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第四話 王からの褒美


『だから、その首輪を外して貴様をの身分を上げてやろうと言っているのだ』

「でも、どうやって……」

『その首輪とやらがなくなれば、少なくとも奴隷ではなくなるのだろう?』


 確かに首輪がなくなれば周りからは奴隷としては見られないかもしれない。しかしこの首輪を外すのは不可能だ。それに、あの国には身分の昇格は奴隷に認められていない。首輪を外しても、私が奴隷である事に変わりはない。


「この首輪は特別な魔力で生成されたものです。そう簡単に外せませんし、もし外そうとすれば……」


 もし強引に外そうとすれば、あの時私を襲った電流が殺人級一歩手前の電圧で襲いかかってくる。もうあの電流を受けるのは嫌だ。痛くて痛くて、涙が流れてくる。

 手が震える。あの電流に対して恐怖している証拠だ。


『まあそう震えるでない。我の財宝の中にそれを外す道具くらいはあるだろう』


 アウステラ王は玉座から立ち上がり、私の元へ向かって来る。そして私の首に付けられた首輪に触れる。

 というか、少し顔が近い。アウステラ王の顔は鋭い目と深紅の瞳、そしてその深紅の瞳を引き立てるような青い髪。誰がどう見てもかっこいいイケ顔と言うだろう。きっと女性が十人いれば九人は振り返る。残りの一人は、私のように自分を過小評価しているような人だ。


『我好みの顔をしているではないか』

「えっと、それはどうもありがとうございます」

『ふむ、照れるでない。それよりも、こいつは思ったよりも貧弱な魔力だな』

「……実体はあるんですね」

『戯け、実体などとうの昔に失っている。今の我はいわば霊体。他の霊体と違うところを挙げるならば、我は貴様らに干渉できるが貴様らは我には干渉できない、と言ったところだ』


 私の質問に返答しながらこの部屋の両端にある大量の財宝から何かを探し始める。そして特に迷うことなく、あったあったと一つのボタンが着いた道具を手に取り私の方へと歩いて来る。


『ガラクタだと思っていたが、恐らくこれだ』


 その道具はあの男性が持っていた電流を操作する道具と酷似している。もしあのボタンが押されれば、また電流が流れるのだろうか。

 そう思った矢先にアウステラ王はボタンを躊躇なく押した。心臓がドクッとしたが、電流は流れてこなかった。そして代わりに、私についていた首輪からガチャっと言う音が聞こえた。


『別国からの戦利品がどうやら同じ技術を使っていたらしい。まあそれはそれとしてその首輪だが、もう外れているぞ』

「え、あ……」


 軽く首輪を引っ張っただけで首輪は軽々取れた。そして私が首輪を手にしていると、それをアウステラ王がひょいと私の手の上から盗ってきた。


『新しい拘束具としては有能だ。また雑種以下のゴミが来た時に使わせてもらおう』


 どうやらあの首輪をこの宝物庫の防衛道具として再利用するつもりらしい。確かに、これを侵入者に付ければ確実に従わせることが出来る。私があの男性に従っていたように。


『気分はどうだ?』

「……いまいちわかりません」

『であろうな。首輪が外れただけなのだから』


 確かに首輪が外れただけ。だけど、何故かスッキリしたような気がする。こう、縛られていたものから解放されたような。

 本当にこれで奴隷じゃなくなったのだろうか。いくら首輪が外れてもそれは、ただ首輪をしていない奴隷、なのではないだろうか。


『今日から貴様は庶民だ。誰がなんと言おうと我がそう決めたのだ。堂々とするがいい』

「……ありがとうございます」

『して、貴様はこれで我が褒美を受ける資格を得たということになる』

「えっと、先程の行為がその褒美ではないのですか?」

『王様サービスだ。喜ぶがいい』


 なんというか、とても器が広い王様だ。だからこそこの国の王様になれたのかもしれない。こんな人が王様ならきっといい国になる。

 だけど、どうして滅びてしまったのだろうか。裏切りか大災害が、それとも或いは別国との戦に敗れたのか。その真相は私にはわからない。


『ほれ、早く好きな物を一つだけ貰うがよい』

「……ありません。私は先程の行為だけで満足しました。それに加えて財宝の一部を貰うのは気が引け」

『この戯け、さっさと貰わんか! 我が良いというのだからとりあえず何か一つは貰っておけ! 我の気が変わらんうちにな!』


 私が否定的な発言をするとついに王様が怒鳴った。それはそのはずだ。これだけいいよと言っているのに断っていれば王様の気分も悪くなる。

 でも、本当にこんな私が貰っていいのかと不安になる。それに、貰うとしてもこんなにある財宝の中から一つだけなんて選ぶのにも時間がかかるし全部把握するのにも時間がかかる。


『……仕方ない。一つ質問してやる。貴様は剣か魔法のどちらに興味がある』

「剣か魔法……ですか……」


 剣か魔法、どちらも戦い向けの話だ。戦うことは苦手だが、この質問でも「ない」と答えるのは流石にアウステラ王に喧嘩を売っている。


「……魔法です」


 私はそう返答した。なぜ魔法かと言うと、私の体は栄養不足が原因でとても痩せていて弱々しい。こんな体で肉弾戦なんて自殺行為だ。だから、非肉弾戦の魔法を選んだ。


『魔法か。なら貴様にはこれをくれてやる』


 アウステラ王は近くの財宝の山から肩掛けのバックを取り出し私に向かって投げてきた。そしてそのバックが地面に落ちると、私はその中身を確認する。


「本?」


 バックの中には四冊の少し厚めの本が入っていた。どれもまだ新しく使った形跡が全くなかった。


『我が国の魔導書四冊セットだ。我には不要なものだったから念には念をと保管していたものだ』

「いいんですか?」

『それは我が持つよりそれを使う誰かが持った方がよっぽどいい。今日からそれは貴様のものだ』


 今日から私のもの。こうやって誰かにものを貰うなんて初めてのことなのでまた不安になってしまう。だが、それがもしかすると私のいけない所なのかもしれない。もう少し自信を持て私。


『さて、これから貴様はどうするつもりだ? 飼い主がいなくなった今行く宛はないのだろう』

「どうすると言われましても……」

『ここに留まることは我が許さん。ここは貴様が暮らせるような環境ではないからな』


 これからどうするかということ。それは今私が何をしたいかということでもある。生涯奴隷生活から脱した私が今何をしたいのか。


「世界を……見てみたいです……」

『ほぉ、世界と来たか』

「私は、あの国の外に出たことがないです。だから、あの国の外に出て、色んなものを見てみたいです!」


 それが今の私がしたいこと。この狭い国から出て色んなものを見る。色んな人と接し合う。今の私が奴隷でないなら、あの男性のような人ではなく優しい人とも出会いたい。そんな人と一緒に笑いたい。

 ──それが私の願いであり、今したいことだ。


『それを叶えることは出来ないが、手伝ってはやろう』


 アウステラ王がそう言うと、突然地面に水色の魔法陣が現れ、光を放ち始めた。


「なんですかこれ?」

『なんだ、転移魔法を知らないのか』


 どうやら今発動させた魔法は転移魔法というらしい。今までそんな名前の魔法を聞いたことがないけど、別に特別な魔法という訳でもないのだろうか。


『簡単に言えば場所移動だ。転移先は……とりあえずその国の外にしておいてやろう』

「……ありがとうございます、何から何まで」

『勘違いするでない。これは我の気まぐれだ。それと貴様が試練を突破したという褒美だ』

「……また会えますか?」

『そんな質問をしてくる奴がいるとはな。まあ、我は霊体。気が向いたら貴様の元に出向いてやろう』


 ふっと鼻で笑いながらアウステラ王はそう言う。そう言っている間に魔法陣が放つ光が段々強くなっていく。


『ではな』


 そしてアウステラ王が最後に一言言うと光は一気に強くなり、転移すると同時に私の意識も飛んだ。

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