14:勝利の栄光をキミに
いろいろな意味で凍り付いた時間のなか、冷静さを取り戻したラキシスは、オレの一挙一動を見逃すまいと視線を強める。
「・・・あなた、いったい何者なの?」
(何者なの、か・・・)
オレはIDカードを手の平に出し、それをラキシスに見せる。
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ジュンペイ 32歳 種族:人族
クラス:なし
職 業:無職
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別に悪事を働く訳でも、騙すつもりもない。
信用を得るためには、自らIDを呈示して誠意を見せる。
「っ!・・・・・・その歳で無職なの!?」
「そっちかぁ!!!」
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サポ助とスキルを制作した後のオレは、なにもエルフや猫ミミのオネーサンばかりに気を取られていた訳ではない。
断じてない・・・。
この世界のシステムや新たに得たスキルの考察を含め、自分設計の為にも自身の分析は抜かりなく行っていた。
まずは[ストレージ]
この空間収納の仕様により、デザートイーグルの盗難や紛失の心配が無くなる。
しかし本質はそんなところに在るのではなく、いつでも[抜ける]ことで戦いの隙が無くなることにあると思う。
また、対人戦ならば[欺き]奇襲を行うことになるのも大きな強みだ。
だからこそオレは、収納スキルを最優先したのだ。
そしてやはり、デザートイーグルはとても強い!
最強に近い攻撃的アドバンテージを掴むことが出来る。
加えて[リロード]とのコンボが最大の強みだ。
弾数を気にしない銃撃は、その攻撃力を何倍にも上げることが出来る。
また[リロード]は、銃弾やタバコ以外にも補充することが出来るので、今後様々な場面で活躍することだろう。
[マップレーダー][アクセレーター]
オレはこの2つのスキルを得て、ニュータイプの力を得たと思っている(笑
彼の偉人は同じバーニアの筈なのに、まるで3倍のスピードと感じさせたという。
相手の初動を瞬時に察知して、その瞬間にはもう対応行動をとっている。
多分いまのオレも、同じように感じられていることだろう。
フフフ・・・、認めたくないものだな、自分自身の若さ故の過ちというものを。
しかし、いくら俺ナブル少佐だとしても不意打ち、範囲攻撃、超スピードには対応出来ないのは確かだ。
まして、このキャスジュン・ペイクンの装甲は紙でできているので、確実に一撃死だといえる。
まぁ、当たらなければどうということはないのだが・・・。
さらに注目しておきたいのは、以上の[強さ]の殆どがパラメーターに依存していないということだ。
この世界のランクはスキルの質や数ではなく、身体的能力とクラスの熟練度で測られているので、オレのこの強さは謀らずとも相手に[謎]を残すことになるだろう。
反面、その[強さ]を理解され対策を取られると、驚くほどに脆い一面もある。
つまり先ほど、ラキシスの前で見せた戦い方のように[欺き][見せない]というのが、このジュントロ・ペジーナの最大の活かし方といえるのだ。
まぁ、戦いとは常に二手三手先を読んで行うものなのだからな。
最後に違う視点から考察しておこう。
オレと相性が悪い相手は以下の通りだ。
速い、小さい、超堅い、接近戦、見えない、隠密作戦、暗殺、フェイント、持久戦、範囲攻撃、物理無効系(エレメント?もしかしたらスライムも?)
逆にいえば、これからの自分設計の課題は、この辺をどう克服してするのかに掛かっている。
つまり[クラス]選びは、自分に合ったスキル優先で選ぶべきなのかもしれない。
しかし、今後の行動次第ではまた[称号]が得られる可能性が考えられるので、制作スキル獲得の意味でも、ポイントには余裕を持たせておくべきと考える。
オレはギルドに到着する前には、こういった考察を終えていた。
だから自身の弱点ともなりえる、デザートイーグルやスキルについて開示するつもりはない。
ただし長期的なことを考え、ID情報は必要以上に隠す気はない。
これから大きく[欺く]ためには隠すのではなく、囮が必要と結論を出しているからだ。
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(しかし・・・これはナンセンスだ!)
まさか、最愛のメガネ天使に「無職」を指摘されるとは・・・
(く、そこまで考えが回っていなかった!)
本筋とは違うところでダメージを受けるジュンペイ。
気を取り直し、軌道修正を図る。
「お恥ずかしい話し、その通りではあるのですが・・・けど、そういった事ではなくて今はこれ以上、オレが何者なのか?、その質問に誠意を見せられません。だからオレを、このギルドに登録してもらうことは出来ませんか?・・・キミの目で、キミの目で、オレが何者なのか見極めてもらえませんか?キミの目で・・・」
オレは割れた花瓶の破片や花を拾いながら、ドサクサ紛れにドヤ顔でアピールする。
「・・・自分を我々ギルドに売り込みたい、ということですか?」
「ええ、本当はあなた個人に売り込みたいところですが、えぇっと、、あの~・・・はい、そんな感じで大丈夫です。はい」
カッコ付けて口説くつもりが、慣れないキザなセリフ回しが思い付かず、後半若干格好悪い。
「・・・本当につかみ所が無い方ですね、ジュンペイさん。では、本題に戻しましょう。まずは威圧を含め、疑うようなマネをしたことから詫びさせて頂きます。申し訳ありませんでした」
そして、ラキシスは右手を軽く振る。
それを合図に3人のハンターは退出する。
オレも遅れて、元の場所に腰を下ろす。
「アナタがお持ちした賞金首ID、確かに受理させて頂きます。後ほど1120万イェンご用意させて頂ます」
「改めて聞くと凄い金額だね」
「ええ、上位ランカーでしたので相応だと思います・・・ですが、いくらこちらが威圧を掛けたとはいえ、先ほどアナタが破壊した、花瓶と壁の補修費用は差し引かせて頂きますのでご容赦ください」
「うへぇ、まぁ仕方ないよな、異論はないよ」
「そう、良かった」
そう言って、少し表情が軟らかくなるラキシス。
たぶん、オレの人間性を測っていたのだろう。
オレもそれに合わせ、和やかな表情を意識する。
「ところで、先ほどの件ですが・・・その、魔法ですか?」
「・・・まだそれを、キミに打ち明ける訳にはいかないな」
そう言ってラキシスへと歩み寄り、彼女の前でひざまずく。
そして背中に手を回し、ストレージから割れた花瓶に入っていた花を一輪取り出して、捧げるように差し出す。
へへへ、ちゃんと仕込んでおいたの
「今はこれが精一杯・・・あと、敬語じゃない方が可愛いよ」
「っ!・・・有り難うござ、、、ええ、ありがと」
マジ天使ラキシスたん!
脳内ハイビジョンに見事録画し、走馬燈の予約再生に記録する。
(キタコレ!ヤダァー、なんか良い雰囲気!良い感じに決まったし!)
もう超可愛い超可愛い超可愛い!
そんな気持ちの悪い笑顔を浮かべているオレに、ラキシスが言う。
「あのう、申し上げ辛いのだけれど・・・」
スゥーと差し出す左手には、とても綺麗な指輪がはめられていた・・・
(ララァ・・・私を導いてくれ・・・)