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騎士の系譜 (1)


人ごみを掻き分け野次馬達が作り上げた円の中に入ると、そこにいたのは傭兵風の軽装に身を固め、怒りに身を震わせる二人の男、そして壁に背をつけてその二人を睨みつける傷だらけの少年だった。

その緊迫した空気はまさに先程まで争っていたと思わせるものだった。


だが帯剣している二人の男に比べ、その少年は一般的な民服を着ている以外には禄に装備もなく、田舎の子供がリンチにあっていたようにしか見えない。


だが一つその少年がそこらの子供と違うところがあるとすればその少年の目である。

眼光鋭く正面に立つ二人を睨む少年の目は、先程までリンチを受けていた者のそれではなく、むしろ勝つことをまだ諦めていない戦士のそれであった。


だが、だからと言って止めない理由にはならない。


「そこの二人!貴様ら子供相手に何をしている!」


「あぁ?見てわかんねぇのかよ!?世間の厳しさって奴を教えてやってんのさ!」

男はそう言うと少年の腹を容赦無く蹴りあげた。


男を止めようと俺が声をあげようとした次の瞬間、蹴りあげられた少年が男の足を掴み思い切り引っ張って男の一人を引き倒した。


「てめぇもう許さねぇぞ!」

そう言って引き倒された男の仲間が腰の剣を抜こうとしたが、俺はすかさずその手を軽く叩き剣を抜かせなかった。


ビシッ!


「痛ぇぇぇえ!?」

抜きかけた剣を落としながら叩かれた手を抑えて叫ぶ男を見ると、どうやら手加減が足りなかったらしい。

この身体もままならないものだ……


慌てて落とした剣を男が拾おうとした時にはその首元にセレーネが剣を突きつけていた。


「今なら憲兵に引き渡すのは見逃してやる、サッサとそこの男を連れて去れ!」


「チッ、覚えてろよ!」

男はそこらのゴロツキそのもののセリフを言うと、引き倒された仲間を立ち上がらせて、周りに広がる人垣の中へ消えていった。


そこでじっと行く末を見ていた野次馬達はどっと湧き上がると、祭りは終いとばかりに各々の仕事へと散っていった。



俺はセレーネが剣を鞘にしまう姿を横目に見ながら、倒れている少年に歩み寄り手を差し出した。


「大丈夫かい僕?」

もちろん今は侍女の姿をしているのだ。

話し方も小さな子に話しかける女性のように優しくした。

自分でやっていて気持ち悪いが慣れつつもあることが辛い。


「あっ……ハイ、大丈夫……です」

少年はそう言うと立ち上がり体の砂を払った。


こうやって見るとこの少年、刈り上げられた茶髪に若干のふてぶてしさの残った顔つきをしており、ヤンチャ坊主と言うのがピッタリだろう。


「あの…助けていただき…ありがとうございます、俺トールって言います!」

トールはいいなれない言葉を話すようにたどたどしく話した。


「そう…トールって言うんだ、それでトールはどうしてあいつらに絡まれてたの?」


「あいつらが悪いんだ!」

トールの話を聞くと、どうやら誤ってあの男達にぶつかり、いちゃもんを付けられたから成敗してやろうとしたらしい。


トールはどうやら正義感の強い少年のようだ、だが自分の実力では勝てないことはあの服装を見れば分かっただろうに……


「俺!もうじき14歳になるから騎士団に入るんだ、だから街の空気を悪くするああいう奴らに我慢出来なかったんだよ」

この国では14歳になると騎士団の入団試験を受ける資格が手に入るのだ。


「なるほどね、でも今度からは気をつけなさいよ?いつでも私たちのような人がいるわけじゃないんだからね?それじゃあね」

トールの頭を軽く撫でてやり、俺とセレーネがその場をあとにしようとした時だった、トールが俺の服の裾を掴んだ。


「あ……その、助けてもらった礼がしたいんだ、うちに来てくれないか?」

トールは顔を赤くしながら顔を背けてそう言った。

ここで、トールは風邪でもひいてるのかな?などとは俺は思わないが、いくら顔が幼い者でも中身は幼くないし、ましてや本来は男の俺には気持ち悪いばかりだ。


「こう言っておりますがどうします?」

俺がどうするかセレーネに問いかけると、セレーネは少し思案するように顎に手をやると言った。


「そうだな、特に何かやる予定も無いし別にいいのではないか?」


「じゃあ案内するよ!……ところで二人の名前はなんて言うんだ?」

それを聞いて俺とセレーネは一旦目を合わせた。

一応お忍びだしこのトールは気づいていないのだ、セレーネが女王だとバレるのはマズイ……


「私の名は……セレーネだ」

セレーネが普通に本名を言ったことに驚いて思わずセレーネを見ると、セレーネは大丈夫とばかりにこちらを見て微笑んだ。


「セレーネさんだね?お姉さんは?」

トールはそう言うと俺の顔を見上げてきた。

どうやら現女王の顔も名前も禄に覚えていなかったようだ。

それよりもやはり俺の方に興味があるらしい……なんとも複雑だ。


「私は結城って言うの、今はセレーネ様のお付をしているわ」


「結城……分かったよ、それじゃあ付いてきて!」

そう言うとトールは小走りに少し走って振り向くと、早く!と火照った顔を隠すように急かした。


「フフッ、あの少年は結城にゾッコンのようだな」


「あの年頃の子は本当に分かりやすいな、それと止めてくれ俺は男だ」


「夜は……な?」


「……心は男だよ」

俺はそう言うと肩を竦めて見せた。

それを見てセレーネが耐えかねたのか吹き出した。


俺はそんなセレーネを置いてくようにトールを追ったのだった。


「結城、冗談だよそう怒るんじゃない」


セレーネも笑いながらそのあとを追ったのだが、傍目には二人の姿は完全に怒って拗ねた嫁を追う男性貴族の図であった。

もちろん嫁は結城である。



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