第一話 虚無の心
3000字を目処に書いてますが、今回と前回は2000字程度です。
私が買われて一週間が経過した。相変わらず名前はつけてもらえない。
この一週間の間にあの男性は六回程度洞窟を探索しに行った。もちろん私を連れて。私に持たされているのは何も無い。いわゆる手ぶらというやつだ。
「そこ、まっすぐ進め」
「……わかりました」
真っ暗な道を言われた通りにまっすぐ進む。すると足場が突然ガクッと沈み、その瞬間私の右腕に一本の鉄製の針が突き刺さった。ズキズキするけど、何故かあまり痛みを感じない。数十回もの事でもう慣れてしまったのだろうか。
「罠か……ってことは、どうやらこっちは当たりだな」
「………」
この男性、どうやら昔滅んだ古代文明都市の遺跡を探しているらしい。それ以外の目的はわからないが、多分財宝を売ってお金にするか何か世界を支配できるほどの兵器を発掘するかのどちらかがその文明都市を見つけてすることだろう。
「石レンガ……間違いなく人工的な物だ。ということは、もうこの辺りにあるのか?」
男性は一人そう呟きながら細かく壁や岩の隙間などを調べていく。自称かなり有名な探検家というのは伊達ではないらしい。
「む、あれは……!」
しばらくして男性は何かを発見した。男性の視線の先には所々欠けたボロボロの石版が立てかけられていた。多分、元々壁に引っ掛けられていて落ちたのだろう。
「奴隷、先に行け」
「………」
言われた通りにその石版がある所まで歩いていく。特に恐怖を感じず、ゆっくりと確実に足を動かす。
「……罠はなしか」
私が石版の場所まで何事もなく辿り着く。何も無いと判断した男性は私に続いて石版の場所まで歩いて来る。
しかしその途中の足場が突然沈み込み、罠が発動した。
「なっ!」
発動した罠は先程私が受けた罠と同様で鉄製の針が飛んでくるというもの。しかし、私の場合よりも遥かに数が多く数百、いや数千もの針がその通路の端から端までを飛んだ。
「あっぶねぇ」
罠の発動にいち早く気がついた男性はすぐさまこちらに向かって走り、針が飛び始める前に石版の元へと辿り着いた。そしてその後、「役立たず」と言って私を殴った。そこの針地獄に放り入れない辺り、まだ利用価値があるらしい。
それにしても、どうして私が通った時に発動しなかった罠が発動したのだろうか。それが気になって仕方がない。
「『ゆう……き……に……しの……く……し』なんだ、全く意味がわからん」
石板はボロボロで何が書かれているかが解読できなかった。男性は特に意味は無いと思ったのか、すぐにその場を去ってさらに奥へと進んで行った。
それからまたしばらく歩くと、洞窟の割には開けた空洞に出た。いや、よく見ればここは開けたただの空洞ではない。
──部屋だ。扉と崩れているが石製の棚がある。それに窓もある。
「部屋……だとするとここは……!」
男性は何か気がついたのか、急いでこの部屋の扉を開けて外に出る。どうせ遅ければ殴られるので、私も急いで男性の後を追って外に出る。
「ついに見つけた、滅亡した古代ウルレア地下文明都市の遺跡を!」
男性が手持ちの手帳と目の前にある三角錐型の建物を見ながらそう叫んだ。どうやら、ここが男性が探していた古代遺跡のようだ。
「ってことは、この先に財宝が……」
男性は周りにある建物を無視してまっすぐ三角錐型の建物に向かって走る。それを追って私も走った。
そしてその建物に辿り着くと、入口であろう大きな扉があった。それを男性は押し開ける。
「古文書には『王の財宝、四角の塔にて眠る』と書かれていた。この中で四つ角があるのはこの建物だけだ!」
そして男性は扉を開いた。その中には闘技場のような空間があり、財宝が眠っている部屋に行くための扉であろうものがこの一室の奥にある。
「……おい奴隷、仕事だ」
この広い一室を見た時からどうせ言われるのだろうと思い、私は既に中に入って奥へと足を進めていた。そして今度は男性が何かを確かめるように私の背後を追うようにゆっくりと歩き始める。
そして数十歩目というところで背後でガコンという音が聞こえた。男性が罠を発動させてしまったようだ。
「おっと」
男性がいた場所に無数の槍が床から突き出てくるが、もう既にわかっていたのか男性は軽々避ける。
「なるほどな。体重によって発動する罠か」
どうやら私の背後をついて来ていたのはこのことを確かめるためだったらしい。
この遺跡にある罠は重量によって発動する場合と発動しないがあるそうだ。だから本来罠の発動ポイントである場所に私が行っても発動しなかったのだろう。まさか、ろくに栄養も採らずに痩せてしまったこの体に助けられるとは思わなかった。
「だとすると、俺は動かない方がいいな。おい、その先の扉を開けて中のものを持ってこい」
「わかりました」
私はまっすぐにその扉へ向かって歩く。その途中、一枚の石板を見つけた。その石版は前に見つけた石板同様にボロボロだった。
「『………ものこそ……ゆうしゃ』どういう……」
「おい、何立ち止まってる!」
石版の意味はわからなかったが、とりあえず進むことにして私が足を進めると、どこからともなく声が聞こえてきた。とても低い男性の声だ。
『我が宝物庫に入りたくば、戦士の心を尊重し真の勇者ということを証明せよ』
そう言い終えると、突然入って来た扉が閉まりこの部屋に赤色の明かりが点く。多分これは罠ではなく宝物庫へ入るためのパスワードみたいなもの。回避するのは不可能なはずだ。
「てめぇおいこら奴隷、何しやがった!」
そう言って男性が私のいる場所に向かって走って来るが、まるでそれを阻むようにして突然地面に転がっていた骨が動き始める。そしてその骨は人型になり、私と男性の前に四体ずつ現れた。
もしかすると、また一時間後に次の話を投稿するかもしれません