13:不愉快です
二時間ほど経過していた。
あ~だ、こ~だ、言いながらサポ助と一緒にスキルを制作した。
「ふぅー・・・だいたい能力は把握した。そろそろ昼過ぎってところかな」
公園で散歩する子連れの主婦や、ジョギング中の女性の体のラインを見ながら、一仕事を終えた満足感に浸る。
<そういう視線のおくり方、ホンマに遠慮ないなジュンペイはん。いつか捕まるで。ほらっ、ゆっくりもしてられへんで。やることあるやろ?>
その通りだ。
まずは、賞金首IDカードの換金をしてもらうべく、おじいさんに教わったギルドに向かわなくてはならない。
「じゃ、行きますか」
新鮮でいろいろ知りたいことも多いが、教わった討伐ギルドへと歩き出す。
建物は大きく、目立つ看板が掛かっていたので迷うことなく到着することが出来た。
酒場のような作りの奥に、受付があるのがすぐに分かった。
今は昼過ぎなので、店内には数名のハンターが談笑しているだけで、職員も時間の谷間に余裕のある雰囲気が見て取れた。
「あの~スイマセン。討伐IDを持ってきたんですが、ここで良いのでしょうか?」
「こんにちは、はい大丈夫ですよ。では拝見させてい・・・少々お待ち下さい・・・」
笑顔が素敵な受付嬢が、IDカードの束の中に赤鬼IDを見つけて奥へと消える。
「・・・お客様、どうぞこちらへと移動お願いします」
そう言って奥の個室へと通される。
(なるほどね、この後ギルドマスターなり偉いさんが来るパターンね、けど赤鬼討伐ってそんなに大事なのか?)
しばらくして、
「お待たせしました」
声が掛かり、振り向き、その女性の姿を見て衝撃が走る!
メガネである!
メガネ、ショートボブ、タイトスカート、ニーハイ・・・
ドラドラドラドラ・・・跳満である!
(そっちかぁ!!)
てっきり髭のドワーフあたりを想像していただけに、落差がデカイ!
(この世界にメガネがあったんだ!こ、これで・・・これで、地球への未練が完全に断ち切られた!!)
気分は一気にスーパーハイテンションである!
めちゃめちゃタイプの女性の登場に、思考回路があらぬ方向へと移行する。
「?、お待たせして申し訳ありません。さっそくですが幾つか確認させて頂きたいのですが・・・宜しいでしょうか?」
「はは、はい、何でも大丈夫です!32歳ジュンペイです!!」
「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ、ジュンペイ様。ご存じだと思いますが高額対応になるため、手続きと確認作業を行うだけですので」
そういって正面に座るメガネ天使の胸が・・・これまたデカイ!!
はちきれんばかりのジャケットが存在感を主張する。
「・・・・・けしからん」
「えっ?」
もう役満である!
こんなの見たことありません!!
いないなぁって現実で思ってたら、ここにいた!!
「おっ、お名前を伺っても・・・」
「これは失礼しました。私、このギルドでサブマスターを勤めさせて頂いておりますラキシスと申します。以後お見知り置き下さい」
(けしからん!もうぉ・・・マジけしからん!!ラキシスたんマジ天使!)
「結論から申しますと金額は1120万イェンとなります。大鉈の斬鬼タケワカノミコトはBランク下位ランカーで、今まで多くのハンターを返り討ちにしてきました」
(んんんんうぅぅぅ・・・けしからん!なんて胸してやがるんだ!!なにが詰まってやがんだ!!修行なのか?靴ひも結べるのか?内野ゴロ取れないでしょ!?)
「また赤鬼盗賊団は決してランクは高くないのですが、ブレーンであるヒコザブロウはなかなかの切れ者で、神出鬼没な盗賊団として足取りが掴めずにいました」
(あぁぁぁ、けしからん!けしからん!けしからん!けしからん!!)
「それでアナタには申し訳ないのですが、このIDカードをどの様な経路で入手したのか、詳しいお話をお聞かせ願いたいのですが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つまり疑っていると?」
「単刀直入に言うとそういうことになります」
そう言うと、ハンターらしき厳ついオッサンが3人、部屋へと入ってくる。
オレの後ろに1人、ラキシスたんの後ろに2人と完全に威圧体制である。
足を組み直し、怪しい微笑を浮かべるラキシス。
「正直に申し上げますと、どう見てもアナタが討伐したようには見えません。いえ、それ以前になんの装備もなく無警戒・・・というか、そんな見窄らしい格好で、我々が手を焼いていた盗賊団を壊滅?これはもう何の冗談かお聞かせ願いたいとそう言っているんです」
「・・・・・」
オレは座ったまま両手を広げ、確かになにも持っていないことアピールする。
ヨレヨレのYシャツにボロボロのスラックス。
確かに言われてみれば、こんな見窄らしい格好で討伐しましたでは、疑われても仕方がない。
だが、
「・・・・・無警戒、ね」
その一言で場に緊張が走る。
「オイッ、あんまり調子くれてんじゃねぇぞ」
「どこのバカかぁ知らんがサブマスが優しく言ってるうちに、帰った方がいいんじゃねぇか?」
ラキシスの背後より威嚇する二人のハンター。
オレの背後に立っている男が、肩を掴もうと手を伸ばしてくる。
オレはそれを振り向きもせずにかわし、そのままの勢いで立ち上がり、壁際にあったランプにまで歩みよる。
そして、いつの間にかくわえていたタバコに火を付ける。
「・・・ふぅーー」
ー[マップレーダー]ー
称号[ジャイキリ]×劣化[森羅万象]で制作したスキル。
系統:探知パッシブスキル。
名称通り、最大周囲100mほどの反応を、ゲームの簡易マップレーダーとして感知することが出来る。
ファミコンレベルだが・・・
しかし、これだけでも便利は便利なのだが、余りにもショボ過ぎるので、サポ助と話し合い、最小のズーム機能は5mほどにまで、小さく縮小出来るようにした。
そうすることでゲームなどがそうであるように、その半径が小さければ小さいほど、空間の把握能力は向上し、そこにいる生物の些細な機微を感知することが出来る。
「ガンツ!手は出さないで。ごめんなさい、手荒なマネはしたくないの。どうか、穏便に、、え?いつの間に、どこからタバコを・・・」
オレは挑発するように、また両手を広げて、なにも持っていないことをアピールをする。
ー[ストレージ]ー
称号[招かれざる者]×劣化[空間収納]で制作したスキル。
系統:収納スキル
ぶっちゃけてしまえば空間収納である。
元々[空間収納]は、他のスキルに比べレアリティーが少し低かったのと[招かれざる者]が、逆に超レア素材だったので、制作が可能となった。
数量限定ではあるが、持ち物を空間にしまうことが出来る。
取り出しはアイテムを思い描きワンアクションするだけで取り出せ、収納もワンアクションなのだから非常に優れた仕様である。
サポ助は貴重なレア素材を、収納スキルに使うことを激しく反対したが、オレはこれこそが一番大切なスキルだと考えている。
「テメェー、なに余裕ぶっこいてやがるんだ!サブマス、お言葉ですが、こんな野郎はボコボコにして・・・」
(あちゃー、チョット態度悪すぎたかな?舐められないように頑張ったんだけど・・・しゃあない、対処するか。けど、まさか殺したり怪我さす訳にはいかないよな・・・さて、どうしようか・・・はぁ、驚いたラキシスたんも超可愛い♪いかんいかん、見とれていては・・・。よし!あの辺を撃ち抜きますか!)
ー[アクセレーター]ー
称号[対集団×20]×劣化[時間停止]
系統:能力向上スキル
流石に時間停止のように、事象に干渉するのは大きなエネルギーを使い過ぎて、制作は不可能だった。
しかし、発想を転換させ、自身の思考速度を高める程度なら、干渉物が無いゆえに抵抗がなく制作可能となった。
機能は集中して思考のスイッチを入れると、その名の通り思考が加速する。
体感時間の延長とも取れるが、難しいのは自分の体のスピードが加速している訳ではないということだ。
ただし、観察と思考時間を十分に取れるので、動きに迷いがなく、最短の行動のみを選択することが出来る。
相手からすると動きに「タメ」が無く、攻撃した瞬間にはもう、こちらの回避行動が始まっていると感じることだろう。
オレは範囲を狭めた[マップレーダー]により、三人の重心が前に掛かった瞬間に[アクセレーター]を行い、もうその瞬間には行動に移っていた。
クルリと横に一回転を始めながら右手を後ろへと回す。
そして回転を行いながらデザートイーグルを取り出し、照準を反対側の壁際の花瓶へと向け、発射する。
そのまま止まることなく、一回転が終わる時には手を後ろへと回し、デザートイーグルを[ストレージ]へと収納する。
===バァッンッッ!!===
パリッン!!!
「キャッ!」
「なっ!」「っ!」「どうしたっ!」
突然の銃声と花瓶の破裂により、踏み出し掛けた三人の足が止まり、ハンター達はキョロキョロと現状把握に努める。
「ふぅー・・・」
オレはタバコを吹かし、ラキシスを睨みつける。
驚きが隠せず、フリーズするラキシス。
オレの視線に、怯えの表情が見え隠れする。
「・・・ねぇー?」
「はっ、はいっ!」
「・・・・・・そのぅ、彼氏います?」
「はぁ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
時間が停止した・・・
(アクセレーターっ!思考加速!!・・・
あぁぁ、タイミング間違えた!やっちまった!)




