19:伊達じゃないっ
「だったら、ギルドの研修に参加してみてはいかがですか?」
ギルドへと戻り、そこで会った同じ地下組織[眼鏡信仰教]団員でもある、ギルド職員ミッシェルと談義を交わした後、流れで戦闘技術を学ぶ機会について相談してみた。
やはり、ザコ狼に殺されかけたのはショックが大きかった。
「え、でもお高いんじゃ、、、」
「いえいえ、新人訓練ですので殆ど無料ですよ。本当はFランクの新人ハンターである同志ジュンペイはむしろ強制なのですが、Bランクの賞金首をあげた功績から不必要と判断されて、話していなかったんです」
なるほど。
では、そういうことなら
オレは参加する意志をミッシェルに伝えた。
「分かりました。では予約を入れておきます。ちょうど明日空きがありますので遅れずに集合してくださいね」
それから少しだけ飲んで、ホテルへと戻った。
次の日、集合時間は早く、眠い目を擦りながらギルドへと向かっていると背後より声が掛かった。
「おはようございます、ジュンペイさん」
ラキシスだった。
「っ!お、おはよっごじゃいますぅ!元気です!!」
慌てて変な返しをしてしまう。
「面倒なテンションはやめてください。それより今日は早いのですね」
声を掛けたことを心底後悔する表情で、会話を続けるラキシス。
「、、、わりぃ。変に舞い上がってたらウザいよな。昨日ミッシェルに頼んで新人の戦闘訓練を受けることにしたんだよ。朝は苦手なんだけどね」
そりゃそうだ。
誰だってこんな道端で、朝からハシャがれたら鬱陶しい。
いい加減、ラキシスに対して落ち着こう。
「貴方にそれが必要なの?以前の功績を考えればお遊びみたいなものよ」
「必要だ。あまり種明かしはしたくないが、近接の立ち回りとか習いたいんだよ」
ギルドの入り口が見えてきた。
「そ。殊勝な心掛けね。全く気に掛けるつもりはありませんが、ギルドの一員として頑張ってください。では」
相変わらずの氷の雰囲気のまま、それだけ言い残すと早足でギルドへと入っていった。
一緒にくぐりたかったのだが、、、
まぁ、いい。
今日はついてる。
いいことありそうだ♪
「・・・ですよねぇ~」
ギルド建物の横にある訓練施設。
体育館2個分くらいの広さの屋内施設だ。
近接戦闘初級クラス
ここ、コーヴァの街は隣国アコウとの戦争の最前線。
功名心溢れる若者が集う街だ。
つまり、、、
「テメェ!やりやがったなっ」
「ぁあ?生意気なんだよ」
「ぶち殺してやるっ」
「オラァッ!静かにしろぉガキども!次勝手に騒ぎやがったらオレがボコボコにしてやるからな」
ヤンキーな若者が集まるクラスなのだ。
ギラギラと周囲を威嚇している十代の若者が30人ほど集まっていた。
それを指導する教官もムキムキマッチョなスキンヘッドだ。
「エネルギー持て余してやがるな。まずはその木製武器から好きな獲物を選んで、適当に一対一でやり合いやがれっ!」
無茶振りもいいとこである。
教官のその一言にハイアンドロウな若者達は、我先にと武器へと駆け寄り、あちらこちらで抗争が繰り広げられた。
「・・・帰りたい」
一人たたずむオレ。
触れる者みな傷つけるギザギザハートな若者の中で、30代のオッサンなど自分一人だ。
そのノリにも、このボンタン狩りのような光景にもついていけそうにない。
うん、帰ろう
そう心に決めて、一歩踏み出したところで肩を掴まれた。
「貴様がジュンペイとかいう新人か。サブマスから聞いている。近接が本職じゃないらしいが、どれだけやれるか見せてくれよ」
そう言うとオレを掴んだまま、近くで小競り合いをしているヤンキーの一人を蹴り飛ばし、残された一人に向かってオレを投げつけた。
「なっ!ギィアッ」
なすすべなく、ヤンキーに衝突するオレ。
「いっ、痛ってぇな、オッサンっ!!」
トバッチリもいいとこである。
ぶつかったヤンキーは、一連の流れを見ていたはずなのに、教官ではなくオレへと怒りをぶつけてきた。
「ちょ、危なっ!」
迫り来る木刀をなんとかかわしていく。
アクセレーター、マップレーダーを全開にすることで、この程度なら対処は出来そうだ。
「このっ!チョコマカと、死ねやっ!!」
なかなか当たらない攻撃にヤンキー君は苛立ち初め、いよいよ殺気充分といった様子だ。
<ペーはん、分かってるな?>
サポ助からの忠告が入る。
ああ、分かってるさ
これこそが、訓練なんだろ?
ビビる気持ちは確かにあるけど、このニュータイプスキルのおかげでヤンキー君の動きは余裕をもって観察対処が出来る。
けど、動きが無駄だらけで、大きく避けすぎているってことだろ?
分かっているけど、怖ぇんだよ
ちゃんとした間合いも分からないのに、達人みたいに紙一重なんて怖すぎでしょ?
少しずつ回避行動を縮めて、無駄な動きを少なくしようと試みるが、自分の動きが速くなった訳ではないので、何発か木刀がかすり、心が折れてしまった。
痛っったぁぁぁ!!
マジ痛いよ、コイツ等バカなの?
なんで平気で打ち合ってるの?
怖ぇぇよっ
また、大きく避けだし、形振り構わず完全に逃げ腰だ。
<ぺーはん、ちょっと提案あんねんけどええか?>
あんだよ、こんな時に?
大きく逃げに徹すれば、ヤンキー君の攻撃をかわすことは難しくない。
挑発してくるヤンキー君を無視して、サポ助の提案を聞いてみる。
<こんな時やからや。失敗しても痛いだけで死にはせんし。あんな、ボクはアンタのサポートや。それ以上でもそれ以下でもない。ほんで提案やねんけど、そんなボクを信用して、スキルの使用権限と五感への介入を許可してくれへんやろか?>
っ?
・・・・・一応、理由は聞いても?
<昨日、マップレーダーの権限の話してたやろ?それからいろいろ考えとってん。ホンマにペーはんをサポートするには?って。けど、それにはスキルや五感の制御が入ってくるから、ちょっと嫌がられるかなぁって・・・>
ありゃ?
サポ助のくせに、気を使ってやがる
まぁ、そりゃ自分の体を他人に制御されるのはイヤだけど、、、
「好きにしろよ、相棒。もうとっくにオレはお前を信用してるぜ。けど優先権はこっちな、あとプライベートには一切干渉はさせないぜ」
あえて声に出して返事をした。
<・・・了解や。任せときっ!絶対に後悔はさせへんから!!ペーはんをアシストして、最強にしたるわっ!!>
お、珍しくテンション上がっちゃってるね♪
<そりゃ、ボクの仕事がちゃんと明確になるからや。あ、ちょっといろいろ準備するから一瞬だけ強制スリープかけるよ。うまいこと倒れてね♪>
え?
オレはヤンキー君の目の前で、突然ブラックアウトした。
ドサッ
「えっ?あ、当たったのか?」
手応えはなかったが、突然倒れたオレに狼狽えるヤンキーくん。
「・・・サポ助の野郎」
すぐに意識は取り戻した。
倒れたオレは、体に異常はないかを確認しながらゆっくりと立ち上がる。
?
なんの変化もない。
おい、サポす、
「オッサンッ!なに立ち上がっちゃってるの?またぶっ倒されてぇのか」
意識をサポ助に向けようとしたところで、ヤンキー君が絡み始めてきた。
「ちょっと今忙しいんだ、少し静かに待ってろ」
言った瞬間に後悔した。
この言い方ではヤンキーくんに油を注ぐだけだ。
事実、オレを打ち倒したと勘違いしているヤンキー君は鬼の形相で罵倒しながら打ち込んできた。
「ちょ、待てって」
問題なくニュータイプスキルは起動している。
またも大きく避けながらサポ助を呼びかけていると、背後より違う攻撃があった。
「あっぶねぇ、、、なにすんだよ」
振り返ってみると、先ほど教官に蹴り飛ばされたヤンキー2号だ。
「テメェのせいでオレは、、、痛てぇぇ、どうしてくれんだ!?」
またも怒りの矛先は、教官にではなくオレに向いている。
「いや、それ、オレのせいじゃなく、」
「うっせぇ!死ねや!!」
完全に聞く耳など持っていない様子だ。
激しくオレへと向かってくる。
「流石に、二人相手じゃ、、、」
二方向からの同時攻撃。
たっぷり観察が出来るので、なんとかかわせているがそこに余裕はない。
「このままじゃ、、、」
<お待たせ、ぺーはん。準備出来たよ。早速運用してみよか>
サポ助の声と同時に、オレの視界にAR画像が表示される。
「なっ!」
HP、MP,ターゲットHPバー、さらには予測攻撃範囲などが、赤いライトエフェクトで表示される。
オレはその赤いエフェクトに当たらないようにギリギリで避けるだけで、動きに無駄がなくなり、同時攻撃ですら余裕をもって対処が出来るようになった。
すげぇぇ!やるじぇねぇか、サポ助っ!
<ふふふ、[マップレーダー][アクセレーター]視覚への干渉。ほんでペーはんはまだ使いこなせてないけど、奇術師の[思考分離]を使って、ボクの天才的な演算能力をもって可能になったスタイルやね。さらにターゲットを[鑑定]してパスを繋げることで、より詳細で正確な攻撃予測と情報が手に入るっちゅう訳や。凄いやろ?>
次々に現れるライトエフェクトをかわした後、全く同じ軌道でヤンキー君の木刀が通りすぎる。
ああ、すげぇよサポ助!気に入ったっ!!マジでゲーム画面みたいだ。
<これだけやないよ。射撃の際にはターゲティング、射線ラインの表示も出来るし、索敵なんかもAR表示で視覚的にナビも可能や。暗闇なんかも関係あらへん。デジタル表示でバッチリや>
おおぉぉ、残念な子が立派に、、、
<アホかっ!もともと出来る子や。ほんでこんなんは前提で、ボクがぺーはんと一緒に戦うって意味はこれからや。せやな、ペーはんもそろそろコイツ等ウザいやろ?この調子乗った若者等に反撃いってみよか>
相変わらず、罵倒を浴びせられながら攻撃をかわしている。
エフェクト表示をかわすだけで、反撃など確かに容易い。
しかし、オレは丸腰だ。
木刀すら持っていない。
まさか、ここでデザートイーグルを抜くわけにもいかないだろう。
<大丈夫、腹パンでいいから素手で殴ってみ>
ん?
自慢じゃないが、オレはデスクワカーのサラリーマンだ。
こんな戦闘民族にパンチしたところで、ダメージなんかでないぞ。
疑問を持ちつつも、現れたライトエフェクトをかい潜り、ヤンキー君Aに向かってカウンター気味のボディーブローを打ち込んでみる。
<まずは30%や>
意味不明なサポ助の言葉に気を取られたが、オレが放ったボディーボローはヤンキー君Aの腹に当たる瞬間、凄い勢いで加速した。
「なっ!い、痛ぇぇぇぇ!」
思わぬ衝撃に、打ち込んだ拳だけではなく、右腕全体がジンジンと痛む。
ボディーブローを受けたヤンキーA君は、泡を吹いて崩れ落ちた。
<30%でも凄い威力やね。ゴメン、ここまで衝撃あるとは思わんかったわ。もう分かったと思うけど、身体能力のリミッター制御ね。もちろんパーセンテージ上げすぎたら自滅してしまうけど、今の様子なら50%くらいまでなら筋肉痛で済みそうやな。常に使うのは負担が大きいから、瞬発的に使用しようと思うねん>
先に言えよ!
肩が外れるかと思ったわ
けど、怖いから非常手段ね、これ。
<うん、そのつもりや。けど、30%までの権限はボクにちょうだい。射撃の照準調整や衝撃とのバランス。突発的な身体制御とか、なにかと使用頻度は高そうやから>
なるほど、確かに咄嗟の時に使用許可など出せないもんな。
了解、けど痛くしないでね?
<それは状況による。筋肉痛を恐れて大怪我してたら本末転倒や。ほら、次来るで>
残されたヤンキーB君が、右腕をかばってしゃがみ込むオレを、チャンスとばかりに攻撃してきた。
「くそっ」
無理な体勢での咄嗟の攻撃に、無様に転がれば避けることも可能なのだが、その後の追撃を思えば少し躊躇われた。
<ぺーはん、実験の意味も込めて、一回全身の制御権譲って>
サポ助には、なにかしらの考えがあるようだ。
すぐ返せよ。
<了解>
[アクセレーター]使用中の緩やかな時間のなか、そんなやりとりの瞬間、オレの体は飛び上がり、ライトエフェクトを避けるのではなく、キレイな跳び後ろ回し蹴りで、ヤンキーBくんの顔面を打ち抜いた。
「痛ぇぇぇっ!!ま、股が、股がぁぁぁ」
30越えのオッサンが開脚など出来るはずもない。
しかし、今のオレの動きはプロの格闘家のそれだ。
オレは、股を押さえてその場でゴロゴロと転げ回る。
<いやぁ、キレイに決まったね。うん、やっぱり運動、ストレッチは普段からしよか。けど、これで緊急時の脱出制御、ぺーはんの動きのアシストは問題なく出来そうやわ>
ダメ、コレ、マタ、ヤバイ、、、
なんか、ビリッて鳴った気がする
ズボンとかじゃなくて、ムスコ付近で、、、
「おい、ジュンペイ。なに転げ回ってんだ?さっきから見てたが、洞察力は大したもんだが、体は出来てないわ、動きがムラだらけだわで、強いんだか弱いんだかよく分かんねぇ野郎だな。ふざけてんのか?」
両手を股に挟んで転げ回るオレの側で、教官が判断に困るといった表情だ。
「いえ、ふざけてなんていませんよ。やっとコツを掴んだだけです」
フルフルと立ち上がり、真面目に返答する。
「確か、、、奇術師だったか?まったく、そんな職業でどんな戦いをするんだか。どうする?最後あたりの動きを見る限り、もう連中じゃ同じことだろ?オレが相手してやろうか?」
くっくく、と不敵な笑顔で挑発してくる。
「まさか、無理っすよ。さっきのもマグレみたいなもんで、同じ動きなんて出来ませんって。興味を持ってくれるのは嬉しいけど、これ以上は無理。つか、途中退室させてもらいますね。股を痛めちゃって、ハハハ」
「・・・・・・」
愛想笑いをふりまきながら回復魔法陣へと立ち寄り、その後すぐに訓練施設を後にした。
「引き留めなくてよかったのか?」
新人たちの乱取りを見守りながら、独り言のようにつぶやく教官。
「・・・ええ。私にも気付いていたようだし、これ以上はなにも見せてはくれないわよ」
教官の横に姿を現すラキシス。
「Bランカーを倒した実力、、、体力や体捌きは素人レベル、けど時折見せる達人のような動き。洞察力、反射神経は異常ね。察知能力も高いようだし。実力を隠しているとも思えない、、、ますます分からなくなってきたわ、ジュンペイさん」
ふぅー、とため息を吐きながら、呆れた顔で出口を見つめていた。




