4:大人はさ、ズルイくらいがちょうどいいんだ。
少しだけ、感触の残る頬を押さえながら呆然とする。
「・・・・・・・あちっ!」
いつの間にか短くなっていたタバコの火で我に返った。
くぅぅ~~
いい女じゃねぇか、イシュタル。
また会えるのを楽しみにしてっかんな!
タバコを投げ捨て、再度岩へと腰掛ける。
さて、続きをしますか。
改めてステータスを表示する。
============
LV2 川本 淳平 32歳
フィジカル:F
メンタル:E
称号:[招かれざる者]
固有仕様:[最適化]
固有スキル:[リロード]
スキル:
ポイント:10P
============
「ありがとな、イシュタル・・・」
新たに加わった固有スキル[リロード]。
所謂、ユニークスキルというヤツなのだろう。
「リロード、、、っ!・・・なるほど」
効果は、補充、充填、更新。
タバコの箱を持ちながらスキルを発動すると、一瞬の光の後に半分以下だったタバコが満タンとなっていた。
ついでに箱も新品のように新しくなっている。
オレはその新品のタバコを一本抜いて、火をつける。
「ふぅー・・・わりぃな、騙すような真似をして」
実は確信犯だった。
この補充スキルは、多分タバコ以外にも使用可能だろう。
これさえ有れば、どんな物でも湯水のように使用することが出来る。
街まで転移、安い武器、初期スキル・・・
どれも今のオレには最優先の選択ばかりだ。
しかし、せっかく管理者が協力してくれるのなら、直接的では無くともレアな力が欲しかった。
「ふぅー・・・まずは生きて街まで行かなきゃな」
スキルの欄をタッチして一覧を表示する。
「おや?」
先ほどの画面と変わっている。
Fランクのカテゴリーしか無かったはずが、全ランクの膨大なスキル一覧へと変化している。
さらにポイント不足によるグレー表示だった文字が、今は黄色く輝いている。
突然、別ウィンドウが表示される。
=========
女神の[祝福]を確認。
不足ポイントの効果を差し引いた劣化スキルを選択可能。
なお、この効果は5分で終了します。
=========
「おいおい、マジかよ・・・」
これもイシュタルによる効果なのだろう。
ホントに、世話焼きな女神様だ・・・
だが、スマン。
5分しかないのなら、今は時間が欲しい。
あとで、ゆっくり感謝させてもらうよ。
気を引き締めて、画面に大量表示されているスキル名へと注目する。
これだけの量では、全てのスキルを確認するだけで、数時間はかかってしまうだろう。
「くそっ!選んでる時間ねぇじゃねぇーか」
画面を高速でスクロールさせても、一向に終わりが見えてこない。
「せめて、ソート機能はないのか?」
愚痴るようにスクロールさせていると、別ウィンドウにソート項目が現れた。
「しゃっ!やれば出来る子!!じゃあ、折角なのでランク別で」
劣化とはいえ、どれでも選択可能なのなら、そりゃレアリティの高いモノを選びたい。
「おふぅ・・・」
ずらりと並ぶ、最高ランクの取得ポイントはほぼ億単位。
[森羅万象]2億P
[不老不死]1億P
[万物創造]1億5万P
・・・・・
・・・・
・・・
そしてオレの所持ポイントは、たったの10P。
どうやら[不足ポイントの効果を差し引く]というのは、100Pを10Pで取得すれば、その効果が10分の1となってしまうということらしい。
「えぇぇ、時間なさすぎんだろ?これ・・・ええっと、定番でいうなら鑑定先生や空間収納なんかだけど・・・」
残り時間はあと3分。
焦りながら画面をスクロールさせていると、ふと違和感を感じた。
「・・・いや、違う」
動かしていた手をピタリと止める。
刻々と時間が過ぎるなか、タバコを取り出し火をつける。
「ふぅー・・・」
まずは落ち着き、冷静に俯瞰で思考する。
折角、イシュタルがくれたこのチャンス。
確実にモノにしたい・・・
まず最優先事項は戦闘力。
オレがここから抜け出す為には、殺傷力が不可欠だ。
鑑定先生の劣化など必要ない。
空間収納は劣化でも有用かもだが、今はそうじゃないかも。
戦闘スキル。
剣術、格闘・・・
しかし劣化板で意味があるのか?
まして武器が無ければどうしようもない。
魔法系?
初級の劣化など生活レベルだろう。
中級、上級の劣化なら有用かもしれないが、メンタルEのオレでは撃てて一発?くらいか?
パフもデパフも論外だ。
ならいっそ、レアリティの高いモノをいただいて、今後に期待・・・
ダメだ。
そんなことでは、ゴブリンの格上が来れば死んでしまう。
最悪レアリティは高いが、スキル強奪系が有力か?
しかし劣化板の成功確率は0,00001%にも満たないだろう。
不老不死の1千万分の1の効果など、老化予防くらいか?
万物創造だって、超ショボい素材くらいでしか・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
「いや、、、あるかも。劣化板でも、その機能が失われないジャンルが」
オレはソート機能で、[具現化系スキル]だけを表示する。
万物創造を頂点に、具現化系のスキルがランク順に表示される。
残り時間は、あと2分。
一つ一つ効果を検証している暇はない。
ざっとスクロールさせながら、それらしい名前を探す。
「・・・・・これは?」
気になるスキル名を発見し、タップして説明を見る。
[モデリング]1000P
Dランクスキル
カテゴリー[商人・制作職]
自身の明確なイメージや現存のアイテムを、Fランクとして具現化する。
ただし無機物でその形状のみ、魔法的効果などは失われる。
劣化板:
10P:Eランクまでのアイテムを一日一度。
1P:Fランクのアイテムを1度だけ。
「っ!くそっ、馬鹿かオレは!!」
多分この[モデリング]は、職人が作品制作をする際にイメージを模型として具現化するスキルのようだ。
または商人などが、サンプル使用やアイテム説明の際に利用する。
ゆえに、具現化されたイメージのランクは最底辺となり、模型として制作の考えをまとめたり、クライアントとの相談くらいにしか使用する用途はないのだろうと予想する。
さらにその劣化板は、Eランクまでのアイテムを一日たった一回のみの使用で制限されてしまう。
残り時間は、あと1分。
「10ポイントしかないんじゃねぇ、10ポイントもあるんじゃねぇかっ!」
間違えていた。
根本から間違えていた。
同じ劣化版なら、中途半端な機能は必要ない。
この説明文を読んで確信した。
[モデリング]を、1P使って取得する。
「一日一回も必要ない、一回だけで十分だ!それよりもう他を検証してる時間がねぇ」
仕方がなく、説明文も読まないままにレアリティの高そうなところから、イメージだけでポイントを振っていく。
[空間収納]1P
[魔力無限]1P
[飛翔] 1P
[時間停止]1P
[不老不死]1P
[神出鬼没]1P
[万物創造]1P
[森羅万象]1P
[アカシックレコード]1P
ポイントを振って取得する。
そして、その操作とほぼ同時に膨大なスキル一覧は消滅し、残されたFランクのスキル一覧の文字はグレー表示となる。
どうやら[祝福]タイムは終了したようだ。
オレはステータス画面を閉じて、立ち上がる。
再度タバコに火を付け、瞑目する。
「ふぅー・・・やらかした感いっぱいだけど、まずはこの賭けに勝てないと始まんないよな」
アイテムの具現化。
しかし、実行可能なのは最底ランクのアイテムを一度っきり・・・
「ふぅーーー・・・」
だがこれで[錆びた剣]レベルの最底辺武器を手に入れるチャンスは得た訳だ。
「ま、それならこのゴブゴブのナイフと大差ないんだろうけど・・・」
短くなったタバコを投げ捨て、右手を伸ばす。
仮説を立てていた。
もし、
地球のアイテムが、この世界の[ランク外]なのだとしたら・・・
「モデリングっ!」
スキル発動と同時に右手が目映く発光し、思わず目を瞑る。
ほんの数秒の瞑目の後、恐る恐る目を開くと、伸ばした右手の中に、黒光りする[デザートイーグル50AE]が握られていた。