40:痴れ者が・・・
「さて、なんかお宝はあるかな?」
ズマ城、最上階。
謁見の間より上階にあるクウカイの自室フロア。
自室と呼ぶには広い面積だが、学者肌で骨董品集めを趣味とするクウカイは、絢爛より実用性の高い部屋作りをしていた。
<あんま油断しなや。奥の方に一つだけ生体反応があるで>
研究所のように並べられた棚の中には、用途の分からない骨董品や文献などが所狭しと陳列している。
初めは一つ一つ鑑定ステータスで価値を調べていたが、面倒なので片っ端からストレージへと放り込んでいく。
時間ないしね。
パッと見で価値のありそうな物もありそうだし、後でじっくり検証するとしよう。
タバコを吸いながら、部屋の奥へと進んでいく。
<そのドアの向こうに生体反応や、用心しとき>
うっす。
オレはゆっくりとドアを開けた。
そこは寝室のようだが、中央のベットは天蓋に覆われている。
「ぅぅん、殿様ぁ~、はやくぅ~、こんな格好で縛って放置なんてあんまりよ~。もう我慢できない~、はやく私を慰めてくださいましぃ~」
ドアが開いた音に反応して、天蓋に囲われたベットより濡れた声がする。
「・・・・・・」
え?
あのジジィ、なにやってんの?
超~現役絶倫じゃん
はっ、
けしからんっ
全く以てけしからんっ
くだらねぇことしやがって!
オレはクウカイの姿へと変身する。
<なにしとんねんっ!なにする気?シレッと変身して、なにする気やっ!>
だまらっしゃいっ
こんな天然イメージプレイ、滅多に出来ねぇぜ・・・
異文化交流だよ、異文化交流~
チョット、様子見でチョメチョメするだけさぁ~
ゲヘヘヘヘ
あ、
ヤッベェー、超興奮してきた。
ゆっくりと近付き、天蓋へと手をかける。
「はやくぅ~、も、もう、わたしぃ・・・」
ドキドキ・・・
天蓋をゆっくりと開いていくと、まずそのキレイな足が見え、薄着で乱れた格好の裸体が姿を現す。
ドキドキドキ・・・
そのナイスバディな胸に視線が釘付けとなっていたが、ゆっくり視線を上げていくと、両手を上で縛られた、それはもう美しい、、、
・・・・・オーガがいた。
===パスッ!パスッ!パスッ!・・・===
「・・・・・ふぅー、、、」
<酷っ!酷すぎるっ!!ぺーはん、それはいくらなんでも人としてどうよ!?」
「ふぅー、、、人は顔だね・・・さ、盗るもん盗ったし、アズベル達と合流しようぜ♪」
もうその姿はジュンペイへと戻っており、何事も無かったように歩き出す。
<アンタ・・・ホンマに最低や>
聞こえない振りをして、歩き続けた。
「あれ?ジュンペイさん、どうしたんですか?そんな微妙な顔をして」
謁見の間
合流するやいなや、そう言われた。
「なんもねぇーし!持て余してねぇーし!万事順調だし」
ジタバタ逆ギレしながらアズベルを黙らせる。
「さて、ジュンペイ殿。この後どのように脱出する気だ?」
なんかサッパリとした雰囲気となったファウスト殿下が、拾ってきた短槍を振りながら問いかけてきた。
アズベルも武将オーガが所持していた大剣を背に担いでいる。
「待たせたみたいだな。んじゃま、王子、コレ持って」
有無も言わさずにハンベイのIDカードを王子へと渡す。
そしてペルソナを使用して、ハンベイの姿へと変身させる。
「これでハンベイさんの声になってるはずだから、場内放送で全ての鬼を一カ所に集めようぜ。あ、これ、オレが近くに居ないと変身解けちゃうからね」
驚く、王子とアズベル。
だが、スキルについての追求は暗黙の了解でしてこなかった。
「あー、あ~、なるほど・・・そして蛻の殻となった城で工作活動しつつ脱出。そんな手筈だな」
王子は自身の変身を確認しつつ、楽しんでいる様子だ。
「ん、そんな感じ。安全を取るなら変身したオレがシレッと連行しちゃえば早かったんだけどね。オレがハンベイに成りすまして放送しても良かったんだけど、王子の方が口調や雰囲気からして適任でしょ。ま、それでも六道衆あたりが不信に感じて、確認に来そうだから、その時はアズベル、よろしこ」
「ええ、任されました」
爽やかに頷くアズベル。
「うっし、じゃあ逆襲を始めようか」
===魔道具[共鳴の法螺貝]による城内放送===
「我ら氏族、全ての者に告ぐっ
全ての行動を停止し、傾注して聞いてもらいたい!
私は六道衆ハンベイ、クウカイ様に代わり告げるっ!
全ての者よ、直ちに西門前に集合せよっ!
城内にいる全ての者よ、
あらゆる業務、門番、哨戒、事務に調理に至るまで、全ての行動をとりやめ、直ちに西門前の平野へと集合せよっ!
繰り返す、
今すぐだっ!
急ぎ、西門前の平野に全ての者は集結せよっ!!」
これはクウカイ様よりの命令だっ
急げっ!!」
「ふぅー、、、お疲れさん、流石王子様。貫禄が違うね。さてさて外の様子はどうかな」
一仕事終えて安堵する王子に声を掛け、小窓より外の様子をのぞき見る。
「すげーな・・・」
鬼族たちはゾロゾロと、モザークの森とは反対側の西門に向かって移動している。
以前、ラキシスは鬼族を蟻などに例えて話をしていた。
つまり愚直なのだ。
下級兵などは疑うことなく命令に従っている。
「上手くいったようだな。城内からも緊急避難のようにどんどん飛び出しているぞ」
自分の言葉で敵を誘導出来たことが嬉しい様子だ。
「ふぅー、、、けど、安心ばかりも出来ないみたいだ。アズベルッ!来るぞっ」
階下より流れに逆走して登ってくる反応がある。
「殿ぉー!殿は何処かぁ!」
オレ達は謁見の間の隣にある、小さな小部屋より放送していた。
叫び登って来た武将が、近くまで来たのを確認してアズベルが飛び出す。
「なっ!キ、キサマッ!!どうや、、、」
アズベルは凄いスピードで走り抜けながら、武将オーガの首を斬り飛ばした。
「ふぅ。六道衆ではなかったようですね。これからどうします?」
返り血すら付いていないアズベルは、爽やかに振り向きながら指示を仰ぐ。
「お見事。概ね城内の奴らも外に向かっているみたいだ。だが、本丸前に一部隊が待機している。たぶん、六道衆だろう。クウカイの出待ちのつもりかもな」
オレはマップレーダーを見ながら、動かない反応に注目していた。
「では、そちらはボクが相手をしましょう。ジュンペイさんは王子と後ろからゆっくりと、」
「いや、スマンがオレは単独行動に出る。王子はわりぃけどアズベルが開いた道で一緒に脱出してくれ」
アズベルの言葉に食い気味で指示を出す。
いろいろと工作をするには、一人でないと効率が悪すぎる。
「舐めてくれるな。これでもBランクほどの腕はあるつもりだ。足手まといになるぬよう、アズベルの後ろを付いて行くとしよう」
短槍を軽く振り、強がりではない自信が見える。
「そいつは失礼。では、二人にはもう少し時間をかけて行動してもらいたいから、城内にあるだろう自分の装備品でも探しながら降りてくれ。あと、もしかしたら表にいるフェルディナンド達が行動に出るかもだけど、その辺の扱いに関してはオレは知らねぇ。好きにしてくれ。ただし、あんま時間は掛けんなよ」
じゃあな、と一足先に階段を降りる。
無人となった城内をゆっくりと歩きながら、適当な箇所にガソリンを撒いて金目の物を収納する。
そして、4階くらいの高さのフロアまで降りたところで、窓より[ミラージュ]を使用しながら[グライドシステム]で隣の建物へと飛び移る。
同じく、ガソリンを見かけた壷などに注ぎながら、次の建物へと移動しようとしたところで、下が騒がしくなった。
どうやら、アズベルが戦いだした様子だ。
少し気になるところだが、オレはオレの仕事をしよう。
気を取り直し、次の建物へと飛び移ろうと窓の外へと出たところで、サポ助よりアラートが入る。
<なんか来るっ!空中や。このまま迎え撃と!>
視界のARに空中を移動する人物が表示される。
なかなかのスピードだが、直線的にこちらへと向かってくるのは隙だらけだった。
===パスッ!、パスッ!、、、===
数発連写する。
初段は命中したが、金属に弾かれたような手応えだった。
次弾以降は突然落下したターゲットが、こちらへと急に放物線を描きながら迫って来て、命中していない。
「なにっ!?くそっ」
足下より迫り来るターゲットに、グライドシステムを強発動して、屋上へと飛び移りながら距離をとる。
シャチホコがありそうな、和風城の屋根の上。
その淵へと降り立ち、なおも迫るターゲットに、さらにデザートイーグルを発砲するが、昆虫の外郭のような鎧に弾かれてしまう。
「・・・・・」
オレはそのまま後方へと後退して、さっきまでオレが立っていた場所に降り立ったターゲットと屋上の両端で対峙する。
タバコを取り出し、火をつける。
「賊、何者だ?我はお庭番、六道衆[蟲使いのタマモ]。蜘蛛の糸の反応に来、」
===ボガァッンッッ!!===
タマモは足下より爆発した。
「ふぅー、、、」
<カッコ付けてるとこ悪いけど、一応言うとくわ・・・汚っ、足下に手榴弾置いとくとか、騙し討ち過ぎるやろっ!正々堂々って言葉知らんのか!?>
「ふぅー、、、勝てば官軍。騙される方が悪いのだよ、フハハハハ」
<完全に悪者やな。けど、ガソリン撒いてるのに、無茶するわ>
「一応、考えたよ。けど撒いたの中層だから大丈夫かなぁって。それより女の子だったのにビックリした。殺しちゃったけど」
ふぅー、と、タバコを吸いながら、屋根の頂上へと移動する。
そして西門の方を見てみると、数千もの軍勢が門の外に集結している。
<そら、気付かれるわな。これだけ派手にしたら>
動きが慌ただしい。
本丸横の小城の屋上。
西門までの距離は約500m。
爆発音と煙を上げれば、いくら愚直な鬼どもでも異変に気付く。
「ふぅー、、、ホントはもう少し時間を稼ぎたかったんだけどな。アズベル達ならなんとかするだろ」
そう言って悪夢の[20Lの携行缶]を具現化する。
しかしそれは手の中ではなく、オレの周囲の空中に無数に具現化される。
さらに、奇術師の[思考分離]を少し使えるようになったオレは、ほぼ同時に[リロード]を掛けて、ガソリンは補充してある。
そして、一瞬の自由落下の後、携行缶は西門上空へと向かって猛スピードで次々と射出された。
===[ブラスト]===
称号[ジャイアントキリング]×劣化[飛翔]で制作したスキル。
六道衆[妖魔鬼エビス]を倒した際に貰えた称号、2つ目のジャイキリ。
ターラゾカに向かいながら、サポ助の提案で制作した[射出]スキルだ。
効果としては、非常にショボい。
ただ、オレの周辺の物を射出するだけ。
だが、それ故に飛ばすことだけに特化させたので、その時速は最大数百kmにも及ぶ。
サポ助の誘導に従い、スピードを落とせば精密投擲やチョットくらいのカーブなんかも可能だ。
オレはもっとファ○ネルのような、ニュータイプ的なモノにしたかったのだが、流石にそれは制作不可能だった。
つまり、[テンカウント]の力を十二分に発揮するための補助スキルいえるだろう。
次々に具現化させた携行缶は、前方500mの平野に集結している軍勢へと向かって広く射出される。
さらに、その上空でわざと携行缶は消滅させて、ガソリンの雨だけを広範囲に降らし続ける。
そして、手榴弾を無数に具現化して、広範囲に射出する。
「くっくく、灼熱の業火に抱かれて消えよっ!」
謎のポーズをとる。
===ボォガガッッッンッ!!!===
想像以上の大爆発がおこる。
その衝撃に驚き、足を滑らせて屋根の上よりゴロンゴロンと転げ落ちる。
「ぎゃっ、ぐへっ、痛っ、ぐわあぁぁ・・・・・・・・・・・・・・へ?」
シュタっと、地面に着地した。
サポ助が全身制御を奪い、グライドシステムを使用して助けてくれた。
<アホなん?なんで衝撃波が来るタイミングで、片足上げたりするの?>
ぁぁぁ・・・
怖かった・・・
まさかのヒモ無しバンジーを敢行してしまった。
死ぬかと思った・・・
「さーせん、サポ助さん、マジ助かりました」
<まさか、こんなことで心の底からのお礼を貰うとは思わんかったわ。さ、アズベルはんももう終了してるみたいやし、ボクらもそろそろ退却しよか>
マップレーダーの反応で、王子やアズベルがモザークの森の方向に移動しているのが分かる。
そだね
これ以上は野暮ってもんだ。
オレはグライドシステムを全開させて、城壁を飛び越えるように森へと向かう。
途中、手榴弾を数発、本丸へと向けて射出する。
===ボォガァァッッンッ!!===
燃え上がるズマ城を背に、鳴りまくったレベルアップの結果を楽しみにしていた。




