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31:君に決めたっ







 「おっちゃん、この肉の薫製とチーズを3つずつくれ。あと、イノシシやウサギの買い取りってしてる?相場より安く売るよ」


 ザンダ採掘場を出た次の日。

 夜通しグライドシステムの実験を兼ねて、地形を無視して移動したことで、本来[ターラゾカの森]までの2日の距離を、ほぼ半日で消化してしまっていた。


 それから少しだけ仮眠を取り、残りあと少しの距離は徒歩で街道を移動していた。


 「どっひゃ~、空間収納かい?そりゃ便利な技持ってるね。運搬だけでも食っていけるだろうに。つか、いいのか?こんなに安くしてもらって」


 そして、たまたまターラゾカに向かう荷馬車に乗ったオジサンと一緒になり、なんか買わないか?と声を掛けられた。


 「いいのいいの、気にすんな。その代わり血抜きもなんもしてないよ。オレ、そういうの苦手でさぁ。けど時間経過はしてないはずだから新鮮さは保証するよ」


 オレのストレージには、チョイチョイ狩った獲物がそれなりに保管されている。

 けど、解体作業などは一切していない。

 無理だ。

 チャレンジはしてみたけど、一人で水場も無しではやってらんねぇ。

 ゆえに、こんな感じで安くして売り払ったりしている。


 「そんな便利な能力があるんなら、手間を考えると賢いやり方かもな。じゃあオラァは肉が堅くならないうちに、下拵えしてから出発するよ。にぃちゃん、あんがとな」


 「こっちこそありがと。あ、そうだ。オレ、ターラゾカに行くの初めてなんだけど、なんか気をつけた方が良いことってある?」


 エルフの街だ。

 気難しいイメージがあるので、慣れていそうなオッサンにアドバイスを求める。


 「そうさねぇ、一昔前には気を使ったもんだが、最近は案外フレンドリーだぜ。ただ、あそこは女性が多い。ニイチャンみたいなエロい顔してたら、すぐに警戒されっちまうだろうな、ワハハハ、、、あ、でも女騎士には気を付けな。アイツ等はプライドが高い。女だと侮ったらすぐに斬り掛かって来るぜ」


 「なんかフラグを立てられた気がするが・・・了解、あんがとよ、おっちゃん。あっちで会ったら一杯奢らせてもらうよ。じゃあな」



 それから一時間、

 オレは無事ターラゾカの森へと到着した。



 「・・・・・ふぅー、、、圧巻だねぇ」


 超巨大な[世界樹]種の大木が中央にそびえ立ち、周辺の大木と吊り橋を通して立体的な作りの街並みだ。

 人工的な建物は少ないが、この幻想的な街並みが見られただけでも、来た価値があるってもんだ。


 「そこの貴方。この街では禁煙です。スモーキングエリアへ行きなさい。あと、火の扱いには呉々も気を付けるように」


 街の大きな入り口を抜けてすぐの大通り。

 あまりの絶景にタバコをふかして街を見上げていると、エルフのイケメン兵士さんに注意された。


 そらそうだ。

 これだけ木々が乱立した街では、火の取り扱いには気を使うことだろう。


 「あ、こりゃスミマセン。初めてなもんで気が付きませ、、、あれ?女性?」


 イケメンだと思った兵士さんは、男装した女性だった。

 改めて周囲を見渡すと、兵士の殆どが男装した女性だ。


 「き、貴様っ!女だからと侮るか!!場合によっては決闘もじ、」


 「待てっ!待て待て、どんだけ沸点低いんだよ!!侮ってませんっ!バカにもしてません!ちょっと驚いただけ。むしろ女性リスペクト、気に障ったんなら謝るから、その剣しまえって」


 速攻のフラグ回収。

 まさか、こんな敏感だなんて思わなかった。

 両手をあげて、敵意が無いことをアピールしながら、瞬間沸騰した兵士さんをなだめてフォローする。


 「、、、フンッ、良かろう。だが、呉々も気を付けることだな、、、まぁ、そのぅ、なんだ、、ようこそ、エルフの街[ターラゾカの森]へ」


 「初めっからそう言ってくれよ。でさぁ、観光なんだけど、どこかお勧めの宿とかってあったりする?」


 自分でも過敏に反応し過ぎたと反省したのか、兵士の男装ネェチャンは一転して歓迎してくれた。

 そして、大体の街の概要と有名な高級宿を教わってから、素直に宿へと直行した。




 「いらっしゃい、、、あら?冒険者かい?えっと、依頼は出してなかったと思うけど」


 間違いなく美人女将。

 長い髪を上品に結い上げた、色気漂う女将が出迎えてくれた。


 「こんにちは、惜しいけどハズレ。冒険者じゃなくて[コーヴァの街のハンター]さ。けど、今は休暇中で観光に来たんだけど、部屋は空いてるかい?大丈夫、こんなんでも金はあるよ」


 「あらあら、これは失礼しました。フフフ、この時期はお客様が少ないの。すぐにご用意させてもらうわ。それにしても凄腕なのね。なかなか言えないわよ、そのセリフ」


 「運が良かっただけさ。それより、今更だけど大丈夫だった?お勧めって聞いて来たんだけど、場違いだったかな?」


 高級旅館。

 ドレスコードとはいわないが、上流階級御用達ならオレみたいなのは邪魔になるだろうと推測した。


 「フフ、お気遣い有り難う御座います。そういった王都の貴族様がご利用の時は気を使わせていただきますが、満開の時期でもない限り、そのようなことは御座いませんよ。ゆっくりとおくつろぎ下さい」


 受付カウンター横のテーブル。

 ウェルカムティーを用意しながらもてなしてくれる。


 「そっか、今はオフシーズンなのか。そんなことも知らなかったよ」


 「あらあら、それは勿体ない。ターラゾカは別名[花降る都]ですよ。是非、満開の時期にもお越し下さい」


 いやぁ~良いもんだね、一人旅。

 女将や女中さん達と世間話をしながらマッタリと過ごす。

 昨晩は夜通し移動して、数時間の仮眠のみだったので、この日は外には出ずに旅館でゆっくりとくつろいだ。




 「では、いってらっしゃいませ」


 次の日の午前中、オレは観光らしく当てもなくブラブラと街を歩くことにした。


 取り分け派手な名所がある訳でもないが、見慣れない街並みと店先に並ぶ商品の違いで、それだけでもなかなかに楽しめる。

 主要な繁華街は一時間もかからずに見て回ることは出来たが、それでも旅行を満喫するように何度も周辺を隈無く歩き回った。


 そして小腹が空いたので、中央広場横にあったタバコが吸える屋台へと入り、昼間っからおでんのような煮物をつつきながら果実酒をひっかける。


 「お客さん、ターラゾカは初めてかい?」


 客はオレ以外に誰もいない。

 屋台の店主が話しかけてきた。


 「ああ、凄いもんだなこの街は。散々歩き回ったけど、見ていて飽きないよ。大将こそ長いのかい?」


 屋台のオヤジは、4、50代の草臥れた人族だ。

 街の広場に店を構えてるんだから、ここでの歴史は古いとみた。


 「ああ、20年は越えてるねぇ。どうだい、もう一杯。何でも教えてやるぜ」


 ニヤリと口角をあげるオヤジ。


 「商売上手だね。じゃあ、赤のをくれ。ふぅー、、、大将、ずばり聞くけど、、、そのぅ、なんだ、、、あっち系の店は、ないのか?」


 そうなのだ。

 ないのだっ。

 散々歩き回ってみたが、それらしい雰囲気は皆無なのだ。

 爽やかに街並みを楽しんだ?

 ふざけるなっ!

 そんなものなど、楽しんでいない。

 そう自分に言い訳をしつつ、視線の先は裏通りや看板を漁りまくっていたのだ!


 「カッカカ、ストレートにきたね。分かるぜ、エルフのべっぴんさんがウジャウジャいるんだ。そう考えてなんら不思議じゃねぇ」


 「おい、大将。そのスジ肉も貰おうか」


 「まいど。だがなぁ、残念なことにターラゾカは条令により風俗は禁止だ」


 な、なんだと・・・


 ・・・オワタ

 帰ろ


 「そんなあからさまにガッカリすんなよ。どんだけ欲望に正直なんだ、アンタ・・・ま、世の中、光の裏には影があるってもんさ」


 オヤジは手にしているオタマをクルリと廻し、ドヤ顔で微笑んだ。


 「ほほぅ・・・オヤジも一杯どうだい?奢らせてもらうぜ」


 「へへ、じゃあ遠慮なく・・・勿論だがここだけの話しにしてくれ。まずここがメインゲートだとするだろ?一度街を出て、それから、、、」


 この質問をする客はそれなりにいるのだろう。

 オヤジはカウンターから簡易地図を取り出して、慣れた口調で説明する。


 要約すると、一度街を出てから、街の裏側にそれらの施設があるのだという。


 「ぐふふ、ご馳走さんオヤジ。つりはいらねぇ、早速行ってみるよ」




 まだ、夕方にもなっていない真っ昼間。

 店が開いているのかなど気にもせず、真っ直ぐに教わった場所へと急ぐ。

 心なしか足取りも軽く、あっという間に、その一角を見つけることが出来た。


 街の裏手の外壁より少し入った森の中。

 道を挟んだ両脇の木に一人ずつ、不自然にエルフの女性が立っている。

 その奥には大きな洞窟がポッカリと口を開けており、どうやらそこに連れ込むシステムのようだ。


 まだ昼間ということもあり、殆ど客もいない。

 夜になれば、女性の数もグッと増えるのかもしれない。

 両脇に立つエルフの女性たちは、中央を歩くオレを値踏みするような、誘惑の視線を浴びせてくる。


 「や、やぁ、こんにちは。ハハハ、良い天気だね、ハハ。参ったね、コリャ」


 人類の進化とは真逆に、歩く度に前屈みとなってしまう。


 辛抱たまらんっ!

 と、考えつつも、どこかクレバーな自分は、マップレーダーに映る全ての女性を見てから選びだそうと冷静な判断を下している。


 みんな、森の中とは不釣り合いな扇情的な格好やメイド服などのコスプレをしており、とても刺激的だ。


 蚊に刺されないのだろうか?

 まぁ、いい。

 そんなことより、ここはいいっ!

 なに、ここ?

 超~楽しいぃ♪

 あ、

 ヤッベェ~・・・このままでは歩いているだけで果ててしまいそうだ。

 カッコつけている場合ではないっ

 小心者のオレは足早にしか歩けず、ゆっくり吟味も出来ない。

 ここは持てる力を最大限活かすべきだ。


 オレは物陰に入って[ミラージュ]を発動する。

 すると女性たちは堂々と歩くオレには注意は向かずに、客がいないように振る舞いだした。


 へへへ

 この方が遠慮なく品定めが出来るってもんだ。

 おっ

 すげーな、あのチチ。

 どうやって洗うんだろうか?

 取り敢えず、第一候補としておくか・・・


 それから歩き回ること一時間、、、


 <ぺーはん、なんぼなんでも6周目やで。もうええやろ>


 だまらっしゃい

 オレは常に公平なの

 正しいジャッジを下すために、労力は惜しまないんだよ。

 ぁあああ、第七候補発見っ

 どうすんだよっ

 どうすんだよ、これ?

 二回や三回じゃおさまんねぇぞ。

 もつか?

 もつのか?

 ん?

 おや、、、

 あんな離れたところにもレーダー反応があるぞ。

 よしっ

 ラスト、あの娘をチェックしてからファイナルジャッジを下すとしよう。


 女性たちが立ちんぼする一角から少し外れた木の根本。

 一人の女性騎士の後ろ姿があった。


 くっころ、かぁ~

 街で女性兵士さんをいっぱい見ただけに、ありに思えてきたぞ。

 取り敢えず、正面から顔を見ないことには・・・


 「・・・素敵やん」

 「なっ!だ、誰だっ!?」


 思わず声が出てしまった。


 白と青を基調とした細身の騎士服。

 二十歳前後と思われる年頃に、神々しい程のロングの銀髪。

 そして男装女子な格好にも関わらず、それでも隠しきれない程の女性らしい美しい顔と体のライン。

 これまで見た、どのエルフさんよりエルフらしい女性だ。


 「や、これは失礼した。余りの美しさに驚かせてしまったようだ」


 突然のコンタクトに[ミラージュ]を解除して堂々と話しかけるが、よく分からないテンションのためにキャラが定まらない。


 「ひぃっ!オ、オバケ、、、ど、どこから湧いて出た!この変態っ!!」


 ペチャッと、尻餅をついて慌てふためく女騎士。


 「変態って、非道いな、、、これでも紳士だよ。けど驚かせてしまったことは素直に謝るよ。マジごめん」


 オレは右手を差し出して、優しく謝罪する。


 「ふんっ!助けなどいらんっ!、、、びっくりしたぁ、気配を感じなかったぞ」


 女騎士さんは、差し出されたオレの右手を無視して、自力で立ち上がりながらブツブツと文句を言っている。


 「マジで悪かったって。それより、キミ、キレイだね。びっくりしたよ、お世辞じゃなくて、これまで見たどんな人よりキレイだ。名前は?年は?つか、お願いっ!オ、オレと、是非にっ!!」


 その場のノリもあるが、それ以上にマジの感想をペラペラとまくしたてる。


 「なっ、、、い、いや、、ボクは、、ちが、」


 こんなセリフなど言われ慣れているだろうに。

 しどろもどろでテレる女騎士さんの演技?に、オレのハートはよりバーニングする。


 <ア、アカンッ。ぺーはん、違う。この娘はマズ、>


 だまらっしゃいっ!

 オレァ、全財産つぎ込んででも、キミに決めたっ!!

 くぅぅ~

 たまらんっ!!

 キミに決めたっっ!!!


 「あぁぁ!もうダメっ!超タイプっ!!堪忍な、堪忍やでぇ!!」


 オレは強引に彼女を抱きしめた。


 「きゃあっ、、ボ、ボクに、触るなぁぁぁ!!」


 ロザン昇竜波のようなアッパーカットが、オレの顎を打ち抜く。

 2mくらい吹き飛んだオレは、そのまま地面へと激突した。


 そして、顔を真っ赤にして自身の肩を抱いて恥じらう女騎士さんの姿が映る。


 「、、、ちょ、う、、カワ、イイ、、、、」


 オレは意識を失った。







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― 新着の感想 ―
[一言] おっ、続きお待ちしてました。 オッサンは相変わらずだなあwwwww
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