表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へっぽこ聖女の魔物討伐  作者: 滝皐
王都招集令状
10/75

~改めて~

 結局あの後、とてもパーティなどする気になれなかった一同は。王の計らいで、何事もなかったかのように解散となった。

 その原因の一角を担う聖女はというと、申し訳なさそうに顔を下げ、トボトボと城を後にする。

 後ろから付いて行く戦士は、一度頭の後ろを掻くと、聖女の隣に並んだ。ちらりと確認をしてから、咳払い。聖女は戦士の方を向く。


「時間が余りましたね。どこいきます?」

「えっ?」

「ですから……気晴らしに観光でもと思いましてね。どうせ明日にはここを発たなければならないんですから、今日ぐらいは聖女の好きにしていいですよ」

「本当ですか!?」


 目を輝かせ、嬉しそうに考え始める聖女に、戦士の頬は綻んだ。


「では! 色々食べ歩きたいです!」

「本当に食い意地はってますよね」

「別にいいではありませんか。美味しいものに罪はないんですから」


 確かにそうだ。と思いながら、この華奢な体のどこに栄養が消えているのか気になる戦士だった。


 聖女は比較的小柄な体系をしている。身長もさほど高くなく、戦士から見た感じ肉つきも多い方ではない。今朝に至ってはゼリーを三杯平らげ、さらにはモチアゲコロッケを三個も食べるという、大食らいを見せたほど。

 一つ考えられるとしたら……。と、戦士の目線が胸当てに隠された胸部に移る。


 当たり前だが、聖女の胸の大きさがどれほどのものか戦士は知らない。最初に会った時が、すでに今の戦乙女の姿だったし、その姿以外に聖女の普段着を目にしたことがない。


 気にならないと言えば、まあ嘘になる。戦士だって男であるのだから、こういったことに興味が出るのは当たり前のことだ。


「……」

 うん。無粋な考えはやめよう。


 紳士を体現したような人物がもしいるとするならば、それは恐らく戦士だと思われる。


「どうしました戦士? 早く行きましょうよ」

「急かさなくても食べ物はなくなりませんよ?」

「売り切れるという可能性があるじゃないですか!」

「ごもっともで」


 二人で改めて王都を満喫し、聖女に連れられながら10軒近くをはしごした。お陰さまで所持金がかなり減ったが、これからのモチベーションとしては、最高のものだと言えよう。なにより、聖女の楽しんでいる姿が、戦士にとっては一番のやる気になる。


 散々歩きまわり、夕日がもう落ちるといった時間。二人は王都を一望できる見晴らしのいい高台にいた。


「満足ですか?」

「はい!」


 戦士は石垣に凭れながら、聖女はその横で街の方を向きながら、落ちる夕日を眺めている。


「まあ、あれだけ食べればね」

「それは恥ずかしいので言わないでください」


 頬を赤らめてしかめっ面をする聖女。戦士はその姿に顔が綻んだ。


「なんですか?」


 ジトッと戦士を睨む。「別に何もないですよ」と、戦士も街の方を向く。


「今日は本当に、色々お疲れさまでした。大変でしたね」

「そうですね……。まさか求婚されるとは夢にも思ってませんでしたよ」

「それは俺もです」


 ははは……と乾いた笑いをする二人。


「実際どうなんです? 結婚とか、恋愛とかは。聖女の場合は、禁止されていたりするのでは?」

「いえ。そのようなことはありません。聖職者だからといって、恋愛をしていけないわけではないのです。聖職者は清純あれ。私たちもそうあるべきだと思いますが、それ以前に私たちは、一人の人間ですから」


 そう微笑む聖女。

 戦士は今の言葉で、聖女の聖女らしさが薄いことに、納得が言った部分があった。この四日間そこら聖女を見て来たが、聖女は聖女らしからぬ行動を取ることが多かった。そのたびに、この人は本当に聖女なのか? と問いただしたかったが、それでも彼女は、聖女としての最低限の姿は見せていた。


 例え愚痴をこぼそうと、無理だと叫ぼうと、彼女は最終的には向き合った。向き合って、どうにかした。その姿は聖女と言えるものだと、戦士は思っている。


「一人の人間……か」


 でもそれは……。と、戦士は思う。人々が聖女に抱く思いを担うには、一人の人間には重いことだ。それこそ、清廉潔白、慈愛に満ち、欲もなく、人々を救済へと導く神の使い。それほどまでの神聖さを求められている。だからこそ聖女自身も、そうあるべきだという理念で、己を捨てるのだ。


 けれど彼女は、それをしない。


 己を捨て聖者になることをせず、人間として聖女を全うしようとしている。矛盾する二つのことを体現しようとすれば、自ずとどこかで亀裂が走る。そうなってしまえば、辛いのは聖女自身だ。


「聖女は、自分が聖女であることに、嫌気がさしたことはありませんか?」


 戦士の問いに、聖女は空を見上げ考える。


「う~ん。正直な話をすれば、考えたことがないというのが答えです。でもこれだけは言えます。私は自分のために、聖女として、人間として生きる決心をしたんです。だから、嫌だとは思いません」


 まっすぐと戦士を見据える。その言葉に偽りはなく、彼女は聖女なのだと、思わされる言葉だった。


「……あなたは変な人だ」

「なんですかそれ!? 別に変人じゃないですよ!」

「そういうことじゃないですよ」


 戦士は微笑む。その様子に、聖女は拗ねるようにそっぽを向く。


「もういいです」

「……でも、いいと思います。どうせ護衛するなら、人間味があった人のほうがいい」


 戦士は一呼吸おいてから、続けた。


「だからこれからもよろしくお願いしますよ? ルミア様」

「……私を無理矢理連れだしたんですから、必ず責任は取ってもらいますからね?」

「当たり前です」


 これからの旅にたいする、改めての意思表示。二人は握手をする。


「ですが聖女……王城で言ったことは割と本気ですからね?」

「はい? 私を守るってやつですか?」


 戦士は首を横に振った。


「聖女にも戦って貰うって方です」


 思い出したのか。聖女の顔が固まる。


「あの時はルキエス卿に邪魔されましたが、今後は俺の指導の元、ビシバシいくので、そのつもりで」


 ニッコリとした笑顔が、聖女にとっては悪魔の笑みだった。聖女は青ざめた表情でこれからを想像して。


「嫌ですーーー!!!」


 結局叫ぶのだった。



~おまけ~


 その日の夜。聖女は戦士の「当たり前です」と言った時の顔を思い出して、ちょっともやもやしたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ