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3:シャフ度






 「ぜぇ、ぜぇ・・・負けるかよ、オッサンなめんな」


 襲い来るゴブリンを先ほどと同じように、泥仕合でしとめる。

 所詮、ゴブなど小学生レベル。

 覚悟を決めた本気のオジサンほど、怖い存在は無いのだよ。


 改めて周囲を見渡すと、緩やかな傾斜の草原に、無惨な姿となったゴブゴブの死体が六体転がっている。


 今更ではあるが、吐き気をもよおす。

 自衛の為とはいえ、生物を初めて刺殺、撲殺した感覚が生々しく思い出される。

 その暖かさも、蔓延している血生臭さも不快でしかない。


 「おぇ・・・絶対、後悔も哀れんだりしないぞ。クソッ、ザマーミロだ!」


 少し嘔吐し、倫理的な感覚を押しつぶすように強がってみせる。


 尻ポケットよりタバコを抜き、火をつける。


 「ふぅーー・・・」


 吐き出す煙と同時に、自分の中の弱さを吐き出していく。


 少しでも怯めば、コイツ等がオレだ・・・

 

 一頻り死体を見つめた後、少し離れた場所にある岩へと向かって歩き出す。

 腰掛けるにはちょうど良さそうな大きさだ。

 彼処なら見渡しも良さそうだし、奇襲を受ける心配もないだろう。


 「ああ、コーヒー飲みてぇー・・・」


 タバコを吸いながら、岩の上に腰掛ける。

 改めて見ると、とても気持ちの良い草原だ。

 (ゴブリンさえ、出なければ)


 「ふぅー・・・さて、やりますか」


 もう少しボーっとしていたいところではあるが、早く自分のスペックやこの世界の仕様について理解しておかなければ、いつ次の戦いが始まるか分からない。


 「ステータスっ」

 なんとなく左手を振りながら唱えてみる。



============

LV2 川本淳平 32歳

フィジカル:F

メンタル:E

称号:[招かれざる者]

固有仕様:[最適化]

スキル:

ポイント:10P

============



 「出やがった・・・」


 なんとなく確信めいたものを感じてはいたが、いざ宙に浮かぶ半透明の文字盤を見ると、これだけで中々にファンタジーでテンションが上がる。


 「最低生き残れる力くらいはくださいね、神様」


 祈るように、表示された内容を考察する。


 まず、

 はい、川本淳平32歳、会社員です。

 レベル2ってのも、先ほどのチャイムからすれば納得だ。

 フィジカルF?、メンタルE?

 フィジカルは肉体的?身体能力って意味だよな?

 メンタルは精神的とか内面的?だったけ?

 

 ・・・えらいザックリきましたね。


 小分けは?

 HPや力やAGEとか、かしこさは?

 う~ん・・・ま、そういうことなのだろう。


 そして、ここからが問題だ・・・


 称号[招かれざる者]と、固有仕様[最適化]。

 さらに空白のスキルに、ポイント10P・・・


 まず、ポイントはスキル取得などの特典ポイントで間違いと予想する。


 試しに画面をタッチしてみる。

 別ウィンドウが開き、いくつかのスキル名が表示される。


 「ほほぅー・・・」


 [火魔法 基礎]100P

 [剣術 基礎]100P

 ・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・


 Fランクとカテゴライズされたそのスキル一覧は、それだけでかなりの量となっている。

 ざっと見る限り、オレのよく知るスキル名ばかりである。

 ただし[~~基礎]のような言葉が続き、余り即戦力のイメージはない。

 まして、取得ポイントが100Pだなんて・・・


 「取らせる気ないだろ、これ・・・」


 それともレベルが上がれば獲得ポイントの桁も跳ね上がるのだろうか?

 う~ん・・・

 取り敢えず、後回しだな。




 次に[招かれざる者]をタッチしてみた。


 [招かれざる者]ーーー管理者コードを用いて行う転送以外の方法で、なんらかの理由により訪れた者。またはイレギュラーな存在。


 おっふぅ・・・

 そのまんまっちゃ、そのまんまだが、なんとも身も蓋もない。

 だけど、これでハッキリした。

 オレは神?や王国などの手引きではなく、事故でここにいるのだろう。

 ゆえに、この放置プレイにも納得がいくというものだ。


 そして、さらに最適化をタッチしようと手を伸ばしたところで、画面が赤く染まりアラートウィンドウが出現する。




 ===管理者による干渉を確認===




 「なっ!」


 驚くと同時に、半透明の画面の向こう側に、突然人が出現した。




 「ふぅー・・・こんにちは、でいいのかな?」


 ステータス画面を消し、タバコをふかし、平静を装いながら話しかける。


 「あら、こんにちは・・・意外と冷静なのね」


 その人物は如何にもキャリアウーマン的な出来る女性といった感じだ。

 強がって話しかけてみたが、会話は成立する様子だ。


 「イレギュラー反応を感知したのだけれど・・・貴方がそうなの?」


 「よくわかんねぇが、どうやらそうらしい」


 「そ。余りにも落ち着いているものだから、疑ってごめんなさい。ではどこから説明したものかしら」


 手に持つ書類をめくりながら、事務的な雰囲気へと移行していく女性。


 「オレは川本淳平。まずは君の名前を教えてくれないか?」


 「あら、ずいぶんと余裕なのね。普通はパニックを起こしたり、責任を追及されたりするのだけれど・・・ふふ、名前を聞かれるのは久しぶりで気分がいいわ♪私はイシュタル。これでも神の秘書のような存在よ」


 「ふぅー・・・じゃあ、イシュタル。ポイントは3つだ。戻れるのか?この世界に文化は存在するのか?あと、招かれざる者に恩恵はあるのか?」


 真剣な顔で言うオレに、イシュタルは突然笑い出す。


 「ふふ、ふはははは・・・あぁ可笑しい。アナタ何者なの?管理者の私を呼び捨てにして、その不遜な態度・・・ふふふ、どうしてアナタが主導権を持っているのかしら?ふふ、でもいいわ、乗ってあげる。戻れない。たぶんアナタが予想する世界。恩恵はない。これでいいかしら?」


 変にツボにハマったのか、心底楽しそうに笑うイシュタル。


 「ふぅー・・・別におかしなことは言ってないだろ?そんなに笑うなよ、恥ずかしいじゃねぇか」


 「ふふ、ごめんなさい。確かにおかしなことは言ってないわね。ただ、こんな風に受け入れてくる人は初めてだから。ですが、もう少し敬意は持てない?これでも私、管理者で女神なのよ、信仰までされているんだから」


 「そんなの見れば分かるよ。こんな美しい女性は初めて見た」


 きょとんと一変し、赤面するイシュタル。


 「あ、ありがと・・・あ、あれ?なんで照れているのかしら、アタシ・・・」


 「光栄だな、そんなこと言われ慣れているのかと思ったが」


 「・・・そんな女性扱いなんて初めてされたわよ・・・・・オッホン、話を戻すわ。この世界は[ガイヤード]。分かり易く言えば、貴方が居た地球の平行世界のような場所ね。そして貴方はシステムバグに巻き込まれた。ここまでは理解していそうね?」


 取り繕いながら、強引に事務的な流れへと引き戻すイシュタル。


 「そうだな、そんな感じじゃないかと当たりはついていたよ」


 「そ。大きな違いとしては魔物や魔法などが存在します。ここも安全とは言えず、、、って、そういえば貴方、えらく汚れているわね?もしかして・・・」


 オレはゴブリンの死骸が転がっている方向を指さした。


 「・・・これはお気の毒に。貴方、本当についてないわね・・・えっと、それじゃ、次は、、、」


 なぜか動揺するイシュタルの話を遮るように、岩から立ち上がる。


 「いいよもう。いろいろ自分で確かめるさ。その方が面白いだろう?」


 「・・・本当にいい性格をしてるわね。でも舐めすぎよ。ここの命は軽いの。貴方程度の力じゃ街にたどり着くまでに確実に死んでしまうわ」


 叱りだすイシュタルの表情からは、警告というより心配の色が見えるのが嬉しかった。


 「舐めてなんかいないさ。けど、恩恵は無しなんだろ?結局オレが自分で頑張るしかねぇじゃねぇか」


 正論を返すオレに、申し訳なさそうに眉を窄めるイシュタル。


 「・・・ごめんなさい。招かれざる者には恩恵を与えてはいけないルールなの。せめて事態の説明くらいはと思ったのだけれど・・・それこそ傲慢よね」


 「間違わないでくれ、別に責めてなんかいないさ。むしろ感謝している・・・オレはずっとこんな体験がしたかったんだ。チートも良いけど地道にやるしかないのなら、死なない程度に上手くやるさ♪」


 これは半分嘘だ。

 正直、怖くて仕方がない。

 けど、ここで泣きすがっても彼女を困らせるだけとなるだろう。

 強がり、震える膝を誤魔化すように、後ろを向いてタバコをふかす。


 「・・・ホントはね、イレギュラー反応が邪神や危険分子でなければ、放置するのが基本なの。数十年の頻度だけれど[招かれざる者]の前に私が出るのは個人的な理由・・・だから一つだけ協力するわ。あくまで私個人として」


 オレはシャフ度で振り返り、彼女を見る。


 俯き、自分に罰を与えるような、寂しげな表情。


 「ふぅーー・・・」


 彼女は過去、オレのような迷い人の前に幾度となく現れていたのだろう。

 それは恨みの象徴として、その姿を現し、悪態を吐かれ、恨み言を受け止め、ルールを破ってでも肩入れしている彼女の理由・・・

 ・・・なるほど。

 たぶん、システム管理を彼女が担っているのだろう。

 システムバグによる、オレのような迷い人。

 つまり、彼女は責任を感じているという訳だ。

 世界レベルで見れば、こんな個人なんて数ミクロンにも満たない些細なバグの結果なのに・・・


 惚れてしまいそうなほど、優しい女神様だ。




 もう一度向かい合い、素朴な疑問を返す。


 「ふぅー・・・そんなことして、イシュタルは大丈夫なのか?」


 「余り大丈夫ではないわね。だから、大したことは出来ないわよ?街に転送とか、初級の武器とか、簡単なスキル程度・・・」


 「キミの寵愛は?」


 「ごめんなさい。タイプではないわ」


 勢いよく90度に頭を下げるイシュタル。


 ありゃりゃ。

 速攻で振られてしまいました・・・

 あれ?

 いい雰囲気じゃなかったの!?


 「ふぅー・・・じゃあ、一つお願いがあるんだけど。これ?なんとかならない?」


 「?」


 オレはタバコの箱をイシュタルに示し言葉を続ける。


 「だってさ、あと十本くらいで無くなっちゃうから、これ補充するような能力なんてダメかな?」


 どうやら予想の斜め上をいっていたらしい。

 鳩が豆鉄砲を喰らった顔というリアクションで、一瞬フリーズするイシュタル。

 そして、


 「ふ、ふははははは、え?バカなの?この状況でタバコを補充する力?うぷぷぷぷ、聞いたこともないわ、こんなの。うぷぷ・・・ええ、いいわ。固有スキルになるけど、面白かったから特別よ。補充する力を貴方に与えるわ」


 「だから、笑うなって!オレにしてみりゃ、結構マジなんだから」


 「そうね、悪かったわ・・・じゃあ、そろそろ私は戻ります。なかなか楽しかったわ・・・貴方に幸運を、ジュンペイ」


 そう言うと、流れるような動きで、オレの頬へと口付けをするイシュタル。




 そして光に包まれると同時にイシュタルは消えていった。







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