6:撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ
「はぁ、はぁ・・・しんど」
小高い丘を登り切り、膝に手を当てて呼吸を整える。
「まだまだいけると思ったんだがな」
完全に運動不足である。
学生時代にはそれなりに体を動かしていたので、そこそこ体力には自信があったのだが、過去のイメージに体がついてきていない。
そりゃそうだ。
この十年、通勤以外で殆ど動いていない。
「これがオッサンになるということかな・・・さて、これからどうしたもんか」
少し見晴らしが良くなった周囲を観察する。
先ほどは、命綱ともいえるデザートイーグルを手に入れたことで、その確認を優先していたが、まだまだスキルの検証やスペックについて、考察しなければならない事項が沢山残っている。
だが現在、太陽の傾き加減で昼過ぎぐらいだろうと予想する。
腹も減ってきたし。
ゆえに気にはなるが、こんな大自然の中で、これ以上のんびりと考察している訳にはいかない。
なにか街へと繋がるものが発見出来ないか?
そんなことを考えながら、祈るように注意深く辺りを観察する。
「・・・あれは、狼煙、、、か?」
木々が邪魔でしっかりと確認は出来ないが、微かに消えそうな煙の後らしき物を発見した。
「んぅぅ・・・選択の余地はねぇわな」
起伏の激しいゴルフ場のような山間。
林が波打つように視界を遮り、正確な距離が測れないが、多分数時間も歩けばたどり着けるだろうと予測する。
身長173cm
体重60kg
猫背で、ボサボサな髪型に陰気くさい顔つき。
常に寝不足のような目つきで、覇気や爽やかとは無縁のルックス。
ボロボロのYシャツ。
同じく、所々破れたスラックス。
汚い革靴。
そして、右手にはしっかりとした重量のデザートイーグル。
こんな怪しい姿をした自分の出で立ちに、少しだけ苦笑する。
「はっ、ずっとこんな体験したかったんじゃねぇか。こっからは本気だす!まずは自分を鍛えるところからだっ!」
狼煙に向かって走り出す。
この鈍りきった体を鍛え直すんだ。
「やってやるぜっ!」
数時間後
「ぜぇぇぇ、、、ぜぇぇ、、、うぷっ!・・・・」
さぁーせん
ナマ言いました・・・
無理っす。
キャラじゃなかった。
そんな熱血、オレには無理です。
リビングデットのようにノロノロと歩くオレ。
一応、1時間くらいは根性で頑張りましたが、激しい息切れの合間にスゥ~ピー、スゥ~ピーって、変な音が呼吸器官から聞こえてきた時点で心が折れました。
「な、なにごとも、、、突然、やりすぎるのは、よくないよね」
慣らしは必要。
自分を納得させ、少し休憩する。
酷い汗でYシャツから透けて見える乳首が恥ずかしい・・・
多分、目の前の丘を越えれば、狼煙の正体が確認出来るだろう。
ここまで何度かゴブゴブや鹿のような獣と遭遇したが、デザートイーグルを撃つとその轟音で逃げてった。
命中はしていない・・・
陽も大分傾き、夕方に差し掛かろうとしている。
「ぜぇ、、、ちゃ、ちゃんと覚悟きめとかなきゃな」
人を殺す覚悟
ここに来るまでにいろいろな推測のもと、イメージトレーニングを行っていた。
営みによる狼煙なら、問題は少ないだろう。
だが、トラブルや襲撃などに依るものなのなら、オレ自身にも危害が及ぶ可能性がある。
さらに、その状況によっては救出、略奪、護衛、逃走、様々なパターンも考えられる。
ただ、なによりここは[日本]のような平和な国ではないと予想できる。
暴力と自由
国家間の法律などはあるだろうが[力]が無いことにはモノが言えない世界。
そしてオレが手に入れた力は、躊躇すれば機能せずに無力化されてしまう。
射撃のアドバンテージは先制攻撃、射程なんだ。
躊躇ってる暇などあるわけがない。
「自慢じゃないが、紙装甲だしな」
そんな呟きをもらしながら、最後の丘を登りきる。
眼下に広がる光景は、それなりの広さの穀倉地帯。
そして高さ2mほどの木製の柵に囲まれた、数十軒が建ち並ぶ小さな集落。
「・・・マジ、かよ」
狼煙の正体は、集落の中心に組まれていたであろう見張り櫓が横倒しとなり、一部の家を巻き込んで火災したのだとすぐに理解できた。
すでに火災は鎮火しており事後なのだと推測するが、一部の集落を囲う柵は倒壊して、そこに数名の人が転がっている。
死体である。
兵士、野党、農民
服装から、死体達の人物像が連想される。
ここでなにが起こっていたのかは、もう分かった・・・
動いている人は見当たらない
奇妙な静けさに包まれた集落
イメージや映画と違い、臭うような死の雰囲気
カチカチと奥歯が震えだす
オレはただ、そこに立ち尽くしていた。