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拾い物


「昨日はお疲れ様です」

「ああ、うん。疲れたよ」


 国際問題に発展しかねない事案が半日で消化したのは喜ばしいことだ……だが、疲れたのも確かだった。


「ゆきと、今日はあそぶのがまんする!」

「愛しい、愛おしいよブラン!」

「いとしーってなに?」


 俺がブランに抱きついてブラン成分を補給していると、受付嬢が「大好きってことですよ」とブランに説明する。


「うん、ブランもゆきとがいとしーよ!」

「うおおおおお!」

「おヒゲじょりじょりするー」


 おっと、ほっぺを擦り付けてたら無精髭を指摘されてしまった。あとで剃っておこう。

 ブランのタマゴ肌を傷つけるわけにはいかないしな。


「そういえば、あの後どうなったんです?」


 受付嬢にことの顛末を訊く。


 俺はアリムルに帰ってすぐに、ギルドの仮眠室で寝てしまったのだ。

 まあ、『無への還元』を使えば眠気や疲労も無かったことにできるのだが、人間らしさを忘れないために俺は極力それをしないことにしていた。

 死なない、疲れない、空腹にならない、眠くならない……それではアンデッドと何ら変わらないからな。


「カイザという男性は、労働奴隷としてあの帝国の船の船長に任ぜられました。情状酌量もあるのでしょうが、優秀な人材を殺してしまうのはもったいないとの考えもあったようです」


 だろうな、カイザはAランク冒険者に匹敵するほどの人材だし、そのうえ船の航行技術もあることだろう。

 そんな人材は育成してすぐに作れる訳では無いのだから、将棋の駒のように使うことになるわけだ。

 それに、この世界には隷魔と呼ばれる特殊な魔法もある。それを使えば寝返る心配もない。労働奴隷とは、裏切らせないための何より確実な枷となるわけだ。


「そして、貴族の男性……ナスラという方は今回の責を負って断罪とのことです。刑の執行の日程や場所などは未定だそうです」


 まあ、有能なカイザと違って、あれは裏切ることしか能の無い存在だからな。帝国との交渉にも使えそうにないし、切り捨てられて当然だろう。


「説明ありがとう。それじゃあ、俺はもう行きますね」

「そうですか、闘技大会でしたよね。ご武運を」

「頑張りますよ」


 本当は出場したくないのだが、欠場などすればギルドカード剥奪らしいからな。嫌でも出ないといけない。


「ゆきと、いこ!」

「ああ」


 俺はブランに手を引かれるがままに、冒険者ギルドを辞去した。




***




 闘技大会が催される街までの路程はかなり長い。

 だが、それは人の足で進んだ場合の話だ。俺のように翼があれば特に問題はなかった。


「ぶ、ブラン大丈夫か?」

「うん!」


 そして、ブランと飛んでいる。

 いや、忘れがちだがもともとがドラゴンであるため、飛ぶのはごく当たり前のことなのだ。

 しかし、親の目線から、その小さな翼で飛ぶのを見ていると危なっかしくて気が気ではない。


 はっきり言って、ワイバーン犇めく空を飛ぶより数段怖いです。


 てか、翼で服が肌蹴て気が気じゃないよ。父さんは。

 こんなにも幼いというのに、魔性にも似た魅力を放つ我が娘。恐るべし、である。




 さすがに、そこまで体力は続かないらしく、しばらくしたら俺の背中に乗ってきた。

 だが、その顔は清々しい。

 満足できたようで何よりだよ。


 そんな風に飛ぶ中、俺は地上にある影を見つけた。

 いや、アリムルから続く道は利用頻度も高く、これまでにも多くの通行人や馬車などを見ていたのだが、俺が見つけたのはそのどれにも当てはまらない。

 無視するわけにもいかず、俺はそのまま地上に降り立った。


「大丈夫か?」


 俺が見つけたそれは、いわゆる行き倒れであった。

 しかも、ただの行き倒れではない。

 その行き倒れには、俺やブランのように翼が生えているのである。


 だが、この翼はなんだ?

 コウモリの羽のような俺達の翼と違い、純白の羽毛が生えている。角も後頭部から前頭にかけてネジれた大きなものだ。


「お、お……」

「なんだ?」

「お腹が……空きました」

「あっはい」


 うん、飯を食わせてやるかな。




***




 飛び続けること半日。

 この世界の移動手段を考えれば、格段に早く俺達は闘技大会の行われる街へと到着した。


 街の名はタリアンテ。

 大陸を東西に分かつデルム山脈だが、途中で一部途切れた所があり、そこで東西の行き来がなされる。

 ちょうどその位置にあるのがタリアンテだ。

 東西の流通の要であり、さらにはアリムルで荷揚げされた物が運ばれるために、王国の中でも比較的大きな街である。


「おいひいでふ!」

「先に口の中を片付けろ!」


 まったく、ブランがマネしたらどうするんだ。

 まあ、可愛いから許すけどな。ちなみに、ブランはお外を探検中。もちろん、『追跡Lv.Max』を創造して何処にいるか常に捕捉しているけどな。


 さて、あの行き倒れだがタリアンテの適当な店に入って奢ってやることにした。

 料理は創造で創ることもできたのだが、あまり見せたくないしな。


「ごくんっ……ぷはぁ、美味しかったのですよ!」

「そりゃよかったな」


 よかったよかった。

 5人前食っておいて、マズイなんて言った暁には土に埋めていたからな。

 まあ、あの美味しそうに料理を頬張る様子から、美味しかったというのはホントらしい。


「いやぁ、降臨してすぐに会えるなんて、私ってば運に恵まれてますね!」

「あ、うん。はい?」


 突然、意味不明なことを言いだす。

 え、ヤダこの子デンパちゃん?


「今日から、よろしくお願いします。ご主人様♪」


 ──その瞬間、大衆食堂の中が凍りついた。


 いやいや、翼生やして角も生えてる女の子なんか従者にした覚えはないぞ!?


「冗談はよしてくれ!」

「え、でもネイズ様ですよね?」


 ネイズ?

 あのドラゴンの名前じゃないか。

 いや、ドラゴンと人間を人違いするなんてありえるのか?


「確かにネイズっていう知り合いならいる……でも、俺は名瀬雪兎って名前だ」

「じゃあ、ユキト様! よろしくお願いします!」

「いや、何故そうなる!?」

「神使が神に仕えるのは当然なのですよ!」


 や、やめてくれ。

 周りの目が痛すぎる。


 えっ、アイツ女の子に神呼ばわりさせてんの?

 的な視線がグサグサしてますよ、はい。


「ど、どうして俺が神なんだよ……」

「むー、お気づきではないのですか? あなた様のスキルは………いえ、わたしから言うべきことじゃないのですよ」

「いや、気になるから言えよ」

「あいさー、御主人様マイロード。創造と破壊、その意味をよく考え欲しいのですよ」


 は?

 意味が分からん。てか、俺の創造のスキルを知っているのか?

 だが、これ以上語るつもりはないのか、到着したデザートを喰らい始めた。


「まあいい……それで、俺についてくるつもりなの?」

「もひろんでふよ。ごくんっ……わたしの名前はシェンブリール、キェンブリル。お好きなようにお呼びください」

「長いからシェンって呼ぶぞ」

「あいさー、御主人様マイロード


 まあ、旅は道連れって言うしな。

 こいつ──シェンのことは、拾った俺にも責任あるのだろうし、電波のようだが何だかんだで可愛いから許そう。

 俺も男だ。可愛い女の子にはとことん弱い。




***




「はい、ナゼ・ユキト様の到着を確認しました。大会の始まる一時間前までに、闘技場へ来てください。事前の説明などがありますので」


 冒険者ギルドで最終手続きを終えた。

 ついでに、ブランとシェンをギルドに登録しておいた。身分証明できるものがあるのは何かと便利だからな。


「あ、素材の持ち込みとかできます?」

「はい、ギルドでは時価に関係なく常に一定額で承っています」


 受付嬢の話じゃ、商人が買い取るよりは値段が低くなるそうだが、ギルドへの貢献度が上がるらしい。

 貢献度なんてものがあるなんて知らなかったな。

 気になったので俺の貢献度を聞いてみると、かなり高くなっていた。帝国艦隊の迎撃で、かなり貢献度が上がっているとの記録らしい。


「それで、素材ってどこに出せば……」

「はい? ここで構いませんが」

「アイテムボックスに沢山入ってるんですよ」

「なるほど、珍しいスキルをお持ちなのですね」


 そうして、俺は受付嬢とともにギルド裏の訓練場に行くのだった。




「お、終わりましたー」

「なんかすみません……」

「いえいえ、お気になさらず!」


 結局、休憩中だったギルド職員さえも総動員して、素材を精算した。

 虎や猿、ワイバーンなど中型の魔物ばかりだったのだが、量が量だった。そのほとんどがフィーナさんの殺戮によるものである。末恐ろしや。


「アークティーガーが43頭、プランクエイプが201匹、ワイバーンが39頭、ラビッツェが91羽……合計で白金貨12枚、金貨28枚、銀貨74枚になります」

「はい、確かに」


 大雑把にだが、日本のレートでいえば軽く1億を超えてますね。あらやだ、金銭感覚が狂っちゃう。

 ちなみに、生態系がどうとかは言われない。デルムは魔物で溢れているからな。


「それじゃあ、ありがとうございました」


 少しヤツれたギルドの皆さんに罪悪感を感じつつ、俺はヒマ過ぎて寝てしまったブランとシェンを背負ってその場を辞去した。


 ふたりを背負うって、大変じゃないかって?

 両翼を広げて、布団を干すようにふたりを乗せてるだけですよ。




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