事故
グルースたちのパーティはステータス的にも、役割分担的にもバランスが取れていた。
全員に鑑定をかけたが、ステータスが1000を超える者はいない。それでも、互いの短所を長所で補うような能力値は賞賛ものだろう。
グルースはゲームでいうところの盗人だ。
その他に、長身で盾役の男、大剣を担いだ大男、眼鏡をかけた僧侶、魔法使いらしい女。
遊撃、防御、攻撃、援護、砲台。
実にバランスがいい。5人で10人分の力を出せるような、そんなパーティ構成であろう。
まあ、厄介なのは確かだが負けることは無いだろう。
そもそも、『負けない』という点においては、俺はアンデッドよりもしぶとい。何せ死なないのだ。
「武器は持たねぇのか?」
「持つさ。剣を創造──」
わざわざ秋守から剣を借りるのも面倒だ。創ってしまうことにした。
ギャラリーは何も無いところから、突然剣が現れたことにどよめくが、手品とでも思ってくれたのか追求の声をあげる者はいなかった。
そのまま、鞘とベルトも創造して剣を収める。
「じゃぁ、立会人として俺が決闘のはじめかたを決めるぜ。このコインが落ちた時、それが開始の合図だ」
ディレックはそう宣言した。
「殺しはあり……だが、無意味な殺しは反感を買うだけだと覚えておけ」
俺とグルースたちの両者に言っているように聞こえるが、これは俺に対する言葉だな、十中八九。
「どちらかの降参で勝敗を決めるが、決闘の成り行きによっては俺が勝敗を決める。文句はねぇな?」
「ああ」「はい」
「んじゃ、コイントスだ──」
ディレックがコインを投げ──落ちた。
チャリンと耳に心地よい金属音が響くと同時に俺は動いた。
できる限りの全力疾走で向かう先は──僧侶のいる場所だ。
盾役の隣を抜け、大剣の大男の脇を駆け抜ける。
「させねぇよッ!」
そこでようやく、俺の速度にギリギリ追いついたグルースが妨害に入った。
だが、そんなことは関係ない。
左腕の二の腕をダガーで切りつけられたが、そんなのはお構い無しに僧侶の腹を殴りつけた。
「───ンァッ!!」
肉を殴る感覚。
そのまま抉り込むように拳を持っていくと、僧侶の体が僅かに浮いた。
横隔膜が持ち上げれ、まともに息のできない僧侶は硬直する。俺は僧侶の首根っこを掴むと、剣を抜いた。
二の腕の傷? もう治ってるよ。
……。
このまま、この僧侶の首に剣を突きつけ、その間に『無への還元』を使ってこいつを廃人にする。
それが、俺のプランだった。
………。
だが、それでいいのか?
胸のムカつきを感じる。
コイツらは本当に悪いヤツなのだろうか?
豊島を初めとしたクラスメイトたちのような下衆なのだろうか?
──逡巡。
ギャラリーはこいつらを応援していた。それに、ディレックもこいつらには人望があるといっていた。
「……これで、コイツは死んだ。退場しろ。いいな?」
剣を僧侶に突きつけた。
離してやると、僧侶はグルースに謝罪してギャラリーの中に入った。
結局、『無への還元』は使わなかった。いや、使えなかった。
ダメだな、完全に同情してしまっている。
だが、同時に嬉しかった。
クラスメイトを皆殺しにして、快感を得た。
そんな俺にも良心が確かにあるのだと、確認できた気がしたのだ。
「じゃぁ……行くぞ!」
心機一転、俺はグルースのパーティの魔法に向かって突貫した。
「ガンタッ! マーヤを守れ!」
「おうよ!」
俺の目的を察したグルースが指示を飛ばす。
盾役が魔法の前に立ったのだ。俺の力があれば無理やり盾役を払い除けることが出来るが……それじゃ芸がないな。
俺は盾役の手前で方向転換して、盾役の裏──つまり、魔法使いを狙った。
だが──
「お見通しなんだよッ!」
そこでは、大男が大剣を振り上げて待っていた。
避けよう。
咄嗟にそう思ったが、体が動かない。
グルースだ。
グルースのやつが、俺を羽交い締めにしていたのだ。しかも、関節を上手く極めているのか、簡単には解けない。
「エアバースト──ッ!!」
大剣が体に触れる。
その瞬間に俺は『風魔』の爆発技を発動。天高くから魔力の塊を訓練場の地面に落とした。
「あっぶね……」
もう少し魔力の加減が甘ければ、訓練場が吹っ飛んでいた。
俺の周りには既に退場した僧侶を除いた、グルースのパーティメンバーが倒れていた。
「『無への還元』での回復……他人にも使えるか?」
さすがに、このまま放っておけばグルースたちが死ぬのは確実だ。だが、さっきのエアバーストで魔力はすっからかん。
そこで『無への還元』で他人の傷を治せるか試してみたのだが……できた。よかったよ。
「ん……俺は……どうして、無傷なんだ?」
「治してやったんだよ。感謝しろよ?」
「お、おう」
「お前達! 生きているかッ!?」
「生きてますよー!」
「生きてるぜ!」
ディレックの声が聞こえた。
周囲は砂煙で満ちてるからな。安否確認できなかったのだろう。
そして、暫くすると砂煙は収まり、訓練場の視界は晴れ………あ。
「やっば……」
俺は冷や汗をかく。
いやいや、当たり前だ。
エアバーストはクレーターを作らない隕石のようなものだ。空中で魔力を爆発させ、その爆風で周囲を凪ぎ払うのである。
威力をかなり抑えたのだが、それでもギャラリーに被害があったのだ。特に甚大な被害を及ぼしたのは──
「ディレック……お前」
グルースの……いや、その場の全員の視線はディレックの頭へと向いていた。
「なんだ、お前達……俺の頭がどうか…………は?」
砂煙が晴れたことによって照り輝いたものがあった。
それ即ち──ディレックの頭皮である。
「お、俺のヅラがぁぁぁああああッ!!!」
「す、すみませんでしたァ!!」
ダイナミック土下座。
謝って謝って誤り倒して、相手の怒りを収める最終手段である。こ、これで許して……。
「ナゼェ……テメェ」
ダ、ダメデシター!
ディレックはその手にいつの間にか剣を持っていた。てか、それ俺の創った剣じゃん!
まさかスキルの瞬間移動で盗んだのか?
「覚悟ォ!!」
「ちょっと待った!」
そう言って、俺の脳天へ一直線のディレックの剣閃を止めたのは……秋守?
てか、秋守もエアバーストのせいで髪がすごいことになっていた。クセがつきやすい髪質なんだな、風で巻き上がってタテガミみたいになってらぁ。
「待ってください。あなたは折角のチャンスを無駄にしようとしています」
「チャンス……だと?」
「そうです。あまり詳しくは言えないのですが……雪兎、いえ名瀬君はあなたの頭皮の救世主になり得ます」
「それはマジか?」
「おおマジです」
「よし、ナゼ。この天使がお前に執行猶予を与えた。それじゃぁ、話を聞こうじゃないか」
「そ、そうですね……それで決闘はどうなるんです?」
「あー、お前の勝ちだ。グルースもそれで文句ねぇな?」
「もちろんだ。負けた上に傷も治してもらって……これでケチつけりゃ、それは恥よ恥」
そうして、俺はツルッパゲを曝露されたディレックに連行されるのだった。
秋守には感謝の印として、髪を元に戻してやった。やっぱいつもの髪型が一番だな。
PV1000超えてました。
やっぱ嬉しいっすね(´∀`)




