9:俺はフリーでしか泳がない
目が覚めると夕方だった。
どうやらオレは、まる一日近く眠っていたようだ。
確か、アップデートがどうのこうのって・・・
寝ぼけた頭で、そんなことを考えているとすぐに村長からの呼び出しを受けた。
どうやら、なかなか起きてこないオレを心配して、人を扉の前に待たしていたようだ。
「これをお納めください」
初老の村長に、トランプのようなカードの束を渡された。
これはIDカードといって、盗賊たちの身分証のような物らしい。
詳しく聞いてみると、生きている間はどんな方法を用いても体から抜き取ることは出来ないが、死後一度だけカードとして抜き取ることが出来るのだそうだ。
ゆえに、討伐証明などの際に、このIDカードでのやり取りが一般的らしい。
オレも言われて左手にIDカードを意識してみる。
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ジュンペイ 32歳 男性 人族
職 業: 無職
クラス: なし
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「ぉおお・・・なるほど」
手のひらに浮かぶ、光のカード。
最低限の情報のみ記されるが、凶悪な犯罪や重要事項は本人の意思とは関係なく追加されるらしい。
その辺の基準は解明されておらず、偽装することも不可能とのことだ。
「あと、こちらの物なのですが、、、」
そう言われて村長について行くと、玄関先に盗賊たちの装備がキレイに並べられていた。
どうやら討伐したオレに、装備品などの権利もあるようだ。
「回収した所持金24万イェンと、まだ使えそうな装備類です。あっ、も、も申し訳ありませんっ!勝手に出過ぎた真似をっ、破損も含め、全てと仰るのでしたら外に置いてございます。誓ってちょろまかすようなことは・・・」
オレがその金額の多さに顔をしかめたのを勘違いして、村長は慌てだす。
完全にビビられている。
そりゃそうだ
あんだけ盗賊たちを散らかしたんだから。
そしてそれを村人たちで片付けたらしいので、怖がられて当たり前だ。
「いや、別に疑ってなどいませんよ、大丈夫です、そんな恐縮しないでください。それより私は遠くより訪れたので、常識や物価が分かりません。少しその辺のことをお聞かせくださいませんか?」
出来る限り笑顔で村長を諭す。
そして、いろいろと伺ったところ、通貨は[イェン]で、物価の感覚はあまり地球と大差ないようだ。
・・・なにか手抜きを感じる(汗
それはそれとして、この装備品類の大凡の金額を聞いたところ、街で売れば2、30万ほどだという。
しかしオレにこれだけの物を運搬する能力などない。
ゆえにここは謙虚に動くことにした。
「でしたら、私はこの5万イェンとIDカードのみいただきます。残りのお金とこの装備類は村の復興に当ててください、お世話にもなっていますし」
戸惑う村長を納得させ、他に気になったステータスやレベル、ポイントについても伺ってみたが、聞いたこともないらしい。
スキル取得やポイント、レベルアップなども感覚的なモノであり、明確な操作や視覚化などはあり得ないのだそうだ。
となると、やはりオレだけの仕様っぽい。
ステータス画面を出して村長に見せてみるが、見えてもいない様子だ。
う~~ん・・・
こうなってくると、情報収集に手段を選んでいられない。
ここは思い切って村長に頼んでみよう。
「今晩、どなたか人を貸していただけませんか?」
「・・・え?」
「いやぁ今晩だけです。悪いようにするつもりはありませんよ。そうだなぁ、出来ればリードして、いろいろと教えていただける人が良いので、若い人より年配の方のほうが良いのかな。無理を言いますが頼めますか?」
どうせ夜はヒマだし、お酒でも飲みながら、この世界の常識をいろいろと語っていただこう。
「・・・な、なんとか、させていただきます」
「有り難うございます。楽しみだなぁ~♪少しお酒もいただけますか?いや~、どの辺から攻めていこうかな?やっぱりここは、常識的な範囲から教わるべきかな」
「・・・・・熟女、ですか・・」ボソッ
村長の呟きは届かなかった。