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へっぽこ聖女の魔物討伐  作者: 滝皐
海鳴りの魔境
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~ライネス商会~

 ランドは話し終えると、紅茶を一口飲む。

 室内は、不思議なくらい静かになっていた。ランドの話しを聞き、アーサーは考え込み、聖女は戦士と顔を見合わせている。ステルも神妙な面持ちで、ランドを見ていた。


「……話はわかった」


 静寂を破ったのはアーサーだった。彼女は立ち上がり、ランドに頭を下げる。


「話してくれてありがとう。お陰で、大方の外見は想像できた」


 素直な例に、ランドはそっぽを向いて「……そうかい」とぼやく。


「ならば、次に必要なのは船だな。この港にはいくつも帆船が止まっている。その中のどこかと、乗り合いをしなくてはいけないな」


 アーサーのその意見に、聖女たちは頷いた。だがこの町に来て日の浅い聖女たちでも、それが困難だということは理解できている。北に海竜が出るとわかって、船を出す人はまずいない。それで船を出すやつは、よほどの阿呆か、死に急ぎの愚かものだけだ。


「すまないが、ここいらで顔が効く船乗りはいないか?」


 ランドにそう問いかけるが、「そんなやつはいねぇ」と、突っぱねられる。聖女たちもここいらで知り合いはいないので、船を貸してくれるような人は知らない。

 困ったことになったと、皆が口を噤んでいると、ステルが「あの!」と声を上げた。


「私、一人だけいます!」

「どなたなのですか?」


 聖女が聞き返すと、ステルは少しだけ頬を赤くして、俯きがちに答える。


「ライネス商会の、フェンラルという人です」




 教会を出るタイミングでラインとは別れ、ステルの案内のもとライネス商会商船に向かう。ここに来たばかりの聖女たちが見上げていた船だ。とても大きく、多くの積み荷を積んでいたのを覚えている。


「まさかさっきの今で、またご厄介になるとは思ってなかったですね」

「そうですね」


 苦笑する二人に、アーサーは首を傾げた。


「どういうことだ?」

「実はここに来たばかりの時に、ライネス商会の人にランドさんのことを聞いたんです。戦士が色々と交渉してくれて、助かりました」


 聖女の笑顔に、戦士は照れたようにそっぽを向く。その姿をニコニコと見る聖女。なんとも微笑ましい光景だ。


「戦士君はあまり喋らない奴だと思ったが、思いのほか違うのか?」


 アーサーの前ではほとんど喋らない戦士のことを、彼は無口な奴なんだと思っていたようだ。興味深そうに戦士の顔を覗き込み、「意外だな」と口にした。


「戦士が無口なんてありえませんよ。私の前ではそれはもう、小言が多いのですよ? やれ食べすぎだ~とか、やれ野菜も取れ~とか、寝る前の3時間は食べちゃ駄目だ~とか」

「なんだか、お母さんみたいだな」

「お母さんですか……そうかもしれませんね」


 二人して笑いあう。それを隣で聞いている戦士は恥ずかしそうに顔を手で覆い。前を歩くステルはクスクスと笑っていた。


「お母さんか……」


 考え深そうに、またその言葉を呟く聖女。少しだけ嬉しそうに、笑みを浮かべた。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないです」


 上機嫌の様子に、戦士は首を傾げた。聖女はそのまま軽い足取りで、ステルの横に走って行く。


「ステルさん。フェンラルさんとは、どういった方なのですか?」


 聖女の問いに、頬を赤めつつ少し慌てた様子で考え出すステル。少し間を置いてから、「そうですね……」と話しだした。


「なんというか……とっても軽いかたなんですが、本当に困っている人には優しいといいますか。とにかく明るい人で、笑顔がすっごく素敵なんです」

「へ~。良い人なんですね」

「はい! 凄くいい人です!」


 なんだらキラキラした、そんな表現が似合うほど、ステルの表情は輝いていた。好きなことしている時の子供のような、好きなことを話している専門家のような。


「私……以前、押し売りをされたことがあるんです」

「押し売り……とはなんですか?」

「えっ?」


 聖女のその疑問に、後ろにいた戦士がすぐに「無理矢理物を売りつける商法のことですよ」と、教えてあげる。


「なんですかそれ! 酷いじゃないですか!?」

「そうなんです。それを毅然と対応できればよかったのですが、生憎と私にそれほどの勇気がなくて。すっごく怖くて、どうしていいのかわからなかった時に、私を助けてくれたのがフェンラルさんでした」



「ちょいとそこのお兄さん。その品物、俺が買い取るよ」


 突如として現れたその人は、人のよさそうな笑みを浮かべながら、自分よりも一回り体格の大きい男性相手に一歩も引かず、いつも通りと変わらないと言ったふうに振る舞っていた。

 彼は私に押し付けられていた商品を横から奪いさると、先程まで柔和な笑みをしていた目が鋭くなり、品物を吟味するように細部までしっかりと見ていた。そして何かを見つけたのか、彼は人を馬鹿にするように嘲笑して、男たちを見据える。


「……おや~。どうやらこいつは既製品のようじゃないか。それなら相場は200ユルドってところだが、なんでまたその3倍の額が付いているのかね~?」


 焦ったように男たちは互いを見やっていると、彼はダメ押し言わんばかりに、あるものを男たちに見せた。どうやら何かのバッチのようだった。横にいてそれがどんな文様だったのかわからなかったが、それを見た男たちは尻尾をまいて逃げて行ったのだ。


「最近のやつは度量が足りないね~」

「あっ! 待ってください!」


 去ろうとする彼を呼びとめる。彼は先程と同じように、人当たりのいい笑みを浮かべて、「なんですか?」と歩み寄ってくれる。


「あの、先程はありがとうございました。このお礼は、必ずいたしますので」

「いいですよこれくらい。俺も既製品が出回るのは、商人として我慢ならないので。これは俺のためでもあるんですよ」

「ですが……」


 尚も食い下がる私に、彼は少し悩んだあとに「じゃあ」と、指を立てて提案する。


「今度、うちの商船に買い物に来てください。それでチャラということで」

「わかりました。どこの商船なのです」

「ライネス商会の船です。それじゃあ、お待ちしてますね」


 それだけ行って彼は去って行った。



「その数日後に、お礼を兼ねて買い物に行ったんです。その時会話が弾んで、今もたまにお茶をする間柄なんですよ」

「いい話しですね。そのフェンラルというかたも、素晴らしい人ですね」

「はい」


 嬉しそうに話すステルに、聖女自身も嬉しくなる。

 そんな話をしている内に、聖女たちはライネス商会の船の前に来た。今も忙しなく人が行ったり来たりしている中、先程はなかった簡易的なマーケットのように、大きい布の上に幾つもの商品が並んでいるスペースがある。ステルはそこに向かうので、聖女たちもその後を付いて行く。


「フェンラル!」


 ステルが声をかけると、そこで売り子をしていた人のよさそうな男が振り向いた。


「ああ、ステルさん。それに後ろにいるのは」


 その男は、あの時聖女たちにランドの情報を教えてくれた人だった。

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