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18:哀戦士たち









 オレはいま、街の外れにある[ウヒエ砦跡地]に足を踏み入れている。


 (・・・いざ、狩るとなると良心の呵責が半端ないねぇ)


 数十m先に5匹のゴブリンが警戒しながら移動している。

 見た目もモンスターで、同調せずに殺せば良いのだが、勢いで殺した当初と違い、冷静な状況で発見したので切っ掛けが掴めずにいた。


 <考え過ぎやジュンペイはん、はよいくで>

 サポ助に促され、確かにその通りと開き直る。


 もうむしろ、発見されても良いくらいの気持ちでタバコに火を付ける。

 そして本当の意味で、地球から異世界へと[決別]を覚悟する。


 「ふぅー・・・よっこいっしょっと」


 オレは正面から姿を現すことにした。


 [略奪者]として腹を括ったいま、正面から立ち向かうことで、今後の迷いを断ち切ると決意する。


 「コブウ、コブッ」「コブッ!」

 「コブンコブウ」


 [マップレーダー]を縮小して些細な動きを見逃さない。

 [アクセレーター]を解放して、観察と対応に余念を無くす。


 オレはニュータイプスキルを全開にしながら慎重に、でも大胆に彼らへと歩み寄る。


 ここのゴブリンはノラではなく[鬼族]の末兵だ。

 槍や鉈を構え、簡単な陣形でコブリンも距離を詰めてきた。

 敢えて5m位のところまで彼らを引きつけ、そして抜く。



===バァッンッッ!!===

===バァッンッッ!!===

===バァッンッッ!!===

===バァッンッッ!!===

===バァッンッッ!!===

===バァッンッッ!!===

===バァッンッッ!!===

・・・カシャッ!

 「リロードッ」 




 予想通りコブリンは弾け飛び、戦闘というよりも、ただの殺戮という結果に終わった。


 「・・・ナンマイダブ」


 肉片と化したゴブリン共に、感慨が有るわけではないが[川本順平]と決別する意味でしっかりと死体を見つめる。


 「ふぅー・・・もう迷いはねぇ、狩ってやる」




________________________________




 現在[アシノミヤ王国]と隣接する鬼族の国[アコウ]とは戦争状態にある。


 そしてここ[コーヴァ]の街は、その国境付近。

 最前線に位置して、もともと流通の中心だったことに加え、兵やギルドの活発化により、逆に活気に溢れていた。


 ギルドの依頼書はA4サイズの用紙にランク、内容、報酬、期限など記されていて、大きな掲示板に張り出されている。


 依頼書には大きく二種類がある。


 [公開依頼]は特に申請の必要はなく、内容チェックして、それに基づいた結果を報告すれば報酬が支払われる。

 [顧客依頼]の場合は、掲示板より用紙を抜き出して、受付に申請を行うことで受理される。

 その際、期限を過ぎたりギブアップすると、報酬の半額を罰金として支払うこととなる。

 主に[公開]は慢性的な討伐や採取系で、[顧客]は護衛や特殊討伐など人を選ぶ依頼が多い。


 オレが目指すのは潤沢な生活であり、名声や権力を求めている訳ではない。

 ゆえに常設されている公開依頼の、基本的なものを押さえておくことにした。


 討伐の金額としては

 

 下級系ID買い取り金額:数千イェン程度(ゴブリン、コボルトなど)

 中級系ID買い取り金額:数万イェン程度 (オークなど)

 上級系ID買い取り金額:数十、数百万イェン以上(オーガ、トロールなど)


 というのが一般的なIDの買い取り金額の目安であり、その他、地位や手配などの上乗せ要素は本当にピンキリらしい。


 (だって、赤鬼なんて700万は超えてたもんな)


 また彼ら鬼族はいくつかの[氏族]がバラバラに国境線に待機し、国としての統率はあまり行われていない。

 ゆえに各氏族の中心たちは軍として確立しているものの、下級レベルの末兵ともなると小隊単位で無造作に徘徊している状況なのだそうだ。




_________________________________




 「よし11匹目っと」

 オレは死体からIDを取り出しながら、換金出来そうなアイテムだけを奪い取る。


 (気配もないし、もう少し奧まで行ってみますか)


 殺戮を繰り返して、略奪することに迷いを捨てたオレに残されたのは、ゲームのような感覚でしかなかった。


 砦跡を抜け、エンカウントを求めて森の奧へと足を運ぶ。

 30分以上歩き続けるが、サクサク出会わないことにリアルさを感じさせられる。



 大木の根本に腰を下ろして、タバコを吹かしながら一休みすることにした。


 (サポ助、レベルって上がったか?)


 <いや、まだやよ。流石に21ともなればゴブゴブプチプチしたところで、早々には上がらんやろ>


 特にレベルアップはしていないようだ。

 現在のレベルは21。

 鑑定ステータスにより他のハンターを覗き見したところ、Cランクの中堅戦士でレベル30前後といった感じだった。


 つまりオレはハンターとして、まだまだ駆け出しレベルといったところだ。


 ステータスという数値化が無いこの世界では、基準はどんぶり勘定でしかない。

 ランクが強さの目安となり、地球と同じように雰囲気やオーラで強さを感じ取るしかないのが一般的だ。


 オレは、最強など目指すつもりはないが、開き直ってみると[狩り]は楽しい。

 リアルに経験値を稼ぎ、目に見えて成長していくのは楽しくて仕方がない。


 例えそれが、命を奪う略奪行為だったとしても・・・




 そんな事を考えながらボーとしていると、サポ助の一喝が飛ぶ!


 <ヤバイッ!早いで、ジュンペイはん!!3時の方角や!!)


 っ!

 オレはすぐにマップデーターを広げて、ハッとする。


 オレの周り半径30m以内に、大きな狼のような獣が3匹、急速に迫っている。


 (ッ!ヤッベー!!)


 タバコを投げ捨て、急いで飛び上がるオレに狼は陣形を広げる。


 10時、1時、4時の方向から一斉にタイミングを合わせて襲いかかる狼に対し、完全に虚を突かれたオレは対応が後手にまわる。


 ニュータイプスキルを全開に発動して[集中][観察]を得たことで若干俯瞰気味に状況を理解する。


 (っ!くそっ、さばききれねぇ!)


 デザートイーグルを抜き、まずは4時の方向の狼に向かって発砲するが、不安定な体勢ということもあり、弾は大きく外れる。


 (チッ、焦ったな。三方向から距離にして5mってとこか、多分リロードを行っている余裕はない。ここは確実に殺ることを優先しなければ。その為には出来るだけ引きつけて・・・)


 思考加速により冷静さを取り戻し、傷つくことすら覚悟する。


 オレは体の動きを止め、落ち着いた体勢で4時の狼にだけ意識を集中する。


===バァッンッッ!===

===バァッンッッ!===


 二発発射し、後ろ足を1つ吹き飛ばすことに成功する。


 (次っ!)


 10時の狼は、距離にして3m弱、もう飛びかかる予備動作に入っている。

 1時の狼は、ワンテンポ遅らして飛びかかる様子が見て取れた。


 (連携が取れてやがる・・・けど、だいたい予想通りだ!)


 オレは、大きく牙を剥いて飛びかかる10時の狼に対して、左腕に装備している小盾を口に挟むように延ばす。

 そして飛びかかられた、その勢いに逆らわず、狼にのし掛かられるように地面へと倒れ込む。


 想像以上の重量とその迫力に、面を喰らいながらも、必死に盾で牙だけは防ぐ。

 そしてその状況のまま、右手のデザートイーグルの銃口を、狼の腹に押し当て発砲する!


===バァッンッ!===


 「ギャインッ!」


 (よしっ! っっぐ!!痛っ)


 最後の狼が、押し倒されているオレの右足に噛みついた。

 防具こそ貫通はしていないが、その力で脛当ては半分脱げてしまい、オレの足を押さえる狼の爪が太股を大きく裂傷していく。


 すぐに銃口を向け発射する!


 その動作に、狼は素早く回避行動に移ったが、弾はかすり、肉が削られて、仰向けに吹き飛ばすことに成功する。


 (っ~~~~)


 痛さに耐え、上半身を起こし、狼に止めを撃ち込む。


 そのまま最初の狼にも止めを撃ち込み、やっと脅威から逃れることが出来た・・・




 「はぁ、はぁー・・・はぁ・・・」


 恐ろしかった。

 死ぬかと思った・・・

 ゴブリンや盗賊をわけなく殺戮し、どこか余裕を感じていただけにショックが大きかった。


 (怖えぇ!野生怖えぇぇ!!はぁ、はぁ、痛ってぇ・・、確かストレージに、)


 回復魔法を断念したオレは、出発前に回復薬や毒消しなどのサポートグッズは抜かりなく大量に購入していた。


 (まずこのヒールジェルを傷口に塗り込み、っ!ギャー!染みるぅ)


 その後、ポーションを口に含む。


 [ヒールジェル]は傷口に塗ると血止め消毒、高速治癒効果がある。

 [ポーション]は体の内側から滋養強壮、高速治癒の補助効果がある。


 つまり魔法的効果を持った[赤チン]と[アリ○ミンV]である。



 オレはマップレーダーを半径50mで警戒しながら、タバコを抜き出して休憩をする。


 「ふぅー・・・わりぃサポ助、助かったよ」


 <いや、ボクも油断してたわ、ゴメン。つか、マップレーダーの権限半分ちょうだい。基本広く警戒する癖つけとくわ>


 そだね

 これからスキルのサポートも含めて、サポ助との連携を深める必要がある。

 その辺は追々練習していこう。



 狼の死体よりIDを抜き出してみる。


 [フォレストウルフ Dランク]


 ザコじゃん・・・


 再確認する。

 デザートイーグルで、ゴブリンや油断した盗賊を殺るのは、戦闘ですらなく一方的な殺戮だった。

 しかし、野生の獣などの俊敏さ、しなやかさ、連携、潜伏はデザートイーグル優位性を丸裸にし、戦闘素人のオレを露呈させる。

 つまり、デザートイーグルに頼りっきりということだ。

 また、命があったのはサポ助とアクセレーターのおかげ。

 この能力がなければ、Dランクのザコ獣に命を奪われていたことだろう。


 (うぅ、異世界ハンパねぇ。どこがチートだよ・・・)


 なかなかに甘くないこの世界で、本当の意味で強さの必要性を実感した。



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