五歳の誕生日03
ルーイに連れられ、庭にやって来た。
庭師が整えてくれているバラの園は、なんと言っても私のお気に入り。
暇さえあれば、東屋に来てお茶をするのが日課になりつつあるくらいだから。
「ルーイは、私のお気に入りの場所を知ってたのね」
「なにかある度に、東屋ここ此処に来ていたからな。嫌でも覚えるさ。…親戚に会うのが嫌なのか?」
ルーイの言い方は、少し違う気がする。
嫌ではない。
寧ろ、叔父様や叔母様は大好きだから。
それに、他の従兄弟たちも来るから、会いたいと思っているくらい。
親戚のお家に行く事を憂鬱と思ってしまうのは、ある従兄が原因になるから。
父の兄である叔父様の息子、名前をスティーブと言うのだけど。
私より年上で、確かルーイと同い年だったと思う。
私はどうも、彼が苦手であるみたい。
なんて言えば良いのか…、笑顔に裏があると言うのは大袈裟かもしれないけれど。
当時、あの貼り付けたような笑顔をする十歳に、違和感しか感じなくて。
違和感と言うよりは、悪寒の方が近いかもしれない。
「何故そんな風に思ったのかは、私でもわからないんだけどね」
「悪寒を感じるなんて、よっぽどじゃねぇか。…俺も着いてくか?」
ルーイが付いてこれば、あまり構われないとは思うけど。
親戚の集まりに、執事の子供を連れていく訳にはいかなくて。
気持ちだけ貰っておく事にしておいた。はてさて。
二日しかないとは言え、今更ぐだぐだと言っていても仕方ない。
叔父様たちの機嫌を取る為に、もう少しマナーを勉強しなくちゃ。
ルーイも口調が戻ってるのに漸く気付いたのか、咳払いして口調を丁寧なものに直す。
「お嬢様、俺が一人前の執事になったら、使ってくれますか?」
「勿論、ルーイを私専属の執事に選ぶわ。…だから、早く一人前になってちょうだい。貴方が一人前になれば、私も立派な令嬢になってみせるから」
(勿論、悪名の方も轟かせてみせるわ!お父様みたいに!)
ルーイも執事になる為の作法等をじいややオースティンに聞いて、日々努力しているそうだから。
ルーイに負けてはいられない。
スティーブにも負けたくない!
勝負事をしている訳ではないけれど。
「じゃあ、ルーイ。二人で頑張ろうね!」
「ちゃんと覚えるんですよ?ありすお嬢様」
(っ!そっちで呼ばれるとは思わなかったわ…)
笑顔で頷き返し、お互いの顔を見合わせ、笑い合う。
ずっと、こんな穏やかな日々が続けば良いのに。