7:僕らは今のなかで
数分は経過しただろうか
冷静な自分が自問する。
近寄らない方がいい
誰もいないんじゃないか?
怖い・・・
逃げよう・・・
臆病な感情に飲み込まれ、じりじりと後方へと後ずさる。
=== パキッ ===
背後で音がした。
「う、うわぁぁぁ!」
オレは集落の方へと駆け出した。
結構な傾斜を、全速力で駆け下りた。
盗賊が背後にも居たんだ!
直感的にそう思った。
途中、足が絡まり、ゴロゴロと傾斜を転がるように下り、集落の柵へと激突する。
「~~~っ、痛ってぇ・・・」
追って来てはいないだろうか?
すぐに倒れたまま、傾斜の上を観察する。
オレが先ほどまで居た場所に、鹿のような獣が顔を出した。
「・・・ハ、ハハハ・・・・・」
乾いた笑みが漏れる。
完全にビビり過ぎである。
ヨロヨロと立ち上がり、見たくはないが死体が転がっている方向を確認する。
「っ!」
兵士の死体と目が合った。
想像以上に生々しい・・・
「・・・オレには、無理だ」
奇妙な静けさに包まれた集落。
もう全てが終わって、誰もいないのでは?とすら思える。
しかし、この中を確認する気力は、オレには・・・
「・・ぁ・・・ぃや、、ぁぁ・・・」
微かに集落の中から、女性の濡れた声がする。
「ハ、ハハ・・・嘘、だろ・・・」
もう完全に理性を失った。
狂気に囚われ、ヨタヨタと歩く。
死体をまたぎ、倒壊した柵より集落へと入り、先ほど声が聞こえた民家へと歩く。
心のどこかでは、進んで狂気に乗っかっている自分を自覚している。
けど、もう、どうでも良かった。
近付くにつれ、確かに女性の嫌がる声が聞こえてくる。
オレは静かに格子窓より、中をのぞき込む。
たぶん、オレは笑っていたと思う・・・
民家の中では、想像通りの光景が広がっていた。
服ははだけ、悔し涙で歯を食いしばる女性。
それに喜び、下半身丸出しで、こちらに尻を向けて必死に腰を振る盗賊。
そんな光景に唖然としていると、視界の隅に違和感を感じた。
そちらに注目すると、そこには家具の隙間に身を隠し、両手で自らの口を塞ぎ、涙を流しながら必死に耐える、少女がいた。
そして、そんな少女と目が合った・・・
===ドックン===
オレの中で、なにかが弾けた。
オレは、すぐ横にある勝手口を蹴り破る。
驚き、振り返る盗賊。
すぐそばにあった鉈を手にし、こちらへと立ち上がろうとする。
けど、その時にはもう、デザートイーグルの銃口はそちらへと向いていた。
距離にして3m
オレは、引き金を引いた。
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
カチッ
カチッ
カチッ
凄まじい破裂音が鳴り響く。
不思議と目は閉じなかった。
1発目は、盗賊の左肩に命中した。
そこが爆発したかのように、人体を吹き飛ばす。
2発目は、当たらなかった。
3発目は、頭部をかすめた。
それだけで、顔が半分が消し飛んだ。
4発目は、体の中心に命中した。
上半身がなくなった。
5発目、6発目、7発目は、もう無くなった的に対して、射撃を止めることが出来なかった。
また、デザートイーグルの威力は凄まじく、射線上の家屋は完全に破壊されている。
カチッ
カチッ
カチッ
引き金を引く指が止まらない。
オレは、意識的に強引に床へと膝をつく。
その衝撃で、体の自由がよみがえる。
視線の先には、下半身だけの盗賊だったモノが転がっている。
「はぁ、、、はぁ、、ぉおおぇぇぇぇ・・・」
その場で嘔吐した。
胃液だけの、苦しい嘔吐。
どうしようもない、最低の気分だ。
「お母さんっっ!」
「ダメ、まだ出てきちゃ!!」
「っ!」
二人の声で我に返った。
「っ、ゥ、ゥミマェン、スミマセンっ」
オレは形振り構わず、謝罪しながら逃げるようにその家から飛び出した。
足が絡まり、転がりながら、向かいの家へと衝突する。
「痛ぅぅ・・・」
もう、こんな所から、逃げだそう・・・
痛みに耐えながら、そう心に誓う。
だが、見えてしまった。
オレが飛び出した後の家の中で、抱き合い、涙を流す親子の姿を・・・
「・・・・・」
ゆっくりと立ち上がり、尻ポケットよりタバコを取り出す。
慣れた手つきで、タバコに火を付け、大きく吸い込む。
「・・・ふぅぅーーー」
気持ちを落ち着かせ、自分を取り戻す。
周囲が騒がしくなってきた。
そりゃそうだ
あんな轟音を響かせたのなら、当たり前のことだ。
「ふぅーーー・・・負けてらんねぇよな、自分に。[リロードッ]」
マガジンを抜き、弾込を行う。
そうするのが当たり前のように、集落の大通りへと歩く。
大通りの道幅は5mほど。
両脇には民家が建ち並び、その先に集落の広場がある。
そこには、事態に驚いた盗賊共が集結している様子だ。
大通りの真ん中で歩みを止める。
オレがいるのは集落の入り口付近。
広場までは、50mほどの距離がある。
魔法か?王国騎士団か?と慌てふためく盗賊共の様子を、タバコをふかしながら眺めていた。
驚くほどに醒めていた・・・
何人いるか分からない状態で、
どんな危険が迫っているのか?
すぐに姿を隠すべきなのではないのか?
冷静な自分が自問する。
しかし、どうでもよかった・・・
最低の自分を自覚した今、その怒りの矛先をなにかに発散したくて仕方がない。
「ふぅーー・・・」
そんなオレに、煙草は良い感じの目眩と気怠さをおこさせる。
(なんだろう、この無敵感・・・)
静かな殺意とデザートイーグルの殺傷能力。
オレの目には50mほど離れた広間で、集結している盗賊共の姿が映っている。
数にして2、30人くらいだろうか?
こちらに気付き談笑しながら、または怒声をあげながら、ぞろぞろとこちらに向かってくる。
それに合わせ、オレも広場へと歩みを進める。
「ふぅ~~・・・」
幸いなことに、この大通りは一本道で障害物などは存在しない。
「おいっ!聞いてんのか!?」
「冒険者か?そうは見えないな、浮浪者か?」
「ビビってんのか!?あぁ?」
「丸腰じゃねぇか、大方盗賊にでも身ぐるみ剥がされたんじゃねぇか?」
「ちげぇねぇ、悪い盗賊がいたもんだぜ、キャハハ」
オレの身形で危機感はないと悟ったようだ。
強気でぞろぞろと横並びに迫ってくる。
距離にして20m
オレは歩みを止め、おもむろに銃口を彼らへと向ける。
「・・・・・ふぅーー」
===バァンッッ!!===
中央の盗賊の胸部が、破裂するように吹き飛んだ。
すぐ後ろにいた盗賊も体の一部を持っていかれたようだ。
突然の出来事に、全ての盗賊共はその場で固まり停止する。
「ふぅーー・・・」
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
「リロードッ!」
弾切れと同時にマガジンを抜き、装填する。
盗賊たちの半数近くは、肉塊と化しているか、体の一部を失い、倒れてうめき声をあげている。
「なっ、なんだぁ、こりゃ!ま、魔法なのか・・・テメェーなにしやがっ」
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
「リロードッ!」
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
「リロード!」
(・・・ゲーセンみてぇ)
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
「リロード」
もう、立てている者はいなかった。
死にきれずうめき声をあげる者、欠損した体で泣き叫ぶ者
まさに地獄絵図が広がっているが、その様子を見ても不思議なことになにも感じてこない。
「・・・ふぅーーーっ!・・あちっ!!」
短くなった煙草の火に触れてしまい、思わず煙草を投げ捨てる。
すぐにまた煙草を1本抜き出し、口に咥えたところで、
「なんじゃぁぁあ、こらぁあああああああ!!!!!」
大音量の怒声が響いた。
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
咥えたばかりの煙草が口からポロッとこぼれ落ちる。
盗賊たちの死体の向こう側に、どう考えても2m以上はある大男が、信じられないくらい大きな鉈を担いで、こちらを睨み付けている。
上半身は裸で、肌の色はどす黒いピンク色、肩と頭からは角のような物が強さを主張するように高々と生えている。
(・・・鬼だ・・・。完全に赤鬼だ!)
「こりゃ~、オミャーさんが殺ったんかい・・・」
怒りのせいか、口から煙のようなものが漏れ出ている。
武術なんてものに心得はないが、殺気を肌で感じるとはこのことだろう。
「ふふ、、、ふふふはははは、、、、、」
「何がおかしいんじゃごらぁぁ!」
わかりやすいボスキャラの登場に、恐怖より心の奥底からくる好奇心が勝った。
オレは決して大胆な性格ではないのだが、抑えきれないこの無敵感が、なにかのマンガのキャラクターのように、芝居じみた行動を無自覚に強いる。
落ちたタバコを拾い、口に咥える。
両手を広げ小バカにしたように言い放つ。
「・・・だったらどうだってんだよ?脳筋野郎」
赤鬼は怒りにまかせて巨大な鉈を一振りする。
その斬撃の凄まじさから、民家の壁に大きな亀裂が走る。
そして、振り抜いた勢いをそのままに、こちらに向かって駆け出してくる。
「そこぉ動くなぁぁ!叩き斬きってやる!!」
もの凄い勢いで距離を詰める赤鬼。
オレは静かに銃口を向け、左手を添える。
「動くわけねぇだろっ、バカ野郎」
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
赤鬼の下半身を狙って発砲する。
一発目は外したが、二発目は命中して赤鬼は大きく転倒する。
赤鬼の右足の太股は大きく抉り取られ、非常に痛々しい。
「ぐぅおお、、なんじゃぁ、足がぁぁ」
赤鬼との距離はほんの5m。
頭を垂れ下げるような格好で、苦痛にもがいている。
見れば見るほど力強く、まさに鋼の肉体。
もしかしたら、その筋力だけで体を引き千切られそうなほどに力強い。
だが、このデザートイーグルの威力は、そんなものをものともしない。
(マンガなら弾丸に耐えたりするんだろうな)
「テメェェェ、絶対に殺し」
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
===バァンッッ!!===
頭が爆発したように見えた。
鋼の肉体も抉りとられていく。
実際のところ、銃弾を筋肉で防ぐことは不可能のようだ。
完全に沈黙した筋肉の塊を一瞥し、ため息をひとつ。
尻ポケットよりライターを取り出し、くわえていたタバコに火を付ける。
その場へと座り込み、すべての思考を停止する。
「・・・ん、、タバコの向き、逆じゃねぇか」