何気ない日常 (5)
また日が空いてしまいましたm(__)m
中庭に戻ると、団長は身の丈ほどの大剣で素振りをしている最中だった。
一振りごとにブォンッと風切り音をあげ、少し離れた場所に座っている筈のルナの髪がフワリと舞っている。
「待たせたな?早速やろう!」
「…その話し方が通常か、まぁ俺は気にする必要は無いか」
そう言うと団長は大剣を構えて俺に目を向けた。
殺気のようなモノを感じる程に強い視線に俺も剣を抜いた。
デリウス兵団長から貰ったこの長剣ならば、あの大剣の相手をしても折れることは無いだろう。
だが大きいということはそれだけで脅威だ。
普通の剣とは戦い方が大きく違うだろうしな。
結城は気付かないうちに頬を緩ませながら柄を握る力を入れた。
「行くぞ!」
刹那、大剣を持ちながらそれを感じさせない速さで接近したクロスは大剣を振り下ろした。
普通に受ければ剣ごと真っ二つにされかねない威力だったが結城はこれを両手に構えた長剣で危なげなく受けた。
だがこれが狙いだったようだ。
ガラ空きとなった俺の腹に向かって走る勢いを込めて蹴りが放たれた。
だが今日はセレーネから不意打ちを受けたおかげでその可能性は読んでいた。
素早く大剣を弾いてバックステップで蹴りを躱し、今度はこちらから攻めた。
「はっ!」
横薙ぎに剣を振るい、大剣を叩き落としにかかるがこの団長一筋縄にはいかなかった。
「なんの!」
俺に弾かれた大剣を地面に突き刺し固定する事で、振るわれた凶刃を防ぎきり、更に地面に突き刺さった大剣の柄を軸に遠心力を加えた蹴りを放ってきた。
(団長は大剣による広範囲攻撃とその合間に織り交ぜた蹴りによる牽制と撹乱を主体としたスタイルのようだな……
それにしても鎧を着たままあんな動きをするなんて凄まじい奴だ)
飛んできた蹴りを腕で払いながら目星をつけた俺は戦い方を変える事にした。
「流石は騎士団長!上手く攻めきれませんね」
「お褒めに預り光栄ですよ黒姫さん?」
「だぁぁあ!その名で呼ぶな!」
俺は思わず頭を抱えて叫んだ。
その名は以前、俺がある兵団長と戦った際に珍しい黒髪とその闘いぶりから、見ていた兵達が思い付いたものらしく王都でもその名が広がっている。
もちろん不本意だが……
「別にそこまで毛嫌いすることないでしょうに?……お似合いですよ?」
「とにかく!俺は納得して無いから止めてくれ!」
「では俺に勝って納得させてみるといい!」
「もちろん!」
またもや身の程の大剣を振り下ろそうと振り上げた団長に、俺は駆け寄りその胸元に剣の柄で突きを入れた。
「がっ!?」
「そのつもりだ!」
そのまま軽く浮いた巨体に重ねて拳を叩き込み、トドメに持ってる剣をアッパーで弾き飛ばした。
そのまま1メートルほど飛んだ団長は金属の擦れる耳障りな音を出しながら着地した。
その鎧には目立ってヘコミはなく、立ち上がろうとする団長の腕にも負傷は無さそうだ。
(どうやら手加減は上手くいったようだ。)
下手にやれば木を拳でへし折る力を持った結城だ、その気になればあの鎧に風穴を開けることも可能だろう。
「どうやら手加減されていたようだ……お手合わせ感謝するよ」
落ちた大剣を拾いながら団長は苦笑いでそう言った。
「いえ……俺は拳の方が慣れているだけですよ」
自分の拳に目をやるが鎧を殴り回ったにも関わらず傷はない。
(全く馬鹿げた体になったものだ……)
それから団長がルナを連れて中庭から帰って行く姿を見送りどうしようかと悩んでいた時だった。
「あらあら……渡会さん、随分と男らしい姿ですねぇ?」
「!?」ビクッ
ゆっくりと声の方に目をやると、そこには女官長がニコニコとしながら立っていた。
いつから見ていたのかは分からないがこれはヤバイ……
「こっこれは女官長様、ご機嫌麗しゅう……」
「はい御機嫌よう、ところでそのお姿はいかがかしら?」
「いえこれはその……団長様とお手合わせを……」
今朝方の言葉遣いの件で侍女の服装をするように言われていたのに昼にはもう違う服装をしている、今度はどんな罰則を言い渡されるかと思うと冷や汗が止まらない。
「まぁまぁ、それでしたら貴方にピッタリのお話が来ていますよ?御相手はある高位の騎士の方で気の強い女性をお求めだとか?」
「しっ失礼しましたぁぁぁ!」
思わず走って逃げ出したが仕方ないだろう、誰が好んでガチムチの男とお茶会なんか開くものか!?
その後、会議を終えたセレーネと合流したが、女官長の追従から逃れるために街への見回りの件はまた別の日へとなった。
これより動乱のアステル編開幕です!