27:だが、殺すのはお前の殺意だ
===バァンッッ!!===
デザートイーグルの発砲音と同時に激痛が走り、意識が無理矢理に覚醒させられる。
「ぎゃがぁぁぁ」
その反動による激痛で、頭が回らない。
そんなオレを無視して体は勝手に動き、左腕より突き出た瓦礫を右手で触れて消していく。
さらに、下敷きとなっている瓦礫も次々に収納して消し去り、その1mほどの高さから地面へと落下する。
「グハッ」
再度、吐血する。
しかし、そんなボロボロの体など無視して、素早く立ち上がろうとするが、左足は折れていたようで、踏ん張りが利かずにまた倒れてしまう。
「ガハッ、、、さ、サポ助、、もう少し丁寧に、、」
<・・・・・・>
返事は返ってこない。
代わりに、唯一自由に動く右手で手榴弾を具現化する。
そして、迫り来る鬼族たちに向かって、リミッターを外した腕の力だけで、いくつも広く投擲する。
「ぐはぁ!」
この状態でそんな力を使えば拷問でしかない。
引き千切られるような感覚に気が狂いそうだ。
===ドガッドガッドガガァァンッッ!!===
連続して手榴弾が爆発する。
その爆音を聞きながら、意識が途切れそうになったところで、
=== ピコンッ ===
あの音が鳴った。
オレの体は素早く立ち上がり、発煙筒をいくつも具現化しては放り投げる。
すぐに複数の攻撃予測ラインが飛んで来るが、最短距離で崩れた城門の方向へと走って姿を眩ます。
そして、立ち塞がるように積み重なる瓦礫を、右手を伸ばして止まることなく収納しながら消していく。
さらに、後ろ手にした左手で、収納した瓦礫をそのまま後方へと放出しながら城壁の外へと走り去る。
視界を塞がれ、瓦礫で足止めされた鬼族には、オレが瓦礫をすり抜けたとは思えなかったのだろう。
その場に留まって、瓦礫に向かってダメ押しの攻撃や探索をしているようだ。
そしてオレは、山道を外れて森の中へと姿を消していった。
「ハァ、ハァ、ハァ、、、」
激しい息切れを整えながら、小さな崖の窪みに腰を下ろす。
2時間ほど経過しただろうか。
ひたすらに森の中を全速力で駆け抜けて、ザンダ採掘場の崖の裏側辺りにまで逃げて来ていた。
なぁ?
そろそろ返事くらいしてくれてもいいんじゃねぇか?
未だ全身の制御はサポ助に委ねている。
強く望めば制御権はオレに返って来るのだが、必至に対応してくれたサポ助に申し訳がなくて、向こうが言い出すまで待っていたのだが、
口を利いてくれない。
完全に怒ってやがる。
何度話しかけても反応すらしてくれない。
だから、悪かったよ、、、
頭が冷えた今ならよく分かる。
オレ、無謀でした。
完全に飲まれてました。
やっちゃいました。
サポ助いなかったら、絶対死んでました。
本当にすまなかったって、、、
<・・・ホンマに反省してるか?>
してる、してる、マジでしてるさ。
正直、実感したよ。
オレ、調子乗ってた、、、
テンカウント使って、ボッカンボッカンやったら大丈夫だろ、って。
それにゲーセンみてぇに、バンバン撃ちゃ、百匹だろうが、千匹だろうが、お前のサポートでなんとかなんだろって思ってた。
けど、やっぱ団体さんは無理だわ。
計略無しで正面からとか対応出来ねぇわ。
あ、タバコ吸っていい?
サポ助はなにも言わずに、すんなりと引いて制御権を返してきた。
「サンキュ」
タバコを取り出し、火をつける。
「ふぅー、、、本当に悪かったよ。そして有り難う。マジで感謝してる、、、オレ、やっぱりカッコ付けたかっただけかもしんねぇ。華麗に殲滅して、救出した人たちに感謝されて、ラキシスなんかにもスゲェって言って貰えるって、、、甘かったわ。全然ダメダメだったわ。なによりオレがビビってテンバって、お前のアドバイス無視でバーストしてたわ、、、ゴメン、だから本当に反省してるし、感謝してる」
舞い上がる煙を見つめながら、懺悔するように呟く。
<はぁ、ホンマにアホやでペーはん。分かったっ!もうボクもクドクド言わん。これを機に、ぺーはんは冷静な戦い方を学んでいこっ。ほんで、ボクも悪かったわ、スネてたし、なにより痛かったやろ?>
「ぶふっ、お前、痛かったレベルじゃねぇぞ!なにあれ?未だに感覚残ってるんですけど。トラウマ?腕からなんか生えてたし、足なんてポキッて折れたし、あれ、多分、内蔵もいってたよね?無茶しやがって」
<そら、しゃーない。自業自得や。あの場合モタモタしてたら殺されるし、もうレベルアップ回復に賭けるしかなかったもん>
そらそうだ。
言い訳の余地もねぇ。
ふと、視線を外へとやると、日が傾きだして夕日へと変わっていた。
「ふぅー、、、もう二度と味わいたくねぇよ。はい、ゴメン、その通りっす。以後気を付けます」
オレはストレージから、暖かいコーヒーとホットドックを取り出してムシャムシャする。
<ほんで、どうする?遠回りして帰るか、もうちょっと、ほとぼりが冷めるまで待つかやと思うんやけど>
「んぅなもん、決まってんじゃねぇか!やられたらやり返すっ、倍返しってやつだ」
<アホかっ!なんも反省してへんやんけっ!?死ぬの?死にたいの?ついでに言ったら、やりだしたのはペーはんで、倍返しされた側やからな>
「ぐふっ」
その指摘に喉を詰まらせて、むせてしまう。
「ハハハ、その通りだわ。まぁ、それはどっちでもいい。ただ、アイツ等は許さねぇ。目標を駆逐するっ」
ドヤ顔で言ってみた。
<遊んでるんとちゃうで。懲りてないんやったらボクも、>
「まぁ聞けって。ちゃんと分かってるよ。そんな正面から立ち向かう訳じゃねぇって。ほれ、思考読めんだろ?だから、こうこうこうして、、、」
<汚っ!ようそんなん思いつくなっ!チョット引くわ、、、けど、らしいなってきたやん。それでこそジュンペイはんやで>
コーヒーを啜りって、再度タバコに火をつける。
「汚って言うな!ふぅー、、、格調高く、卑劣と言ってくれたまえ」
<んぅなもん、どっちでもいいわ。つか、ボクが脱出の時に使ったストレージの使い方も、元々は全部ぺーはんが検証であみ出したもんやん。冷静にしとったらそんなトリッキーな発想が出来るんやから、そのスタイル大切にしいや>
「ふ、言われなくとも希代のトリックスターってヤツに、オレはなるっ」
<大好物やもんね。怪盗とか、探偵とか、そういう伊達なヤツ>
オレは立ち上がり、体を伸ばす。
「さて、そろそろ日も暮れてきたことだし、仕返ししに行きますか」
数時間後
月が明るい、よく晴れた深夜。
「ゼェ、ゼェ、、、」
道無き山を登っていた。
<そろそろ頂上やね。見えてると思うけど、11時と2時の方角に見張りのゴブリンがおるで>
オレの視界はARによるポリゴン表示だ。
いくら月明かりがあるとしても、木々が生い茂る山の中では暗闇でしかない。
そこに分かり易く色違いで、ゴブリンのシルエットが左右に表示されている。
まぁ、ここまで来たら無茶したところで計画に支障は無いが、ここは出来るだけ静かに事を済ますとしようか。
二匹とも距離にして20m
11時側のゴブゴブは地面に座り込み、なにかをしゃぶりながら暇を潰している様子だ。
2時側の、少し大きいのでホブ?ゴブリンは、木にもたれ掛かって、少しウトウトしているかもしれない。
彼等のターゲットは灯りだ。
まさか暗闇のなかで、ここまで登って来る者がいるとは思っていなかったのだろう。
オレは[テンカウント]を使用して、アーチェリーの弓と矢を具現化する。
そして30%の力を解放しながら、サポ助のアシストに従って2時のホブゴブへと矢を放つ。
「グギャッ」
見事喉元に命中する。
短い悲鳴と同時にホブはのたうち回り、その音に異常を感じた11時のゴブゴブが立ち上がり警戒する。
オレは矢を放つと同時に気配を消すのを止めて、全速力でホブへと走り寄り、腰に下げている黒鉄の短剣で、のたうち回るホブにとどめを刺す。
そして11時のゴブゴブを見ると、慌てて腰布に掛けた小袋より、笛のような物を取り出しているところだった。
オレはすぐに50%の力を解放して、短剣を投げつけた。
しかしゴブゴブは、笛を吹くより飛来する短剣をかわすことを優先したようで、ギリギリでかわされてしまう。
だが、その際に笛は取り落とし、それを拾うか、こちらを警戒するかでギィーギィー言っている。
オレはゆっくりとゴブゴブへと歩み寄る。
そして距離にして10mほどのところで、右手を振りかぶると同時に[テンカウント]でナイフを具現化して投擲する。
さらに、左手でも同じようにナイフを投擲して、それを交互に10本以上のナイフをゴブゴブへと素早く突き刺していく。
スキルの力は偉大だ。
奇術師のスキルにある[両利き]や[投擲]。
さらにサポ助合体によるリミッター解除や補正により、まるで人間が大好きな情報屋のようなナイフ投げが可能だ。デラララァァ~
<お疲れ。けど、ちょっと面倒なやり方選んだね?弓で素早く二射いけたんとちゃうか?>
オレは息絶えたゴブリンを見下ろしながら、タバコに火をつける。
「ふぅー、、、圧勝・・・いま、オレが求めているのはカッコいい圧勝なのだ。男なら、そういったロマン、、、分かるだろ?」
細く煙を吐き出し、憂い顔でそう言った。
<ダサ。つか、真面目にしぃや。単純にさっきの大失敗からの自信が欲しかっただけやろ?>
「ダサっていうなっ、OLかっ!まぁその通りなんだけど。楽にいこうぜ、ここまで来りゃぁ勝ったも同然さ」
オレはタバコをふかして、そんな馬鹿話をしながら、後少しの頂上目指して登っていく。
「ぐひゃ~、、、結構、高いねぇ」
すぐ目の前の崖下が、ザンダ採掘場である。
裏側へと逃げてきたことで、オレはそのまま採掘場の反対側より崖の上へと登ってきた。
見下ろした高さは、ざっと50m以上は有りそうだ。
深夜だというのに篝火を焚いて、なにやら慌ただしい様子が見て取れる。
そりゃ城門潰して、オークとかも数十匹は殺っちゃったしね。
ここはU字型の崖の、右寄りの崖の上。
オレはタバコをしっかり消してから[テンカウント]で[20Lの携行缶]を具現化する。
そして[リロード]を掛けてから、採掘場の出口となる城門の方向へ、50%の力を解放して高く放り投げる。
「ハハ、、、地獄にしてやんよ」
放物線を描く携行缶は、10秒後、空中で消滅するが、[リロード]により補充されたガソリンだけが雨のように採掘場へと降り注ぐ。
===ドガァァンッ!!===
一気に崖下が明るくなる。
同時に熱風と黒煙が立ち上り、鬼共の悲鳴が崖に反響する。
「ギャハハハ、、、死ね、死にさらせぇ」
何度も何度も繰り返して、ガソリンの雨を採掘場の隅々まで降らし続ける。
<さすがに引くわ、、、完全に悪者やな>
だまらっしゃいっ
悪者上等
命の取り合いだ!
下手に哀れんでも仕方ねぇだろ
もう、目の前には巨大な黒煙の柱しか見えない。
頭の中ではレベルアップのチャイムが何度も鳴っていた。
「ハァァァ、疲れた、、、、、帰るか」




