30:勝利してなお
「よくぞ、おいで下さいました[ファウスト王子]殿下。それに[レイダー侯爵]に[お義父様]も。遠路ご苦労様です。お疲れでしょう、夕食の準備をしておりますので、ひとっ風呂浴びてから飲みながら報告会といたしましょう、わっはは」
豪快に笑うフェルディナンド伯爵。
「出迎え有り難う伯爵、それにアズベルも。そうだね、腹ぺこだ、その提案を受けよう。だが、ボク達だけというのはねぇ。兵たちにもなにか用意をしてもらえないか?」
十代後半。
優しさがにじみ出るような雰囲気の青年は、気取ることなく返事をするが、護衛兵を含めた総勢100名からなる視察団全員のことを気に掛けている様子だ。
「殿下、またそんな気安くお話になられて。フェルディナンド伯爵も弁えなさい」
豪快な物言いのフェルディナンド伯爵を窘めるのは、腰まで届きそうな長い白髪を上品に一つに束ね、老人とは思えぬ姿勢の良さや高い気品を感じさせる老人。
「まぁいいではありませんか、[レイダー侯爵]。それがフェルディナンド伯爵のお人柄というものですよ。そんなことより、ここで立ち話では始まりません。ささ、早く屋敷へと、いや、孫たちの所へ案内をしてください」
背は低く小太りで、まるで商人のような出で立ちなのは[大臣ロンドワール]。
普段は余り城から出ることはないのだが、娘がフェルディナンド伯爵の妻であり、孫が生まれたとあって、この視察団に参加していた。
「わっはは、許されよレイダー卿。殿下もご安心ください。[ヴァーミッド]よ、広場の酒屋を3軒貸し切ってある。今日はかまわないから、大いに部下を労ってやれ」
「流石はフェルディナンド卿。よくお分かってらっしゃる。聞いての通りだっ!今夜はアニキ伯爵の奢りだっ!!感謝して酔い潰れろっ!!」
「「「「「うぉぉぉぉっ!!アニキ伯爵、バンザイっ!!」」」」」
騎士団を煽ったのは、金獅子騎士団団長[ヴァーミッド]。
2mはありそうなムキムキマッチョな強面騎士。
フェルディナンド伯爵は貴族でありながら、いつも一番槍を取るほどに最前線へと身を投じて、その実力と面倒見の良さも、ざっくばらんな気取らない態度も、騎士や兵士より[アニキ伯爵]と親しまれていた。
「アズベル。貴殿もたまには部下たちと騒いで親交を深めてはどうだ。そういった交流も大切なことだぞ」
フェルディナンドが隣で一緒に出迎えていた聖護騎士団団長[アズベル]へと小声で助言する。
「・・・いえ、やめておきます。多分、ボクがいるとみんなは騒ぐことが出来ないでしょうし」
(それを打ち払うために言っておるのだがな・・・)
はっきりと言ってしまえば、聖護騎士団はお飾り騎士団なのだ。
貴族家の次男などで構成された気位と自尊心だけの高い、腫れ物騎士団。
それはアズベルの為に結成された騎士団だったにも関わらず、結成当時より無頓着で選出メンバーを人に丸投げした結果、権力や政治が発生してこういったメンバーが出来上がってしまった。
しかし、そんな騎士団でも唯一の救いは、全員がAランカー勇者アズベルをちゃんと崇拝しているということだ。
その結果、団長アズベルの命令には忠実に従うが、一定の距離感が生まれて相談する者もいなければ、進言する者もいない。
アズベルもまた、そんな状況に気付きもせずに、部下であるはずの騎士たちに無関心が続いている。
「では伯爵、案内を頼む。アズベル、今晩は貴殿も来るのだろう?たまには共に飲もうではないか」
「申し訳ありません、殿下。ボクはこれから妻のところに行きたいので」
「・・・そうか、それは悪いことを言ったな。気にせずそちらに行きなさい。行こう、伯爵」
以前よりファウスト王子は、歳も近いことからアズベルとの親交を深めたいと思っている。
だが、アズベルは常識に疎く、人間関係の重要さが分かっていないので、仕事として参加した出迎えで、その後の付き合いなどは考えもしない。
アズベル本人は「誰もボクと普通に接してくれない」と言っていたが、周囲からの印象は、逆に一線を引かれて「必要以上に近付くな」と感じずにはいられなかった。
こうして、ジュンペイがザンダ採掘場で虐殺を終えている頃、コーヴァの街には無事、視察団は到着していた。
この時はまだ、ザンダ採掘場の惨状はどこにも伝わっていない。
彼らはこれより[モザーク大森林]を調査しつつ、その先にある鬼族の国アコウの最前線[ズマ城]を視察することとなる。
「ぷはぁ~、今宵の生き血は格別だねぇ、サポ助くん。これ処女?違うか?ぎゃはは」
ザンダ採掘場。
焼け残った建物の屋上に腰を掛けて、まだ炎の残る中央の広場を見下ろしながら、ワイングラスで乾杯をしている。
<それ、多分ドラキュラ伯爵のイメージのつもりやと思うんやけど・・・気品が無さ過ぎて、ただの居酒屋のオッサンでしかないよ。正直、引くわ>
上機嫌だった。
[巴百式]という万能防具を手に入れたのは勿論だが、それ以上に思わぬ副産物があったのだ。
見た目はフード付きのロングマントで、黒を基調に白いラインが施されている。
サポ助がデザインしたその見た目も良いのだが、コイツは[尾を引く]のだ。
触った質感はツルッとした厚手のカーテン。
強度や衝撃吸収力は、魔力を送らない標準状態でも見た目以上に優れており、デザートイーグルでもバスッとして貫通には至らなかった。
だが、本来のコイツの素材は[龍気]と呼ばれる気体なので、オレの意思により変形も拡大縮小、さらには強度の増減も可能だ。
そして一番大切なのは、動いた時にチョットだけ靄を残すのだ。
つまり、ドラキュラ伯爵のそれだ。
まさかの首無しライダーのようである。
あ、オンオフも出来るけどね。
「くっくく、これを使えばホステスさん達にウケること間違いなしだ。フハハハ」
<小さっ!本来オフにするべき機能に一番喜んでるし。防具としての万能性に喜べや!それにドラキュラのイメージはイヤがってたんとちゃうんか!?>
「それはそれ。やっぱ、条件が揃えば溢れ出るダンディズムがオレに強いるんだよ。なんつぅの?デスティニー?成るべくして?みたいな」
<・・・ボクには魔族なんかと勘違いされて、討伐対象にされてしまうように思うけどな>
ピクッ
「うん、、、楽しむのは一人の時だけにする・・・しゃっ!情報もお宝も手に入ったし、次行ってみようか、次」
屋上の上で立ち上がる。
すでにここには生き残りはいない。
エビス討伐後、全てのレーダー反応は残さず経験値にした。
さらにその際、必要な情報やため込んだ黄金も入手している。
<え、帰るんとちゃうの?>
3階くらいの高さから[グライドシステム]を起動させながら、飛び降りる。
「いや、いま帰っても視察団が到着した頃だろ?御前試合まで2週間くらいあるし、折角だからエルフの街[ターラゾカの森]でも見学して帰ろうぜ」
ハングライダーのように、緩やかに滑るように落下する。
アシノミヤ領はエルフや亜人との共存が謳われているため、コーヴァの街でも様々な種族が住み着いている。
だがそれは、長い歴史の友好関係が生んだ結果であり、元々の種族の街は存在している。
そういった種族ごとの特徴ある街などは、現在では観光地のような人気があり、友好的な関係が成立している。
オレはまだコーヴァの街から余り離れたことがない。
ラキシスのコンソールから抜き出した情報や、ホステスさんとの会話などで一般常識ともいえる知識はそれなりに身についてきたと思う。
ここ、ザンダ採掘場はコーヴァの街より北西へ3日ほどの距離だ。
だがそれは単純な距離ではなく、山越えのための時間であり、グライドシステムを手に入れたオレならば、もしかしたら1日でも帰れるのかもしれない。
そしてエルフの街[ターラゾカの森]は、ザンダ採掘場より東へ2日くらいの距離にある。
そこからコーヴァに帰るにしても4日も掛からないだろうから、一週間くらいは滞在できることになる。
<まぁ無茶せいへんのなら反対は無いけどな>
「急ぐ訳でもねぇし、タラタラ能力実験でもしながら向かおうぜ。また[ジャイキリ]の称号でスキル制作もしなきゃだし」
<やね。それについてはボクに考えがあんねん。また後で相談しよ>
すっかり日も沈んだ月夜。
まだ火災の残るザンダ採掘場を後にして、エルフの街[ターラゾカの森]へと向かいだした。
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LV45 ジュンペイ 32歳
クラス:[奇術師]A
職業: Dランク ハンター
フィジカル:C+
メンタル:B+
称号:[ジャイアントキリング]
固有仕様:[最適化][ストレージ]
[マップレーダー]
[サポートシステム」[合体モード]
固有スキル:[リロード][アクセレーター]
[テンカウント][グライドシステム]
[ミラージュ][サイレンサー]
ポイント:130P
カテゴリースキル:[奇術師C][商人C]
[魔法使いF]
装備: デザートイーグル50AE
黒鉄の短剣
巴百式
トレント樹脂の胸当て
トレント樹脂の小手
トレント樹脂の脛当て
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