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第五話:チャンス/ピンチ

「どうしたの、福地君?」

一塁コーチャーをしていた福地が戻って来てからずっと不服そうな顔でで森下を眺めているのを見てマネージャーの永谷が聞いた。


「今のプレーで森下君がアウトになったけど…でもあれ、セーフだったんだよ」

福地が言うには、先に森下の方がベースを駆け抜けそれを相手の一塁審も分かっていたからコールが遅れてホームの様子を見てからアウトを告げたのだという。

「森下君は審判がアウトっていったらアウトだっていうんだけど何か納得出来なくて」

セーフ、アウトが味方に甘くなるのは仕方のない事なのかもしれない。

大人なら兎も角後数年間付き合うことになるチームメートとなると甘くもなる。


永谷が口を挟もうと口を開こうという所で福地が溜め息をして言った。

「って言ったら森下君ね。一点差の方が投げがいがでるから願ったりだ。零封してやる、だってさ。それでどこまで本気なのかな、と思って見ていたんだ」

永谷と福地は顔を見合わせて一笑する。

「永谷さん、ちょっと来てー」

永谷は軽く会釈すると監督によっていった。

「え、サイン?はい、分かりました」


再びグラウンドに目を向けるとボールをセンターに運ばれていた。

「ホントどこまで本気なんだろ」

ぼそっと誰に言うでもなく呟いた。




それから森下は3、4、5回に渡って得点圏にランナーを進められるものの打ち取るピッチングで決定打が出ず無失点に抑え、球数も少なく60球に達していない。対する三國は4,5回とそれぞれ一つずつ四球を出すものの2塁ベースを踏ませず、球数が80球を越える少し悪いペースながら1点差を保った。




「勝ってるのはいいけどなめてかかってきてくれた初回の一点だけっていうのがねー」

円陣の端で佐々木監督が声を掛けた。

「はい、俺も賛成です」

森下がそれに乗ったのを見て主将が頷いて、

「じゃあ、この回一点取るぞー!!」

「おー!!」

皆の士気が高まった。


「でも何で一点何ですか?」

「え…ごめん」

「……すみません」

皆は苦笑いで空気を埋めた。




『6回の表 三番ピッチャー 森下君』


(兎に角塁に出よう)

「お願いします」

森下が構えて三國がモーションに入って(ファーストの位置が深い)投げる。


彼はうまい具合に内角に投げてくれた直球を一塁線にバントしてピッチャーが捕球するも一塁には投げずに舌打ちしてマウンドに上がった。

「今度はセーフになったぞ」

福地とハイタッチを交わして言った。



森下は少し広い位にリードを取ると、足に焦点を合わせて集中し始めた。

(キャッチャーの肩は普通だし、ピッチャーも多分クイックが得意じゃない。となったら)

ここで牽制をいれてきたが、頭から帰るとタッチするタイミングでもない程でボールを返すと直ぐに同じ幅でリードを取る。

そして、(投げる!)完璧なタイミングで駆けていき、一球目を外して投げてキャッチャーもいい所に投げたのがそれでもセーフになった。


ノーアウトでランナー二塁となり四番の羽村と追加点のお膳立ては十分である。

(あいつ、何でも出来るんだな。俺もバッティング位はしっかりとやって返してやるよ)


羽村は後ろ脚に重心を乗せて足をほとんど上げずに腕でタイミングを取るタイプのバッターでグリップを柔らかく握ってバットを揺らした。


(こいつを打ち取れたら後は簡単だからな。まずは内角にストレートでいくか)

三國は頷いてランナーを気にしつつ投げる。

羽村はいつもはテイクバックを大きく取るのだが、この打席は小さく後ろに引いただけでボールをコンパクトに打った。


打球はサードの伸ばしたグローブの下を抜けて行った。

レフトは定位置のやや後ろから回り込んで打球を抑える。


森下はボールが抜けてから走り出したのでタイミングは厳しい、どうしようかとコーチャーの瀬谷を見るも何だか曖昧ではっきりしない。

(タイミングはきつい…それにまだノーアウト)

彼は三塁を2m程超えた所で止まった。


レフトがホームに直接送球したので羽村は2塁まで進んだ。



『5番 センター 白岡君』 

(僕の所に回ってきたのか。前の2人を考えたら予想も出来てたけど…。サインも出そうにないし打つしかないのか。兎に角打ち上げないようにはしよう)

チャンスの場面に白岡は少し臆してしまっている。


(このバッターは固くなってるな。スクイズあるかな。そういえば相手の監督はサインを出さないって誰かがベンチでいってたな。スクイズ…相手ピッチャーの調子がいいから追加点はやりたくない。さて、どうしたものか。三振か打ち上げてくれるのがベスト何だが…)

キャッチャーの中津は三國が嫌がるのでマウンドに寄れず一人で色々なケースを考えた。


そして、内角攻めでいくことに決めて構えた。


三國がセットに入り、羽村が大きくリードを取る。三國はそれが少し気になったが、気を落ち着けてホームに投げた。

ストレートが真ん中に入ったがバッターは見送った。


(うわー見送っちゃった。次は振ろう。ストライクなら振ろう)

そう考えていたのだが、内角に入るスライダーをまた見送ってしまった。

こうなると一度タイムでも掛けて切り替えるべきなのだが、それは白岡以外には掛け難い。それに浮足立っている時にタイム等頭に浮かんでこないのだ。

彼は高めのボール球で三振してしまった。


『6番 ファースト 相川君』

相川は打席に入る前に他の人はもう普段見たりしないが彼は律儀にも監督の方を見た。

だが、彼は思わず眼を丸めた。監督がサインを出したのだ。


佐々木は羽村は外野の位置を確認していたが、森下と相川が自分を見ているのが分かってせっかくだからと覚えたばかりのサインを使った。

この所の練習でちゃんとバントの練習も行っていたが相川はあまりうまくいっていなかった。ただ、そんな事は監督の知るところではなかった。



相川が打席に入り、ピッチャーがセットに入る。

太ももが緊張して張っているのが自分でも分かった。頭の中で何度も『スクイズ』の言葉が繰り返される。


ピッチャーが前に足を踏み出す。

内野陣が慌てて動き始め、相川は内角低めの球をしっかりと見て当てる。


キャッチャーが打球処理に走りノーバウンドで取った。

バットに当たり後ろにふらふらっと上がった球を捕球して直ぐにセカンドに投げセンターがボールを取ってベースを踏みダブルプレーを取られ、ボックスの近くで立ち尽くしていた相川の背を森下が押してベンチに戻った。



相手の監督はベンチ前で円陣を組ませて激励を掛けた。


投球練習の時に森下は一球一球丁寧に投げて今の状態を確かめた。


『6回の裏 3番 セカンド 宮山君』

(少し球が上ずってるな。足も重くなってきた。中学の時は7回までだったからこれで十分だったのに…思いっきり投げてたわけでもないのに…ブランクか、厳しいね)

彼はマウンドで上を見上げ周りの声に耳を傾け「よし!」と心内で叫び気合を入れた。


初球丁寧に外角低めいっぱいにストレートを投げた。

(今…明らかにボールを見てきたな)

次の球一度首を振り真ん中から変化するスライダーを腕をたたんで引っ張る。ショート定位置ややサードよりで待ち構え、後ろに転々と転がっていった。先に羽村がリードしていた位置で守備に就く前に地ならしはしていたが甘かった。


『4番 ファースト 丹後君』

丹後はバットを指3つ分程短く持って構え、森下は牽制を一度入れた後クイックで投げる。

ボールは外角への直球だが、丹後は強引に引っ張った。打球は高く上がってファーストの相川が取って森下に渡したが、送球と走る速度が合わず速度を緩めてしまった分セーフになってしまった。


次の中津は始めからバントの構えを見せていて、それを素直にやってもらい一死二、三塁でバッターは旧友桐山を迎えた。


(またいい場面で回ってくるね。ふぅ、チャンスの後にピンチあり…格言だな。ここが今日の山場だ)


森下は二度首を振りセットから足をゆったりと上げて投げ、ボールは外角から真ん中からやや内角に曲がるスライダーを空振りして羽村がボールを下に落とした。


次は一回目で頷きマウンドで一息ついてから投げる。直球は高めに大きく外れていった。

(足の踏み込みが甘くなってきたな。球が上ずってきた)

足場を念いりに整えてまた一息ついた。


そして、セットに入り時間ぎりぎりまで球を持って投げた。直球が膝元に決まったがボールになりまたもや羽村が弾いた。彼はピンチになった時には普段以上の力を乗せられるピッチャーでその球に羽村が対応しきれておらず、落球はこれで今日6回目であった。


次のベルト前の球をファールにして森下と桐山が目を合わせて2人して口元に笑みを作った。彼の頭にチームの勝利が浮かんだが、それよりも桐山を抑える方を考えた。

彼はワインドアップをした。彼のワインドアップは自分が尊敬している投手の物を似せていてこれをやるといつもモチベーションが上がるのだ。


それを見て桐山は違和感がなくなった。今日一日ずっと彼の球を見て本調子でない事が分かっていて残念に思っていた。だが、このピンチに来て一球毎にキレが良くなってきていた。



ワインドアップの後リフトアップを大きくとり、ゆったりとテイクバックに移り大きく踏み込み右腕を引きボールを押し出す。

真ん中高めと危ない所だが、桐山は振り遅れてボールは高く上がった。当てるだけを意識してコンパクトに振ってやっとだった。


打球は思ったよりも伸びていきセカンドの瀬谷が追って行ったが、ライトに任せた。

少し浅いがサードランナーが捕球と同時に走った。

間野の肩は強くなく相川が中継に入った。


ボールが少しそれてタッチを交わされ相手の機動力もありセーフになった。


(あの打ち方であそこまで飛ぶのかよ。ったく、完封がなくなったじゃねぇか)

森下も桐山も悔しそうな顔を浮かべた。




それからはどちらも安定したピッチングを続けて2塁までランナーが進むことがなく1−1のまま試合は終わった。









打ち切りマンガ的な早さで進んだこの回ですが、思うことは多いです。

僕はキャッチャーで一つレベルの違う人の球を受けてまともに取れなかったことがあったり、5、6番の人の気持ちも分かります。

これから少し野球と離れた話しにする予定です。

では、この話からこんなあとがきになりますが付き合って下さい。

ちなみに(話し方で分かるかもですが)大阪の関西弁の強くない所を頭に描いて書いとります。

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