26:悲しいなぁ
多数の攻撃予測ARラインが、四方より飛んで来る。
それを避けきる隙間など、存在していない。
「チッ」
ストレージに仕舞ってある2mほどの大岩を盾代わりに正面へと取り出して、難を逃れる。
<ヤバイで、このままやとジリ貧や>
岩の陰より素早くデザートイーグルで反撃しながら鬼族どもを削っていく。
「うっせぇぇ!殺すっ!!コイツ等、皆殺しにしてやんよっ!」
少しまえのこと
「、、、あれ?思っていたより、要塞化されてないか」
オレはいま、コーヴァの街より3日ほど移動した[ザンダ採掘場]へと来ている。
ラキシスと別れた後、オレが考えたのは黒幕への嫌がらせだ。
状況から考えると、黒幕と鬼族の間では膠着状態になるよう、打ち合わせが行われている可能性が高い。
今回の視察のタイミングで何かが起こるにしろ、なにも起こらずに終戦への流れを作るにしろ、[膠着状態]なのがポイントのはずだ。
鬼族側は大物である五氏族、知将[クウカイ]まで起用している。
アシノミヤ側は聞く限り、誰でも黒幕となりえそうなのだが、その[クウカイ]を理由に、決戦を避けるよう誘導していることに間違いはないだろう。
じゃあ、ここで鬼族側に、無視出来ないダメージを、アシノミヤ側より加えたとしたら?
困るでしょうねぇ~
クウカイさん、激オコプンプン丸でしょうねぇ~
あれ、死語?
う、裏切ったかぁぁ!とか言って、下手したら挙兵しちゃったりして。
黒幕さんも、ち、違うのですぅ!誰かが勝手に、って、クウカイに連絡取らざる得ない状況になるんじゃないかな?
となると、それこそ視察期間中、御前試合なんかで多少危険な橋を渡ってでも、お互いに動く可能性が高くなるって寸法な訳さ。
一応、この戦争の元凶と言われている[ザンダ採掘場]。
鬼族は黄金などの光物が大好きで、戦争とは関係なく慢性的にここが戦場となることが多い、とは聞いている。
つまり、鬼族が一番欲しがっている現場という訳だ。
なら、ここでビシバシ暴れてやるぜって、軽い気持ちで来てみたのだけど、、、
思いの他、鬼族の規模が大きい。
アシノミヤ領であるはずの[ザンダ採掘場]。
開戦の引き金となったのは、この[採掘場、及び採掘村]の虐殺による不法占拠。
聞く限りそれは、半年から長くとも1年くらい前までの出来事のはずだ。
だが、目の前に広がる光景は、
[村]なんてものはどこにもない。
もちろん、壊滅した[村の跡]という意味だ。
サポ助、場所が間違ってるってことは無いんだよな?
<うん、ちゃんと詳細地図はインストールしてるし、細々した情報もラキシスちゃんのコンソールから抜き出してる。それらと照らし合わせてみても間違いない。つまりここが[ザンダ採掘場]であり、襲われた[採掘村]で間違いないよ>
[ザンダ山]を少し登ったあたり。
岩面が剥き出しとなった崖の麓が、ここ[ザンダ採掘場]となっている。
そして、Uの字型の崖の中心に採掘村があったはずなのだが、目の前にはそんな名残など感じさせない軍事施設のような砦が待ち構えていた。
「こんなの、半年や1年で作れる規模じゃねぇぞ」
思わず声が漏れてしまう。
素人目にも早急に作られた砦には見えない。
崖をぐるりと半円状に囲う高さ5mほどの城壁の上では、ゴブリンやオークが巡回をしている。
数は分かるか?
<坑道の中までは分からんけど、少なくともこの砦の中には千はおるよ。こんなん、もう拠点やで。城と変わらんよ>
うん、そう思う。
こりゃ、思ってた以上に黒幕と鬼族の繋がりは深く、根強い関係が結ばれているのかもしれない。
そして、図らずともここまで大掛かりな砦と化しているこの採掘場は、もしかしたらその繋がりの心臓部の可能性が高い。
うん、無理だ。
もっと風通しの良い廃村で、鬼族どもがエッチラホッチラ採掘に勤しんでいるところを、散らかしてやるつもりで来たが、こりゃ無理だ。
けど折角だし、無理はせずに周辺をもう少しだけ探って帰るとしますか。
オレは今、砦の正面、数百m離れた木の上から見つからないように、砦を観察している。
いくらサポ助のアシストが入ってるとはいっても、なかなかに高所は怖いものだ。
だが、ここからでは城壁の中までは確認出来ない。
少し周辺を見て、どこか良いポイントはないかを探ってみる。
「、、、あそこなんて、どうだろう?」
それは正面から見て右側の崖。
見つからないように大回りに行けば、その中腹あたりから砦内を見下ろすことが出来る。
<逆に言うとあそこしかないな。けど、ボクには罠にしか見えへんわ。鬼族もアホとちゃうで。わざとあんな見下ろせるポイント残して、そこに誘導しているように思うけど>
確かに、、、
言われてみれば、そう見えてくる。
あれ?
詰んだ?
じゃあ、もうやれること無いじゃん。
、、、帰ろっか。
もっとラキシスに褒めて貰える成果を挙げたかったが、仕方がない。
素直に帰ろうと決意したところで、新たな反応がマップレーダーに引っかかった。
オレの後方、砦とは反対側。
運搬と思われる鬼族の大きな荷台が三台。
緑色のオーガやオーク達により、砦の正面入り口へと向かって来ている。
流石、脳筋マッチョな集団。
数人掛かりで、御輿を担ぐように大きな荷台をフンガフンガ運んでいる。
オレは木の上の枝に立ったまま、見つからないように潜伏して、その一団が通り過ぎるのを息を殺して様子を見ていた。
足下を通り過ぎる一団。
運んでいる荷台は大きく、屋根がないので積み荷が丸見えだ。
そして、三台目の荷台を見下ろしてギョッとする。
人だった。
正確にはエルフや獣人、ドワーフなどの亜人も含まれているが、30人以上が寿司積め状態で運ばれている。
一様に生気は無く、その服装から旅人や商人、どこかの集落からさらわれて来たと推測出来る。
<あかんで。残酷なようやけど、そんな見ず知らずの人のために命は張れんで>
飛び出しそうになるオレを、サポ助が冷静に窘める。
「・・・わーてるよ」
そんなオレの葛藤を余所に、一団は真っ直ぐに正面の門へと近付くと、砦の鬼族より歓声が上がる。
その歓喜の声に苛立ちを覚えながら、地面へと降りていると、一団は入城して勢いよく門は閉ざされてしまった。
オレは尻ポケットよりタバコを抜き出す。
「ふぅー、、、、、」
見つからないよう木の裏側にもたれ掛かって、この苛立ちを沈めようと、自分を正当化しながら気持ちを押さえ込む。
その時、
「「「「ギィィアアアアァァァッッ!!!」」」」
聞いたこともない大絶叫が鳴り響いた。
「ぐっ」
こんな時、マップレーダーの存在が裏目にでた。
オレの脳裏には、青い光点の集団に、複数の赤い光点が群がっているのが分かる。
そして、チリジリに青い光点を引き離しては、その光点を消していく。
<、、、分かった。もう止めはせんわ。けど、いよいよヤバイと思ったら、ボクの判断で全身制御して離脱するよ。それでもええか?>
さすが相棒。
オレの心情を汲み取って、先回りしてきた。
何度でも言うが、オレに英雄願望は無い。
さらい言えば、この感情は偽善ですらない。
ただ、その正義感を利用して、無茶苦茶に自分の力を試したいだけのガキなのかもしれない。
オレは姿を隠すのは止めて、タバコを吸いながら砦への道の真ん中を歩き出す。
「ふぅー、、、頼りにしてるぜ、相棒」
[隠者の外套]のフードを被り、正面の門へと歩を進める。
この一ヶ月でレベルは2つ上がっている。
新たに得たものと言えば、称号[魔導姫の救済]と[モデリング]を掛け合わせて作ったスキル[テンカウント]のみである。
門が近付いて来た。
相変わらず、悲鳴や癇にさわるゲスい声が上がっている。
城壁の上の見張りは全員、内側のその光景を眺めているようだ。
城門の前に立つ二匹のオークも、警戒することなく、葉巻を吸いながら談笑している。
距離にして10m
やっとオレの足音に気付いたオークが、慌てて話し掛ける。
「ブっ!な、なに者だブ!?そこで止まれ」
オレは言われた通り足を止め、二匹のオークに一つずつ、鉄の塊を優しく投げ渡した。
「ん?なんだブ?ゴツゴツした鉄だか?おい、これはなん、」
===ドォガァァァンッ!!===
二匹のオークと共に、城門は半壊する。
ー[テンカウント]ー
称号[魔導姫の救済]×劣化[モデリング]で制作。
系統:具現化系スキル。
Fランクまでのアイテムを、10秒間のみ具現化。
10秒後には消滅する。
地球のアイテムが、この世界でランク外だということは、デザートイーグルを手に入れる際に証明された。
ならば、そこを利用して、もっと利便性の高い、応用力のあるスキルをテーマに、サポ助と検討しながら制作したスキルだ。
極限まで具現化出来る物のランクを下げ、10秒間という縛りを持つことで、タイムラグ無しのMP低コストで、ポンポン具現化することが可能となった。
本物のライトセーバーのような架空の物は不可能だったが、地球に現存するアイテムなら多分大丈夫だ。
オレの曖昧な記憶でなぜ?とも考えたが、そこはサポ助のアシストが加わっているらしい。
ただし、車などの大きな物は出来ない。
検証の結果、オレが両手でギリ持てる物あたりが、線引きだと考えている。
他にも、応用した使い方など研究して、ラキシスの部屋でのトランプやアズベル戦での煙幕、目覚まし時計などにも利用していたのだ。
だからオレはこの力を使って、なにも言わずに門番のオーク達へと手榴弾を投げ渡したのだ。
この世界では、手榴弾がどんな物なのかを知っている者はいないので、無警戒で受け入れてくれる。
いくら10秒で消滅するとしても、その前に爆発してしまえば、それはただの手榴弾でしかない。
爆音と同時にオークは弾け飛び、木材や石で出来ている城門も半壊している。
さらに、見張りがいた城壁の上にも手榴弾ポイポイ投げ入れる。
===ドォガァドォガガァァッ!!===
連続した爆音のあと、この城門付近は半壊して、頑丈な鉄製の門が音を上げて倒れ落ちた。
煙と砂埃で視界を遮られるなか、オレの目にはARで表示された軍勢が慌てふためいているのが分かる。
オレは新しいタバコに火をつけ、倒壊した門を踏みつけながら、堂々と砦内に進入する。
そこには、グランドのような広場がすぐに目の前に広がっており、対面には坑道と思われる大きな洞窟が口を広げている。
そして左右には住居や加工施設と思われる建物が乱立して、グランドの中央付近には先ほどの荷台と、連れて来られた人族が転がっている。
女性はその場で犯されて、男性はすぐに殺されてしまったようだ。
首をはね、血抜きをしている様子から食料兼慰み者として連れて来られたのだと推測する。
「ォオエェェェ、、、、」
我慢できずに、少しだけ嘔吐する。
確かに、豚や牛が人間の加工場を理解出来れば、こういった感情になるのだろう。
ファンタジーものなら、オークを食べたりする訳だし、つか、この世界でもオレが知らないだけで、もしかしたら食べたりしているのかもしれない。
だが、、、割り切れるものではない。
オレは女性の近くで、下半身を丸出しにしているオークを狙撃する。
さらに、その周りにいるゴブリンやオーガなどに狙いを集中する。
<ペーはんっ!>
サポ助の警告と同時に、複数の攻撃予測ARラインが飛んで来た。
すぐに、左側の建物へと走りって、物陰に隠れて難を逃れる。
「ハァ、ハァ、、、」
敵の攻撃が止む。
呼吸を整え、バースト状態の自分を自覚しながらも、焦りと興奮で思考が停止していた。
<あかん、ぺーはん、正面から立ち向かいすぎや!煙幕張るなりして攪乱せ、>
「「「「「ギャァァァ!!!」」」」」
またも、大絶叫が響く。
冷静に忠告するサポ助の声を上塗りするように、鬼族どもは中央にいる人族を先に殺しにかかりやがった。
「クッソォォ!!」
後から思えば、なにをそんなに激怒したのか分からない。
もしかしたら心のどこかで、都合良く救出して、感謝される自分を想像していたのかもしれない。
オレは物陰から飛び出し、目に付く鬼どもを射殺していく。
だが、この虐殺は、オレを炙り出すための罠だったのかもしれない。
待ち構えていたように、すぐに多数の攻撃予測ARラインが、四方より飛んで来る。
それを避けきる隙間など、存在していない。
「チッ」
ストレージに仕舞ってある2mほどの大岩を、正面へと盾代わり取り出して、難を逃れる。
<ヤバイで、このままやとジリ貧や>
岩の陰より素早くデザートイーグルで反撃しながら、鬼族どもを削っていく。
「うっせぇぇ!殺すっ!!コイツ等、皆殺しにしてやんよっ!」
再度、反撃に出ようとしたところでギョッとする。
直径2mは有りそうな巨大な火の玉が、こちらへと飛来していた。
「うおぉぉっっ!」
オレは慌てて、後方へと飛び退ける。
数は少ないが、鬼族にも[メイジ]はいる。
火炎魔法の中級クラスの魔法だ。
===ズガァァァンッ!===
大岩へと着弾して、粉々に砕くほどの爆発が起こる。
オレはその爆風に巻き込まれて、後方の崩れた城壁へと吹き飛ばされた。
「グ、グバッ、、、」
吐血する。
一瞬、どういう状況なのか分からなかった。
全身を瓦礫で打ち付けて、どこが痛いのかも分からない。
霞む意識のなか、視線の先では鬼族の兵隊がぞろぞろとこちらへと向かって来ている。
なんとか立ち上がろうとするが、左腕は動かずに激痛が走る。
視線をそちらへと確認すると、二の腕から尖った瓦礫が突き出していて串刺し状態となっていた。
「ぐ、、、チクショゥ、、、、、」
オレは、意識を失った。




