書かれているのかが気になったが、ご丁寧に魔導書の表紙にそれぞれ『攻』『防』『補』『癒』と書かれていた。私は真っ先に『攻』と書かれた魔導書を手に取り、その他はバックにしまう。
「下級、中級、上級、最上級……」
その魔導書には下級から最上級までの魔法の使用方法が記されており、そのうちの下級魔法の使用方法を軽く読み流していく。そしてある程度理解できると、私は魔導書に書かれた魔法の使用方法を盗賊に向けて実行する。
「この魔導書を片手に持って手を前に出して唱える……」
魔導書による魔法の発動は必ず魔導書を片手に持たなければならないらしい。もし両手で持てば魔法は放てないし、途中で落としてしまえば発動は中断される。
そして魔導書を片手に持ち、私は魔導書に記された下級魔法の一つを唱える。
「『ファイア』──!」
すると、前に出していた私の手の平から炎の塊が生まれ、それが腕を向けていたガイアールが戦っている盗賊達の方向へ一直線に飛んで行く。そしてその炎の塊は盗賊に命中した瞬間に周りにいた三人ほど巻き込んで弾けた。