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29:いや、いけないな。これは欲だ。







 <[グライドシステム]か・・・なんか一周回ってそのまんま、っていうか、普通やね、普通>


 「だまらっしゃいっ!お前が[ミラージュ]とか、カッコいい単語もって来るから[バーニア]がショボく感じたんだろうが。ほれ?あったじゃん、フロートシステムとか。エイハブウェイブもだっけ?」


 <パクっとるがなっ!そうは言うたが、内心カッコイイって感心してたのに、思いっきりフロートシステムをパクっとるがなっ!>


 「それは違う・・・悲しいねぇ、ボクはただ、リスペクトしているだけだというのに」


 <便利に使うなや。リスペクトって言えば、なんでも許される訳ちゃうで>




 オレ達はいま、[ザンダ採掘場]へと向かいながら、新たに手に入れたスキルの実験を行っていた。


 結論から言えば、想像以上の速度と効果で、フルスピードでの運用はまだまだ熟練が必要そうだ。

 いきなりフルスロットルで使えるのは、どこかの名誉ブリタリア人くらいである。


 「あれ?もう夕方だってのに、まだ煙が上がってるな」


 ザンダ採掘場が見えてきた。

 半日以上経過しても、まだ一部の火災は鎮火していない。


 <ぺーはん、思ったより反応あるよ。坑道に逃げ込んだか、元々潜ってた奴等が出てきたんか、なんにしても数十匹は動いとるで>


 今度は慢心でも油断でもなく、正面の崩れた城門から堂々と、音もなく進入する。


 悲惨な光景だった。

 建物の殆どは焼け崩れて、炭化した死体の山があっちこっちに積み上げられている。

 無事だった鬼族の者も、会話はなく静かに瓦礫を片付けながら遺体を運んでいる。



 <流石に、この光景見たらヤバいな。やっといてなんやけど、心がいた、>


===バシュッ===


 小さな破裂音がなる。

 それと同時に、遺体を運んでいたオークの頭が、爆発したように破裂した。


 「っ!て、敵襲じゃあっ!!賊がおるぞ、狙われとる、作業は中止して中央へ集まれっ!!」


 一匹のオーガが、大音量で叫ぶ。


 <な、なにしとんねんっ!いきなり容赦無しかっ!!>


 オレは物陰に隠れながらデザートイーグルを収納して、タバコに火をつける。


 「ふぅー、、、?。当たり前だろ、綺麗事をするつもりはねぇよ。殺すよ、ただ殺す」


 広場の中央へ、集結するゴブリンやオークたち。

 数匹のオーガが指示を出しながら円形状で周辺を警戒している。


 [ミラージュ]を発動しているオレは、どうやら認識より外れやすく、堂々と入って来たにも関わらず、ここまで見つかっていない。

 

 オレは昨晩の悪夢を引き起こした20Lの携行缶を、再度具現化して[リロード]する。


 <どないしたんっ!?そんなやり方せんでも、>


 サポ助を無視して物陰より飛び出し、集団の上空へとリミッターを外した力で高く放り投げる。


 「あそこだブッ!!な、雨?・・・いや、これは、燃える水だぁブゥゥ!!」

 「臭っ!なんじゃ、この臭いわっ!」

 「奴だブッ!奴が何かを放り投げたブッ!!」


 携行缶は上空で消滅して、ガソリンだけが集団へと降り注ぐ。


 流石に警戒中に派手に動けば、認識されるようだ。


 オレはデザートイーグルを取り出して、集団へ向けようとした瞬間、


===ボォッガァァンッ!!===


 爆発にも似た、大炎上が集団で起こった。


 あれ?

 最後の決め所が、、、


 <メイジオークのアホが火炎魔法を発動したみたいや・・・そんなことより、ぺーはん。また暴走してんのか?なにさらしとんねん>


 「びっくりした~。ふぅー、、、お前こそ、なに勘違いしてんだ?殺し合いに残虐も容赦も関係ねぇだろ?確実に、効果的に、迅速に対処しただけじゃねぇか。別に暴走もしてねぇよ。つか、お前こそ油断してるんじゃねぇか?今度[心が痛む]なんてぬかしがったら、オレがお前を許さねぇぞ」

 

 オレは真っ赤に燃え上がった炎と黒煙を見上げながら険しい顔で呟く。


 <・・・ゴメン。その通りやわ。ぺーはんの覚悟も考えんと・・・全面的にボクが悪かった、ゴメン>


 しゅんとした感じが伝わってくる。


 「ふぅー、、、受け取ったぜ、相棒。それより、レーダーに反応は?」


 <おぅ、相棒っ!大丈夫や、粗方いまの集団に集まっとったからな。あとは、負傷者と思われる団体が坑道の入り口付近にあるけど、この炎上で動かんことをみると重傷者やろう。あとは2、3反応があるけ、、、ヤバいっ!回避やっ!!>


 サポ助の叫びと共に、予測ラインとアラートがとぶ。

 そしてすぐに、目の前の巨大な炎と黒煙の柱は真っ二つ割れて、真空の地走りがオレを襲う。


 オレは、ダイブするように右側へと飛び退き、ゴロゴロと転がって難を逃れた。


 「痛ぅぅ、、、魔法か?」


 オレはすぐに体勢を整えながら、炎の向こう側にAR表示された人型を睨みつける。


 <ああ、これは予想以上の大物が残ってたみたいや。気付けや>


 ゆっくりと炎を回り込むように、こちらへと歩み寄る人型。

 オレはそれに銃口を向けたまま、視認するまで油断なく待機する。


 「クックク、、、やってくれたなっ、賊よ。戻って来てくれて嬉しいよ。我が名はエビス。クウカイ様の直轄、[六道鬼面衆]が一人、[妖魔鬼エビス]じゃっ!!」


 炎の柱より姿が見える手前で、歩みを止めることなく、一方的に自己紹介をして、右手を振り払うエビス。

 と、同時に予測ラインが飛び、先ほどと同じ[地走り]がオレを襲う。


 オレは右側に一歩、飛び退くと同時に[グライドシステム]を軌道して、違和感のない程度に横へ滑り、回避する。

 さらに、エビスへと向かって発砲する。


===バァッンッ!!===

====キンッ!====


 「なっ!」


 弾丸ははじかれた。

 だが、驚いたのは弾かれたことではない。

 弾いた装備に驚いたのだ。


 驚きでフリーズしてしまったオレは、エビスの一挙一動を見逃すまいと視線を強める。


 突然、エビスを守るように現れた[黒い三角錐]は、まるで生き物のように滑らかに動いてエビスのマントへと変化する。


 「・・・・・」


 「おや?なにかしよったか?クックク・・・下等種族ごときが、無駄なことを」


 余裕の表情で、挑戦的な敵意を放つエビス。


 距離にして20m。

 その姿は、思ったより若い。

 天高く突き出た二本の角。

 肌の色は青く、細身マッチョな長身。

 その顔つきは、怒りを抑えつつも、陰湿で歪みを感じさせる印象だ。

 紋付き袴のような服装で、その上に先ほどのマントがなびいている。


 <どうやら鬼族は、赤がパワー、青が魔力、緑はバランスの体質がありそうやな>


===バァッンッ!!===


 再度、発砲した。

 ほぼ同時に、マントは素早くその形を変えて、弾丸をはじく。


 オレはそのマントの動きに注目しつつ、マガジンを抜いて[リロード]をかける。

 そして、エビスがなにやら話しているが、それを無視して足首、右腕、左肩、眉間など、広く連射し続ける。

 銃声が響き続けるなか、マントは面倒臭くなったのか、エビスの全身を隠すような大きな壁へと変化した。

 そこでオレは片手で射撃を続けたまま、左手で手榴弾を具現化させて、エビス後方へと投げ入れた。



===ドォガァァンッッ!!===



 手榴弾が爆発する。

 エビスは、爆風に吹き飛ばされてゴロゴロと無様に転がっている。


 あれ、

 やっぱ、視界は塞がるの?

 つか、自動防衛?みたいだけど、手榴弾には反応しなかったな。


 [アクセレーター]全開の緩やかな時間。

 そんなことを考えながら、吹き飛ばされてゴロゴロ転がるエビスに向けて、さらに発砲する。


 <汚っ!やっぱツッコむわ!汚っ、流石にそれはマナー違反やろ!>


 へへへ

 ヤレる時に殺っとうこうと思って。


 一発目は腕へと命中したが、二発目以降はまたマントが起動して防がれた。

 傘が開いたように、姿が見えないエビス。

 やっと5、6回転してゴロゴロは収まったが、倒れたままでなかなか動かない。


 オレは、タバコを取り出して火をつける。

 そしてエビスがアクションを起こすのを、音を立てずに静観する。


 <なんでや?分かってるやろ、生きとるで。ここまでしといて押し込まんのか?>

 

 うん、こいつにもガソリンぶっかけてやろうかと思ったんだけど、、、

 あれ、欲しくない?


 <あ、やっぱり?ぺーはん、さっきからエビスなんか眼中にないもんな、マントばっかり見てるし>


 うん、欲しい。

 だから、装備を壊さないように殺そうと思って。


 油断はしていない。

 そんな脳内会話をしていると、エビスは倒れた状態のままで、巨大な火球を素早く放った。


===ボガァーンッ!!===


 火球は爆発して、小さなクレーターを作る。


 エビスはその様子に満足したのか、高笑いをしながらヨタヨタと立ち上がる。

 そして、天に向かって叫びだした。


 「こぉのぉぉ、キチガイがぁぁ!!!オレがまだ話してる途中に攻撃しやがってぇぇ!空気読めぇぇ、ボケェがぁぁ!!ハッ、ザマアミロじゃっ!粉々に吹き飛びやがった、クハハハハ、、、」


 両手を広げて、高笑いするエビス。

 そして、その頭が爆発した。


 ドサッ


 血を吹き出しながら倒れる体。


 その背後で、タバコをくわえながら銃口を下ろすオレ。


 「ふぅー、、、それにしても今回作った[グライドシステム][ミラージュ][サイレンサー]の相性は、予想以上にいいな」


 <うん、ちょっとボクもここまで使えるとは思わんかったわ。防御で視界を塞がれてるんを良いことに、気配消して、タバコ取り出しながらスゥー・・・て、背後までサイレント滑走。こんなん、レーダーなかったら気付く訳ないやん>


 「へへへ、だろ。おい、それよりあのマント、鑑定ステータス、よろしこ」


 <へーへー、チョット待ってや、、、あれ?マントちゃうな、本体はネックレスやわ。取り敢えず見てみ>



===================

名称:[巴百式](Dリアクター)

 概要:

 魔導国家[マジョリカマジョルテ]にて、魔導大戦以前に制作された失われた技術兵器。現在は、鬼族アコウが国宝として所有している。

 龍眼核をベースに、その高い魔力を循環させることで、常に[龍気]を噴出させることが出来る永久機関。

 用途:

 セラフ級巡行艦 シールド発生装置として採用。

 外部よりの意思により、その形状を任意に展開する。

 また余剰に魔力供給を行うことで[龍気]は濃密となり、その強度、面積を変更することも可能。

===================




 「・・・・・ふぅー、、、どういうこと?」


 思わぬ説明書きに、思わず思考が停止する。


 <うん、びっくりやね。簡単に言えば、魔導国家で大昔に作られたロストテクノロジーってヤツや。オーパーツか?ほんで、今は鬼族の国宝で、元々は戦艦のシールド展開装置やて。マジでかっ!・・・あのマントに見えてたんが[龍気]ってやつで、自由に形は変えれるし、魔力足したら堅くも広くもなるってことや。つか、戦艦のシールドって・・・めっちゃ小さいのに?>


 珍しくサポ助が動揺している。


 「ふぅー、、、元々の名前が[Dリアクター]、今は[巴百式]ね。シールド装置か・・・別にこれ一つで戦艦覆うって訳でもないだろ?つか、流石にダモクレスみたいに一部だけだろ」


 オレは頭の無いエビスの死体より[巴百式]を取り上げる。


 ってことは、自動防御ではなかったんだ。

 じゃあ、エビスが弾丸を見切ってやがったってことか?

 ・・・ヤッベー

 結果的にエビスが実力出す前に殺せたけど、まともに殺り合ってたらヤバかったかもしんねぇな。


 <ありゃ?プロテクト掛かってるわ。所有者登録かな、そりゃ誰でも使えたらマズイもんな。はい、解除♪さらに登録っと・・・あ、また[ジャイアントキリング]の称号入ってるわ。やっぱりかなり格上やったみたいやで。ほんで、エビスは自動防御やったよ。そういうスキルを持ってたみたいや。[巴百式]の能力ではなかったんは残念やね>


 オレは汚れを拭き取った[巴百式]を首からぶら下げる。


 細いチェーンに、手の平サイズのペンダントがぶら下がったシンプルなデザイン。

 エビスが死んでからは、怪しい靄を発する呪いのアイテムのようであったが、サポ助が登録を終えると同時に、靄が噴出してオレを包む。


 <ベースとなるイメージを登録したら、普段は内蔵魔力循環でそのイメージを保ってくれるみたい。マントみたいに質感もあるし、それなりの強度も標準装備やわ。そこからの変形、強度の増減はぺーはん次第って訳やね>


 ふむ、

 ベースとなるデザインか・・・


 「フフ、見るがいい、サポ助・・・これがオレの完成形態だっ!」


 謎のポージングと共に、黒い靄が爆発したように噴出したあと、ペンダントからは6枚のゲリオン的な黒い翼が生え残った。


 その姿が巨大な炎に照らされて、地面に延びる影の姿は、さながら上位天使か悪魔王サタンのようであったという。


 <アホかっ!足らんっ、アホかっっ!!なに考えてんねんっ!そんなバカデカい羽、生やしてどないすんねんっ!街歩くの?通行人の邪魔になるわ。建物に入る度に引っかかるの?目立ってどないすんねんっ!エビスの言うようにキチガイやないかっ>


 「フッ、今宵新たなる堕天使の生誕だ」


 ヴィジュアル系を意識する。


 <胸から羽、生やしてどないすんねんっ!胸毛か!>

 

 「え!?マジで?そっか、ペンダントから羽イメージしたから・・・よし、これでどう?」


 ペンダントを背中へまわす。


 <どうって・・・影、見てみ。カニやで、カニ。わぁ~、カッコ宜しいなぁ~>


 ・・・・・ホントだ。

 タカアシガニの、それだ・・・・


 「ふぅー、、、サポ助。リセット、して」


 <出来ひんよ>


 「なっ!ゴメン、冗談だよ、本気じゃないよ、ちょっっっとしたお茶目な出来心じゃんよぉぉ」


 マジで狼狽える。


 <・・・次は真面目にしいや。でないと、、、分かるな?>


 「イィエッサァ!ヤル、オレ、マジメ、フザケナイ」


 タカアシガニな影が敬礼ポーズをする。


 <ホンマに分かってんのかいな・・・>



 その後、真面目にマントを初期登録したが、ダサいと不評を浴びて、サポ助がデザインをやり直す羽目となった。





 


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