20:Zの鼓動
「やっぱ、もっとカッコいいところ見せとくべきだったかな」
時刻は昼前。
近接戦闘初級訓練を早退して、すぐに街の外の狩り場へと向かっている。
サポ助との連動実験を、もっと実践的に試してみたいからだ。
近接技術を習う予定も、AR表示とサポ助のアシストにより緊急性はなくなった。
あそこではデザートイーグルは使えないし、なにより観察されている状況ではやり辛くて仕方がない。
ラキシスが訓練場にいたことには、実は最初から気付いていた。
マップレーダーには、マークした人物は色違いで表示される。
決して、自宅の場所を探ろうとか、プライベートの動向をチェックするためとかではない。
断じてない。
「興味ないとか言ってたのに隠れて見に来るとか、どんだけ愛されてるんだよ、オレは。ムフフ」
ポジティブに考えたいところだが、そんなことでは無いのは分かっている。
オレはまだ、信用を得てはいないのだ。
ただ、それだけのことだ。
<さあ、ぺーはん。そろそろええんちゃうか?早速やけど[合体モード]入るよ。あの小鳥、狙ってみよか>
合体っ言うな!
狩り場の森へと到着していた。
シンクロ?モードに入った瞬間、視界にARが出現して情報量が増える。
この状態の名前、考えねぇとな。
サポ助が言う小鳥は、二時の方角の枝にとまっていた。
スズメくらいの大きさで、AR表示がなければ気付きもしなかった。
オレは言われた通り、デザートイーグルをストレージより取り出して銃口を向ける。
距離にして30m。
これまでのレベルアップにより、当初よりは射撃に安定感を感じるが、こんな小さな小鳥に当てることなど不可能だ。
精度の研究くらいかなと、軽く考えながら照準を小鳥へと向けると、射撃ラインが赤くAR表示されるので、レーザーポインターのようで非常に狙いがつけやすい。
また、銃身は揺れることはなく磁石が物にくっつくように、ピタッと照準が吸い寄せられて固定される。
「すげぇぇ!ナイスゥアシストじゃねぇかっ!!これなら外す気がしねぇ!」
自分の腕なのに、いい感じにサポートが入ってFPSのようにブレることなくピタッとなる、ピタッと。
<流石にこの距離の精密射撃は厳しいな。取り敢えず、小鳥が留まってる枝を狙って。ほんですぐに飛び立った小鳥を追撃するつもりでお願い>
了解、、、
===バッァンッ!===
銃声が響く。
銃弾は数cmズレたが枝を揺らすぐらいには命中した。
驚いて飛び立つ小鳥。
すぐに追撃するつもりで、飛び立つ小鳥へと照準を向ける。
このアクセレーターが起動している緩やかな時間の中で感心する。
ARターゲットが小鳥の進行方向前方にズレて表示されるのだ。
着弾時間と対象物の移動スピードを演算表示しているようだ。
さらに、ARターゲットは命中率により色や形が変化する仕様だ。
芸が細かい、、、
オレは吸い付くように合わせられた照準から、数ミリ意識的にズラして発砲する。
===バッァンッ!!===
弾丸は飛び回る小鳥より数センチ横を通過したようだ。
たぶん、そのまま撃っていれば命中かそれに近い精度だったことだろう。
「、、、すげぇ。自分が人間じゃねぇみたいだ」
思わずそんな感想をもらしてしまった。
だが、そう思っても仕方がない。
これでは完全にアンドロイドだ。
<ゴメン、ぺーはん。ちょっとやり過ぎてもたかも、、、流石に気持ち悪いかな?>
しゅんとするサポ助。
「オレがぁ、ガ○ダムだぁっ!!」
<へ?>
「ぐははは、なにヌルイィィこと言ってやがんだっ!自身のモ○ルスーツ化っ!!全然OKだ!むしろもっと逝こう!青く眠る水の星にもっとですぅ!変形もファンネルも標準装備しようぜっ、ぐへへへ」
錯乱した。
<アホか、変形したらバッキバキになるわ。けど、ありがと。ぺーはんがそう言ってくれたらボクも助かるわ。うっしゃ!ドンドンいこか>
オレはタバコを抜き出し、火をつける
「ふぅー、、、、」
コクピット画面のような視界には、AR表示されたナビが近くの獲物の場所を教えてくれる。
「マジで最高だ」
そんな呟きをもらして、森の奥へと進んでいった。
数時間後
「そこっ!、、、三つ、、グハハハ。当たれっ!弾幕薄いよっ、なにやってんのっ!ギャハハハ」
完全に遊んでいた。
ARナビとマップレーダーによる周辺完全把握。
射撃の破壊力に加えられた精密な先制攻撃。
そして自身の運動制御により、回避行動の最適化。
ゴブゴブ相手にいろいろと実験をしてみたが、これはもう本物だ。
全く、危なげを感じない。
調子に乗ってグイグイ進んでいると、木の根に足を引っかけて転けてしまった。
「痛ってぇ~、、、サポ助、こんなんは助けたり出来ねぇのか?」
<出来るよ。けどな、もうそろそろ気引き締めた方がええかと思て。それにぺーはん明日のこと考えてる?スペック上がっても、体力やフィジカルが向上した訳やないんやで。恐ろしい筋肉痛が待ってるよ>
そりゃそうだ・・・
確かにそんなこと考えもしなかった。
「ふぅー、、、そだね、はい慢心してました。反省。初心大切。オレ昨日殺されかけた」
その場に座りながら、タバコを吸って反省する。
<うん、それくらい臆病な方が長生きするよ。でや、そんなぺーはんに報告や。まだだいぶ遠いから詳しくは分からんけど、11時の方角に人が数名とそれ以外の反応が多数あるんよ。状況からして多分パーティーが敵に囲まれてると推測出来るけど、どうする?>
これまでハンター達が戦っている様子は何度か見てきた。
ゴブゴブ相手では流石に危険だとは思わなかったが、複数を相手取る時にはダメージを受けている程度だ。
別に英雄願望や功名心でここにいる訳ではない。
ハンターは自己責任。
力量を弁えずに奥まで進んだ結果、囲まれてしまっても自業自得だ。
だが、知ってしまっては寝覚めが悪い。
「ふぅー、、、、誘導した癖に。取り敢えず様子だけは見に行こうか。それからどうするかは決めるということで」
<ゴメンね。そう言うと思たわ>
ヨッコイショと立ち上がりながら、視覚に現れたナビに従い、現場へと急ぐ。
「はぁ、はぁ、、、っ!、マジでっ」
出来る限り急いで現場へと駆けつけてみると、崖を背にしてオークの集団に囲まれた兵士達がいた。
傷つきボロボロの兵士が4人、固まって中央の人物を護っている。
それを取り囲むオークは3匹、ゴブリンが5匹。あと一際巨大な怪物がその背後に備えていた。
駆けつけるまでの間、距離が近くなったことでこの状況までは掴んでいた。
だが、未確認反応が多く、実際に視認したことで驚愕する。
オークは身長2mのプロレスラーのようなガタイだ。
イノシシのような顔に、決して立派ではないが、鉄製の鎧や槍を装備している。
そして巨大な怪物を鑑定ステータスで覗いてみれば、種族はトロールのようで5mはありそうな巨体だ。
樹木のような棍棒と、皮や木製の装備で身を固めている。
ぇぇぇ、、、怖いんですけど。
オレは集団の斜め後方に現れたことで、まだ誰にも気付かれていない。
以前オーガを殺れたことから、デザートイーグルは奴らにも通用するだろう。
だが、あのデッカイ人達に立ち向かうには、結構勇気がいる。
どうしよっかなぁって躊躇していると、一匹のオークが叫んだ。
「グハハハ、いい胸してやがるブ。メスの臭いがキツくなったブッ。犯されるの想像してオメェも興奮してやがるブか!?ギュハハハ」
・・・GOっ!
オレは集団の背後より、トロールの膝裏を狙って乱射した。
「ギャアアアアアアッッッ!!!!」
大音量の悲鳴と巨体が倒れる震動が響く。
「どうしたブッッ!!」
突然トロール倒れたことで場は混乱する。
さらにトロールは痛さのあまり、のたうち回りながら味方を巻き込み暴れている。
その舞い上がった砂埃で視界の悪いなか、オレはゆっくりと集団へと近付いて一匹ずつ確実に射殺していく。
銃声と絶叫が響く。
冷静に、慎重に、確実に、と自分に言い聞かせながら作業として進めていると、視界の端にアラートがとんだ。
オークによる投げ槍だ。
しかし全方位サポ助がマップレーダーを使用しながら監視しているので、オークがその動作に移った瞬間、予測攻撃軌道がAR表示される。
アクセレーターが働く緩やかな時間のなか、まだオークは槍を構えてスローバックに入ったばかりの段階だ。
オレの動きが速ければ、未然に撃ち抜くことも出来るのだろうが、ここは無難にかわしておく。
タバコを抜き出して火をつける。
「そんな、すり抜けたブッ!?、、、オ、オメェっ!なにモンだっ!?なにしやがったブっ!」
投擲したオークは狼狽え、鉄の盾を全面に構えて怯えながら問いかけてきた。
オレは投擲ラインを最小限で避けて、特に慌てた素振りもしなかったので、オレがかわしたようには見えなかったようだ。
「フゥー、、、そんなことより、オマエ等って、そのぅ、、、やっぱ、人間のオッパイに興奮したりすんの?」
大切なことだ。
ここは紳士として確認しなければならない。
「ブッ!?・・・なに言ってんだ?んなの大好物に決まってるブッ!噛み千切るとモキュモキュして美味しっ、なッ!」
オレはデザートイーグルを発砲した。
しかし、ワザと前面に構えられた鉄の盾へと撃ち込んでみた。
最悪だ
聞くんじゃなかった。
コイツ等、やっぱ別種族だわ。
敵ね
家畜、兼、オナホールくらいにしか見てねぇな、コリャ。
「なんだブ?驚かせやがって、だが、これでオメェの攻撃は効かな、ブゥッッ!!」
オレは僅かに見えていた右耳を撃ち抜いた。
やっぱり鉄製の防具などは、弾いてしまって貫通しない。
これは弱点だな、オレの。
汚い絶叫が響くなか、さらに太股、二の腕、足の甲、わき腹などを撃ち抜いていく。
けどまぁ、これだけ正確に撃てれば弱点にもならないけどね。
「オメェッ!オメェェ、止めろっ!!オレ様は[アコウ軍]五氏族が一人、ヨシツナ様の直轄部隊だブゥ!!こんなことしてタダで済むと、」
眉間を撃ち抜いた。
そんなダルマ状態で凄まれても、どうやって死体が喋るんだって話しさぁ。
「それに、オメェって連呼すんなよ。ちょっとビックリすんだよ、それ」
ふぅー、と一息つきながら周囲を確認する。
オレが射殺した、オーク2匹にゴブリンが3匹。
トロールに潰されたゴブリンが2匹。
どさくさに紛れて、護衛兵士がオークを1匹、背後よりしとめていた。
後は駄々をこねた子供のように仰向けで暴れるトロールと、それを警戒して取り囲む護衛兵士たちだ。
ゆっくりと近付いてみると、トロールの顔は小屋くらいの大きさがあり、流す涙もバケツくらいの水量だ。
どうやらトロールは余り知能が高くないのか、幼児のような痛がりかたで少しだけ罪悪感を感じた。
しかしよく見ると、首にぶら下げられたネックレスには、人の生首や足などが飾られており、結局オークと同じなんだと銃弾を何発も撃ち込んで射殺した。
「ふぅーー、、、」
タバコをふかしながら、安堵しつつもまだ警戒を崩さない兵士達へと向き直る。
さて、いい乳しているのは誰かなぁ~
女性の兵士さんかなぁ~
あれ?
全員男じゃん。
では、その護衛対象の方かぁ
あ、やべ
これってテンプレじゃね?
ヒロイン候補じゃね?
やっぱ、異世界美女とシッポリお近付きに・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・普通に、おばちゃんじゃん
50代くらいの小太りな成金ババァじゃんっ
確かに、、、巨乳ではあるけれど
放心状態でいると、成金ババァはお礼を言いに歩み寄って来た。
「この度は危ないところを助けていただき有り難うございます。妾は、」
「・・・オオォークゥのバカヤロウッッッ!!」
我慢は出来なかった、、、
 




