~今更だけど~
「あの、戦士?」
「何です聖女?」
木々に囲まれた街道を二人仲良く歩く二人。特に魔物気配もなく、平和なひと時を過ごしていた。
「今更なんですが、私たちはどこに向かっているんですか?」
「本当に今更ですけど、そうなんですよね」
二人は特に目的もなく歩いていた。戦士は肩掛けの革袋の中から地図を取りだす。
「取りあえず確認するんで、そこの木陰にでも行きましょう」
戦士が指さす方向は岩が数個、地面からむき出しになっている場所だった。その岩を覆うように木の枝が影を作っていて、休むにはもってこいの場所になっている。
二人はそこで腰を落ち着けると、改めて地図で自分たちの居場所を確認する。
「恐らく今俺たちは、クレイモアから東に来た、ここに居るはずです」
「丁度、隣村に着くぐらいの所ですね」
「そうです。で……どこに行くかですが。まずは魔王の幹部たちを倒すことが先決だと思うんです」
「魔王の幹部?」
「はい」
魔王の幹部とは、その名の通り魔王の幹部で、魔物の中でも重要存在を意味をしている奴らだ。幹部たちは合計で7人いるらしく、それぞれに統治している村や町が存在している。戦士はまずそこに赴き、幹部から村や町を奪還しようと言っているのだ。
「圧政をしている幹部たちがほとんどだと聞いています。まずはその者たちを退治して、魔王の勢力を削ぐのことが重要だと思うんです。それに――」
「それに、苦しんでいる人たちを見捨てる訳にはいかない。ですよね?」
「はい」
「となると、どこに向かうのがいいんですか?」
聖女の問いに、戦士はある村を指した。それは今向かっている隣村の更に奥。ある森を抜けた先にある場所だった。
「このヴァネッサの村には、数か月前に幹部の一人が来たと聞いています。その者がどういった奴なのかはわかりませんでしたが、なんでも偶然通りかかった商人から聞くには、夜も眠れないような場所とだけ聞いています」
「それは、恐怖で夜も寝れないということなのでしょうか? そうだとしたら許せませんね。睡眠は健康の第一歩です! それを阻害する行為は言語道断です!」
相変わらず、どこか庶民的なんだよなこの人。
そう思う戦士だった。
「取りあえずは、そこを目的の場所としましょう。そのためにも――」
戦士は地図上の森を指さす。
そこはこの国でも有数の危険区域に設定されており、冒険者の遭難が後を絶たないと言われているローチェ樹海。帰って来たものも少なく、この森を抜けるのなら何日かかけて迂回した方がまだましと、口を揃えて言うのだそうだ。
「ここを抜けようと思います」
それほどまでに危険な森だと言うのに、戦士はお構いなしにそう提案する。
「なんだか魔物が多そうで嫌なんですが、村のためにも早く行った方がいいですもんね。行きましょう」
世間知らずここに極まれり。聖女はこの森の正体をわかっていない。なんせ16年間も辺境の地で、自ら隔離して暮らしていたのだから、外のことにはたいして興味がなかったのだ。勿論、本などでそういう危ないところがあることは知っているが、それがどこかと問われれば、聖女は間違いなく首を傾げるだろう。
無知であるということは、時に自らを危険にさらす恐ろしい行為である。
そして戦士は、それをわかっていてあえて森を抜けることを提案していたのだ。別に聖女が嫌いだとかそんなのでは絶対になく、これも戦士の優しさからくること。ローチェ樹海は危険区域に指定されている故、魔物の住処にもなりやすい。そこに赴けば、少なからず聖女のリハビリになるのではないかと思っているのだ。
荒療法にもほどがあるだろう。
何も知らない聖女は、自らに気合いを入れ直している。その前向きな姿勢に、少なからず罪悪感を覚える戦士であったが、これも聖女のためと割り切りる。
「そのためにも、まずはその手前に村に行きましょう。ここで装備やアイテムを揃えておけば、特に問題なく突破できるはずです」
「そうですか。なら安心ですね」
無垢な笑顔を向ける聖女。
次の日、森に入ってから、この笑顔がなくなることを、聖女はまだ知らない。
~おまけ~
手前の村にて。
「皆さん、ローチェ樹海に行くと言うと、涙ながらに色々なアイテムをくれるのですが、なんでなんですか?」
聖女の問いに、戦士は手に持ってる羊皮紙を眺めながら「さぁ?」と答える。聖女はその紙がなんなのか気になるらしく、再度戦士に尋ねる。
「何を見ているんですか?」
「お金になることです」
怪しさ満点だったが、何も言ってこないのは大丈夫な証しと取り、聖女はそれ以上尋ねなかった。




