~覚醒する光~
渦巻く炎を前に、キルアは不敵に笑うと、指先を動かし空中に魔術陣を展開していく。青白い光が円を作り、瞬きする間に魔術陣が浮かび上がった。
「薙ぎ払うは流撃、メイルシュトローム!」
魔術陣から水が生まれ、それが渦を巻いて放たれる。渦は薄く広がり三角柱を形成した。その頂点が炎に当たると。水が蒸発する音と蒸気で視界が真っ白に染まって行く。
「逆巻くは水流。スプラッシュ!」
続けざまに詠唱をして、今度はフレイムバットたちを一掃した水柱を落とす魔術を放つ。水の衝撃で蒸気がはれ、辺りに水気が満ちた。
「まだだよ。氷結しろ。フリーズダスト!」
さらに詠唱を終えると、辺りの温度が急激に下がる。霜が降り、寒気がしたかと思ったその瞬間、白い光と共に水柱を全て銀色に染め上げる。なんとも幻想的な、氷の柱たちを生み出した。
「すごい……」
あまりの一瞬の出来事に、聖女は開いた口が塞がらなかった。驚きのあまり声をもらし、今もなお不敵な笑みを崩さないキルアを見る。
「キルアさん。こんなにお強いんですね」
「まさか、これ程とは……」
素直に関心を示す聖女にたいし、戦士の目は鋭くなった。
もともとそれなりの実力を持っていたのはわかっていた。上手く隠してはいたが、魔術にたいする理解や判断力、そしてなによりも戦闘や罠に物応じない精神力。どれをとっても普通の旅人や学者が持っているようなものではない。
そして彼女は、魔力濃度が高い場所を探っていると言っていたが、今は明らかにあのイフリートに執着しているように感じる。戦士が多少警戒するのは頷けるだろう。
なんらかのあれがあるのは確かだが、しかし今は調べている余裕はない。なんせこれほどの攻撃でも、イフリートは倒れないのだから。
氷の柱の中から、オレンジ色の光が灯った。そして柱を全て一瞬で溶かしきると、イフリートは何でもない様子で再び現れる。
「調服は難しいか……」
キルアはボソリとそう呟くと。ルミアに振り向いた。
「ルミアちゃん。今から君には、あの精霊と契約して貰う」
「……えっ!?」
イフリートはまた大きく羽ばたくと、熱風が波状の形をして襲い掛かって来た。キルアは簡素だが水の盾を作りそれを凌ぐと、話を続ける。
「ボクじゃできない。その術を持っていない。でも君ならできるはずなんだ」
「どうして、私が? それに契約ってなんですか?!」
「詳しく話してる暇はないよ。まずはイフリートの言ったことを思い出して、それを実行するんだ! お姉さんがサポートするから、任せといて!」
ニカリの笑みを向けてから、キルアは魔力を高めた。
「咲き誇るはななひらの花弁、生け! アイアス!」
掌を翳すと、彼女の掌からまるで、本当の花が開くように薄紅色の魔力が広がると、七枚の薄い障壁が目の前に産まれた。
それを見たイフリートは、目を細める。
「城塞結界。生半可では崩せぬか。であれば」
大きく空気を取り込み、咆哮の体勢にはいる。だが先程とは違い、吸い込む量が変わった。そしてそれが一気に吐き出される。
炎王竜の咆哮。火属性魔術最強のクラスの火炎攻撃。凌ぐことはまず無理だが、キルアのアイアスはそれをなんとか受けている。だが壊れるのは時間の問題で、一枚一枚、徐々にだが削れていっている。
堪えるように踏み止まるキルア。全魔力をアイアスに送りながら、聖女に話しかける。
「手早く行くよ。まずはイメージして」
流されるままにキルアの言うことを聞き、聖女は目を瞑り集中し始める。
「背中に一本の線が通っていると思うんだ。そしてそこに電気を流すような感覚」
「電気? 雷とかのことですか?」
「そんな感じ。ビリビリーって」
感覚的な教え方にそれでいいのかと戦士は思うも、「わかりました!」と聖女は力強く頷くた。
「ビリビリ~、ビリビリ~」
思っていることが口に出ているが、そのおかげなのか、聖女から魔力の流れが生まれていた。浮力が生まれ、どこからともなく風が起こる。そして彼女の周りから、光の粒が煌めき始めた。
「そう、そうだよ! そんで、蓋をぶち破る感覚で魔力を外に放出する!」
「はい!」
聖女の魔力が、一陣の風を生み出した。今まで聖女の中で溜まっていた魔力が、外に放出され始めたのだ。
「最後のイメージだ! 君にとって、守りたいものを浮かべろ! それが聖罰を動かす!」
「守りたいもの」
その時脳裏に浮かんだのは、村に住んでいた時の人達や、今まで出会った、関係を気づいた人たち。友達になったニール。そして何よりも、戦士の顔だった。
守りたい。私も、あなたのことを守れる人になりたい。隣に立っても、恥ずかしくない人になりたい。だから!
「私も、一緒に!」
光が生まれた。目を覆うほどの強烈な輝きは、一瞬で空間を白に染め上げる。音も、全てが遠ざかった。そして間隔が戻るにつれて、何か温かなものに包まれている感覚になる。心地良く、今すぐにでも寝てしまいそうな安心感。そのような感覚に。
戦士は目を開いた。そこに広がっていたのは、小麦色に草原のように輝く光たち。まるでここが遺跡の中ではないように、幻想的な雰囲気に包まれていた。
~おまけ~
これが彼女の聖罰。あまりにも強力で、それでいて無害。まさに魔の者を浄化させるためだけにあるかのような、人のためにあるような力だ。
キルアは光に包まれながら、背筋に寒気を感じていた。
これが本来の彼女の力だとすれば、もしかしたらあの力も使えるかもしれない。そのためにも……。
一度目を瞑り、考えを纏めてから、目を開ける。
この先の行く末はわからないけど、目的のためなら手段を選ぶな。それがボクの行く道なんだから。




