~王城~
王城に向かう道を、聖女と戦士は必死に走っていた。宿屋を出たのはあれから10分後なので時間にはそれなりに余裕があったはずだが、なぜか二人は遅れていた。
「聖女様があんなところで道草くってるからこんな時間になるんですよ!」
「だってあのモチアゲコロッケって美味しそうだったんですもん!!」
「だからって3個もおかわりしますか!? 朝もそうでしたけど、どこにそんなご飯が入るんです!?」
「知りませんよ~!」
聖女はこともあろうことか、わかっていると言っていたのに買い食いをしていたのだ。まあ聖女にとって王都はとても珍しいものの集まりで、来たからには満喫していきたいと思うのが人の心というもの。聖女自身箱入り(自分から)なので気になるものには飛びつきたいのだ。
飛びついた結果が遅刻ぎりぎりというしまつなのだが。
走って数分。城門前まで到着する。息を切らし肩で呼吸する聖女と、さすがに鍛えてあるだけに涼しい顔をしている戦士。額から流れ落ちる汗を腕で拭い、聖女には布を渡す。
「顔だけはシャキットしてください。嘗められますよ?」
「わかっていますけど……さすがに少し待ってください。私……こんなに走ったことなくて」
普段から運動不足気味ではあったらしい聖女は、今すぐにでもヘタレ込んでしまいそうだった。
「とりあえずはここで待っていてください。門番に話だけはつけてきますから」
そう言って戦士は門の前に立つ衛兵に向かっていく。
聖女は息を整えてつつ王城を見上げた。自身の住む教会の何倍もある大きさの城に空いた口が塞がらない。思わずため息が漏れた。
「これだけ大きくて、お掃除は大変じゃないんでしょうか?」
とても庶民的なことで悩んでいると、「それはどうだろうね?」と後ろから声がかかる。ビクリと肩を震わせ後ろに振り向くと、そこには戦士と変わらないくらい軽装な男性と、年端もいかぬ少女の姿があった。
「あの王城には100人近い従者が居るって話だから、掃除もそこまで手間じゃないんじゃない?」
気さくに話かける男性に、聖女は少し距離を取った。ここに来る前になるべく他の人と関わるなと言われているからだ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。俺はこう見えても王城に集められた『聖罰』持ちの一人なんだ。名を、ルキエス・カルシュダー。聖剣・ガラディンを引き抜いた英雄の一人だ」
名を名乗られても聖女は頭に?マークを浮かべるだけだ。なんせ聖女は16年間村のことだけを見て来ため、外の事情についてはてんで理解していない。だからこそ、この英雄『ルキエス・カルシュダー』の名前を聞いてもピンとこないのだ。
「あれ? もしかして俺のこと知らない? 日輪の騎士って言えばわかるかな? それもわからない?」
聖女は頷く。ルキウスは「そっか~」と肩を落とす。
「俺の知名度もまだまだってことかね~。これはもっと頑張んないといけないな」
そう言って、隣で静かにしている少女の頭を撫でてやる。無表情に無感動にただ撫でられる少女、聖女は少しばかり怖いものを感じた。
聖女が少女に意識を向けていることに気付いたルキエスは、彼女の紹介をする。
「この子はトリーシャ。わけあって話せない体質なんだ。別に怒ってるとかそういうのじゃないから、大丈夫だよ」
トリーシャは聖女の近づき、手を差し出す。それが握手を求めているものだということがわかり、聖女は恐る恐る握手をした。
ふんわりとした笑みを彼女は浮かべる。
それに驚いたが、聖女よりもルキエスの方が驚いていた。
「トリーシャが笑うなんて珍しいな。あんたそうとう気にいられたよ!」
「そうですか? あ……申し遅れました! 私はルミア・アストレア。辺境の村、アレンジアに住む聖女です」
遅ればせながら名乗ると、ルキエスも新ためて礼をする。
「これはこれは聖女様。長旅御苦労さまでありました。お着きの人はいないの?」
ルキエスの問いに、視線を門へを向ける。そこにはまだ衛兵と話ている戦士がいた。
「あいつがルミアさんの護衛か……。ふ~ん」
何かを感じたのか、意味深に見つめ続ける。そこにトリーシャがルキエスの袖を引っ張った。
「おっと、もう時間か。それじゃあ俺はここで。また直ぐに」
そう言い残し、ルキエスとトリーシャは門へを向かう。
「……不思議な人ですね。なんといいますか……とっつきやすいのに、そうでないような」
なんとも変な感覚に聖女は頭を悩ませた。そこに戦士が戻って来る。
「話は付けてきましたが……ルキエス卿と面識がおありで?」
不思議そうに見て来る戦士に、聖女は首を横に振る。
「いえ、初対面です。私がここでボーっとしていたら声をかけにいらして」
「……」
束の間沈黙。戦士は門の中に入って行ったルキエスを見る。
「何か言ってましたか?」
「いえ、特に気になるようなことは?」
その言葉に、戦士は安堵のため息を吐いた。聖女もそれを確認はすれど、なんでかまでは問い詰めなかった。
「それで、これから中に?」
「ええ。それじゃあいきましょう」
戦士に先導され、聖女たちは門の中へと入って行く。
~おまけ~
「100人も従者がいたら、毎日の食事とか大変そうですよね?」
「はい?」
「え?」
話が噛み合わない二人。