~挿話、とある二人の密談~
数回のコールの後、その人は不機嫌そうな声色で『もしもし』と念話に出る。
「ああ。もしもし? 将軍?」
『……何か用か? 余は今忙しいのだが?』
「そんなこと言って~、たんにお姫様に世話焼いてるだけでしょ?」
図星だったのか、将軍は唸るような声を上げた後に、話題を切り替えた。
『それよりも、本当に何の用なのだ? わざわざデバイスに掛けてくるような案件なのか?』
デバイスと言うのは、今は自分の耳に当てている、機械の事だ。転移魔術を付加させ、遠くの人と対話をすることを目的に独自で作ったものなのだが、これがなかなか使いやすい。
使いやすいポイントとしては、持ち運びが便利というとこだ。デバイスの厚さは約2cm。直径は15cmほどとやや長めではあるが、二つに折れ曲がり長さ事態は半分にすることができる。そのぶん厚さは増してしまうのだが、そこは些末な問題ということにしている。
「別に~。ただちょっと話したいな~って」
念話ごしからでもわかる溜め息をされ、『なら切るぞ』と言われてしまう。
「まあちょっと待ってよ。本当に話したいことがあるんだ」
『そう言って、いままで何度くだらない話をされたと思っている』
それでも律儀に全部聞いてくれるあたり、将軍はかなりいい人だと思う。
「今回は本当に重要なこと。見つけたよ。あの人」
きっとデバイスの向こうでは、将軍が驚いた顔をしていることだろう。まあ驚いてても驚いてなくても、顔色変わってるところなんて見たことないけど。でもそれでも驚いているということは、一言も話さない将軍から窺えた。
『本当に、あの人だったのか?』
「うん。昔のまんま。変わってなかった」
『……元気にしてたか?』
「……うん」
将軍から、安堵の溜め息が漏れた。ずっと心配していたのを知っているので、その気持ちはわからないでもない。あの人にとって、将軍は親みたいなもんだし、将軍にとっては子供のようなものだ。その二人の間にある絆は、計り知れないだろう。
「たぶん、途中の魔境に踏み込むかも。何もなければ北に着くとは思うけど、たぶんそうはならないんじゃない?」
『お前がそう言うってことは、そうなんだろう。うむ……』
「心配?」
『それはそうだろう。余の家族だ。心配にもなる。だが、恐らく何かを考えての行動だとは思う。今は、そっとしておいてやろう』
「そのつもり。じゃあそろそろ切るね。言いたかったのはそれだけ~」
『相変わらず勝手な奴だ。まあいい、お前も近々こっちに顔を出すのだろう? その時は、茶菓子でも用意しておく。最近お菓子作りなるものを始めてな。姫もいい腕だと褒めて下さった』
笑いながらそんな話をする将軍に、何をやっているんだと呆れてしまった。だが将軍も将軍で、今を最大限楽しんでいるのだろう。
「了解了解。じゃあ、あいつにだけは気を付けてね」
『ああ。それではな』
「うん。また」
念話を切る。
空を見上げると、もう日が傾いているのだろう、茜色に染まり始めた。そろそろ彼女も、起きるころだろう。心配ないとは思うけど、たぶん大丈夫。この先もきっと。
「未来への投資……か」
あの時は何を言っているんだと思ったけど、間違ってはいない。ただこれは賭けに近い。その賭けが、上手くいくか、そうじゃないかは、この先の行動で決めていくしかない。
「いずれ迎えに行くからね。聖女様。その時までに――」
――人の血で、一度手を染めて貰わないとね。




