23:なるほど。私なら悪をなして巨悪を討つ!
「おい、キングスナイトのアズベルとやらのこと、詳しく教えてくれ」
ギルドの中二階。
そこは一階の飲み屋兼、依頼発令所を見下ろす形で設置された、人気の少ないバー。
「とうとう聞きつけてしまいましたか・・・そう、我ら眼鏡信仰教において、最大の女神を奪った憎っくき敵・・・その名を聞くのも汚らわしい」
いつになくメガネをクイッと上げて、真剣な表情となるミッシェル。
その様子に、オレの心に言いようのない寂しさがこみ上げてきた。
タバコを取り出し、ミッシェルの横に並んで、同じ天井を見つめながら話し出す。
「ふぅー・・・同感だ。オレもそんな奴のことなど知りたくもない。だが、我々は知らなければならない。主は仰った、時にメガネは曇ることもある。だが、それもまた趣なのだと、、、そう、うどんを食べる際に曇りメガネと格闘する姿もまた、、、愛すべきメガネなんじゃないのかい?それを教えてくれたのは、同志ミッシェル。君じゃないか」
ふぅー、っと舞い上がる煙を見つめる。
「・・・・・フッ。かなわないな、同志ジュンペイ。敢えて修羅の道を行くというのですか、、、分かりました。私が知っていることを全て話しましょう」
顔を上げ、漢の顔になるミッシェル。
オレも覚悟を決め、その勇気に敬意を払い、頷き合う。
<なぁ?ボクにはまだ、この会話のどこで理解し合ってんのか、全く分からんねんけど>
だまらっしゃいっ
いま良いとこなんだよっ
そしてオレ達はスタンディングテーブルへと移動し、バーボンをチビチビとやりながら、彼について話を進めた。
「まず、[キングスナイト]とはアシノミヤ王国に存在する4人の勇者。次元の違うAランクホルダーを指します。その中でも最強と呼び声が高いのが、聖騎士アズベル、、、様です。眉目秀麗、品行方正、完璧超人、、、もうアシノミヤ王国全国民が憧れを抱く正統派イケメン。さらに人格者で、その裏表のない爽やかな性格は、彼を知る全ての人が評価しています。まさに我々のような虫けらとは正反対の存在です」
「虫けら言うなっ!、、、ふぅー、しかし、想像以上の評価だな。くそっ、覚悟していたはずなのに謎のダメージを受けてしまうぞ」
ラキシスを思うに、そんなミーハーな素振りはないので、人格者くらいには覚悟していたのだが、、、
「強いて彼の欠点というのなら、少し常識的な感覚に疎いことが言えます。それをスパイスと受け止める女性も多いのですが。彼は幼少期より人里離れた場所で、ある高名な方に育てられたそうです。そして16歳になって初めて人里におりた経緯があります。そして、そんな彼に常識を教えたのが、なにを隠そう我らが女神ラキシス様です。当時ラキシス様はまだシスターとして過ごされており、そこに」
「ちょっと待てぇっ!!ラキシスたんシスターだったの!?あの巨乳とメガネでシスター服着てたの!?ぅ~わぁ、どんだけセクシーなんだよ。ちくしょぉぉっ、見たかったぁぁ!ちくしょうぉぉ」
思わず魂の叫びをルフランさせてしまう。
その形振りかまわないオレに、ミッシェルはチラリと写真を一枚チラつかせる。
「・・・10万」
「その欲望に忠実なところ、好きですよ。同志ジュンペイ」
交渉成立とばかりに、テーブルに裏向けて写真を置くミッシェル。
オレもテーブルの下で、ストレージより取り出した、なけなしの10万をミッシェルへと手渡す。
ドキドキしながら写真を確認する・・・
チッ
後ろ姿か、、、
だが、いいっ!
それでもいい!!
これで明日からの極貧生活も大丈夫っ
スマンっ!
弟くんは鉱山に売られてくれ
「話を続けますよ。その教会で教育係をしていたラキシス様とアズベル様は、そこで知り合いました。ですが、すぐに彼らは恋仲にはなっていなかったようです。アズベル様はそこから活躍に次ぐ活躍で、あれよあれよと有名人となりました。ラキシス様は突然教会を辞められて、すぐに王都を離れ、ここコーヴァで受付嬢をなされました。そしてアズベル様は不動の人気を誇り、全ての女性の憧れの的へとなるのです。さぞやモテたことでしょう、、、そんな折り、事件は起こったのです。民衆が集まる祭典の場で、第二王女ティリカ様が、不意打ち気味の公開プロポーズを決行したのです。王族からの求婚。まして民衆の面前で。さらにはティリカ様も男性人気ナンバー1の絶世の美女です。誰もが結ばれると思いました。ですが、アズベル様はその場でラキシス様への想いを語ったのです。全てを投げ捨てでも、全てを敵に回したとしても、と、、、王家の恥ではありましたが、Aランカーを失う訳にはいかない打算などが入り交じり、彼は許され、国民に祝福されながら、ここコーヴァへとラキシス様を迎えに来た姿は、、、屈辱ではありますが、格好良かったです」
一気に語る同志ミッシェル。
その時の姿を思い出したのか、憧れつつも認めたくない複雑な心境のようだ。
それにしても、、、、、
、、、、、、、、、、、、オレ、虫けらじゃん。
めっちゃ良い話しじゃん。
主人公じゃん。
大恋愛じゃん。
これ、文句つけれねぇよ!
カッコイイじゃねぇかぁ!!
オレ、いま、10万イェンで隠し撮り写真買って、超満足してたんだけど、、、
虫けらじゃん
やっぱり、、、
あれ?
なんだろ?
前が見えない、、、
あ、泣いてんのか?、、、オレ
「同志ジュンペイ、、、よく分かります。私も教会から追いかけた身。その一部始終を見てきたはずなのに、己のちっぽけさを痛感し、」
「マジもんのストーカーじゃねぇかぁ!!やっべぇぇ、、、ここにいますよぉ!誰かぁ~、通報してくださぁい!!」
全てが吹っ飛ぶくらいドン引きだ。
ミッシェル
お前って奴は、、、
「フッ、、、自分は違うとでも?」
クイッとメガネを上げて、なぜかキメ顔で問いかけてきた。
「、、、、、、くそっ。こっち側だよ、オレも。クッソォォォ!!」
ゲスを自覚する。
どうしても、否定することが出来なかった。
「受け入れましょう、自分を、、、そうやって人は、生きていくのです」
ショットグラスを回し、カランッと氷を鳴らしながら格好良く決めるミッシェル。
いや、最低だからね?
言ってる事もやってる事も、、、
しかし、なんだ?
さっきから、なにかが引っかかる。
なんだ?
この引っかかりは、、、
「ま、私たち最底辺のゲスからすれば、アズベル様のような[持つ者]が、いくら筋を通そうが嫌みでしかなく、」
~~~ キュロロリィィィーンッ ~~~
ニュータイプの閃きが迸る。
「違うな、間違っているぞぉ!同志ミッシェルっ!!」
覚醒した。
「っ!急にどうしたんですか!?同志ジュンペイ」
オレは自ら導き出した閃きに、興奮が抑えられず力強く力説する。
「よく考えてみろ!そんなモテモテ犬のよりどりみどりが、なぜ彼女なのだ!なぜノーマル美女ではなく、癖の強い彼女なのだぁ!あのメガネで爆乳でニーハイでタイトスカートでショートボブでクーデレな、ましてやシスター、、、フェチの塊のようなラキシスなのだ!」
「っっっっ!!」
驚愕する同志ミッシェル。
「そうだ!オレは聖騎士、勇者アズベルなど知らんっ!だが、臭う、臭うぞぉ、、、腐った臭いだ、、、オレ達と同じ、よく知る腐った臭いがしやがる、、、確実に言えるのは、ソイツはフェチだ!しかも限りなく感性がオレ達に近い!・・・あぁ、確かにソイツはラキシスをモノにした勇者なのだろう、、、悔しいが、、、悔しいがぁ、それは事実だぁ!
だが、あえて言おう、
カスであると!!!
勇者アズベルウゥゥゥ???
挟んでいるに決まってんだろうがぁ!!
あの神聖なメガネに、かけているに決まってんだろがぁ!!!
同類なのだ!
まだ見ぬ勇者よ!!
オレはキサマなど知らぬ!!
だが感じるのだ、キサマは同じだ!
その爽やかな笑顔の下に、ドロドロと流れる、オレと同じフェチでゲスでカスなのだ!!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉ・・・・・」」」
熱の籠もった演説に、いつの間にか1階も含めてギルド全体が注目していた。
「我々は一人の女神を失った・・・
しかし、これは敗北を意味するのか?
否っ!!!
始まりなのだ!
人妻という優良種にまで昇華した女神を悲しんではいけない!
ギルメンよ!
悲しみを怒りに変えて、立てよギルメン!!
勇者アズベルも我々と同じ、カスなのだ!
神聖化するな!
憧れるな!!
奴も同じ、エロガッパだ!!
明日の未来のために、我らメガネオパイ国民は立たねばならんのである!
ジークメガネ!ジークオパイ!!」
「「「「おおおー!ジークメガネ!ジークオパイ!!!」」」」
ギルドは、一つとなった。
「感動しました同志ジュンペイ、、、いや、魔王っ!」
勢いに飲まれ、尊敬の眼差しをおくる同志ミッシェル。
ガタガタガタガタッ
パチパチパチパチパチッ・・・・
ギルド全体のヤローどもがスタンディングオベーションである。
「魔王ー!」
「オレもやってやるぜ!」
「勇者も男だ!俺達といっしょなんだ」
「ありがとう人妻だからって諦めちゃダメなんだ!」
「有り難う同志諸君!ほらほら他のお客さんに迷惑だ。座ってくれ。有り難う、有り難う、分かったから座ってくれ。ハハハ、竿を立てても席立つな、だ」
よく分からん一体感に包まれるなか、一人のフードを被った男が近付いて来た。
<、、、っ!ぺーはん、分かってるな!?>
鑑定ステータスを掛けた、サポ助からのアラートが飛ぶ。
「あぁ、、、まさか、ボスキャラの登場とはな」
顔は全く見えないが、その眼孔だけが鋭く突き刺さる。
「すまないが、ボクに付き合ってもらえないかな?」
フードの男は、底冷えする声で話しかけてきた。
どうやら、オレ一人を連れ出す気でいるらしい。
「ふぅー、、、予定より早いじゃないか?会いたかったぜ、、、勇者アズベル」