無限大記/ムゲンとライトニング
現在時刻午後6時、千年祭開幕まで残り12時間。
浮かれて前酒を楽しむ者、やり残しはないか何回も確認する者、家族と共に明日の計画を立てる者、準備が終わらず徹夜を覚悟する者。
みんな同じ時間でやっている事は違うが願う事は同じだった。明日の千年祭が無事に成功する事。
その願いを守るためにギルドがある。
ーーー
四十番街から離れた林道を二人の少年が歩いていた。
「え、海を見るのはじめてなのか!?」
「ああ」
カムイは驚きの声をあげ、ムゲンはその反応を別に気にすることもなかった。
「お前には驚かされてばかりだなぁ。さっきのゴロツキ共も一瞬で倒したしよ」
「あれか?あれは特別な技を使っただけだよ」
「何だよ、特別な技って」
するとムゲンは歩くのを止めてニヤリと笑いながら言った。
「よし!見せてやろう!秘伝技『瞬光』を!」
「シュンコウ?」
カムイは歩を止めて言った。
「じゃあ、今からやるからよく見てろよ」
「いきなりだな、別にいいけど」
そう言うとムゲンは踏み込む姿勢をとった。
カムイは先ほどとは反対の位置、ムゲンの正面に立っていたため、あることに気づいた。
「(足が光ってる)」
そう思った瞬間目の前が一瞬光が目の前を覆って目を瞑った。
1秒ほど視界がぼやけて、すでにムゲンは目の前にいなかった。
「こんな感じだ」
カムイは後ろからの声に驚き振り向いた。
「ムゲン、『属性』が使えるのか!?」
「お、属性知ってるのか?」
ムゲンはカムイを意外そうに見た。
「ああ、少しはな。もしかして今のは『光』属性か?」
「そうだ、よく分かったな」
「ムゲンは光属性なんだな。一人につき一個までらしいけどさ」
カムイがそう言うと、ムゲンは少し歯切れの悪い口調で言った。
「あー、いや、実はさー、違うんだよね」
「?」
何が違うの?と、カムイが言いかけた時、空から何かが降りてきた。
それは黄色と白のたてがみを生やした人の倍ほどの大きさの獣だった。よく見ると同じく派手な甲冑を着た男がその獣にまたがっていた。
「ライトニング・シュナイダー!?」
カムイは驚き言った。
「思ったより早いな」
ムゲンは落ち着いていた。
ライトニングはムゲンを見て機嫌悪そうに言った。
「おう、ムゲン。じっとしてろよ。でないと、殺すぞ」
ーーー
ギルド本部執務室にて、ケイと眼帯を着けた小爺が最終打ち合わせをしていた。
「全ての街のリーダーにチェックを済ませ次第、サウザンドオープンパレードの準備に取り掛かる。セバス、連絡を頼む」
「かしこまりました、団長殿」
セバスがチェック事項に目を通していると、ケイの机に置いてある液晶付きの通信機器の画面上にライトニングの顔が浮かんだ。
『ケイさん、ムゲンを見つけた』
「分かった、ライトニング」
ケイとライトニングの短い会話が終わり映像が消えた。
「ふう。これで一安心ですな、団長殿」
セバスは安堵した。
「ああ、ついでにこの件も連絡してくれ」
「かしこまりました。そう言えば、ライトニング殿が珍しく怒っていたように見えましたが何かあったのですか?」
「ああ、少し頼み事をしてな。それが気にくわなかったようだ」
ケイは書類を見ながら答えた。
「ライトニング殿も団長殿の義兄弟として忙しい立場ですのでストレスが溜まっているのでしょうな。千年祭が終わったらしばらく休みを取って頂いたらどうでしょう?」
「そうしてほしいのは山々なんだがな」
「?」
ケイは書類から目を離して窓の外を眺めた。
「この街を守るためなんだ、赦してくれライトニング」
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ライトニングは通信機器をしまいながら言った。
「ケイさんに連絡もしたし帰るぞ、ムゲン」
それに反応したのはムゲンではなくカムイだった。
「おい!?帰るって!?えっ!?零の騎士団団長の右腕、閃光のライトニングとどんな関係なんだよ!?ムゲン!?」
「あ?どんな関係って、俺がその零の騎士団団長の息子だから連れ戻しに来たっていうだけだろ」
カムイが問い詰めるとムゲンはあっけらかんと答えた。
「」
カムイは驚きすぎて声も出なかった。
「口閉じろよ、面白い顔になってるぞ」
ムゲンとカムイの会話が終わったところでライトニングが話を始めた。
「ムゲン、お前自分の立場分かってるなら何でこんなことしてんだ?お前のせいでみんなが心配したんだぞ!」
「ちっ、うるせえな。あいつらが俺の事を心配するわけねえだろ。むしろいなくなってせいせいしてたんじゃねえの」
「お前はもう少し人の気持ちを考えろ!!ケイさんだってお前が!!」
「親父の話をするな!!」
ムゲンとライトニングはお互い鬼の形相で睨み合った。
「このままだと力づくで連れて帰るしかないな」
「やれるもんならやってみろ」
ムゲンは腰から刀を取りだし両手に持ち自身の態勢を低くした。
ライトニングは獣から降りて前に出た。
「カムイは下がってろ」
ムゲンが一度もライトニングから目をそらさずに言った。
「あ、ああ」
カムイはまだ状況を飲み込めていない様子だっだがムゲンの言う通りにした。
「ムゲン、降参するなら今のうちだ」
「しねえ、よ!」
ムゲンが返事と同時に飛び込む。すると辺りを瞬間的に光が包み込んだ。
「そんなもの、効かんわ!」
ガキン!光が消えて二人の姿が現れた。それはライトニングがムゲンの刀を素手で掴んでいる光景だった。
「瞬光は俺が教えた技だぞ、ムゲン。お前はこれに頼りすぎだといつも言ってるだろ」
「だったらこれは?」
言うと同時にムゲンは刀を離し、自分の胸の懐に左手を入れる。しかし、ライトニングが足を振り上げ左手の行動を止めた。
「何もさせんぞ!」
そのまま振り上げた足をムゲンの頭に落とす。
凄まじい音が鳴った。しかしそれはムゲンの頭が蹴り落とされた音ではない
。
それはムゲンの右手に持っている物から発せられた。
「・・・量産型ベータⅡ、だと!?」
ムゲンの右手には銃が握られていた。彼は至近距離でライトニングに引き金を引いていた。
「楽勝だ、閃光野郎」
ライトニングが倒れる音がした。
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白い少年の目の前には海が広がっている。海は地平線に沈む夕日で赤く染まっていた。波は穏やかで一定のリズムで心地よい音を鳴らしている。
「良かったな、ムゲン。海見れて」
ムゲンの後方にはカムイが立っていた。
話しかけられてもムゲンは振り向きもせず黙って前を見つめていた。夕日のせいでムゲンの目はさらに赤く染まった。そのせいでムゲンが何かに闘志を奮い立たせているように見えた。
そして夕日が地平線に沈み辺りが真っ暗になってムゲンはやっと口を開いた。
「カムイ、このあと暇か?」
「あ?悪い、千年祭の準備しなきゃなんねえんだ」
「そっか、じゃ俺も手伝うよ」
「いやいや、お前はもう帰れよ。ギルドの人達が心配してんだろ?」
ムゲンの突然の申し出にカムイは身ぶりを加えながら言う。
「別に明日の朝までに帰るって連絡してるし。構わねえ、よ」
そう言いながらムゲンが振り向いた時ムゲンの顔が強ばった。
ムゲンの目線の先、カムイよりも後方に憤怒の顔をしたライトニングが立っていた。
「よう、ムゲン。さっきはよくもやってくれたなァ!!!」
一瞬だった。ムゲンは数回の打撃音を聞いて意識を失った。