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復讐と脱出


「また勇者召喚?」

「はい、夜中に王城へ侵入した時にそう聞きました」


 俺がステータスを創造した翌朝。午前の訓練中に秋守がこっそりと俺に伝えた。

 てか、侵入って……何やってんだこの子。


 話によれば例の王女が寝室で『勇者召喚ですか……新しいお人形さんができますね♪』と言っていたらしい。

 てか、人形って……何言ってんだあの子。


「それと、ここを出ることを考えた方がいいかもしれません」

「なんでだ?」

「彼らが……この城の人々が、私たちに嘘をついているからです」


 嘘ってなんだ?

 俺が首をかしげていると、秋守は説明を続けた。


「まず、ここは王城ではありません」

「は?」

「この体になって嗅覚が鋭くなったのですが、ここは潮の香りがするのです」

「潮って、ここは内陸なんだろ?」


 地図を見たこともあるが、それによればこの王城があるのはかなり内陸だったはずだ。潮の香りなどするわけもない。


「初めは、建材に沿岸部の石を使っているのかとも思いました。ですが、最近の諜報で怪しいところが多く見つかりましたので」


 そう言って、秋守は一冊の本を取り出す。そこには『勇者国有化計画』とデカデカと書かれていた。

 そんなもんパクっていいものかと思ったが、捨てられていたものを回収しただけだとのこと。情報管理が杜撰だな。

 今は訓練を主導する騎士長の目があるためか、秋守はその本をすぐさま片付けた。


 そんな分厚い本をどこに仕舞しまっていたのかと不思議だったが、秋守は当然のように尻尾の中に隠していた。

 あの尻尾……収納機能まであるとは、侮れないな。


「潮だけじゃなくて、あなたの匂いも嗅いでしまうのは難点ですね」

「え、俺ってそんなに臭い?」

「い、いえ何でも……」


 ま、マジか……これでも、清潔には気をつけてるんだけどな。やはり、自分の匂いには気づきにくいものなのだろうか。


「あなたの匂いに悶々としてるなんて……言えるわけないじゃないですか」


 最後、秋守が何か言った気がしたが、丁度一陣の風が吹きすさんだせいでうまく聞き取れなかった。

 ま、いっか。







「ふーん、『勇者を国防軍に組み込む』……ね」


 自由時間。

 あの後、秋守から受け取った『勇者国有化計画』に目を通す。


『勇者は自由を求める傾向があり、それを我が国の管理下に留め続けることは困難を極める。そこで、収容所を作り、薬物投与、魔法での精神干渉などで洗脳することとする。』


『最初の一ヶ月間で勇者をできる限り育成し、その後に一週間かけて洗脳を行う。勇者召喚のサイクルは二週間に一度とする。』


 今は召喚されてから2週間ほど経っている。

 秋守の話では、王女が新たな勇者召喚を思わせる言動をしていたってことだからな。


「どうするかな? 逃げるってのは確定だろうし……」


 問題はいつ、どうやって、誰を連れて逃げるのかだ。

 秋守は『潮の香りがする』と言っていた。てことは、ここは海に囲まれている可能性もあるのだ。まあ、沿岸部にあるって可能性もあるがな。

 想定するなら、考えうる中でも最も厳しいでシミュレーションせねばならないだろう。


「まあ、創造の力でボートでもつくるかな」


 エンジンの構造なんて知らないが、創造は『見た目』と『機能』が具体的に分かっていれば、構造を知らずとも物を創ることができる。


「するなら早いほうがいい。秋守は諜報活動してるって話だけど、逃亡決行までにできるだけ情報を集めてもらうか」




***




「今日もらせろよ」


 と、にこやかに豊島が言った。

 ホモが聞けば喜びそうなことを言うが、俺は生憎とホモではない。女の子が好きだ。


「嫌だ」

「ンだと?」


 俺はきっぱりと言った。


 今までは反抗することも、泣きわめくこともなかった『サンドバッグ』である俺の口答えに、豊島は苛立ちを顔に出す。

 俺がサンドバッグという立場に甘んじていたのは、反抗が無駄で意味の無いものだと分かっていたからだ。空手部のエースに、帰宅部のエースが勝てる道義が無い。


 いや、勝てる道義が()()()()


 今の俺は強くなってるはずだ。昨日も何度か殺されたが、やはり殺されるのは面白くない。自分が傷つくことに大した苦楚を覚えない俺だが、豊島への怒り……いや、怨みは積もりに積もっているのだ。ぶっ殺してやりたいくらいにね。

 それに、今の俺には高い能力値と『剣術Lv.Max』──そして、さらにもうひとつ奥の手がある。


「大人しく──殺されやがれ!」


 豊島はその手の大剣を大きく振り上げた。訓練用の刃の潰れた剣ではあるが、材質が鉄である以上、硬くて重い。


 鈍器だと考えれば十分な脅威である。


 そして、そんな鉄の塊が俺の脳天めがけて振り下ろされた。手加減している様子は皆無。


「遅いな──」


 だが、俺はそれを半身を逸らすだけで交わした。そして、そのまま豊島の懐に入り、駆け抜けぎわに、剣で思い切り豊島の膝の裏を叩いた。

 大剣の振り下ろしで重心が前によっていた豊島は、その勢いそのまま前のめりに倒れた。


 今まで暴力を振るう側になったことはなかったが、ふと楽しいな──そう思ってしまった。


「ほら、立てよ」

「テメェ……!」


 あからさまな挑発──しかし、侮辱とも取れるその言葉に、豊島は顔を真っ赤にする。

 俺が豊島に滅多打ちにされることを想像していたのであろうクラスメイトたちは、我が目を疑ったような様子でこちらを凝視している。


「チクショウがッ!!」


 立ち上がった豊島は、すぐさま大剣を薙いだ。普通の人間であれば避けるのは難しいだろう。

 だが、失策だな。横薙の一撃は変な体勢から放ったせいで、かなりの大振りとなっている。

 俺は難無く、掻い潜るようにして一撃を躱すと、そのまま豊島の金的に膝を叩き込む。


「なッ!!?」


 痛いよなぁ、痛いだろう。痛みのあまりショック死するレベルの痛みだ。

 俺はお前に五回潰されたぞ、今度はお前が味わうといいさ。


 そして、あまりの痛みに豊島は大剣を落としてかがみ込んだ。


「──さてと」


 俺は豊島の首を掴んだ。

 豊島は痛みに悶えながらも、俺のことを恨めしそうな目で睨みつけていた。鬱陶しいので、そのまま顔面に膝を入れてやる。


「ちょっと確認させてもらうぞ?」

「クソっ……野郎が」

「あ?」


 首を掴む手を離して、今度は耳を思いっきり引っ張ってやる。豊島は痛い痛いと喚くが、俺が何度も何度も受けた『死の痛み』からすれば蚊に刺された程度の痛みであろう。いや、それ以下だ。


「ぎゃぁあ!」


 あっ、千切れた。

 耳って案外取れやすいんだな。

 ショッキングな光景だが、どこかゾクゾクしている自分がいた。

 なんというか、楽しいのだ。


「あー、お前らも黙って見てろよ?」


 クラスメイト達が、豊島を助けようと動いていたのを視線で制する。豊島の首には(CP:1)で作成したカッターナイフを当てている。


「じゃぁ、始めるぞ」


 俺は豊島の手首を握った。少し怒りが湧いたため、指の関節をひとつ折ってやった。

 豊島が叫び声を上げる。実に愉快だ。


 おっと、これじゃいつまで経っても確認ができないな。

 俺はそのまま確認を続けた。


「……ステータスの還元」


『ステータスを還元します。得られるCPは2650です』


 やっぱり出来るみたいだな。

 『有の創造』ではCPを消費して、ステータスの能力値を上げたり、スキルを追加したりできた。

 ならば、もうひとつの『無への還元』を使えばその逆──つまりは、能力値やスキルをCPに還元できるのではないかと考えたわけだ。


「ただ、10秒以上の継続接触が必要みたいだな」


 首を掴んだ時、耳を引っ張った時。

 それらの時も同様に『無への還元』を試していたのだが、それらは失敗に終わっていた。触れていた時間が短かったのが理由であろう。


「ありがとうな、豊島」


 一応、お礼を言っておく。そして、今まで殺されたお礼にカッターナイフで首を撫でてやった。


「おやすみ」


 豊島の首は、破裂した水道管のように大量の血を噴き出す。


 そして、その瞬間。

 訓練場は阿鼻叫喚の渦となった。

 だが、分かりきっていたことだ。俺は手にいれたCPを早速使うことにした。


「全員、動くなッ!!」


 俺の一喝で、その場にいたクラスメイト全員が足を止める。

 スキル『咆哮』を創り、習得したのだ。

 これは、自分より圧倒的に格下の相手や、恐怖などで精神が不安定になった者を硬直させることができる。この場合では後者の条件に当てはまっていた。


「スキル『風魔Lv.Max』を創造──」


 それと同時に、魔力の能力値をゼロから300にまで上げておく。そして──


「風刃──ッ!」


 暴風を纏う風の刃を放った。できれば、脚の腱だけを切りたいのだが、初撃からそこまで正確に命中するとは思っていない。

 そこで、狙いはアバウトになるが、クラスメイトの足を狙ったのだ。

 無数の風の刃は、それぞれがクラスメイトたちの足を断ち切っていく。


「失血死されたらCPが取れないかもしれないし……さっさと終わらせるか」


 ははっ、ここにいる全員からCPを奪えばどれくらいになるだろうか? 殺される時のやつらの顔はどんなものだろうか? 心臓の早鐘が止まらない。

 この胸のどぎまぎはなんだ?

 まるで、一目惚れした時に訪れる胸の高鳴りのようだ。まあ、一目惚れなんてしたことないけどな。




 俺は狂っているのだろうか?

 秋守を除いたクラスメイトの全てを血の海に沈めた時、思った。


 俺は興奮している、快感を得ている、この殺しに。

 もちろん性的快感などではないが、それでも昂っているのが自分でもよく分かっていた。


 俺は……また喜んで人を殺すのだろうか?

 自分を含めた、人の生き死に鈍感になっている自覚はある。それは果たして人間と呼べるのか。

 死んでも死なず、人を殺す。

 それがどこか悪魔と重なって思えた。




***




「本当にやったんですね」

「ああ。創作物じゃ『復讐は何も生まない』って言うけど、ありゃ綺麗事だな。スッキリしたよ」


 俺はCPを全て回収した後、秋守と落ち合っていた。


「今朝突然『クラスメイトを殺してくる』と言い出した時は耳を疑いましたよ」

「だろな。てか、秋守は悲しくないのか? クラスメイトだろ」


 秋守はいつも通り無表情である。


「友人も当然いましたし、悲しいですよ。ですが、名瀬君にはその権利がある……それに、私は名瀬君がイジメられる姿を見ていた、見ないフリをしていた傍観者であり彼らの共犯者です。あの血の海に沈んでいてもおかしくない人間ですからね、名瀬君にどうこう言える立場にありません」


 秋守はそう言った。

 その顔はいつも通りの無表情だ。そのジト目はクラスメイトたちが横たわる血の海を見据えているが、そこに感情は感じられない。


「さて……すべきことは終わった。あとは、ガムシャラに逃亡だ」

「はい、ですがその前に……」


 そういうと、秋守は俺に抱きついた。

 は……え?


「い、痛いんですけど?」


 なんとも嬉しいシチュエーションだが、その抱きしめる力が尋常じゃない。

 ちょ、ま……背骨ががが。


「忘れないで……」

「え?」

「どうか忘れないでください。今日あなたがしたことを、決して忘れないでください。私も忘れませんから……」


 それだけ言うと秋守は俺から離れた。

 何だったんだ? いやまあ、クラスメイトを俺に殺されたのだ。彼女にも思うところがあったはずだ。

 忘れないで、か。


 その言葉が、妙に胸に刺さる。






 俺は秋守を連れて、王城──いや、収容所を脱出することにした。

 この収容所の出入口など見たことはないが、秋守の情報収集によって大まかな脱出経路は分かっているのだ。


「地下か……そりゃ、出入口が見つからないわけだ」

「この洞窟の先に行けば、外へと出られると思います」


 出入口は収容所の地下にあった。正確には宝物庫と言われていた場所にあったのだ。

 そこには岩がむき出しの空間があり、水……海水も張っていた。本当であれば外に出るには、小舟が必要なのだろうが、そのくらいはすぐに用意できる。


「ボートを創造──」


『ボートを創造します。必要CPは20です』


 そうして、創造によって生み出したボートを水面に浮かべた。

 エンジンはつけることはできるのだが、そもそも俺がエンジンのかけ方を知らないため今回はパスすることにした。その代わり、ボートにはオールがついてある。


「さあ、出ようか」

「はい」


 必要ないかな、とは思いつつも秋守の手を取って、ボートに乗せる補助をしてやる。

 冷たく、柔らかい手の触り心地は素晴らしい。役得ってやつだ。


 そうして、俺と秋守はこの収容所から脱出したのだ。




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