第二話:球友
練習試合当日、対戦相手校のグラウンドに直接集合となり、同学年の者は同じ方面ではいなかったので、森下は一人で行った。
「おはようございます。」
「「おはよう。」」
彼が待ち合わせ場所に着くと三年の二人がいて、グラウンドに一礼した後で挨拶を掛けた。
グラウンドは校舎に隣接して設けられて両翼は70m程である。
比べるのもあれだが、うちより随分広いな。それに、部費の差も多分大分あるな。
端に置かれてある機材を見てそんなことを思った。
相手チームの人は流石に結構な数がもう来ていてアップをしているが、顧問の人の姿は見えない。
「……あれ?」
森下が軽く相手の部員を見ているとそこに見知った顔が見えた。
そのまま少し前に出て見続けていると相手も気が付いた様で近くの人に声を掛けてから、互いに寄って行った。
「よっ、久しぶりだな桐山。」
「ああ、久しぶりって光!!お前何で?野球やらないって言ってなかったか?しかも、何で?」
桐山は身長181の少し長身でスラットした体にがっちりした肩周りであり、中学の時のチームメイトだった。
「何で?って言われてもなー。……ははっ、もしかしてお前は俺がやらないと本当に思ったのか?だって俺だぞ。」
実際は本当に止めていてなりゆきの延長線上なのだが、それは言わない。
「お前、何でそれならそれで連絡の一つも寄越さないんだよー。」
「悪いな。」
一、二週の話しだったのでそこまで気が回らなかった。と言う事もなく気にはしていたが、直前になると妙に気恥しくなってくるのだ。始めたきっかけ等も聞かれたくないとも思っていた。
「全く。ん、じゃあ今日はお前の所とやんのか?」
「試合も無しに朝っぱらからユニフォーム着て野球場になんかこねぇよ。」
「ははっ、そうか。これじゃあ鷹の言ってた通りだな。」
数か月前の渚中学での会話である。
「「「は?何て?」」」
森下が仲の良かった球友を集めて高校では野球をしないという事を告げると三人が反射的にそう答えた。
「だから、俺は高校ではやらない。高校は一番家から近い三越にする。」
「何でだよ!!お前なら推薦の一つ二つ来ただろ。」
普段は温厚な奴だったが、少し声を荒げて言った。
「……野球意外にもやらなきゃならんことが出来たんだよ。」
「あ、……そうか。お前ん家、今大変だもんな。」
皆直ぐに察して目を落とした。
「へへっ、そゆこと。」
野球以外でも真剣な表情を作る見慣れない姿の友を見るのは、少し可笑しい気持ちにさせる。
そして、森下はパンっと手を叩いて鞄を持って立ち上がり、またなと言って帰って行った。
暫くして口を開き始めた。
「俺、あいつと戦ってみたかったんだけどなー。」
「そしたら昔は同じチームでプレイしてたんですってテレビで紹介されたりしてな。」
「あ、俺もそれ考えたことあるよ。」
「高校……か。」
三人は顔を合わせると顔をそらして、それぞれのタイミングで溜息を吐いた。
ガタッ、
今まで会話に参加していなかった鷹が教室を出ようとする去り際に言った。
「あいつを誰だと思ってんだよ。その内嫌でも又グラウンドで会えるよ。」
三人にもなんだかそう思えて数分後にはいつもの皆になっていた。
「へー、あいつがそんなこと言うとはねぇ。意外だな。」
口数が少なくクールな彼だったので意外に思えた。
「でも、おかしいな。今日の相手は大した事ないから1年も入れて2年主体でいくって話しだったけど、お前がいるのに何であのオッサンそんなメンバーにしたんだ?お前がいるから受けたんじゃねぇの?」
彼は知らないらしい。この試合が酔った勢いに任せた物だということを。
だが、相手校の監督も加減を知っているようで森下は少しほっとした。
いくら自分でも一回り目は兎も角、毎日夜遅くまでみっちりと練習をこなしている高校相手にまともに9回を抑えきる自信は流石になかったのだ。
「ただ単に知らなかっただけだろ。で、そんな組み方ならお前も出れるんだろ、高校初戦か?」
「そう、6番ライトだよ。それにしても初戦がお前とはな。あ、もう二人でアップしとこうぜ。」
「そうだな、後で怒られそうだけど……。」
二人はランニングを始めた。
三越高校のメンバーも全員揃った。
「ねぇ、何で森下君は相手チームの子と先にアップしてるの?」
マネさんが誰とも無しに訊ねた。
「ふふふっ、それはな。俺があいつに相手選手を探る命を出したからなのさ。」
「昔のチームメイトらしいよ。」
田崎は軽く流されるどころか相手にもされずに少しいじけた。
「まぁ、積る話しもあるんだろうから、僕たちも始めよう。」
そして、三越の選手も体を作り始めた。
試合前の円陣を組んでいる所だ。
「てめぇらー、相手はどうやら三年抜きっつー舐めた事しくさってる奴ららしいが、そんなところは軽く捻るぞおらー!!」
周りに疎らにいる観戦客から笑い声がしてきて羽村以外の者は気恥しくなった。
でも、便乗して置きましょうか。
「はい!!やってやりましょう。」
「おし、気合い入れていくぞー!!」
『おう!!』
そして、彼等にとって後々結構重要となる試合が始まった。
《試合オーダー》
三越高校
1番 遊 竹橋 右投右打
2番 二 瀬谷 右投右打
3番 投 森下 左投左打
4番 捕 羽村 右投右打
5番 中 白岡 右投右打
6番 一 相川 右投左打
7番 三 田崎 右投右打
8番 左 戸塚 左投左打
9番 右 間野 右投右打
御陵高校
1番 中 志波 右投左打
2番 三 藤下 右投左打
3番 二 宮山 右投右打
4番 一 丹後 左投左打
5番 捕 中津 右投左打
6番 右 桐山 右投右打
7番 左 橋田 右投右打
8番 投 林山 右投右打
9番 遊 三國 右投右打
先行 後攻
三越 × 御陵
すっかり夏が過ぎてしまい、待っていた者がいましたら誠に申し訳ございませんでした。
ちょっと軽く忘れてしまっていました。言い訳5割ですけどね。
次回ようやく二戦だ。やっぱり試合書くほうがこちらも楽しかったりするんですよ。
では、又。