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無限大記/ムゲンとカムイ

 周りを海に囲まれた世界の中心に位置する島国、『某国』。ここは世界の貿易の中継地として栄えている、国際港。そして南に位置する首都『メガロポリス』。千年の歴史がある都市。さらに『ゼロ物語』の始まりの都市として知られている。


 ところでメガロポリスでは『千年祭』ーゼロ物語とメガロポリスが誕生してから千年を祝う祭ーの準備で人々が大忙しであった。

「コラ!危ないだろ!ぶつかるとこだったぞ!」

「ああ!お祝いの千色花飾り作らなきゃ!間に合うかしら!」

「ヤバい!ヤバい!祝いのご馳走の材料が足りない!ちょっと誰か買ってきて!」

「お願いします!今日だけは帰らせてください!千年祭を楽しみにしている家族がいるんです!」

 右を見ても左を見ても人々が走り回り、道の真ん中で突っ立っていたら怒鳴られる、祭の前の喧騒。その中で一番人が集まる場所がある。

 ギルド『零の騎士団』ー中央街に位置する巨大な十字架が特徴的な屋敷ーここには千人の強者共が集まりメガロポリスを取り仕切っている。


 そんな彼らはある重大な出来事に遭遇していた。

「こ、これは一大事じゃ!」

眼帯を着けた小爺が震える手で目の前の紙切れを持ちながら戦慄している。

「はっ!いかん!早く団長殿に報告じゃ!」

小爺は我を取り戻して駆け出した。


 紙切れには上手な字でこう綴られていた。

 少し街を散歩してきます。明日の朝には帰ります。 

ムゲン


 屋敷の北側に位置する百畳の空間に右側に二十人、左側に二十人、中央奥に五人のギルドの代表者が勢揃いしていた。

「まったくあのくそ餓鬼にはいつもいつも手を焼かされる!これはいつもとは状況が違いすぎますぞ!」

右側四人目の金色の眼鏡をした図体の大きい男が叫んだ。

「ゴージャス!貴様、口を慎め!公の場でそのようなことを言うのはよさんか!」

左側三番目の長い銀髪をした長身の男が咎めた。

「これはこれは、クロノ殿。今、ゴージャス殿を咎める余裕があるのですか?そんなことを言う暇があるなら少しはムゲン様の居所に心当たりがないかお考えになったらよろしいと思いますが」

左側六番目のおでこに札を張り付けたチャイナドレスを着た女が上から目線で言った。

「キョンシー!オマエは十二番街のくせに五番街のクロノ殿に意見を言うき!」

右側同じく六番目のおでこを出した白の軍服を着た女が指を指す。

「あらあら、ミツバ。そんなこと今時誰も気にしちゃいないわよ。それより頭動かしたら?十三番街のおでこちゃん」

「ああん!?」

二人の目線が火花を散らす。

「ま、見つかるのも時間の問題じゃないの?」

左側十一番目の全身を獣の毛皮で覆った少年が退屈そうに呟いた。

「今はどこも千年祭の準備中だからね。町中人だらけ。しかも俺達の区域にまだいるんだったら、部下を手配して捜索させれば日付変わる前には見つかるんじゃない?」

「うむ、そうだな」

クロノが頷き、他もそれぞれ肯定の反応を見せた。

「それにさ、若は『ホワイト・アッシュ』じゃん」

「「!?」」

その言葉は場にいるもの全員を一瞬凍りつかせた。

全員が聞いてはいけないことを聞いてしまった、そんな顔をしている。

「何だよ?お前ら、そんな顔して」

空気の読めない獣の少年はたずねる。

「今、言った言葉は禁句だ。二十一番街のアオトラよ」

クロノが冷めた調子で言う。

するとアオトラは不満そうに返した。

「誰がそんなこと決めたんだよ」

「俺だ」

返事をしたのは中央奥のど真ん中に座るこのギルドの団長であった。

「団長が?どうして?」

「アオトラはまだ街を任されて間もないから知らないのも当たり前だな。分かった、話そう。だが今は千年祭の準備中だからな、手短になる。構わないか?」

アオトラは首を立てに振る。

「あれはなーーー」

---

「ーーーというわけだ」

「・・・」

アオトラは言葉を失っていた。

「(今の話が本当なら、かなりヤバくねーか)」

アオトラはやっと事の重大さに気付いた。

「皆に告ぐ。ムゲンを見つけ次第、拘束せよ。反抗行為があれば、多少手荒な真似をしても構わん。但し市民にはこの事は口外するな。千年祭という大事な時期に市民を不安にさせるようなことはしたくない。最後に皆には俺の息子の尻拭いをさせてしまい申し訳ない」

団長は言葉の最後で頭を下げた。

「いつものことです。団長の頼みなら何だって引き受けますよ。だから頭を下げないでください」

クロノが言った言葉に他の者たちも頷く。

「皆、感謝する。解散!」

団長の締めの言葉で会議は終了した。

---

 ギルド零の騎士団十九代目団長の名をケイ・インフィニティという。彼は先ほどの緊急会議で仲間たちの有り難みを再確認したと同時にある危機感を確信した。息子の秘密のことではなく、この街の将来についてだ。

「(俺がもし何らかの理由でギルドの団長を辞めたら、誰がアイツらの面倒を見れるのだろうか?)」

現在のメガロポリスは平和だ。だが先ほどの会議を見る限りそれぞれで摩擦が起こっている。

「(さらにムゲンの今回の行動だ。アイツが次期団長になっても誰も信頼しないだろう)」

ケイは最近、このことで悩んでいた。そして今回のことで決断した。

「ライトニング」

「どうした?ケイさん」

ライトニングと呼ばれたケイと同じくらいの年齢の白と黄色の派手な甲冑を着た男は返事をする。彼は先ほどの会議でケイの右側に座っていた。

「お前に頼みがある」

---

 四十番街、ここはメガロポリスの西南地域の端に位置している最も小さい街だ。特徴はなく千年祭の準備中だというのに数件の屋台と手製の飾りという質素な雰囲気で他の街とは比べ物にならなかった。

「ギャハハハ!何あれ?飾り?ゴミにしか見えないんですけど」

「おいおい、こんなもん金払う価値なくね?ただにしろよ、なあ?」

「俺ら三十番街の役人だぜ。食ってやるつってんだから感謝しろよ」

そのためこのようなからかいを受けることがよくあり、昔の風習が原因で荒らされることがあった。

街の住人は何も言えなかった。街のリーダーが緊急会議のため不在だからだ。

「ちょっとそこの姉ちゃん。可愛いね、こんなとこいないで俺の街来いよ」

「!?」

「いい加減にしろ!お前ら!!」

男が水色のワンピースを着た少女の肩に触ったとき、淡い金髪の少年が男の手を払った。

「ああん!?」

「カムイ!よせ!」

街の人の静止を聞かずカムイは少女を庇うように前に出た。

「てめえ、誰様に向かって口を聞いてんだァ?」

「うるせえ!うちの街荒らすんなら出ていけ!猿共!」

「おいおい、切れちまったよ。もう土下座して靴なめても許さねえからな」

すると三人の男はそれぞれ懐から銃を取り出した。

「今からこのガキ処刑するわ。四十番街のお前らも見とけ!上に逆らうとこうなるってな!」

男たちは引き金に手をかける。

---

 実際カムイは何も考えていなかった。この状況から脱するためにどうしたらいいのか。銃を向けられたとき、急に怖くなった。

「(死ぬ)」

咄嗟に彼は目をつぶった。

しかし、銃弾が発射された音は聞こえず代わりに男たちの叫び声が聞こえ目を開けた。

彼の前に一人の人物が立っていた。顔は茶色のマントを被っていて見えないが身長はカムイと同じくらいだった。両手には80㎝程の白い刀を持っている。

「(一瞬で三人の手を攻撃して攻撃不能にさせたのか!?何者なんだ、コイツ!?)」

男たちも一瞬混乱したみたいだが正気に戻り言った。

「てめえ!誰だ!何しやがる!」

だがマントの人物は答えない。代わりにカムイに話しかけた。

「怪我、ねえか?」

「あ、ああ」

「そうか、良かった」

声は高くもなく低くもない、カムイが怪我がないと分かると安堵したようだ。

「誰だって聞いてんだよ!!」

男たちは隙を見て銃を持ち直し叫んだ。

「その銃、量産型ベータⅡだろ」

マントの人物は無視して話しかけた。

「ベータⅡは初級者向けに威力は弱いが命中精度は高く作られている。けど、お前らのそれは無理矢理マグナム搭載させて威力強くしてるだろ。ぜってー持ち味の命中精度が反動強くて低くなってんな」

「!?」

男たちの反応を見る限り本当のようだ。

「撃たれると面倒だし、一瞬で終わらせてやるよ」

マントの人物は首を回しながら宣言した。

「ほざくなァ!!」

それが男たちの最後の言葉だった。

カムイが見えたのはマントの人物が一歩踏み込んだ瞬間だけだった。次の瞬間にはもうマントの人物は男たちの背後に立っていた。

「センスだけは褒めてやるよ」

マントの人物がそう言った後、ドスン、ドスン、ドスンと男たちは倒れた。

---

 零の騎士団四十番街リーダー、シンラは会議後、街が荒らされていると連絡を受けて急いで街に戻った。

 しかし、すでに街を荒らしていた輩たちは縄で縛られていた。話によると通りすがりの二刀流のマントの人物が倒したという。他に特徴はと聞くとたまたま顔を見た人が顔が雪のように白く髪も真っ白で瞳の色が真っ赤だったらしい。

 それを聞いたときシンラは頭を抱えてしまった。

「(まったく本当に何やってんだ、あの餓鬼は)」

 団長の苦労が少し分かった気がした。

「そうか。それでそのマントの人物はどこにいるんだ?」

「海に行くと言っていましたけど」

「海だって!?」

シンラは倒れそうになりながらも団長のために海へと例の餓鬼を捕まえに走った。

街の人々はリーダーの行動に不思議に思いながら、あることに気づいた。

「そう言えばカムイはどこ?」

ーーー

「待て」

四十番街から少し離れた林道でマントの人物は行く手を止められた。

「お前はさっきの」

マントの人物を静止させたのは先ほど勇敢にゴロツキから少女を守った淡い金髪の少年だった。

「何かようか?」

マントの人物はたずねる。

「礼を言いに来たんだ」

「別に気にすんな。勝手にやったんだ」

「それに一つ聞きたいことがある」

「何だよ?」

「どうしたらお前みたいに強くなれる?」

少年はたずねる。

「なれねえよ」

マントの人物は言い切った。

「それは、俺が弱すぎるからか?さっきのゴロツキ共を倒せなかったからか?」

少年は食い入るようにたずねた。

「違えよ」

「じゃあ、何が俺に足らねえんだよ!?」

少年は逆ギレしそうな勢いで言った。

「逆だ。お前には勇気がある。お前だけがあの街の中でゴロツキに立ち向かったじゃねえか。誰かを守ろうとしたじゃねえか。だったらそれで十分だろ。だから誰かになろうとすんな。お前にはお前の強さがあるんだから」

マントの人物の意外な返答に少年は戸惑った。

「(今までそんな風に考えもしなかった)」

「オレはもう行くぞ」

マントの人物が再び歩きだそうとしたとき、少年は再び声をかけた。

「待ってくれ!君の名前を聞きたい!」

マントの人物は止まり少年は再び言った。

「俺の名前はカムイ!君は?」

マントの人物はカムイの方を向いた。そしてマントを脱いで彼は言った。

「オレはムゲン!よろしくな!」

「ああ!」

こうして二人の少年は出会った。この出会いが二人の未来を大きく左右することなど、今の彼らは知るよしもないのだった。

















 

 

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