1:ないわ~
「おい、なさ過ぎんだろっ、これ?」
ライトノベルが好きだ。
アニメ、マンガ、ゲームも好きだ。
通勤途中や会議中、もし自分に能力が発現すればどんなオレTueeeにするか妄想していた。
「と、取り敢えず、落ち着こ、な?」
もし自分が転移したのなら・・・
間違いなく人生バラ色。
こんな社畜人生になんの未練もねぇ!
チートだろうが、無能だろうが、百パー異世界満喫して、ケモフレに囲まれてハーレム建築士になってやるぜ!てきな?
「ちょっ、マジか?し、死ぬって!えっ!?チョット待ってって!!」
ずっと思ってた。
オレが輝けるのはここじゃない。
デスゲーと知っててもナーヴギアがあったら喜んで被っちゃう。
いつでも白い世界ウェルカムっすよ~
勇者召還、超協力的だよぉ~
もしくは、お願い。
フルダイブ技術、早く開発してくれっ!カヤバセンセイ!!
「ぐぎゃぁぁ!痛ってぇぇ!!骨、絶対骨折れてるって!」
ずっと、そう思ってた。
誰だってそうだろ?
剣や魔法の世界。
異能バトルでヒャッハーしたいよね?
「い、いい加減にしろぉぉぉ!!!」
逆ギレのように、凄んで叫びあげる。
その気迫で、なんとか襲い来るゴブリンは、警戒のため少しさがる。
「く、クソォ、、、痛ってぇよ。マジかよ、これ」
ゴブリンが振り下ろした棍棒を、受け止めた左腕がズキズキと痛む。
いつの間にか、頬に涙が伝っていた。
「夢じゃないのか?最悪だ・・・し、死ぬ」
目の前のゴブリンは一匹だけ。
身長140cmほど。
小柄で、小学生高学年くらいのフィジカルだろうか。
しかし、その邪悪な表情と無慈悲な殺意に完全に飲まれていた。
再度ゴブリンが踏み込み、オレの太股を強打する。
「グハッ!痛てぇぇ!!ぁああ!!くそぉが!!」
痛む体を無視して、のし掛かるようにゴブリンを押し倒す。
「くそ、バカ野郎!!死ね、くそ、、ぐゃゃ!」
必死に暴れ回るゴブリンを、なんとか体格差だけを利用してマウントポジションにもっていこうとするが、その凶悪な口がオレの腕に噛みついた。
「がぁぁぁ・・・」
もし犬に本気で噛まれたらこんな感じだろうか?
必死に抵抗するが、手加減のない引きちぎるような噛みつき。
どうしようもない痛みのせいで、心が折れて弱気に覆い尽くされそうになる。
だが、気が付いた。
目の前には、オレの腕に噛みついているせいで、無防備に延びきったゴブリンの首があることに。
「ああああっ!!!」
オレはその喉元に噛みついた。
力の限り、歯が割れんばかりに噛みついた。
暴れるゴブリンも急所に噛みつかれ、やがてその力を失っていく。
オレは文字通り喉元の肉を噛みちぎり、吹き出したその返り血で我に返る。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
マウントで見下ろしたゴブリンは、完全に戦意を失い、虫の息で恨めしそうにこちらを見ている。
オレは近くに転がっていたゴブリンの棍棒を拾い、何度も何度もその顔面へと突き立てるように叩きつける。
「はぁ、はぁ・・・・・痛ってぇ・・・」
体の状態はボロボロだ。
左腕は骨が折れたかのようにズキズキと痛む。
右腕は噛みつかれ、えぐれるように裂傷して血が滴る。
左太股も打ち身で痛み、体のあっちこっちが爪で引っかかれて傷だらけだ。
ゲームに例えるのなら、HPは間もなくレッドゾーンに入るだろう。
痛む体でなんとか立ち上がり、冷静に周囲を見渡してみる。
皮肉にも抜けるような青空に、爽やかな風が吹く小高い草原だ。
そしてオレはこの戦いでボロボロになってしまったYシャツとスラックス姿に、安い革靴。
特に前兆もなく、乗り慣れた職場のエレベーターに書類を見ながら乗り込んだ瞬間、もう、ここに居た。
そして、目の前には凶悪なゴブリン。
事態を把握する暇も検証する暇もなく、現在に至る。
(やっぱり、異世界転移なんだろうか・・・)
足下には無惨な姿となったファンタジー世界の証拠。
そしてズキズキと痛む体と、妙にリアルを意識させる流血の生暖かさ。
オレは尻ポケットに、いつも入れているタバコを一本抜き出し、ライターで火をつける。
「・・・・・ふぅーー」
血でタバコが湿り、うまく吸うことは出来なかったが、なんとか一息くらいは吸うことが出来た。
そして改めて周囲を見渡してみると、3時の方角よりゴブリンが3匹。
こちらへと迫っていた。
タラタラやっていきます。
宜しければお付き合い下さい。