突然の別れ
急展開過ぎるかな……少し心配です。
「毛母細胞を創造──」
「す、すげぇな!」
まさか、秋守を覗いた他人に創造物を渡す……その第一号が『毛』だとは思わなかったです、はい。
だがまぁ、そのお陰で死なずに済んだのだから素直に喜ぶべきだろう。
ハゲだったディレックは、その頭にマリモのように毛を生やしているのだ。
「伸びるのには時間がかかりますよ? でも、あれはホントにすみません」
「いいってことよ」
ディレックはヅラが飛ばされた怒りよりも、新しい『長い友』髪を手に入れた喜びのほうが大きいようだ。
ちなみに、使用したCPは10。髪は命と聞くが、俺の命と同じ重みだと思うと何だか切ないな。
ディレックから良くやったとバシバシ肩を叩かれるが、痛いです。マジで痛いです。
「ナゼ、ここにいたか」
「ん、グルースか」
そう言ってここに来たのは他でもないグルースと、そのパーティ御一行であった。
「すまねぇ、お嬢ちゃんのことで怒ったんだよな? ありゃ、確かにデリカシーが無かった」
どうやら、俺がキレた理由を推理したらしい。
正解なのが悔しいね、俺はグルースに心のうちを見透かされるほどに単純な思考回路ってことか。
「怒った理由は合ってる。でも、俺も短慮だったよ。どうも秋守のことになると気が立っちゃうみたいでね」
「そうか……それと治療のこともありがとな。決闘相手の俺たちに手を差し伸べる必要なんて無いってのに」
グルースの言葉を皮切りに、他のパーティメンバーも感謝の言葉を述べた。
……なんだか、ムズ痒いな。
やはり、彼らから力を奪わなかったのは正解だった。俺は後悔しない選択をできたのだ。
「雪兎。ここでの用は済んだでしょうし、昨日の守衛さんに会いに行きましょう」
「おっ、そうだな。悪ぃ、用があるんでもう行くよ」
「そうか、引き止めて悪かったな」
「気にしてませんよ」
……ディレックとグルースが一緒にいると敬語とタメの使い分けが面倒だな。
まあいい、秋森の言う通り守衛さんのところに行くとしよう。
「ははっ、早速ギルドのほうで騒ぎを起こしたらしいじゃないか」
「……耳が早いですね」
「当然だ、街の出入口が仕事場だからな」
ギルドカードでの手続きが終わったらしく、カードを返却された。
「ただ、注意してほしいんだが。この街に籍を置いてない場合は、ギルドカードがあっても週に1度の更新が必要だ。まあ、それは冒険者ギルドのほうで手続きが可能だから、そこまで手間はかからないさ」
「ありがとうございます」
何から何まで申し訳ないな。
せっかくだし、何かささやかな贈り物でもするかな。もちろん、創造で創るわけだが。
「守衛さん、なにか欲しいものはありますか?」
「欲しいもの? そうだな、支給品の剣が魔物を撃退した時にガタきてたんだ。いやあ、ビッグクラブは硬くてかなわんよ」
ビッグクラブって、俺と秋守が蹂躙したやつだよな。まあ、確かに剣で切りつけるには向いていないだろう。
「剣の支給をしてもらうには、面倒な報告書を書かないとダメなんだ。転売防止のためにな」
「なるほど」
じゃぁ、贈り物は剣でいいな。
早速、剣を創造するためにイメージを練り上げる。せっかくだし、いつも創っている剣よりもいいものにしよう。
普段よりCPを多く消費して創り上げた剣。鑑定を使って性能を確かめてみる。
─────
名称:鋼の剣
作成者:名瀬雪兎
鋼によって作られた剣。
付加効果
『耐久性上昇Lv.3』
─────
まあ、こんなものだろう。
「はい、これをどうぞ」
「え? 今どこから出して……」
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
押しつける形で渡した。
鞘付きにしてるし、我ながらいいプレゼントではないかと思う。
「それじゃ、これで」
そう言って俺と秋守は、その場を辞去した。
***
俺は食堂で、秋守と話をしていた。
「さて、今後の目標だが……どうする? 秋守」
「紅葉です」
「……どうする? 紅葉」
はっきり言って、生きていくだけなら俺の創造を使って金を創ってしまえばいい。
さすがに偽造し過ぎれば目をつけられるだろうが、貴金属や宝石を創って売れば問題は無いだろう。
だが、秋守の答えは俺の想像の範疇になかった。
「学園に、入りたいです」
「え、学園?」
「今朝の戦いを見て、雪兎の強さを再認識しました。あなたに私は吊りあっていません」
「そんなこと……」
そんなこと俺は思っていないし、俺は例え吊りあっていなかったとしても秋守と一緒にいたい。損得勘定ではないのだ。
だが、その言葉を言い出せなかった。ヘタレだな、俺って。
「観戦中に受付嬢さんに聞いたのですが、この世界ある学園では戦うことを専門とした学科があるそうです。また、そこには特待制度があり、それに合格すれば入学金から授業料まで、全てのお金を免除されるのだとか」
「別に、強くなくったって……」
「いえ、これは私なりのケジメなんです。強くなって、雪兎のもとに戻った時……私はあなたに告白します」
「え?」
思わず耳を疑った。
告白だって?
「実は私、高校一年の時から雪兎が好きだったんです」
「……どうして?」
「あなたは覚えていないでしょうが、あなたが怪我をした原因は私にあるんです」
怪我……と言ったら、思い浮かぶものはひとつしか無い。
高校入学直前に、俺は交通事故にあったのだ。そうして、俺は高校一年の4月を病院で過ごしたのである。
だが、それに秋守が関係しているとは思えない。
「あの時、あなたは轢かれそうになった私を庇ったんですよ。ですが、あなたは脳震盪による記憶の錯乱、運転手はよそ見をしていた。そのせいで私は『救急車を呼んだ善意の市民』になってしまったんです」
つまり、最終的に秋守は事故とは無関係として処理されたわけか。
それを秋守は気に病んでいた……と。
「クラスメイトのひとりが事故で入院している。学期初めにそう聞いた時は驚きました。これは謝る機会なんだって、そう思いました……ですが、私はあなたに嫌われたくなくて、事故のことを言い出せなかったんです」
秋守の顔に影が差す。
獣耳は垂れ、尻尾は項垂れていた。
「お見舞いに行くたびに見る、あなたの笑顔が辛かった。私のせいでこうなったのに……って」
目には涙。
こぼれ落ちた雫が、運ばれていた定食の上に落ちる。
俺は何も言うこができなかった。別に秋守に恨み言を言いたいわけじゃないし、言いたくもない。ただ、どう慰めればいいのか、それが分からなかった。
「そして、退院したあなたはイジメられてました。私がいない時に限って嫌がらせがあったみたいですが、気づいてたんです。それでいて、見ないふりをしていました。最低……ですよね」
「………。」
「それで、風紀委員になればあなたを守れる。そう思って、風紀委員になったんですよ。でも結局、私自身が変わったわけじゃなかった。風紀委員になったあとでも、あなたがイジメられるのを傍観するしかできなかった! あの時……あなたがクラスの皆を殺した時だって、あなたにそうさせたのは自分のせいなんだってッ! 何も出来なかった自分が情けなくて、悔しくて、恨めしくて───」
激情を晒す秋守。
クールビューティを地で行く普段の彼女からは想像もできない姿だった。
そんな彼女を見てもなお、俺は何かを言うことができない。言葉が見つからない、いや見つかっても口に出す勇気なんてないのかもしれない。
「───だから、今度こそあなたを守れるくらいに強くなって、あなたに告白します。最低な私です、フられても構いません。それでもあなたにお供します」
「お、俺だって秋守のことが──っ」
「紅葉……ですよ? 今はその言葉の続きは言わないでください。そしたら私は、またあなたに甘えてしまう」
そこで会話は途絶えた。
居心地の悪い沈黙がその場を支配する。
そんな中、再び口を開いたのは、やはり秋守であった。
「路銀はあります。あの収容所で宝飾品を盗んできてたんです。それを売ればなんとかなるでしょう」
「そうか……じゃぁ、俺に紅葉への贈り物をさせてくれ」
俺はイメージした。
どこに居ようと、互いの場所を知ることが出来るものを。
形は指輪だ。銀のリングに赤い宝石が乗った指輪である。
「創造──」
そうして、赤い宝石のついた二つの指輪が創られた。
「これは?」
「再会の指輪だ。俺と再会できる時が来たら、この指輪に念じてくれ。俺の居場所を教えてくれるから」
「ありがとう……ございます」
受け取ってくれた。
秋守は嬉しそうに指輪を受け取ると、それを胸に抱き。一時すると、左の薬指に嵌める。
「ここはあなただけの特等席ですから」
「うっ……」
面と向かって、そう言われると照れるじゃないか。
顔が熱くなるのを感じつつ、俺は誤魔化すように口へ食い物を運んだ。
秋守もそれに倣って、定食を口にする。
突然のことだったが別れの時が来た。
秋守が通いたいと言った学校があるのは、この国の王都。そこへ向かう乗合馬車があるのが昼までだったのだ。
「これも持ってけ、銘は『魔剣フラウリーベ』。きっと紅葉を守ってくれる」
「随分と魔力のこもってる剣ですね……大切にします」
ははは、このフラウリーベ。当然、創造の力で創ったのだが使ったCPはなんと30000。
鑑定結果はこんなものである。
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名称:魔剣フラウリーベ
作成者:名瀬雪兎
折れず、曲がらず、刃こぼれせず。
その一閃の前には鍛えられた鋼も紙と同義である。
付与効果
『不壊』『切味上昇Lv.Max』
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我ながらいいものができたと思う。
「じゃあな」
「はい」
別れの挨拶は随分とそっけなくなってしまった。
御者の掛け声とともに馬車は動き始め、ガタゴトと音を立てながら離れてゆく。
手を振る秋守に、こちらも手を振り返しつつ、小さくなっていく馬車のかげを見送るのだった。




