~バージシ~
「ここが隣村~!」
キラキラした目で周囲を見渡す聖女。16年間アレンジアから出ることをしなかった聖女にとってはこれ以上ないくらい新鮮なものだろう。
風景としてはアレンジアと大差はないものの。山一つ越えただけあってそれなりには大きな村だ。
「アレンジアとは少し違った家並みなんですね。まさか一つ隣というだけでこうまで違うなんて。本だけじゃわからない感覚です!」
お上りさんのごとく興奮している聖女。興味が尽きないのか、あれにこれに村中にある物に手当たり次第に近付いて行く。
さすがにこのまま野放しにしておくとどこかに行ってしまいそうなので、戦士は聖女肩を引く。
「あまりウロチョロしないでくださいよ? ここには馬を借りに来ただけなんですから」
「ちょっとくらいいいじゃないですか。神も言っています。休息も必要の内だと」
とって付けたような聖女発言に戦士は溜め息を吐いた。聖女は眉根を寄せる。
「なんです?」
「あのですね~。もう王都招集まで時間がないんですから、こんなところで道草くってる場合じゃないんですよ。急いで馬屋に行きますよ?」
「でも~」
なおも渋る聖女に、戦士は「また担がれたいですか?」と言った。あの姿はさすがに余所でやるには恥ずかしすぎるので、仕方なく戦士の言うとおりにする。
馬屋に行く道を進んでいると、村の中央にある少し大きな木のある広場に出る。そこでは子供たちが楽しそうに遊んでおり、平和その物といった感じだ。
「……いい村ですね」
「はい?」
「子供たちが皆笑顔です。きっとここにも、主のご加護があるのですね」
「……そうですね」
遊んでいる子供たちを眺めていると、一人の男の子がこけた。聖女は急いで少年も元に向かい、起こしてあげる。
「大丈夫?」
「ふっ……ふんっ……」
泣きそうな顔で痛みを我慢する少年に、聖女は少年の視線に合わせ頭を撫でてあげる。
「よく頑張った。えらいね。泣かなかったね」
「……うん」
「ちょっと見せてね」
少年の膝は皮が捲れ血が出ている。聖女はそこに手を翳し、目を瞑って掌に集中する。
すると淡い薄緑色の光が煌めき、粒が輝きを放ちながら漂い、消える。光が終わるころには、少年の膝の傷は綺麗に直っていた。
「これでよし。痛くない?」
「うん! お姉ちゃんありがとう!!」
お礼を言うと、少年はまた子供たちの輪に戻っていった。
「治癒魔術なんか使えたんですね?」
「意外ですか?」
「いや、あんなに村の外に出るの嫌がってたんで、てっきり魔術の類は覚えてないのかと」
魔術は才ある者であるなら誰でも使える能力みたいなもので、聖女も一通りの魔術を習得してはいる。しかし魔術は日常生活において殆ど必要としない力であり、アレンジアでもそれは例外ではなかった。
「確かに使うことなんて滅多にないですけど、覚えておいて損はないと思いまして。光属性の類しか使えませんけど」
光属性は聖女や勇者といった、聖なるものに宿るとされており。この人たちは皆一様に光魔術を会得している。中には複合属性と言って光以外の属性も有している勇者や聖女もいるが、それはまた別の話。
光属性の中には『治癒』と呼ばれる、傷を癒す力を持った属性もあり、先ほど聖女が使ったのもその類いのものだ。
「それに、これでも村のために聖女としての勉強と研鑽は積んできたつもりです。戦士も怪我したら言ってくださいね? 直ぐに治しちゃいます!」
「その時になったらお願いしますよ」
戦士にとっては本当に意外だった。聖女や勇者に生まれたからって、魔術を覚えなきゃいけないと言う訳ではない。それに聖女という役職はその性質上、戦いなどは無縁のはず。それなのに魔物嫌いでもある聖女が、村のためというただそれだけのために魔術を覚えたのだ。
でもそうなると、疑問が浮かぶ。
「魔術が使えるなら、魔物なんて倒せるんじゃないんですか?」
「えっ? どうしてですか?」
「いやだって、攻撃魔術もいちおう使えるんでしょ?」
「はい?」
聖女は本当に何を言われているのか理解していないように首を傾げた。
ここで戦士は、さきほどのことで一つ勘違いをしていたことを悟った。聖女は光属性の類は使えると言ったが、攻撃魔術の類も使えるとは言っていない。そしてさきほどの発言『戦士さんも怪我したら言ってくださいね? 直ぐに治しちゃいます!』。つまりはそういうことなのだ。
「もしかしなくても補助系の、しかも治癒属性しか使えないんですか?」
「魔物と戦くことなんて想定してませんからね。当たり前です」
えへんと胸を張る聖女。戦士は失念していたのだ、この聖女がどれだけ魔物が苦手なのかを。そして知らなければならない。この人に戦わせるというのがどういうことなのかを。
~おまけ~
「魔物が嫌いなら会わなければいいじゃない!」
まさに聖女理論!!