長慶、違いを判る男になりたい
ある茶室でのとある風景。ひとり悠然と茶釜でお湯を煮立たせ、そのお湯を茶碗に注ぐ。
見事な手前で、茶筅を使いかき混ぜ、茶碗を顔に近づける。
「どうも、違いを分かる男、三好長慶です。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。最近、季節の移ろいに人生の詫び寂びを感じる今日この頃です」
「あ、孫次郎兄上!?」
「万五郎か、この珈琲というもの、違いの分かるものにはわかるものだ……」
「又四郎兄上!また、孫次郎兄上がおかしくなったよぉ!!!」
そう叫びながら、少年は、母屋の方に全速力で駆け込んでいく。その後姿を見ながら、頭を左右に振る。
この男、三好長慶と言い、十代前半で、主君細川晴元と石山本願寺とを和解させるなど、麒麟児として、名をはせた武将である。
ただし、時々、おかしな言動をして、周囲を慌てふためかせる何とも言えない人物だった。
「どうした、万五郎!晴元、政長が攻めてきたか!」
「そうじゃないよ、また、孫次郎兄上がおかしなこと言い始めたんだよ!」
「はぁ、またかぁ~、今、実休兄上も神太郎兄上も、居ないのに……働きすぎなんだよ、孫次郎兄上は……」
「どうしましょうか」
「どうもこうも、俺らにできることはない」
「しかし……」
「はぁ、真冬に川に飛び込みそうになったことを考えると、下手なことしないように見守るしかないか」
「あの時は、父上が呼んでいるって、川に飛び込もうとしましたね……」
「あのまま飛び込んでいたら、本当に、孫次郎兄上が父上の処に行くところだったわ……」
二人は、顔を見合わせ、同時に深い溜息をついた。父元長が、細川晴元、三好政長、木沢長政らにより、謀殺された際、元長の命により、本拠地の阿波に一族を率いて、落ちていった。落ちていく際に、敵の襲撃が度々あったが、長慶の機略により、何を逃れ、無事、落ちのびることが出来た。
父元長の死により、衰退するかと思われたが、長慶が家臣団の離反を引き留め、周辺の豪族とよしみを通じて、崩壊の危機を乗り越える。
その後、堺の豪商と手を結び、中央の情報収集し、石山本願寺と交渉を行いながら、勢力回復をはかる。長慶が中心となり、家臣団が支えて今日の隆盛のきっかけを作ったが、その精神的負担は、若年の身には耐え難かったのか、時々、奇行が見られるようになった。
ただ、それが、本来持っていたものか、精神的負担から来るものか、判断は人により分かれているのが、現状である。
「実休兄上は、細川持隆様の処へ今回の戦いの根回しに行ってるし、神太郎兄上は堺の豪商たちとの情報交換をして帰ってくる最中か」
「今日、話し合いをする予定だけど、いつ来るか……」
「とりあえず、兄上の処に行くか」
「はい……」
二人は、長慶の居る茶室へと歩き始めた。
「孫次郎兄上、居られますか」
「又四郎か、居るぞ」
長慶のはっきりした返事を聞いて、一存は、元に戻ってると思いほっと胸をなでおろした。後ろに居た冬長も厄介ごとが収まったと喜びの表情を浮かべ、二人して、茶室に入った。
「深みが増し、苦味を覚え、渋さが増してきている今日この頃、私は、どこへ行くのだろうか……」
「収まってねぇ~!?」
「何ですか、その時間差攻撃は!?」
返事がまともだったので、すっかり油断していた二人は、持ち上げて落とす、攻撃を長慶から受け、大打撃を受けて、慌てふためいた。長慶は、そんな二人を見ながら、茶碗の珈琲の匂いを楽しんでいた。
「孫次郎兄上……ちなみに、その茶碗の中身は何でしょうか」
「ん?此れは珈琲というものだ。漢方にも使われるそうだが、違う味わい方があると、久秀申すので試してみたのだ」
(久秀だぁ~!あの陰気なやろう!くだらんことを言いやがって!)
今回の長慶の件は、松永久秀に関係ないが、一存は久秀と馬が合わない為、八つ当たり気味に、今回の原因であるように心の中で罵声を浴びせた。
「南蛮人や紅毛人には、違うの見方があると、堺の商人に教えてもらったそうでな。お前たちも飲んでみるか?」
「久秀の言った飲み方なら、飲む気になれない!」
「……試しに飲んでみたいです。元々、漢方ですし、体に害はないと思いますから」
「万五郎……はぁ」
「そうか、万五郎も違いを分かる男になりたいのか」
「いや、何をもって、違いを分かる男というのか、わかりませんが……」
長慶は、冬長にも珈琲の入った茶碗をそっと、渡した。その所作は、茶の湯の道に入ったものの気品と優雅さが感じられる。
「では、頂くか」
そう言って、長慶は、茶碗を一旦鼻の近くに持っていき、左右に首を振りながら、匂いを楽しみ、その後、珈琲を口に含んだ瞬間……一存の顔面に珈琲を思いっきり吹きかけるように、吐き出した。
「ぶはっ!?」
「な、何をするんだ、孫次郎兄上!?」
「に、にぎゃい……」
そう言いながら、長慶は、口の端から珈琲を垂らしながら、涙目で話した。その表情を見ながら、一存は、あきれた表情をしながら、懐から手拭いをだし、顔を拭いた。
「だから、久秀に聞いたことを実践するから罰が当たったんだ」
「いや、香りはすごく良いのだぞ、ただ、味が、こう苦くて……」
「はぁ、泣くなよ孫次郎兄上」
そう言いながら、一存は、手に持った手拭いで、長慶の口元を拭き、こぼれた珈琲をふき取っていくが、一存は、珈琲の匂いに顔をゆがめた。
「この匂い、良いか?」
「ああ、良いな、この匂いを嗅ぐと、安心するというか、心が安らぐというか、違いを分かる男であるというか……」
「いや、だから、わかんねぇ~よ、それ!」
「まあ、お子様の又四郎には、分からぬか」
そう言った長慶の表情に、一存はイラッと来た。
「そういう孫次郎兄上は、苦いと言って、泣きながら噴き出していたではありませんか」
「ぐっ!?何を言っているのか、分からぬが、匂いの良さが分かればそれで良いのだよ!」
「な!?負け惜しみもここまで来ると、子ども……ん?万五郎どうした?」
長慶の噴き出した後始末や、長慶の長慶と一存の言い争いに参加せず、黙々と珈琲を飲んでいる冬長に一存は目を向けた。声をかけられた冬長は、苦味の入った表情をしていた。
「苦いなら飲むなよ」
「あ、確かに苦いのですが、ただ……」
「ただ、何だよ」
「この苦味が好いというか、深い味わいがあり、力が湧くような感じがするのです」
「はぁ?何言ってんだ、お前は!」
「な!?万五郎が、わしより先に、違いを分かる男になっただと!?」
「いや、もうそれ良いし!」
「すみませぬ……」
「万五郎も謝らなくていいよ、ったく、久秀もろくなことしやがらないなぁ」
「又四郎、久秀が嫌いなのはわかるが、やつは、わしの家臣だ、分かってくれよ」
「わかってるよ、あいつの有能さや、孫次郎兄上への忠誠心が本物なのも。ただ、合わないだけだ」
「ふぅ、そこはやはり、まだ、子どもだな。だが、身内だけで愚痴を言うのは、成長した証だな」
「いつまでも子ども扱いするなよ!」
「ははは、頼りにしているぞ。お前の武力は、我が一族いちだからな」
「ったく……」
一存は、ため息をつくが、その頬は赤く染まり、テレを隠すために、下を向いたことがまるわかりだった。そんな一存を、長慶と冬長は笑顔で見つめた。
「孫次郎兄上、只今戻りました」
「神太郎か、ご苦労だった」
「はい、ん?お主らどうした?それと、この匂いは、茶ではないな……」
「いや、孫次郎兄上が、先ほどまで、珈琲というものを飲んでいて、泣きながら噴き出していたんだよ」
「ちょ!又四郎!それを言うか?!」
「ははは、なるほど、珈琲ですか。久秀あたりの情報ですか?」
「そうだ。違いを分かる男になれると思ったのだが……」
「何ですか、それは?まあ、なかなか珈琲は手に入れることはできないようで、向こうでは、ミルクなるものを入れることもあるみたいです」
「ミルクとは?」
「山羊や牛の乳です」
「ほぉ」
「苦味が和らいで飲みやすいそうですよ」
「苦味が和らぐ……それでは……渋みのある男になれない……」
「何をぶつぶつ言っているので?」
「神太郎兄上、ほっておけって、いつもの発作の軽い状況だ」
「そうか……」
冬康、一存が顔を見合わせ、二人で、顔を左右に振る。
「神太郎兄上、堺はどのようでしたか」
「こちらに協力してくれそうだ。まあ、表立っては、さすがに難しそうだが、情報を流すぐらいはしてくれそうだ」
「よかった。これで、あいつらの動きが分かるな」
「そうか、こちらも、持隆様に手を回してもらって、幕府の動きを抑えれそうだ」
「実休兄上!」
「今戻った。孫次郎兄上、父上の敵が討てそうです」
義賢の報告を聞いた瞬間、長慶の表情が変わる。
「実休、阿波の兵を招集して、編成を急げ」
「分かりました」
「神太郎、堺から情報を集め、敵の位置と動きを分析しろ」
「はい」
「又四郎、集まった兵を調練し、戦いに備えよ」
「おう!」
「万五郎、お主は、又四郎について、兵の扱いになれよ」
「はいっ」
「父上の敵を討ち、我々の力を見せつけてやるぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
最初の戦国天下人、副将軍とも呼ばれる、三好長慶の躍進が始まる。ただ、その戦いで、悲劇がひとつ生まれることになるとは知らずに……
[追憶?]
長慶が街を歩いていると、草むらに一冊の本が捨てられていた。見たところ傷んではいるが、読めないこともないが、表紙に書かれている字がこの国のものと思えるが、見たことがない字の書き方であった為、しばらくそこで、考えていると、久秀が通りがかった。
「どうなされました、長慶様」
「ん?久秀か、いやな、この本が、其処に捨てられておってな」
「本ですか?」
「そうだ」
「でしたら、何を考えられておられました?」
「この本の表紙の字の書き方に見覚えがなくてな。この国のものと思うが……」
「字ですか?見して、頂けますか?」
「よいぞ、見てみよ」
「では……」
長慶の返事を受け、久秀は、本を手に取り、表紙を見てる。確かに見たことがない字の書き方であり、首をかしげるしかなかった。
「ただ、読めぬわけではありませんな」
「そうだな、”戦隊に関する考察”と読めると思うが、どうだ?」
「そうですな。ちなみに、中は見られましたか?」
「いや、まだだ」
「では、立ち話も何ですので、屋敷で見てみましょう」
「そうするか」
長慶と久秀は、屋敷に戻り、本の中身を確認し始めた。
「何々、”戦隊ものとは、正義のヒーローである。悪を倒し、弱気を守る、英雄である”とあるが……なんだこれは?」
「ひーろーとは、何でしょうな……南蛮や紅毛の言葉のような気もしますが、英雄の言葉があるので、まあ、それに類似したものでしょうか」
「かもしれんな。”戦隊は、基本は五人だが、場合によっては三人の場合もある。理由は様々あるのではないかと考える。制作費により演出が変わり、CG技術の進化により、戦闘シーンも緻密になってきているが、初期段階の方が、リアルに見える場合がある”。戦隊とあるという事は、戦うための人数を表しているのではないのか。兵の編成をする際は、最少を五人、又は、三人にするべきとのことか」
「なるほど、制作費の費と言う言葉から、費用が掛かるので、五人ないし三人で編成していけば、最小単位で兵が組めるということやもしれませぬな。ただ、CGとはなんと読むのでしょうな、それ以降もよくわからいませぬ」
「”個々は、色分けをして、特色を出す。赤はリーダー、青は参謀、黄はムードメーカー、桃はヒロイン、緑は縁の下の力持ちが基本ではないかと考える”五人単位で、それぞれ分けるという事か?そのようなものが、郎党で複数いれば、費用もかかるし、編成もしにくいではないか?あと、りーだー、むーどめーかー、ひろいんがよくわからぬ」
「参謀は、謀の字から、軍配者か知恵者かもしれませぬな。緑は、そのままでしょうか」
「うぅ~む、わからんな」
「そういえば、堺の商人の噂ですが、後北条で、色分けした部隊を作っているとか」
「色分けでか?」
「はい、五色備えというものでしょうか。明の国でも、色で軍を分けることもあったとか」
「どのようなものだ」
「唐の時代には、鴉軍と言われる黒衣の名将や、秦の軍も黒だったとか、あと、漢の高祖の赤軍などがあったようです」
「ふむ、では、我々も色分けをするか」
「面白いやもしれませんな」
「”戦隊ものには、それをサポートする人たちもいる。司令官、博士など、時々により、設定されていく”……ふむ、司令官は何となく意味が分かるが、博士とは、書物ばかり読んでいる連中ではないのか?」
「……博士とは、助言者のような立場ではないでしょうか」
「なるほど、助言者か。どうだ、久秀、この本はまだまだ書かれているが、これを元に、三好軍の編成を考えてみないか」
「よろしいでしょう。分からぬ言葉は、一度、堺で確認してまいります」
そう言いながら、二人は軍の編成色を決めていった。長慶と久秀が悪ふざけを仕出すと、誰も止めることが出来ず、長慶と久秀の両方の兄弟は、諦めた表情で、見守るしかなかった
[追憶??]
長慶が、”戦隊に関する考察”を黙々と読んでいる。
「なかなか、難しいものだ。戦についての編成は難しいが、この書は、難解だな……」
悩んでいると、廊下から足音が聞こえてきた。誰か来たのかと、襖の方に顔を向けると、久秀が入って来た。
「久秀かどうした」
「私も外を歩いでいると、書を一つ拾いましてな」
「ほう、私の書と同じようなものだ?」
「いえ、それがどうも違うようで……」
「表題は何と書いているのだ?」
「”アイドルについての考察”となっておりまして、どうも、先の書とは違うようです」
「あいどる……なんだ、それは?」
「よくわかりませぬが、中を見ると、どうも、芸能についてのものと見えます」
「能か?」
「それとも違うようですが……」
久秀の手にある書は、先の書に比べ、きれいな装丁になっており、雰囲気が違うのは、その状態からもわかる。
「で、なんて書いてるのか?」
「では、”初期のアイドルは、設定が決められており、その設定をはみ出る事は厳禁であり、架空の設定であり、本人たちとは全く違っていることが多い”とありますな」
「ふむ、表の顔と裏の顔が違うという事か。裏の顔が発覚すると非常に問題になりそうだな」
「ですな。隠ぺい工作など必要になりますな……あいどるとは、忍びの事ですかな?」
「やもしれぬな」
「”架空の設定がばれたり、すっぱ抜かれた場合は、芸能界からいつの間にか消えてしまい姿かたちが忘れ去られるほどである”……闇から闇に消される」
「まさしく、忍びが動いている気がするな」
「はい、”将来的に、あの人は今として出てくる事はあるが、当時、其処までの余裕はなかったのではないかと思われる”……ふむ」
「始末されるわけではなく、どこかの寺に監禁されているのか」
「”昔は、アイドルと言えば、一人で活動しており、年齢も20歳を過ぎて行けば、人気もなくなっていたが、後には、40歳を越えてもアイドルと呼ばれる場合もある。ただし、女性では見られない現象で、男性のみである”……二十歳とは、働き盛りですな。それで使い物にならなくなるとは、過酷な」
「四十歳とは、老境になるのだが、其処までとは、三国時代の黄忠のようなものか」
「”最近のアイドルは、男性は5人グループが主で、それ以外の人数の場合は、テレビでの活躍が少ない。また、一人ひとりで活動することが多くなっている。女性グループは大人数になり、誰が誰か分からず、個性のない場合は、埋没していく恐れがある”……ふむ、組を大きくしなければ、勝てなくなったのでしょうか」
「少数精鋭でも、対策を取られれば勝てまい。勝つための策なのやもしれぬな。しかし、女性の方が人数が多くなるのは……」
「しかし、また、五人ですな」
「五人か……」
「ん?”アイドルには、マネージャーやプロデューサーの力が必要で、それにより、活躍の場が変わってくる”……ならば、私は、さしずめ、このまねーじゃーなるものですかな?」
「そうやもしれぬな……先も含めて、考えるか?」
「ですな?」
長慶と久秀が、にやりと笑い頷きあっている。
そして、それを見守る、それぞれの兄弟がまたもやため息をつき、両膝から崩れ落ちていた。
思い付きで書いたので、色々、齟齬はあります。
三好長慶は、過去の価値観の中で、活躍した武将のイメージで、長慶が生きた時代の価値観や日本の情勢では、あれが精一杯であり、だからこそ、当時一級の武将だったんだと思います。
[追憶?]は、短編削除で、連載形式でしようと思いましたが、作品を削除しない方向で追加したので、若干、見にくくなって、申し訳ありません。
設定は、あくまで架空で、思い付きで書いたものになります。
[追憶??]は、某ほにゃららマスターのラジオを聞いてる時に、考えたものなので、相変わらず、祖語のあるものです。
短編に追加で見にくいですか、ご了承ください。