表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/47

23:なるほど。私なら悪をなして巨悪を討つ!






 「おい、キングスナイトのアズベルとやらのこと、詳しく教えてくれ」


 ギルドの中二階。

 そこは一階の飲み屋兼、依頼発令所を見下ろす形で設置された、人気の少ないバー。


 「とうとう聞きつけてしまいましたか・・・そう、我ら眼鏡信仰教において、最大の女神を奪った憎っくき敵・・・その名を聞くのも汚らわしい」


 いつになくメガネをクイッと上げて、真剣な表情となるミッシェル。

 その様子に、オレの心に言いようのない寂しさがこみ上げてきた。


 タバコを取り出し、ミッシェルの横に並んで、同じ天井を見つめながら話し出す。


 「ふぅー・・・同感だ。オレもそんな奴のことなど知りたくもない。だが、我々は知らなければならない。主は仰った、時にメガネは曇ることもある。だが、それもまた趣なのだと、、、そう、うどんを食べる際に曇りメガネと格闘する姿もまた、、、愛すべきメガネなんじゃないのかい?それを教えてくれたのは、同志ミッシェル。君じゃないか」


 ふぅー、っと舞い上がる煙を見つめる。


 「・・・・・フッ。かなわないな、同志ジュンペイ。敢えて修羅の道を行くというのですか、、、分かりました。私が知っていることを全て話しましょう」


 顔を上げ、漢の顔になるミッシェル。

 オレも覚悟を決め、その勇気に敬意を払い、頷き合う。


 <なぁ?ボクにはまだ、この会話のどこで理解し合ってんのか、全く分からんねんけど>


 だまらっしゃいっ

 いま良いとこなんだよっ


 そしてオレ達はスタンディングテーブルへと移動し、バーボンをチビチビとやりながら、彼について話を進めた。


 「まず、[キングスナイト]とはアシノミヤ王国に存在する4人の勇者。次元の違うAランクホルダーを指します。その中でも最強と呼び声が高いのが、聖騎士アズベル、、、様です。眉目秀麗、品行方正、完璧超人、、、もうアシノミヤ王国全国民が憧れを抱く正統派イケメン。さらに人格者で、その裏表のない爽やかな性格は、彼を知る全ての人が評価しています。まさに我々のような虫けらとは正反対の存在です」


 「虫けら言うなっ!、、、ふぅー、しかし、想像以上の評価だな。くそっ、覚悟していたはずなのに謎のダメージを受けてしまうぞ」


 ラキシスを思うに、そんなミーハーな素振りはないので、人格者くらいには覚悟していたのだが、、、


 「強いて彼の欠点というのなら、少し常識的な感覚に疎いことが言えます。それをスパイスと受け止める女性も多いのですが。彼は幼少期より人里離れた場所で、ある高名な方に育てられたそうです。そして16歳になって初めて人里におりた経緯があります。そして、そんな彼に常識を教えたのが、なにを隠そう我らが女神ラキシス様です。当時ラキシス様はまだシスターとして過ごされており、そこに」


 「ちょっと待てぇっ!!ラキシスたんシスターだったの!?あの巨乳とメガネでシスター服着てたの!?ぅ~わぁ、どんだけセクシーなんだよ。ちくしょぉぉっ、見たかったぁぁ!ちくしょうぉぉ」


 思わず魂の叫びをルフランさせてしまう。

 その形振りかまわないオレに、ミッシェルはチラリと写真を一枚チラつかせる。


 「・・・10万」


 「その欲望に忠実なところ、好きですよ。同志ジュンペイ」


 交渉成立とばかりに、テーブルに裏向けて写真を置くミッシェル。

 オレもテーブルの下で、ストレージより取り出した、なけなしの10万をミッシェルへと手渡す。


 ドキドキしながら写真を確認する・・・


 チッ

 後ろ姿か、、、

 だが、いいっ!

 それでもいい!!

 これで明日からの極貧生活も大丈夫っ

 スマンっ!

 弟くんは鉱山に売られてくれ


 「話を続けますよ。その教会で教育係をしていたラキシス様とアズベル様は、そこで知り合いました。ですが、すぐに彼らは恋仲にはなっていなかったようです。アズベル様はそこから活躍に次ぐ活躍で、あれよあれよと有名人となりました。ラキシス様は突然教会を辞められて、すぐに王都を離れ、ここコーヴァで受付嬢をなされました。そしてアズベル様は不動の人気を誇り、全ての女性の憧れの的へとなるのです。さぞやモテたことでしょう、、、そんな折り、事件は起こったのです。民衆が集まる祭典の場で、第二王女ティリカ様が、不意打ち気味の公開プロポーズを決行したのです。王族からの求婚。まして民衆の面前で。さらにはティリカ様も男性人気ナンバー1の絶世の美女です。誰もが結ばれると思いました。ですが、アズベル様はその場でラキシス様への想いを語ったのです。全てを投げ捨てでも、全てを敵に回したとしても、と、、、王家の恥ではありましたが、Aランカーを失う訳にはいかない打算などが入り交じり、彼は許され、国民に祝福されながら、ここコーヴァへとラキシス様を迎えに来た姿は、、、屈辱ではありますが、格好良かったです」


 一気に語る同志ミッシェル。

 その時の姿を思い出したのか、憧れつつも認めたくない複雑な心境のようだ。

 

 それにしても、、、、、

 、、、、、、、、、、、、オレ、虫けらじゃん。


 めっちゃ良い話しじゃん。

 主人公じゃん。

 大恋愛じゃん。

 これ、文句つけれねぇよ!

 カッコイイじゃねぇかぁ!!


 オレ、いま、10万イェンで隠し撮り写真買って、超満足してたんだけど、、、


 虫けらじゃん

 やっぱり、、、

 あれ?

 なんだろ?

 前が見えない、、、

 あ、泣いてんのか?、、、オレ



 「同志ジュンペイ、、、よく分かります。私も教会から追いかけた身。その一部始終を見てきたはずなのに、己のちっぽけさを痛感し、」


 「マジもんのストーカーじゃねぇかぁ!!やっべぇぇ、、、ここにいますよぉ!誰かぁ~、通報してくださぁい!!」


 全てが吹っ飛ぶくらいドン引きだ。

 ミッシェル

 お前って奴は、、、


 「フッ、、、自分は違うとでも?」


 クイッとメガネを上げて、なぜかキメ顔で問いかけてきた。


 「、、、、、、くそっ。こっち側だよ、オレも。クッソォォォ!!」


 ゲスを自覚する。

 どうしても、否定することが出来なかった。


 「受け入れましょう、自分を、、、そうやって人は、生きていくのです」


 ショットグラスを回し、カランッと氷を鳴らしながら格好良く決めるミッシェル。


 いや、最低だからね?

 言ってる事もやってる事も、、、


 しかし、なんだ?

 さっきから、なにかが引っかかる。

 なんだ?

 この引っかかりは、、、


 「ま、私たち最底辺のゲスからすれば、アズベル様のような[持つ者]が、いくら筋を通そうが嫌みでしかなく、」



~~~ キュロロリィィィーンッ ~~~

 ニュータイプの閃きが迸る。



 「違うな、間違っているぞぉ!同志ミッシェルっ!!」


 覚醒した。


 「っ!急にどうしたんですか!?同志ジュンペイ」


 オレは自ら導き出した閃きに、興奮が抑えられず力強く力説する。


 「よく考えてみろ!そんなモテモテ犬のよりどりみどりが、なぜ彼女なのだ!なぜノーマル美女ではなく、癖の強い彼女なのだぁ!あのメガネで爆乳でニーハイでタイトスカートでショートボブでクーデレな、ましてやシスター、、、フェチの塊のようなラキシスなのだ!」


 「っっっっ!!」


 驚愕する同志ミッシェル。


 「そうだ!オレは聖騎士、勇者アズベルなど知らんっ!だが、臭う、臭うぞぉ、、、腐った臭いだ、、、オレ達と同じ、よく知る腐った臭いがしやがる、、、確実に言えるのは、ソイツはフェチだ!しかも限りなく感性がオレ達に近い!・・・あぁ、確かにソイツはラキシスをモノにした勇者なのだろう、、、悔しいが、、、悔しいがぁ、それは事実だぁ!

 だが、あえて言おう、

 カスであると!!!

 勇者アズベルウゥゥゥ???

 挟んでいるに決まってんだろうがぁ!!

 あの神聖なメガネに、かけているに決まってんだろがぁ!!!

 同類なのだ!

 まだ見ぬ勇者よ!!

 オレはキサマなど知らぬ!!

 だが感じるのだ、キサマは同じだ!

 その爽やかな笑顔の下に、ドロドロと流れる、オレと同じフェチでゲスでカスなのだ!!」


 「「「おおおおぉぉぉぉぉ・・・・・」」」


 熱の籠もった演説に、いつの間にか1階も含めてギルド全体が注目していた。


 「我々は一人の女神を失った・・・

 しかし、これは敗北を意味するのか?

 否っ!!!

 始まりなのだ!

 人妻という優良種にまで昇華した女神を悲しんではいけない!

 ギルメンよ!

 悲しみを怒りに変えて、立てよギルメン!!

 勇者アズベルも我々と同じ、カスなのだ!

 神聖化するな!

 憧れるな!!

 奴も同じ、エロガッパだ!!

 明日の未来のために、我らメガネオパイ国民は立たねばならんのである!

 ジークメガネ!ジークオパイ!!」


 「「「「おおおー!ジークメガネ!ジークオパイ!!!」」」」


 ギルドは、一つとなった。


 「感動しました同志ジュンペイ、、、いや、魔王っ!」


 勢いに飲まれ、尊敬の眼差しをおくる同志ミッシェル。


 ガタガタガタガタッ

 パチパチパチパチパチッ・・・・

 ギルド全体のヤローどもがスタンディングオベーションである。


 「魔王ー!」

 「オレもやってやるぜ!」

 「勇者も男だ!俺達といっしょなんだ」

 「ありがとう人妻だからって諦めちゃダメなんだ!」


 「有り難う同志諸君!ほらほら他のお客さんに迷惑だ。座ってくれ。有り難う、有り難う、分かったから座ってくれ。ハハハ、竿を立てても席立つな、だ」


 よく分からん一体感に包まれるなか、一人のフードを被った男が近付いて来た。


 <、、、っ!ぺーはん、分かってるな!?>


 鑑定ステータスを掛けた、サポ助からのアラートが飛ぶ。


 「あぁ、、、まさか、ボスキャラの登場とはな」


 顔は全く見えないが、その眼孔だけが鋭く突き刺さる。


 「すまないが、ボクに付き合ってもらえないかな?」


 フードの男は、底冷えする声で話しかけてきた。

 どうやら、オレ一人を連れ出す気でいるらしい。




 「ふぅー、、、予定より早いじゃないか?会いたかったぜ、、、勇者アズベル」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ