25:吐いたツバ飲まんとけよ
「・・・アナタの差し金で、間違いないわね?」
サブマスター執務室。
オレは正座をさせられて、イスに座るラキシスと向かい合っている。
目の前には、青虫のように[へ]の字の体勢で、半ケツを出して、白目をむいたアズベルが、泡を吹いて転がっている。
顔だけがこちらを向いているが、ボコボコに腫れすぎて一瞬アズベルだと分からなかった。
「答えなさいっ!」
グチャッ!
イスに座るラキシスは、そんなアズベルの顔面をヒールの付いた靴のままで踏みつける。
「ひっ!、、、そ、その、まぁ確かに、アドバイスをしたって言うか、相談?に乗ったっつうか、、、いやぁ、悪かったよ。アズベルが、まさか本当に実行するとは思わなくてよ」
「、、、そ」
短い返事で、ゆっくりと立ち上がるラキシス。
この悲惨な光景に、エロい展開などはなく、10・0で一方的にアズベルがボコボコに返り討ちにされたなのは明らかだ。
しかし、あの奥手なアズベルが積極的に求めて来たことには、きっとラキシスも内心ではオレに感謝することだろう。
こちらへとゆっくり歩み寄るラキシス。
あれ?
キングスナイトでもアズベルにダメージ与えられないんじゃなかったの?
ぎゃはは
普通に嫁にやられてんじゃねぇか
ま、アズベルもわざと攻撃食らって、、、
そんな甘い考えをしてると、いきなりローキックで壁へと吹き飛ばされた。
「グヒャッ!、、、へ?」
その衝撃と驚きで、声を出せずにいるオレに、ラキシスは鉛筆を一本、半分に折りながら、ゆっくりとオレへと近付き、オレの顔を持ち上げて、こう言った。
「食べなさい、、、飲み込むまで許しません。吐き出せばもう一本追加します」
「ひぃぃっっ、、、」
口に入れる度に、殴りつけるラキシス。
4本目あたりで気を失ったが、気が付くと、オレの鼻の穴に鉛筆を差し入れているところだったので、再度気を失った、、、
「も、もも申しわわけえええ、、、」
一遍の曇りなく、心の底より謝罪する。
血だらけの執務室で、ガクブル震えながら土下座するオレ。
ビーバップ的な制裁に、心どころか尊厳まで折れてしまい、ろれつが回らない。
元シスターと聞いて先入観からラキシスのクラスは、癒しの[ヒーラー]かと思っていたが、どうやら物理たっぷりの[バトルモンク]なのだそうだ。
先入観って怖い、、、
ドラ○もんの髭のように、鉛筆が突き出たモザイク必至のオレのホッペタを、ラキシス自らで癒してくれたが、心までは癒してくれない。
「もう一度、初めから説明してくれるかしら?」
4度目である。
オレがアズベルに言った内容を、一字一句再現させられている。
もうなにも考えられない、、、
ただ、ひたすらに質問に対して、機械的に答えていく。
そうして数十分、、、
心の均衡が保てるまでに回復したオレだが、ラキシス様に対しての絶対服従心は刻み込まれたままだった。
「それで、彼について分かったことはあるのかしら?」
「はっ、彼は生粋のオナリストであり、恐れ多くも偉大なるラキシス様をオカズに、トイレでひ、」
「フザケているのかしら?質問の意味、分からない?」
サブマスターの大きな机を挟んで、体操のお兄さんバリの直立姿勢で報告をするオレ。
アズベルは、少し前に裏の馬小屋へ捨ててくるよう命じられたので、ちゃんと捨ててきたので、ここにはいない。
机の引き出しより、鉛筆を抜き出すラキシス。
「ヒィィッ!ノ、ノォ、サァァ!!ま、まさか、先行してお忍びでギルドにいた事には驚きましたが、対象よりの接触に、予定を早めて私なりに探りました。この度の先行も、過去の度重なる単独行動の理由も、純然たるエロ心から来るもので、恐れ多くも偉大なるラキシス様とのワンチャンを狙ってのこと。間違いなく思考の大半は、脱童貞にあることから、国家転覆などの動機は皆無と言えます」
仰け反り過ぎて、天井に向かって報告をするオレ。
「・・・フゥー、、、そ。ふざけた話だわ。つまり彼に疑いは無く、その身勝手な行動を利用している者がいると?」
タバコを一息吸って、思案するラキシス。
その表情に少しだけ安堵の色が見える。
「イィエッサァァー!良くも悪くも対象の存在は目立ちます。その都度、理由を付けて姿をくらます対象は、暗躍する者の隠れ蓑として利用されたのだと愚考いたします。ゆえに、ここからは推測が入るのですが、さり気なく対象に疑いを向けることが出来るのは、彼に近しい存在、、、この度の視察団のメンバー内にいる可能性は高いと考えます」
「同感ね、、、彼はそんなことに利用されているだなんて、気付きもしないでしょうね。有り難う、アナタのように余計な先入観の無い意見は貴重だわ。引き続き、内定調査をお願いね、、、楽になさい」
信じてはいたが、不安はあったのだろう。
第三者のオレの意見に、嬉しさは隠せないようだ。
以前オレが進呈したタバコではあるが、緊張感を解す意味で勧めてくる。
「ふぅー、、、真面目な話し、まだ聞いていなかったけど、ラキシス個人としてはこの一連の流れをどう考えているんだ?」
勧められたタバコは遠慮し、自分のタバコに火をつけて、真面目モードでラキシスに問いかける。
以前は、フェルディナンド辺境伯爵もいたので、概要でしか話をしていない。
「フゥー、、、それこそアナタには軽率に先入観を与えたくはないのだけれど、、、そうね、アナタなら使い分けは出来そうね、、、フゥー、私もフェルディナンド卿も正直なところ茶番だと考えているわ。アナタにも分かったでしょ?アズベルにそんな腹芸は無理よ。彼を知る人なら誰だってすぐに分かることだわ」
これを機に自分の考えをまとめるように話し出すラキシス。
「ふぅー、、、それは妻としての意見かい?」
「フ、手厳しいわね、、、けど、そうではないわ。そもそもアズベルは国になど執着はしていないの。彼が師匠と住んでいた[ロックゥ山]が、たまたまアシノミヤ領というだけで、彼も師匠も人間が勝手に作った縄張りになど興味はないのよ」
「?、どういうことだ、話が見えないぞ」
「あら、その辺の話は聞いてないのね。彼の師匠は堕天使[ルシフェル]。元々天界に住んでいた神族なのよ。私たち人族の文化に触れて、地上へと降りるために、天界の法を犯してまで堕天した方だと聞いているわ。彼は大変人族を愛して下さり、自らが持つ[未来を見通す力]を使って人々を導いて下さったの。でも、ある時、力に溺れてしまった人々を戒めるように、捨て子だったアズベルを引き取って山へと籠もられてしまったのよ」
・・・・・・
・・・・・・犯罪の臭いしかしない
堕天使ルシフェル、、、
だって、アレだろ?
師匠が作る芸術作品って、美少女フィギアや薄い本のことだろ?
人族の文化ってのは、つまりは萌えで、神の怒りを買ってでも堕ちやがった筋金入りのオタクだろ?
さらに、取りようによっては、アズベルみたいな主人公系美少年を[未来を見通す力]を使って探していて、見つかったから、お持ち帰りしましたってことでしょ?
なんだろ?
オレには、そうとしか聞こえないぞ、、、
堕天使ルシフェル(笑
フッ、なんともくだらない野郎だ、、、
是非一度、会って話してみたいものだぜ、、、
「なるほどな。そんなアズベルが国家間の謀に奔走するはずがない。そのへんはアズベルを知る全ての人が感じているってことか、、、ふぅー、、、なぁ?少し話が脱線するけど、鬼族[アコウ]との戦争ってずっとこんな小競り合いばっかなのか?」
では、なんのために?
どんな立場の人間ならアズベルを利用して都合が良い?
それにより、どんな展開を望んでいる?
推理の基本である犯人の思考をトレースするに当たって、背景となっているこの戦争のことが気になった。
そのオレの切り返しに、ラキシスは少しだけ驚いた後、嬉しそうに微笑んだ。
「鋭いわね、、、そういうことよ。さっき言ったように、それを含めて私も卿も茶番だと考えているの。鬼族との小競り合いは、なにも戦争が始まって開始された訳ではないわ。彼らとは種族の違いから、大昔より争いは絶えなかったの。けど鬼族は野蛮で低脳な者こそ多いけど、街へ行けば[一本角]のオーガが大半を占めるわ。彼らは理性的で人族と同等違いはないのよ。さらに言えば、鬼族では種族間の争いは皆無なの。王である[鬼神]を中心に、政や商業は[一本角]のオーガが、武将や戦ごとは[二本角]のオーガ。そして兵隊や様々な人足として[ゴブリン、オーク、トロール]などがいるわ。そしてそんな彼らに差別の概念は無いの。お互いにそれぞれの役割を尊重して、尊敬し合っているわ。つまり、私たち人族なんかより、種としてあり方が理想的だと言えるわね」
世間知らずなオレに、ラキシスはまず鬼族についてから語り出す。
「ふぅー、、、それは余り知りたくなかったな。少し鬼族のことを好きになってしまいそうだ」
「あら?それは大きな間違いよ。あくまで種族としての特性の話しよ。つまり彼等は鬼族以外のことはどうでもいいの。蟻や蜂やバッタと違いはないわ。つまりは侵略者、インベーダーよ。それでも彼らが好き?」
クスクスと笑うラキシス。
どうやらこの返答は誘導されたもののようだ。
「まいった、その通りだな。安心して躊躇わずに殺せるよ」
オレは肩をすくめて降参の意志を示す。
「フフ、それで開戦の話しなのだけれど、アシノミヤ王国より宣戦布告をしたのが半年前。それと同時に国境であるこの[モザークの森]を抜けた先にある、アコウ軍の前線基地[ズマ城]へと大規模進軍を開始したわ。けれど両軍が大きくぶつかることはなく撤退することになるの。理由は最前線のその小城に、鬼族五氏族の一人、知将[クウカイ]が防衛についていたことにあるわ」
壁に掛けられた周辺地図を指しながら分かり易く説明するラキシス。
「そいつがいるとヤベェのか?」
「無理ね。そもそも小城ではあるけど[ズマ城]は百年以上最前線を維持してきた難攻不落な名城。そこに本来、首都[アコウ]で鬼族全ての軍事を統括するほどの切れ者よ。戦力差こそアシノミヤ軍が有利だったとしても、悪戯に兵を消耗するのは目に見えていたので、撤退は英断と言えたわね」
拳を振り上げたはいいが、下ろすことが出来ずに膠着状態。
鬼族も喧嘩を売られたのに、なぜか積極的な動きは見せずに防衛を決め込んでいる。
簡単にまとめると、それが現在の状況なのだそうだ。
茶番、ね、、、
なるほど
結果だけ見れば、確かに双方の被害は少ない。
ポイントとなるのは知将[クウカイ]の存在。
奇襲を仕掛けたはずなのに、首都にいるはずのクウカイが最前線で待ち構えていたことにある。
これが何者によって描かれたものだとするのなら、鬼族側はシンプルだ。
座して待つことにより、クウカイが動く程の利益がアシノミヤより約束されているのだろう。
では、アシノミヤ側の思惑は?
「ふぅー、、、なぁ?アシノミヤ側からの宣戦布告における大義名分は?」
「度重なる領土侵犯、及び不法採掘。それと、採掘村での虐殺が引き金ね」
オレは地図の前へと立ち、ラキシスは机に腰掛けて天井をみながら、お互い背中合わせでタバコをふかしながら考えをまとめていく。
「進軍を指揮したのは?」
「総大将は[第三王子ファウスト]殿下。けど、実質指揮をされていたのは[金獅子騎士団団長ヴァーミット]様。あと取り巻きの貴族の兵団も多くいたのだけれど、その貴族を取り纏めていたのが[レイダー侯爵]ね。あ、聖護騎士団と団長[アズベル]もいたわね」
「最前線である、ここコーヴァから撤退したのは?」
「3ヶ月前ね。防衛を担当されているフェルディナンド卿に最低限の兵を預けて、さっさと帰って行ったわよ。お金が掛かるのよ。出兵には」
「ふぅー、、、今回の視察団のメンバーは?」
「全員来るわね。警護は金獅子騎士団と聖護騎士団が担当。フゥー、、、あと、大臣[ロンドワール]卿も加わるはずよ」
「スケジュールは?」
「滞在は1ヶ月を予定。周辺やズマ城を視察されたのち、今後の方針を城に持ち帰って検討されるそうよ。御前試合は三週間目だから、ちょうど今日から1ヶ月くらいかしら」
「ふぅー、、、」
「フゥー、、、、、、あら?もういいの」
先入観を無しにしても、ラキシスやフェルディナンド伯爵の結論はよく分かる。
十中八九、ヤラセなのだろう。
だが、アシノミヤ側のメリットが見えてこない。
どう考えても国としての利益を目的としているとは考えにくい。
個人の利益、、、
では、なぜアズベルに疑いを向けた?
黒幕が唯一動いた事例だ。
必ずこれには意味があるはずだ。
人気者のアズベル、、、
野心が無く、人望は厚いが、謀などには無警戒。
都合が良かったといえばそれまでだが、もし、アズベルでないとダメだと仮定するのなら、、、
少しずつ、アズベルの単独行動を利用して、周囲に疑惑の種をまいていく。
それは自分の行動から目を背けさせるための隠れ蓑、、、
いや、違う。
前振り?、、、だな。
彼の人気を反転させるための助走と考えれば、
そうすることが、自分の利益に繋がるのだとすれば、、、
今回の視察でアクションが起こる可能性は高い、
、、、なんて
分かるわけねぇよ
それっぽい感じで推理したところで、先回りなんて出来る訳ねぇよな。
なら、確実なところから動くべきだ。
間違いなく、黒幕側が迷惑する嫌がらせ、、、
「、、、ジュンペイさんっ!聞いているの?」
思考の海に沈んでいたオレを、ラキシスが呼び覚ます。
「あ、わりぃ、聞いてなかったわ」
鉛筆を取り出すラキシス。
「ヒィィ!悪かったって、、、それよりさ、御前試合まで1ヶ月くらいあるんなら、オレ、ちょっと街から離れていい?」
いぶかしむラキシス。
「いや、ちょっと用事を思い出したんだよね。たぶん間に合うように帰ってくるからさ」
タバコを灰皿へと差し、外套を手にして扉へと向かう。
「ちょっと、話は終わってないわよ。説明してからに、」
勝手な行動を取ろうとするオレを呼び止めるラキシス。
「ラキシス。怖がってないで、ちゃんとアズベルに抱かれてやれよ。本当はちょっと嬉しかったんだろ?素直にな、おわっ!」
扉に鉛筆が突き刺さる。
オレは慌てて扉を閉めて、そのままギルドを後にする。
さて、
今日はもう遅いから、ゆっくり休んで、明日から行動に移すとしようか。
「ぁ~、もう店閉まってるよな。また子猫ちゃんに怒られる、、、」




