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それでも竜は・・・ ~幻想世界の就業日誌~  作者: 富田ホッケ
第一章 黄金の竜は、かく語りき(コガネノリュウハ、カクカタリキ)
9/23

1-5

「フゥ・・・」


 一つ息を吐きだして、オレはその日の仕事を終えた。基本仕事は溜めない主義のオレだが、今週は『広報部』に頻繁に足を運んでいたせいか、久しぶりに『仕事に追われる』ハメになった。そういえば、広報部に通い始めて二日目に『おみやげ』を失念してしまった時のみんなの顔は、なかなか傑作だった。

 

 手ぶらで部屋のドアを開けたオレを見て、そこはかとなく漂うガッカリ感。初日に、「明日も来るよ。」って光太郎に声を掛けたときから、みんな期待してたんだね。肩透かし喰らったような様子を隠そうとしていたみたいだけど、顔に出てるつーの!『ブリュッセルの小便小僧』を初めて見た人は、あんな顔するのかねぇ?

 

 おかげで翌日から、『富久屋のロールケーキ』だの『絵比のあんぱん』だの・・・財布にはなかなかのダメージだったけど、勉強になったし。『広告企画宣伝部』の面々の餌付けは上々だ。次の案件のサポートは、期待してるヨ!


 少々慌ただしい一週間だったが、仕事を終えた金曜日のこの時間。終業まで残り数分のこの時間が、オレはたまらなく好きだ。


--------------------


「佐々木係長、今晩、どうしますか?」


 部下の『倉持』が嬉しそうにグラスをあおる仕草をする。見ると、若い連中が数名、期待に満ちた眼差しをオレに向けている。まあ確かに、今日は給料日前最後の週末。厳しい懐事情は察してやるが・・・あからさまだなぁ、お前ら・・・


「ああ、そうだなぁ。『わたし』は『上』でひと汗かいてから向かうから、先に始めててくれ。『倉持(モチ)』、店、入れといて。」


 そう言って、トントンと、指先でで携帯を軽く叩く。


 『了解しました~』そう言いながら、後輩たちを引き連れて『モチ』が出ていく。カッコ良さげだけど、金払うのオレだからな?

 まあ『E』・・・今週何十回目かの『E』に当惑しながら、オレはビルの最上階にあるジムに向かった。


 週末、この場所で汗を流す。入社以来ずっと続けている、オレの習慣だ。仕事柄、なかなか予定通りとはいかないが、週末は出来得る限り社内の仕事に終始して『ここ』に来る。それが、乱れがちなオレの生活の、リセットボタンの一つだ。

 それにしても相変わらず、見知った『ジジババ』しかいねぇな!このジムは!

 まあ、それもそうか・・・週末の、金曜日のこんな時間に、オフィスビルの最上階にある『会員制』のジムに来る奴なんて、相場が決まってるだろう。若い連中は遊びに出かけるだろうし、家族持ちのヤツらは、連休の使い道に頭を悩ませている頃だろう・・・

 結局残っているのは、ソコソコ稼ぎがある癖に大した使い道のない、『独身貴族』などと嘯いている寂しい中年連中だけだ。

 それにしても、このビルのオーナーのセンスが分からない。ソコソコの立地に、この辺りでは上から何番目かの『高層』ビル。何故その最上階を『会員制のスポーツジム(こんなモノ)』なんぞにしたのか。小洒落たダイニングバーにでもすれば、それなりに人が寄り付く場所になったものを・・・


 そんなオレも『見知ったジジババ』の一員か・・・あ、なんか、寂寥感が・・・・・・


-------------------------


 携帯をチェックし『モチ』から送られてきた店の場所を確認する。どうやら、歩いて十数分ほどの所にあるイタリアンの店らしい。なんで?なんでイタリアン?そりゃ女の子もいるけどさぁ~

 普段使う駅とは反対方向にある店だからよく覚えていないが、外観はなかなかに高級感が漂っていた記憶がある。アイツらホント、遠慮ってモノがね~な!ふつう居酒屋とかでショ!こーゆーときは!!!

 まあいい。こんな出費も、時には必要なものだ。このシチュエーションでケチ臭いことを言うと、上司としての『器』を問われる。お前らも何年か後に思い知るだろう。『上に立つ』ってのは、こういう事かと・・・

 あと君ら、来週のノルマ倍だから。


 店に入り辺りを見渡す。奥のテーブル席でご陽気に手を振る集団。キミたち!みっともないからヤメなさい!つーか、ベロベロじゃねーか!阿保なの?ねぇアホなの?なんでレストランでベロベロなの?なんで高級イタリアンでヘベレケなの?オイ『高橋』!グラスを置け!ワインをビールみたいに飲むんじゃねぇ!!!


 周りの目が痛い・・・ゴメンナサイ!アホな子たちでホントスンマセン!

 そんなオレの思いなどどこ吹く風、アホの子たちはお構いなしに盛り上がる。おいヤメロ!今、オレの名前を呼ぶんじゃぁない!!!!!!!

 アホな部下たちを店の外に放り出し、会計を済ませる。思わず目玉が飛び出る位の金額に頭を抱える。一体何をどうすれば、たかが二時間ほどでこの金額になるのか・・・・・・


 タクシーを数台捕まえて、運転手に住所を書いたメモと多少多めの現金を握らせる。ヒャッハー状態の部下たちを押し込み、再度運転手に頭を下げる。

 疲れた・・・とてつもなく疲れた・・・何故こうなった?ナゼにこんな事になったのか・・・

 アイツらぁ~、来週のノルマは、3倍だ!!!


 もういい・・・さっきまで腹も減っていた筈なのに、もうまるっきり食欲なんてナイ・・・

 帰ろう・・・トットと帰って布団に入ろう・・・



 パト〇ッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ・・・なんだかとっても眠いんだ・・・・・・


-------------------------


「・・・・・・戻ったか・・・」


 頭上から、気だるげな『声』が聞こえる。眩しい日差しに目を細め『声』の主を仰ぎ見る。


 おぉ、『竜』だ。紛れもなく『龍』だ。所謂ひとつの『せいようりゅ・・・・・・』

 ・・・?ん?金色の『ドラゴン』?何となくこの後『妖精』が現れる気が・・・んんん??


 ち~~~~ん!


 おぉ!突然頭に鳴り響く『おりん』の音。分かっちゃたヨ!佐々木 『一休』閃きました!やったよ『さよちゃん』!これは、夢、です!

 そう宣言した途端、無意識に身体を翻す。おっと、キアヌもびっくりの『マトリックス』感!

 ・・・確かに、今、何かを避けた。だけど『何を』避けたのか分からない。辺りに変わった様子もない。そこにはただ、身じろぎもせず『僕』を見つめる金色の『竜』・・・んんんんんん???



「・・・思い出したかの。」

「ええ、ようやく・・・」


 『竜』の『デコピン』を喰らい3メートルほど吹っ飛んだ茂みの中から、おもむろに立ち上がりながら呟く。思い出した。ええ、思い出しましたとも。そうか、オレは『この世界』に戻ってきたのか・・・

 痛む額を手で擦りながら、あの日の記憶を確認していく。そうだ、オレ、いや『僕』は、この世界で、竜の為に働くことになったんだ・・・


 ・・・だからここ数日『広報部』に通い詰めていたのか。だから『有給休暇を消化しよう』とか思ったのか・・・


 ・・・だから『E』なのか。だからこそ『E』なのか。



 恐るべき『E』の力。恐るべき『E』の威光。『平均でE』・・・なんと、恐るべき、魔力なのか・・・・・・


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