~ニール・ファフナ~
「ここが領主邸ですか……」
「ですね」
聖女は見上げるまではいかないものの、それなりに驚いてはいた。なんせ領主邸という物に行くのも初めてであるし、その大きさが想像できていなかったからだ。
聖女の中のイメージとしては、自分が今まで住んでた教会まではいかないだろうと思っていたのだが、目の前の家はその想定を軽く超える大きさだった。
玄関口の前には花壇と庭が備えられてあり、縦三階の煉瓦造りの建造物は、それなりの年月を感じられる風貌になっている。
「おっきいですね」
「まあ俺も驚いてはいます」
「それでも?」
「これでも」
戦士の表情は一片たりとも変化していない。普段から表情がコロコロと変わるような人ではないのでわかりずらいが、戦士としても少しばかり萎縮してはいるのだ。なんせここは領主邸である前に魔人の住む家なのだから。もし聖女の身に何かあったらと思うと、緊張もする。
ただ村の人々の話し具合から、ニールは害ある魔人の類でないということがわかってはいるので、警戒心も強くはない。
「とりあえず入りますか」
率先して前を歩き、玄関を強くノックする。数秒しても特に反応がなかったので、二~三回強めにノックを繰り返すと、パタパタと誰かが下りてくる音と共に、ドタン! っと大きな音がした。扉の向こうから「いった~い」という今にも泣きそうな女の子の声がする。
聖女と戦士は顔を見合わせた。
それから直ぐ。扉が開かれると、中から昨日見た少女が出てくる。
「誰よこんな昼間に。私眠いんですけど」
お尻を擦りながら、ニールは現れた。薄手のキャミソールにホットパンツという、とってもラフな格好でお出迎えをされ、戦士は咄嗟に視線を逸らす。聖女も口をあんぐりとさせて放心してしまった。
「ん~? あんたたち誰よ? この村の人じゃないわよね?」
「あ~そうですね。それよりもニールさん、何か上に羽織って頂けませんかね?」
「はっ? ……」
戦士の言葉に、ニールは自分の格好を改めて確認した。するとみるみる顔を赤くしていく。
「見るなぁぁぁ!!!」
「ぐはぁ!!」
豪快な蹴りが戦士の腹部に直撃し、玄関から2mちかく吹っ飛んだ。
「……はれ?」
展開に付いてこれてない聖女は、飛んでいく戦士を見送った。ニールは羞恥のあまり玄関を開けたまんまにして、二階に上がって行く。取り残された聖女は、遅ればせながら、戦士が吹きとばされたことを認識した。
「戦士ぃぃぃ!!」
駆け寄り、治癒魔術を戦士に行使する。戦士を薄緑色の淡い光が包む。
「いっ……て~」
「大丈夫ですか」
ゆっくりと戦士は起き上り、お腹を擦る。外相こそないものの、相当な一撃が入ったことは間違いない。治癒魔術の効果があるが、立つには時間が掛かりそうだった。
「そこいらの魔物よりも強烈でしたよ。まさか意識飛びかけるとは思わなかったです」
「凄いですね彼女。格好も凄かったですし」
改めて先程のラフな格好に、頬を赤める聖女。戦士もなんともコメントに困るものだ。
「相手は見てくれは少女でも魔人ですからね。身体能力は人間を遥かに超えるでしょう。ただまあ、心はちゃんと少女のようでしたが……」
聖女はジトっと戦士を見る。何かを言いたげな様子ではあったが、戦士にはその真意を汲み取ることができない。どうしたのか尋ねてみるが、聖女は「デリカシーに欠けますよ」と言って立ち上がった。
「蹴られたところはもう大丈夫でしょう。それと戦士? ちゃんと謝るんですよ?」
「あ~。まあ……はい」
不可抗力とは言え、少女のあられもない姿を見ているのだから、男として謝るのは当たり前ということである。戦士もそれはわかっているが、なんとも煮え切らないと言った表情だった。まあ勝手に見せられて勝手に蹴飛ばされて意識まで失いかけて、それ相当以上の罰は受けていると言ったら受けてはいる。
それでも謝らなければいけないのが男というもの。理不尽であるがそれが世の常である。
「それ以前に、会ってくれるか怪しいところではありますけどね~」
恥ずかしい醜態をさらしてしまうと、どうしても顔を合わせ辛くなるというものだ。謝るといったって、会ってくれなきゃ意味がない。しかしそのことについては、聖女が否定する。
「多分、大丈夫だと思いますよ? 自分も軽率であったと思えば、少しは耳を傾けてくれるでしょう。そういうものです」
それは多分それは、聖女だからだと思いますけどね……。
戦士はそう思ったが、口にはしなかった。言ったところでただの嫌味だし、このことの解決にはならない。今は一先ず、ニールにもう一度会うことが先決だ。
「まあ運よく扉を閉めてはいっていませんし、勝手に中に入りましょうか」
「それは駄目です。ちゃんと玄関口で待ちましょう。それが礼儀というものですよ」
「だとしても、またニールが下りてくる保証はないのではないですか? もしかしたら部屋に籠ってるかも」
「それはそうかもしれませんが……あっ」
聖女が視線を玄関口に向けると、会話を区切った。戦士も視線を向けると、そこには袖の無いシャツとたけの短いスカートに着替えたニールが、恥ずかしそうに顔を逸らしながら立っていた。
「さっきはごめんなさい。お客さんでしょ? とりあえず入りなさいな」
ニールはフイっと結局視線を合わせることなく家の奥に向かっていく。その姿に見た聖女は、満面の笑みで戦士を見る。
「大丈夫だったでしょ?」
「……そうですね」
戦士は苦笑しつつ、女心はわからないものだと思った。
~おまけ~
「聖女は俺より遅く起きても、ああやって寝間着のまま外に出る事ないですよね? 結構寝惚けた声してるのに」
「一応女なのですから、気を付けます。それに、あなたに見られるのは……ちょっと困ります」
照れたように視線を逸らすので、戦士はその行為に疑問を持ったが。まあ恥ずかしいわな。と自己完結した。




