16:こいつは貸しにしとくぜ、名探偵
そこはパルテノン神殿のような神秘的で重厚な外観をした、
築地市場のような下世話さだった。
「安いよ安いよぉ」
「らっしゃいっ」
「そこのにーちゃん、剣士安いよぉ」
「見てってや~見てってや~」
頭に葉っぱの輪っかを被り、白い布を肩より垂らした、テルマエ的なオッサン等が、客引きに必死過ぎてドン引きだ。
また一番問題だと感じていたスキルツリーは、なんと壁に貼ってあってビックリなんですけど。
*必見!ウチならこんな技能身に付けられんで*
*見比べろ!どこよりも安い技能表*
*一発合格間違いなし!落ちたら即返金!!安心保証*
(なんだろう?めっちゃムカつく・・・便利なはずなんだけど、教習所か?ここ)
あたりを見ると、神秘的な空気感は様々に感じるので、元々そういった施設だったことは想像に難くない。
多分、給料がノルマ制にでもなったのだろう。
(ヒドいコトしやがる・・・)
何となくこの台無し感を憂いだあと、切り替えて情報収集にあたった。
初めは客を装い、会話の駆け引きを行っていたのだが、
「大変ですね、営業ノルマ?頑張っていらっしゃる、ご苦労様です」
「有り難うよ、そうなんだよ、民営化の影響で、、、」
一人の30代半ばの男性にヨイショを行ったところ、簡単に乗ってきた。
大切なことなので、今日は情報収集のみと決めていた。
ならいっそ、このオッサンを雇うことにした。
具体的には奢りで飲みに誘いだした先で、3万イェンを差し出した。
そして旅人故に常識が薄いので、いろいろと質問させていただく手間料、その際に必要なら裏もあわせた情報を教えて欲しい、お互いの口止め、などの条件で交渉して3万イェンでオッサンを買う。
真面目なオッサンだったのだろう、一気に酔いが醒めて恐縮した態度へと変貌したのだが、質問内容が基本的な内容ばかりということと、純粋に情報収集しているオレの姿に安心したのか、友人のように接し始めた。
挙げ句、なにも知らないオレに[大人の社交場]についても色々とレクチャーしていただき、オッサン行きつけの[ケモミミ学園]を逆に奢ってくれた。
(これは予想以上の収穫だぞ!)
なんだろう、異世界の満喫の仕方を間違えている気がするが、素材の味を活かすのは、こうするのが一番とばかりに登場するアーティストたちがオレをアートする。
(えっ、ボクってこんなカッコ出来るんだ・・・)
獣人の身体能力を目の当たりにし、また一つ、この世界について理解を深めるのだった・・・。
次の日
オレはいま遅い昼飯を食べた後、コーヒーを啜り、タバコを吹かしている。
ファミレスのような飯屋で、そこで働くウェイトレスの制服姿を見守っている。
<なぁ、なんで昨日オフモードのまんまやったんよぉ、ボクもおねぇ、、、>
オフにする。
オマエの声聞きながら楽しめるわけねぇだろ!
少しうるさいので、緊急時以外はオフモードだ。
さて、、、
明け方までこの異世界について研究していたオレは、そこで得た情報をまとめることにする。
まず、残念な結論からまとめると、
スキルには各々[熟練度]が存在している。
そして初期技能(初期スキル)は、どの職業も洗礼と同時に得られるが、殆ど使えないレベルの能力しかないらしい。
索敵なら少し感が冴える程度、攻撃技も通常攻撃にチョット威力上がったの?程度らしい。
どんな技能や技も、最低1年くらいは研鑽する事で、一人前の技能へと成長するのだという。
また、成長させるためには、そのクラスで過ごさなければならない。
上書き洗礼を行うと、その熟練度のまま引継はするが、成長はストップするとのことだった。
つまり、金にモノをいわせてサクサク便利なスキルを沢山身に付けよう計画は、どうやら超長期的にしか不可能なようだ。
(まさか、スキルの熟練度が存在していたとは)
冷静に考えてみれば当たり前で、オレが所持しているスキルの基準がイレギュラー過ぎたのだ。
まぁ、そうでなければ巧みの技が増えすぎて、全ての職業の価値が薄くなってしまう。
技能のデフレスパイラルってことかな?
イメージで、よく分かっていないことを考えつつも、納得は出来てしまう。
ゆえに、数を打つのではなく、クラスを選別しなければいけないということだ。
また、魔法職は洗礼の値段が格段に上昇するそうだ。
しかも僧侶のような回復職は、信仰することで熟練が上がるので、日々の生活に大きな制約が発生するらしい。
まぁすでに信仰すべき神がおわす訳だが・・・
つまり結論は一周回って
[なにか1つの職業を絞り込み、1年以上は研鑽しよう]
と、なんとも普通すぎる結論に至った。
では、有力と考えられるクラスと、関係の有りそうな技能のみ整理してみる
~狩 人~ 命中率アップ・鷹の目・夜目・潜伏など
~僧 侶~ MP回復上昇・ヒール・キュア・ガードなど
~魔法使い~ MP上限アップ・ファイア・ウォーター・アイス・ウィンド・サンドなど
~武闘家~ 速上昇・HP上昇・反応速度アップ・みかわしステップなど
やはり自分のスタイルには、狩人との相性が良いといえるだろう。
しかし、マジの戦闘となると回復も捨てがたい。
また、メンタルの方が高いことから普段は魔法使いとして生活して、デザートイーグルは奥の手とする事も可能か?
近接対応とスピードをより上げる意味で、武闘家という選択も面白い気がする。
この世界の人々はステータス画面が存在しないので、漠然と技能名やパラメーターを判断せざるを得ない。
ゆえにクラス選択は、やりたい職業に合わせて洗礼を受けるので、自分設計という発想は余りないといえる。
オレは店を出て、今日も職業クランに訪れた。
(あんまりピンッとこないんだよな・・・)
多分どのクラスを選んでも、デザートイーグルで戦うオレにはサブクラス扱いなので、リスクは殆ど無いと考えていいだろう。
それでも気乗りがしないので、悶々とした気持ちでクラン内を広く見てまわる。
そして、今まで戦闘職クランばかりを吟味していたが、気分転換のつもりで商業クランのエリアを覗いた先で、稲妻が走った!
~奇術師~
集中力アップ・観察・ポーカーフェイス・視線誘導・器用さアップ・両利き・思考分離など
ストレージのことがあるので、何となく奇術師を覗いてみたのだが、これはいい!
直接的な戦力ではないが、集中、観察は絶対にオレのニュータイプスキルを向上させる。
その上でポーカーフェイスや両利き、視線誘導は、抜いて戦うオレの戦闘力をグッと上げることになるだろう。
そして一番興味をひかれたのが、思考分離だ。
言葉通りとするなら2つの事を考えたり、何かをしながら考えることが出来るというモノだろう。
これはオレのアクセレーターとの相性がとても良い!
つまりこの[奇術師]は、オレの能力を底上げするクラスではないだろうか。
天啓を得たオレは、そのまま飛びつきそうになる気持ちを抑え、隅っこのボッチ席でタバコを吹かし考えをまとめるのだった・・・。




